バカと私と召喚獣   作:勇忌煉

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第二問

「悪いね秀吉。わざわざ手伝ってもらって」

「これくらいどうってことないのじゃ。しかし、これは一体何に使う道具なのじゃ?」

 

 放課後。私は秀吉にある道具の製造を手伝ってもらっていた。

 あの後、睡眠も充分に取れ、ちょっと分厚い本を読んでいたらピンとひらめいたのだ。

 一人でも良かったのだが、せっかくなので秀吉に手伝ってもらうことにしたわけよ。

 

「何、ちょっとした発明だよ」

「ワシはその道具をどこかで見たような気がするのじゃが……」

 

 気のせいだと思う。

 

「ほら、そろそろ帰ろう」

「うむ」

 

 

「雄二よりも断然秀吉の方がいいよ!」

 

 

「ん?」

 

 たまには秀吉と一緒に帰ろうと立ち上がった瞬間、告白めいたアキ君の声が聞こえた。

 ……雄二よりも?

 

「あ、明久……? その、気持ちは嬉しいが、ワシらには何かと障害があると思うのじゃ。ほ、ホラ。歳の差とか、人間関係とか……」

「違うんだ秀吉! 今のは言葉のアヤで物凄い誤解だよ! あと僕らの間にある障害は決して歳の差じゃない!」

 

 生まれて初めて幼馴染みを殺したいと思った瞬間だった。

 

「……アキ君」

「か、楓?」

「エルボーって痛いのよ?」

「僕が一体何をしたと!?」

 

 秀吉を口説いた。

 

「アキ君に取られるぐらいなら、私が先に秀吉を寝取って……!」

「話が飛躍しておらぬか!? 落ち着くのじゃ水瀬!」

「だから誤解だってば! どうして美波も楓も僕をソッチの人にしたがるの!?」

 

 ソッチの人? 一体何の話やら。私はただ秀吉がアキ君に抱かれるのかと思っただけで君をホモにしようとした覚えはないんだけど。

 そもそも、アキ君はノーマルでしょ? それとも本当にホモなの?

 

「アキ君はノーマル……だよね?」

「当たり前だよ! 誰が好きで雄二と愛し合わなきゃならないのさ!」

「じゃあ秀吉は?」

「秀吉は……その……」

「歯を食いしばれぇぇぇぇっ!」

「落ち着きなさいってば! アキにそのつもりはない…………はずだから!」

「そこははっきりしてよ美波!」

 

 アキ君の性癖を正常にしようと拳を振り上げるも、島田さんと秀吉に押さえられたので中断せざるを得なかった。命拾いしたわね。

 何だかんだでグダグダになってしまったが、一旦落ち着いて島田さんの話を聞くことにした。

 

「実は……瑞希が転校するかもしれないの」

 

 珍しく真面目な内容だった。それを聞いたアキ君は処理落ちしてしまうも、秀吉によって目を覚ました。大方、Fクラス唯一の清涼剤である瑞希が転校したらこの教室が某世紀末救世主伝説みたいになってしまうとでも思ったのね。

 ただ、その際に『モヒカンになった僕でも好きでいてくれるかい?』と秀吉に言ったのは頂けない。後でデコピンをお見舞いしてやる。

 瑞希が転校する原因となったのは……まあ、この教室の環境の悪さよね。病弱らしい瑞希にとってはかなり劣悪だろう。

 どうりであの子、今朝は妙に積極的だったわけだ。多分、召喚大会に参加するのもその一環ね。

 

「アキは……瑞希が転校したりとか、嫌?」

「もちろんだよ! それが美波や楓や秀吉であっても嫌に決まってるじゃないか!」

 

 雄二だったらどうでもいいとか言いそうだ。

 事情が事情なだけにアキ君も本格的にやる気を出し、秀吉も協力的な姿勢になった。

 私としては刺激が足りないなぁ……転校なんて別に不思議なことじゃないし、私に大きな影響があるわけでもない。

 

「もしもし雄二? ちょっと話が――え? 何? 見つかった? 雄二!? もしもーし!」

 

 いつの間にかアキ君が雄二を焚き付けようと電話していたが、すぐに切れてしまったようだ。

 ……翔子に追われてるのね。あの子も気が早いのよ全く。

 島田さんに何があったかをアキ君が説明すると、彼女は『使えないわね』といった目でアキ君を睨みつけた。今の君にそんな態度を取る資格はないはずだけど。

 

「これはチャンスだね」

「どういうこと?」

 

 あ、今のアキ君の考えが手に取るようにわかっちゃった。

 

「楓。一緒に来てくれる?」

「……タダで行くとでも?」

「どら焼き一個で」

「乗った」

 

 利益があるって素晴らしい。

 

 

 ★

 

 

「やぁ、奇遇だね雄二」

「奇遇ね雄二」

「……どうやったら偶然、女子更衣室で鉢合わせするのか教えてくれ」

 

 今、私とアキ君は女子更衣室で雄二を発見した。というか、いくら相手が翔子だからってわざわざ裏をかく必要はあるのかな?

 私は女子だから問題はないけど、男子であるこの二人がここにいるのは普通に不味いかと――

 

「あれ? Fクラスの問題児コンビと……水瀬さん?」

 

 ほら言わんこっちゃない。Aクラスの木下優子さんと鉢合わせしちゃったじゃないか。

 彼女、どうも猫を被っている気がしてならないのよね。というか被ってるわ、絶対に。

 

「あ、奇遇だね木下優子さん」

「おう、奇遇じゃないか」

 

 こんなときでも偶然を装うアキ君と雄二。これはバカでも騙されない。

 

「先生! 変態が覗きをやってます!」

「逃げるぞ!」

「了解!」

「あっ! コラ待てバカ共!」

 

 もちろんごまかせなかった。二人は小さな窓から表に飛び出し、私もその後を追いかける。

 なんかいつもの癖で後に続いてしまったけど……大丈夫よね?

 

『吉井と坂本だと!?』

 

 先生、木下さんは名前を言っていないのにどうしてその二人だと特定できるんですか。

 チラッと後ろを見てみると、鉄人が物凄い迫力で追いかけてきていた。何あれ怖い。

 

「明久!」

「オーケー! でも楓は!?」

「水瀬は女子だから大丈夫なはずだ!」

 

 確かにそうだが、二人で新校舎二階の窓へ逃避行なんて許さないよ。私はまだどら焼き一個分の仕事をやってないんだから。

 雄二は立ち止まると手を組んで踏み台を作り、アキ君がそれに足をかけて飛び上がる。雄二が腕をバレーのレシーブと同じ要領で動かしたのだ。

 おかげでアキ君は二階の窓に到達。次にあらかじめ脱いでいた制服を窓から垂らした。

 

「あらよっと!」

 

 雄二は壁を蹴って跳ぶとそれを掴み、アキ君が一本釣りの要領で引っ張り上げた。

 ……本当に置いていかれたわ。でも、あれくらいなら私にもやれるはず。

 

「くっ! アイツら、こういう時だけ無駄に運動神経を発揮するとは……!」

 

 私はこっそり助走するための距離を取り、壁の近くで悔しがっている鉄人に向かって走り出す。

 鉄人はまだ気づいていない。いや、気づいてもそこから動かなければ……!

 

「ちょーっと失礼します!」

「むっ!?」

 

 鉄人の肩を踏み台にして飛び上がり、途中で壁を蹴って窓に到達。なんなく校舎内へ侵入することに成功した。

 雄二よりも体格の良い鉄人を踏み台にすればあの二人と同じことができると思ってやってみたが、まさか本当にできるとは。

 

「楓!?」

「お前どうやって窓に到達したんだ!?」

『お前もか水瀬! 吉井、坂本! 次は逃がさんぞ!』

「ちょうど良い踏み台があったもので」

「よく踏み台にできたね……」

 

 私もそう思う。

 

「大体、雄二が女子更衣室に隠れていたのが悪いんじゃないか」

「全くよ」

「仕方ないだろ!? 翔子が相手だと普通の場所じゃ逃げ切れないんだよ!」

 

 まあ……あの子なら……あり得るわね。もしかしたら雄二の家にも平然と侵入してそうだ。

 どうして翔子から逃げているのかとアキ君が聞いたところ、何でも家に呼ばれているとか。

 

「…………家族に紹介したいそうだ」

 

 早い、早すぎるわよ翔子。

 

「そんな雄二に朗報があるわよ」

「嫌な報せだったら殺すぞ」

「やれるものならやってみなさい」

「二人とも落ち着きなよ。ほら雄二、この携帯電話をどうぞ」

 

 アキ君が取り出した携帯電話を雄二に渡す。誰に掛けたんだ?

 雄二は怪しみながらも誰かと通話していたが、長くは続かなかった。

 

『……雄二。今どこ』

「人違いです」

 

 翔子の声が聞こえた瞬間、彼は咄嗟にそう切り返していた。かなりの判断力ね。

 日本語が片言になるほどキレる雄二だったが、何だかんだで協力してくれるらしい。

 

「そう言えば、島田と翔子は親しかったのか?」

 

 うん。それは私も気になっていたところだ。去年クラスメイトだった私ならともかく、接点のない島田さんと翔子が親しい仲とは思えない。

 

「聞いて驚け、実は霧島さん本人じゃなくて彼女の声真似をした秀吉が」

「目をつぶって歯を食いしばれ」

「君がね?」

 

 今こそどら焼き一個分の仕事を果たすときだ。

 

 

 ★

 

 

「失礼しまーす!」

 

 私は今、アキ君と雄二と一緒に学園長室に乗り込んでいる。

 瑞希が転校しそうになっている要因は三つ。一つは設備の悪さ、二つ目は劣悪な教室、三つ目は低レベルのクラスメイトだ。

 この内、二つ目だけは学園側の協力が不可欠なので、こうして学園のトップである学園長に直訴しに来たわけである。

 

「失礼なガキどもだねぇ。返事も待てんのかい?」

 

 私達を出迎えたのは長い白髪が目立つ藤堂カヲル。試験召喚システム開発の中心人物だ。これでも学園長だからびっくりしかない。

 その隣で彼女を睨んでいるのは教頭の竹原。私はこの人、あんまり好きじゃないわ。

 二人は何かを言い争っていたが、竹原が学園長室を後にしたことでそれは終わった。

 

「んで、アンタらは何の用だい?」

「学園長に話があって来ました」

 

 雄二が率直に話があると言ったにも関わらず、聞く耳を持たない学園長。大丈夫かこの人。

 すると学園長は社会の礼儀だと言って名前を名乗れと言ってきた。……正論ね。

 

「俺は二年F組の坂本雄二。それでこっちの二人が――二年生を代表するバカと女子生徒の問題児筆頭です」

 

 君は人の名前も言えないのか。

 

「ほぅ……アンタ達がFクラスの坂本と吉井に水瀬かい」

「待ってください! 僕らまだ名前を言ってませんよ!?」

 

 もうそれだけで私だとわかるようになっていたなんて……ちょっと悲しいわ。

 しかし、気が変わったらしい学園長は話を聞いてくれるようだ。良かった良かった。

 雄二はキレながらも丁寧に要求を説明していく。学園長の返事は……

 

「ふむ――却下だね」

「雄二。このババアはコンクリに詰めよう」

「ダメだよアキ君。この老いぼれは眉間を一発ブチ抜いてあげないと」

「お前ら……もうちょっと態度には気を遣え」

 

 いけない。アキ君に合わせて本音が出ちゃった。気をつけないと。

 

「バカ二人が失礼しました。とりあえず理由をお聞かせ願えますか、ババア」

「教えて下さい、ババア」

「さっさと吐いて下さい、老いぼれ」

「……それで本当に聞かせてもらえると思っているのかい?」

 

 とか言いながらも、学園長は交換条件で相談に乗ってくれることとなった。

 条件とは、召喚大会の優勝商品の一つである『如月ハイランド プレオープンプレミアムペアチケット』の回収である。

 何でも良からぬ噂を聞いたらしく、その内容を知った雄二は混乱し出した。……如月グループの力で強引に結婚か。

 その『召喚大会の賞品』と交換という条件をアキ君と雄二はこの条件を呑んだが、私はある事に引っ掛かっていた。

 

「…………」

 

 たかがペアチケットの回収にそこまで手の込んだことをやる必要はあるのか? 学園長は試験召喚システムの開発に関わっている。そんな人がペアチケットの回収に熱を入れるとは思えない。そこは普通、『白銀の腕輪』を回収するはず……

 

「――楓?」

「ん? どうかした?」

 

 いけない。考えすぎて周りが見えなくなるところだった。

 

「当然召喚大会で、優勝できるんだろうね?」

 

 どうやら二人は召喚大会で優勝して賞品を回収するつもりのようだ。ほほう、なら私も――

 

「アンタは出場しちゃダメだよ」

「え」

 

 何を言っているんだこの老いぼれは。

 

「アンタを出場させるのは教師を出場させるのと同じようなもんだからね」

「楓。とりあえず拳を引っ込めて」

 

 アキ君にそう言われ、渋々拳を引っ込める。次はないぞ。

 

「それじゃボウズども、任せたよ」

「「おうよっ!」」

 

 こうして、文月学園の最低コンビが誕生することになった。ちょっと羨ましい。

 

 

 

 




 バカテスト 地理

 以下の問いに答えなさい。
『バルト三国と呼ばれる国名を全て挙げなさい』



 姫路瑞希の答え
『リトアニア エストニア ラトビア』

 教師のコメント
 その通りです。


 土屋康太の答え
『アジア ヨーロッパ 浦安』

 教師のコメント
 土屋君にとっての国の定義が気になります。


 吉井明久の答え
『香川 徳島 愛媛 高知』

 教師のコメント
 正解不正解の前に、数が合っていないことに違和感を覚えましょう。


 水瀬楓の答え
『フロリダ半島 プエルトリコ バミューダ諸島』

 教師のコメント
 それはバミューダトライアングルです。


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