バカと私と召喚獣   作:勇忌煉

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第三問

「へぇ、やればできるのね」

 

 ついに迎えた清涼祭初日。遅れて登校した私は中華風の喫茶店に姿を変えた自分の教室にちょっと驚いていた。

 薄汚いみかん箱にはテーブルクロスが掛けられており、立派なテーブルになっている。あのクロスは確か演劇部の小道具ね。

 ……ちょっと一工夫しておきましょう。クロスを用意してくれた秀吉のためにも。

 

「何を書いておるのじゃ?」

「ちょっとした措置よ」

 

 今書いている物を使えばイメージダウンを回避できる可能性がある。

 言ってしまうと粗の部分を見られなければ大丈夫だが、営業妨害が目的で見せびらかそうとする奴は少なからずいるだろう。

 まあこれを見せたら大体いけるだろうし、それでもクレームを付ける奴がいるなら間違いなく営業妨害が目的の連中ということになるからわかりやすいものよ。念には念を入れないと。

 アキ君の方をチラリと見てみると、味見用であろう胡麻団子を持ってきたムッツリーニがいた。

 

「味見用……だよね?」

「…………(コクリ)」

 

 一応確認は取っておく。周りでは胡麻団子の味にやられた瑞希、島田さん、秀吉がそれを頬張りながら大絶賛している。

 秀吉以外の二人に至ってはトリップ状態に入ってしまっていた。……ちょっと食べたいわね。

 

「アキ君。半分頂戴」

「いいよ」

 

 残り一つしかなかったのでアキ君の胡麻団子を半分ほどもらう。

 そしてそれを勢いよく口の中へ放り込んだ。さてさて、味は如何なものか。

 

「「表面はゴリゴリで中はネバネバ、甘すぎず、辛すぎる味わいがとっても――んゴパっ」」

 

 何この既視感(デ ジ ャ ブ)。目に映ってきたのは私の人生の軌跡……これ走馬灯!?

 

「あ、それは姫路が作ったものじゃ――しっかりするのじゃ水瀬!」

「はっ!?」

 

 秀吉の叫び声で目を覚ます。不味い、これは一口でも食べたら走馬灯が見れちゃう取り扱い要注意の危険でしかない飲茶だ。

 おそらく、アキ君のように特殊な訓練を積んでいる人間でないと食べられない代物だろう。

 

「「…………!!(グイグイ!)」」

「ムッツリーニ! 楓! 二人ともどうしてそんなに怯えながら僕の口に胡麻団子を押し込もうとするの!? 食べられないものを押し込むのはやめてよ! 僕はまだ死にたくないんだから!」

 

 私だって自分が可愛いのよ……!

 

「ん? 美味しそうな団子じゃないか。どれどれ?」

 

 いきなり戻ってきた雄二がなんの躊躇いもなく化学兵器を口に運ぶ。

 その豪胆さはある意味尊敬するわ。見習いたくはないけど。

 

「ふむ。表面はゴリゴリで中はネバネバ、甘すぎず、辛すぎる味わいがとっても――んゴパっ」

 

 うん、わかってた。

 

「雄二。美味しかったよね?」

 

 アキ君が目で訴えながら床に倒れ伏せた雄二に問いかける。多分伝わってないね。

 雄二は「何の問題もない」と言ったが、次の一言がアウトだった。

 

「あの川を渡ればいいんだろう?」

 

 その川は私も見たことがある三途の川だ。

 

「ダメよ雄二。それを渡ったら閻魔様とご対面することになるわ」

「そうだよ雄二! 渡ったら戻れなくなっちゃうよ!」

 

 たった一口で致命傷になっていたなんて思いもしなかった。ここまで来ると暗殺用の武器としても活用できちゃうわね。

 アキ君が雄二を蘇生させようと奮闘していると、トリップしていた瑞希と島田さんがようやくこちらの異常事態に気づいた。

 お願い雄二。私達のためにも早く起きて。というかこの世に帰ってきて。

 

「六万? おいバカを言え。渡し賃は六文と相場が決まって――はっ!?」

 

 あっ、生き返った。

 

「雄二。攣った足は大丈夫なの?」

「攣った足? いや、俺は足が攣ったんじゃなくてあの団子に――」

「……もう一つ食わせるぞ」

「ちょっと足が攣ったんだ……最近は運動不足だったからな」

 

 雄二ってこういうときは本当に賢いのよね。物分かりが良い的な意味で。

 すぐさまアキ君と笑顔でやり取りをする雄二。仲が良いのね二人とも。

 

「へぇ……坂本ってよく足が攣るのね?」

 

 島田さんが私達を怪しみながらそう呟く。ここでバレるのはちと不味いわね。

 

「ほら、私がいつも蹴り飛ばしてるからそのせいかもしれないよ?」

「おい水瀬! 変な嘘言ってないで俺の足を蹴るのはやめぐぁっ!?」

 

 実際に雄二の足を何度も蹴りつけながら島田さんを説得する私。我ながら良い考えだわ。

 島田さんはその様子を見てひとまず納得してくれた。良かった良かった。

 ……とりあえず、私の言いつけを守らなかった瑞希に物申す必要があるね。

 

「瑞希。私、ホールだけで頑張りなさいって言ったよね?」

「は、はいっ」

「なんで料理作ってるのかな?」

「あ、その~……」

 

 目を泳がせながら両手の人差し指を合わせる瑞希。それを見てときめいているアキ君には悪いけど、私はガチだ。

 

「――どうしても作りたくなっちゃって♪」

「次、厨房に入ったら裸エプロン着せるから」

「…………裸エプロン……!!(ダバダバ)」

「ムッツリーニ! しっかりするんだ!」

 

 瑞希は少し考え込んでいたが、自分がどうなるかを理解したのか顔がボンッと真っ赤になった。いつものように鼻血を出して悶絶しているムッツリーニは置いとこう。

 島田さんも言葉の意味を知っていたのか顔を真っ赤にしている。ついでに秀吉も。

 

「だ、ダメですっ! 皆さんの前で裸になるなんて私にはとてもできませんっ!」

「じゃあ厨房には入らない?」

「そ、それは――」

「ムッツリーニ。エプロン縫って」

「入りません! 入りませんからっ!」

 

 わかってくれたようで何よりだ。

 

「少しの間、喫茶店はムッツリーニと秀吉と水瀬に任せる。俺は明久と召喚大会の一回戦を済ませてくるからな」

「あれ? アンタたちも出るの?」

 

 召喚大会という言葉に反応した島田さん。アキ君は適当にはぐらかそうとしたが、彼女は探るように視線を向けている。

 大方、賞品関連ね。ペアチケットで間違いないだろう。……ちょっと不味いかな。

 

「……誰と行くつもり?」

 

 やはりと言うべきか、アキ君が賞品目当てだとわかるや否や攻撃色になる島田さん。それに合わせて瑞希も戦闘モードへと移行した。

 困り果てているアキ君だが、無理もない。彼はあくまで賞品を学園長に渡すつもりでいる。誰と行くかなんて考えもしてないはずだ。

 そばにいた雄二がフォローでも入れるつもりなのか、アキ君に近づいた。

 

「明久は俺と――」

「私と行くんだよ」

 

 島田さんは私と雄二の言葉を聞いて信じられないといった顔で目を丸くしている。

 雄二と二人で行くなんて言ったらアキ君がホモとして扱われる。せめて女子の私でないと。

 

「坂本と水瀬さんと『三人で幸せになりに』行くっていうの……?」

 

 こんなの私でも予想できるか。

 

「俺たちは何度も断っているんだがな」

「アキ。アンタそれ二股って言うんじゃ……」

「お願いだから待って美波! 誤解にもほどがあるよ! それと秀吉! 悔しそうに涙目で僕を睨むのはやめて!」

 

 もしかして秀吉も雄二と行きたかったのだろうか? 翔子がいる限り無理なのに。

 せっかくのフォローも逆効果だった。こんなの間違ってるよ。

 その後アキ君は小悪党のような捨て台詞を残し、雄二と共に教室を後にした。

 

 

 ★

 

 

『マジできったねえ机だな! これでよく食べ物を扱えるもんだ!』

 

 厨房の隅っこでボーッとしていると、明らかに営業妨害目的であろう罵声が聞こえてきた。

 あの措置を見たうえで営業妨害をやるなんて大した度胸ね。ちょっと暇してたし、少しブチのめしてあげましょう。

 

「あ、楓」

 

 厨房から出ると、一回戦を終えて戻ってきたらしいアキ君と雄二がいた。

 えーっとクレーマーは……ハゲとモヒカンね。まるでチンピラである。制服を見る限り、あの外見で三年生らしいのだから驚くしかない。

 雄二の後に続き、彼とアイコンタクトを交わして迎撃の体勢に入った。

 

「まったく、責任者はゴペッ!」

「お、おい夏川あべしっ!」

「私が責任者兼クラス代表の坂本雄二です。何かご不満な点でも御座いましたでしょうか?」

 

 クレーマーのソフトモヒカンを殴り飛ばし、雄二と共に恭しく頭を下げる。

 名前を名乗る必要なんてない。無口キャラで通しでもすれば難なくごまかせるだろう。私はさしずめ代表の補佐といったところかな?

 

「不満も何も、今俺たちが殴り飛ばされたんだが……」

 

 まだ生きていたのか。さっさとくたばって楽になれば良いものを。

 

「それは私達の『パンチから始まる交渉術』に対する冒涜ですか?」

「目潰しかましますよ?」

 

 右手をチョキにして構え、照準をモヒカンの両目に合わせる。

 肘で目を潰す技よりはマシなはずだ。あっちは出血が激しいし。

 

「ふ、ふざけんなこの野郎! そっちの女に至っては明らかに脅迫だふぎゃあっ!」

「おい常村ひでぶっ!」

「さらに『キックで繋ぐ交渉術』でございます」

 

 何か言おうと立ち上がったハゲの顔にハイキックをぶつける。

 そろそろ諦めて無様に消え失せてほしいわね。さすがにこれ以上は他のお客さんにも影響するかもしれないから。

 

「最後には『プロレス技で締める交渉術』が控えてありますが?」

「わ、わかった! こちらからはこの夏川を出そう! 俺は何もしないから交渉は不要だぞ! だからその女を止めてくれ!」

「おい常村! 俺を売ろうってか!? だがその女を止めてくれってのには賛成だ! なんか雰囲気がヤバイから止めてくれ!」

 

 久々に本格的な構えを取っただけなのだが、ハゲとモヒカンには何が見えたのだろうか?

 交渉が効いたのか撤退しようとするハゲの夏川とモヒカンの常村――常夏コンビでいいか。

 しかし、そうは問屋が卸さない。交渉には最後まで付き合ってもらわないと。

 

「ほう。それなら――」

「おいっ!? 俺らもう何もしてないはずだ! なんでそんな大技をげぶるぁっ!」

「ま、待て! お前もなんで助走しながら俺に近づいてごぶるぁっ!」

「――これにて交渉終了」

 

 雄二はハゲにバックドロップを、私はモヒカンにドロップキックを決めた。

 ボロボロになった身体を互いに支え合いながら、一生懸命に退散していく常夏コンビ。次また来たら喉を潰してやる。

 

『まあ、表のチラシに机の事とか書いてあったけどそこまで気にしてないかな』

『それに消毒も所々に置いてあるからね』

『食べ物も美味しいし』

 

 悪評にならなかったのはいいが、それでもやっぱり不満のあるお客さんはいるみたいね。

 この店での注意事項が書いてあるチラシと所々に置いてある携帯消毒こそが私の用意した措置だ。特に消毒はこの店に限らず、ほとんどのレストランなどに置いてあるはずだし。

 なぜか教頭の竹原が来ているのが気になるけど、今はどうでもいいわね。

 このあと秀吉たちが立派なテーブルを二つほど持ってきてくれたが、当然それだけじゃ足りないのでアキ君と私は雄二と組んでテーブルをいくつか調達したのだった。

 

 

 

 




 バカテスト 『清涼祭』アンケート

 学園祭の出し物を決めるためのアンケートにご協力ください。
『喫茶店を経営する場合、制服はどんなものが良いですか?』



 姫路瑞希の答え
『家庭用の可愛いエプロン』

 教師のコメント
 いかにも学園祭といった感じですね。コストも掛からないですし、良い考えです。


 土屋康太の答え
『スカートは膝上15センチ、胸元はエプロンドレスのように若干の強調をしながらも品を保つ。色は白を基調とした薄い青が望ましい。トレイは輝く銀で照り返しが得られるくらいのものを用意し裏にはロゴを入れる。靴は5センチ程度の――』

 教師のコメント
 裏面にまでびっしりと書き込まなくても。


 吉井明久の答え
『ブラジャー』

 教師のコメント
 ブレザーの間違いだと信じています。


 水瀬楓の答え
『裸エプロン(性別問わず)』

 教師のコメント
 性別を問わないという点が気になりますが、家庭用エプロンの間違いだと信じています。


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