バカと私と召喚獣   作:勇忌煉

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第四問

「ただいまー」

「お帰りアキ君」

 

 無事に二回戦を終えたアキ君が戻ってきたのはいいが、店はがらんとしている。

 元々暇だった私もさらに暇である。一応料理とかは作ってたけどね?

 それにしても……公開処刑に遭った根本が面白すぎた。こっそり観に行って正解だったかも。

 内容はこうだ。教科は英語Wだったのだが、点差がありすぎてとても勝てそうになかった二人は試召戦争のときに製作された門外不出の根本恭二個人写真集『綺麗に生まれ変わったワタシを見て!』を取り出して交渉材料として使い、ほぼ不戦勝という形で勝利したのだ。

 ちなみにその写真集を製作したのはムッツリーニと私だ。無駄に気合いが入っていたのを覚えている。なので写真集の中には私が吐き気を堪えて描いたイラストが何枚かあり、それを見た相方の小山さんは携帯のバイブみたいに震えていた。そしてバチが当たったのか、根本は付き合っていたらしい小山さんと見事に破局したのだった。

 

「君も鬼畜だよね」

「それは僕じゃなくて雄二に言ってよ……」

 

 ぶっちゃけあんまり変わらないと思う。

 

「ねえ秀吉。せっかくだから一緒に回ろうよ」

「ワシは別に構わんが――」

 

『どうもです、お兄さん』

『気にするなチビッ子』

『チビッ子じゃないですっ! 葉月ですっ!』

 

 どこからか雄二と女の子の声が聞こえてきた。女の子は声色的に小学生辺りだろう。

 少しすると教室の扉が開き、雄二と小学生ぐらいの女の子が入ってきた。雄二が邪魔でアキ君の視点からじゃ見えないようだ。

 二人を暇になっていたクラスメイトが一気に囲ってしまう。いくら暇だからってロリコンになろうとするのはやめようね。

 どうも女の子は『お兄ちゃん』という人を探しているらしく、名前はわからないとのこと。

 

『ソイツの特徴は?』

『バカなお兄ちゃんでした!』

 

 雄二は首を巡らせて特徴が当てはまる人物を探したものの、周りにいるのはその凄い特徴が当てはまる人物ばかりだ。

 ――ちょっと待って。あの子、『バカなお兄ちゃん』って言ったよね? 確かアキ君、以前小学生に『バカなお兄ちゃん』って呼ばれたって言ってたけど……もしかしてあの子がそうなの?

 他に特徴があるのかと雄二が尋ねると、女の子は思いきってこう言った。

 

『すっごくバカなお兄ちゃんでした!』

『『『吉井だな』』』

 

 アキ君。君は一体何をしでかしたの?

 

「僕に小さな女の子の知り合いなんていないよ! だから絶対に人違い――」

「あっ、バカなお兄ちゃん!」

 

 女の子はアキ君に駆け寄って抱きついた。やはり彼女が探していたのはアキ君だったか。

 さすがのアキ君もこれは弁明できない。いつの間に口説いたのやら。

 しかし当のアキ君は見覚えがないらしく、それを言った瞬間、女の子は涙目になった。

 

「バカなお兄ちゃんのバカぁ! バカなお兄ちゃんに会いたくて、『バカなお兄ちゃんを知りませんか?』って一生懸命聞きながら来たのに!」

 

 子供じゃなかったらどついているところだ。

 

「バカなお兄ちゃんがバカでごめんなぶっ!?」

「バカなお兄ちゃんはバカなんじゃよ。許してやってはくれんかぁっ!?」

 

 とりあえず二人を一発ずつぶん殴る。アキ君がバカなのは私でも否定できないし。というか、したらダメな気がしてならない。

 女の子は私を見てポカーンとしていたが、ハッとなって再び口を開く。

 

「バカなお兄ちゃん、葉月と結婚の約束もしたのに――」

「瑞希!」

「美波ちゃん!」

「「殺るわよ!」」

「ぶるぁっ!?」

「おぶふっ!?」

 

 戻ってくるや否や、突如アキ君に拳を振るい出した瑞希と島田さんから庇うように彼へ頭突きをかまし、身代わりという形で私の顔面に二人の拳が突き刺さった。普通に痛い。

 

「か、楓ちゃんっ! 大丈夫ですか!?」

 

 瑞希は我に返って私を心配してくれたが、島田さんはよほど怒り心頭なのか私には目もくれず、アキ君を組み伏せて関節技を敢行し始めた。

 そういえばあの子の目と髪の色、島田さんと同じね……もしかして姉妹かな?

 

「酷いですっ! ファーストキスもっ!?」

「そろそろ黙って」

 

 泣き喚くクソガ――葉月ちゃんとやらの口を手で無理やり塞ぐ。

 子供とは無垢ゆえに残酷なものだ。たった一つの発言で他人の寿命を縮められるのだから。

 基本的に実力行使には至らないものの、私は子供が苦手だ。

 

「お願いしますっ! 話を聞いてくださいっ!」

「……包丁を四本、刺したら聞いてあげるわ」

 

 君は死体と会話するつもりなのか。

 

「あっ、お姉ちゃん!」

 

 自分の口を塞いでいる私の手を剥がすと、葉月ちゃんとやらは島田さんを見て泣き止んだ。あれ? もしかしなくても姉妹?

 アキ君は女の子のことを思い出したようで、『ぬいぐるみの女の子』と大声で叫んでいた。

 ぬいぐるみの女の子……ああ、アキ君が観察処分者に認定されたとある事件絡みか。というか、おそらく元凶だろう。私はその事件に関わっていないので詳しくは知らないけど。

 葉月ちゃんとアキ君が再会を喜んでいると、島田さんが首を傾げ出した。

 

「葉月とアキって知り合いなの?」

 

 なんで妹と自分の想い人が知り合いなのか気になったようだ。

 三人の輪に入っていけない瑞希は可愛らしく悔しがりつつ、ボソボソと呟いている。でも呟きの内容は意味不明で全くわからない。引くわー。

 葉月ちゃんは瑞希とも面識があったらしく、『綺麗なお姉ちゃん』と呼んで礼儀正しくお辞儀をしている。彼女は瑞希と軽く会話を交わすと、今度は私の方へ視線を向けて一言。

 

「前髪のお姉ちゃん!」

「え」

 

 どうしよう。私、葉月ちゃんと会った記憶がないんだけど。話しかけられても困るんだけど。

 

「……えっと、誰かと間違ってない?」

「前髪のお姉ちゃんであってますっ!」

 

 ちょっと待って。マジで訳がわからないんだけど。私の交友関係に幼女はいない。

 仕方がない。もう一度確認してみよう。もしかしたらバカなお兄――幼馴染みに影響されて頭がおかしくなっているかもしれないし。

 

「人違いよね?」

「前髪のお姉ちゃんであってますっ!」

 

 残念ながら人違いではないらしい。とはいってもホントに会った記憶がない。

 

「ぬいぐるみをもらったとき、バカなお兄ちゃんと一緒にいましたっ!」

「…………あー」

 

 ちょっとだけ思い出した。確かにその日、何らかの使命を果たしたらしいアキ君と公園で合流している。そこを彼女に目撃されたのだろう。

 いわゆるニアミスってやつね。そりゃ私は面識がないわけだわ。

 

「じゃあ、初めましてだね」

「はいですっ!」

 

 改めて葉月ちゃんと挨拶を交わし、すぐに距離を取る。やっぱり子供は苦手だ。

 

「ところで……さっきよりも客が少なくなっているのはどういうことだ?」

 

 教室内を見回す雄二。それは私も気にしていたところだ。クレーマーがいるわけでもないのにクラスメイトが暇になるほど客がいない。

 するとここに来る途中で色々な話を聞いたらしい葉月ちゃんが、こんなことを言い出した。

 

「みんな中華喫茶は汚いから行かない方がいい、って言ってたよ?」

 

 誰だそんなふざけた嘘を流した奴は。大体見当がつくけどムカつくわね。

 噂の出所はおそらく例の常夏コンビだろう。というか、それ以外に思い浮かばない。

 せっかくドロップキック程度で済ませたというのに、まだやられ足りないのかあの二人。

 

「こうなったら探し出して、もう一度交渉するしかないな」

 

 全く、あと何回交渉すればあの二人はくたばってくれるのやら。

 常夏コンビの探索に葉月ちゃんも遊びに行くという名目で加わることになった。わざわざ一人で、いろんな人にアキ君のことを聞いて会いに来たんだ。何がなんでもついていくだろう。

 これは面白そうだと判断した私も同行しようとするも、秀吉を見て思いとどまった。

 

「うぅ……どうしよう……」

 

 ここで同行すれば刺激的なことが待っているかもしれない。でも、この機を逃せば秀吉との距離が縮められなくなるかもしれない。

 

「葉月。さっきの話はどこで聞いたの?」

「綺麗なお姉さんが一杯いるお店ですっ!」

「よし! 草の根を分けても探し出すぞ!」

「そうだな明久! 我がクラスの成功のために、色々と綿密に調査しないとな!」

 

 アキ君と雄二は葉月ちゃんの言葉を聞いた瞬間、物凄い勢いで全力ダッシュしていった。

 私を除く女性陣は彼に軽蔑の視線を向け、罵倒している。フォローはしにくいわね。

 ……さて、置いてきぼりにされた私はどうしよう。どちらを選べばいいのか。

 

「秀吉とのデートか同行か……」

 

 なんでこういうときに限って重要な選択を迫られるのよ。デートか同行、デートか同行……

 

「……ああもうっ! 私はどっちを選べばいいんだぁーっ!?」

「どうしたのじゃ水瀬!? 何をそんなに思い悩んでおるのじゃ!?」

 

 本気で頭を抱え、腹の底から叫んだ私は何も悪くない。

 

 

 ★

 

 

「ごめん秀吉。ホントごめん……」

「わ、ワシは問題ないぞい」

 

 あれから散々悩んだ結果、デートを選んだ。さすがに本人には言ってないけど。

 私の隣を歩いている秀吉は頬を少し赤くしながら目を泳がせている。可愛いね。

 さてさて、どこから回ればいいのやら。

 

「どっか行きたいところは?」

「ふむ……Cクラスはどうかのう? あそこには焼きそばの屋台があったはずじゃ」

「定番過ぎるからパス。私としてはイカ焼きの屋台があるBクラスがいいわね」

「それも定番と言えば定番なのじゃが……」

 

 気にしない。

 

「じゃあ三年Dクラスはどうかな? 天ぷら屋を経営しているんだって」

「天ぷらとは珍しいのう。行ってみようかの」

 

 秀吉の了承も得たので三年の教室がある四階へ向かい、近くにあったDクラスの教室へ入る。

 ……入った瞬間、お腹が空いてきた。早く食べよう。さっさと食べよう。

 店員に言われた席につき、テーブルに置いてあったメニューを手に取る。

 

「……ねえ秀吉。これ頼んでみる?」

「どれじゃ――やめた方が良いぞ」

 

 メニューを見てこれはダメだ、という感じの表情になる秀吉。

 私が見せたのはオススメだと言わんばかりにでっかく載っていた『ロシアン天ぷら』というやつだ。これを見て好奇心が湧いてきたわ。

 水を一口飲み、いざ『ロシアン天ぷら』を注文しようとしたときだった。

 

「む? 雄二かの?」

 

 秀吉が振動していたらしい携帯を取り出し、雄二と通話し始めたのだ。普通なら店内での通話はダメなのだろうけど、秀吉の様子を見る限り緊急事態のようだから不問にしてあげたい。

 何回か頷いて携帯を仕舞うと、彼は申し訳なさそうに口を開いた。

 

「済まぬ水瀬……雄二から緊急の呼び出しを受けてしまった」

 

 血祭りに挙げてやる。

 

 

 

 




 バカテスト 現代社会

 以下の問いに答えなさい。
『PKOとは何か、説明しなさい』



 姫路瑞希の答え
『Peace Keeping Operation (平和維持活動)の略。
 国連の勧告のもとに、加盟各国によって行われる平和維持活動のこと』

 教師のコメント
 正解です。


 土屋康太の答え
『Pants Koshi-tsuki Oppai の略。
 世界中のスリーサイズを規定する下着メーカー団体のこと』

 教師のコメント
 君は世界の平和を何だと思っているのですか。


 吉井明久の答え
『パウエル・金本・岡田 の略』

 教師のコメント
 それはセ界の平和を守る人達です。


 水瀬楓の答え
『パワフル・筋肉・Operation の略』

 教師のコメント
 最後だけ合っているのが腹立たしいです。


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