バカと私と召喚獣   作:勇忌煉

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第九問

「アキ、おはよ~」

「おはようございます、吉井君」

「あぁ、二人とも。おはよう」

 

 学園祭二日目の朝。さっきからアキ君がソワソワしていると、昨日怖い目に遭った瑞希と島田さんが揃って登校してきた。見た感じ、特に心配はなさそうだけど……。

 アキ君が元気そうな二人に対し、らしくないほど慎重に言葉を選んで話しかけていくも、瑞希によってその気遣いは看破された。

 心配するアキ君の気持ちもわからなくはないが、逆に気遣いが過ぎるのも良くない。こういうのはバランスが大事だよね。

 無理のない自然な笑みを浮かべ、きっとまた助けてくれるとアキ君に対する強い信頼を示す瑞希。依存しないか心配である。

 

「アキというよりは坂本と土屋と水瀬さんかもしれないけどね」

 

 昨日の出来事を全然気にしている様子もなく、からかうように微笑む島田さん。この子といい、瑞希といい、なかなか芯が強いわねぇ。

 そんな二人の護衛的な役割で一緒に登校してきた秀吉とムッツリーニが言うには、不審者を始めとした異常は特になかったらしい。ちなみに、二人とも武器として借り物のスタンガンを持っていたりする。

 

「これくらいは当然じゃ。ワシに至っては昨日役に立てんかったしのぅ……」

 

 昨日……思い出したら腹が立ってきた。私だって、秀吉のお尻を撫でたいのに……!

 奥から出てきた雄二が眠そうにあくびをし、アキ君もそれに合わせる感じであくびをする。雄二はともかく、アキ君は普段の姿勢からは想像もできないほど頑張ってたからなぁ。

 島田さんが呆れるようにアキ君と雄二の実力を心配するも、そんな暇があるなら喫茶店の準備でもしてくれと雄二に咎められた。

 

「ゴメン。ちょっと寝かせてもらえるかな? ここのところあまり寝てなくてさ……それに昨日は徹夜だったから眠くて」

 

 そりゃアキ君、勉強しているときの集中力は珍しく凄かったからね。その分、疲れも大幅に溜まっているのだろう。

 二人とも全員から休憩の許可をもらい、雄二が屋上へ行こうと教室の扉に手を掛けたところで、アキ君がこっちへ振り向いた。

 

「あぁ、それと楓も寝かせてあげて。ここ最近徹夜続きだったみたいだから」

 

 皆、アキ君がそう言ったことでようやく私の存在に気づいた。さっきからずっと力なく机に突っ伏している、私の存在に。

 彼の言う通り、私はここ数日まともに寝ていない。そのせいか、今になってその分の疲労がドッと押し寄せてきたのだ。

 

「て、徹夜って……楓ちゃん、何をしていたんですか?」

「ごめん瑞希……今、まともに会話する気力もないからそういうの後にしてくれる……?」

 

 驚いた顔で話しかけてきた瑞希には悪いが、今の私はこれだけ喋るのにも手間が掛かるのだ。下手したらアキ君よりも疲れているだろう。動ける程度の体力も残ってないし。

 

「でも、もうすぐ開店時間だから寝るにしても場所は変えてほしいんだけど……」

「動けるならこんなところで寝てないわよ……!」

 

 困ったように言ってくる島田さんを軽く睨みつけ、絞り出すように声を出す。やっぱり学校自体を休むべきだったかなァ……!?

 

「仕方がない、水瀬はワシが運ぶかのぅ」

「運ぶって、どこへ?」

「お、屋上を希望するわ……」

 

 あそこにはさっき出て行ったアキ君と雄二がいるから危険はないし、ちょっと調べておきたいこともあるから下見をしておきたいのだ。

 そして何より……この教室から屋上までは距離がある。つまり、秀吉の身体――その体温と女性のように綺麗な肌を長時間堪能できるのよ!

 昨日のヤバイレベルの話といい、今置かれた状況といい、もしかすると私は人生の絶頂期を迎えているのかもしれない。

 煩悩が有頂天になってきたところで、秀吉が私の身体を背負って教室から出た。この体勢なら、違和感なく体を密着できるわね……!

 

「良かったね秀吉、女の子の身体を堪能できるよ?」

「そ、その言い方はやめるのじゃ水瀬……」

 

 こんな時でも私を異性として意識するのを忘れていなかったようで、顔を真っ赤にする秀吉の体温が全身に伝わってくる。

 それはとても温かいものだった。安心するというか、落ち着くというか、心地が良いというか……今の私じゃ上手く表現できない。

 そんな、安心感のある温かさを感じながら、私は眠りの扉を開いた。

 

 

 

「お疲れアキ君~……」

「あはは……まだ眠そうだね、楓」

「当たり前でしょうが……」

 

 召喚大会の決勝戦だが、ピンチに陥りながらもアキ君と雄二のペアが勝利を収めた。

 司会によると、対戦相手の常夏コンビはAクラスの生徒だったらしい。あの容姿で三年生だという時点で驚きなのに、さらに一番上のAクラス生徒という事実には絶句させられた。

 あの言動で優等生の部類に入るとは……もしかしたら三年のAクラス生徒は成績と引き換えに性格が腐っているのかもしれない。

 ちなみに科目は雄二が試召戦争で散々だった日本史で、両者の点数は約200点台となんと互角だった。ある程度は上がっていると思いたかったが、拮抗はさすがに予想外だったわ。

 

「実は楓ちゃん、さっきまで土屋君と一緒に撮影していたんです。疲れが取れていないのはそのせいかもしれません……」

「撮影? この二人が?」

 

 意外だ、と言わんばかりに私とムッツリーニを交互に見るアキ君。私は本当に撮っていたが、おそらくムッツリーニは違う。

 本人はアキ君にジト目で見られ、そんなことはないといった感じで目を逸らしている。だけど実際は試合そっちのけで、ミニスカートの観客とかを撮影していた可能性の方が極めて高いだろう。

 もちろん、私も瑞希がいなければそっちに加わっていたかもしれない。

 

「坂本。アンタ試召戦争の時は散々だったのに、今回は点数が高かったわね」

「散々だったからこそ、だ。あれ以来、日本史を重点的にやってきたからな」

 

 こっちはこっちで、私達――正確には瑞希に背を向けた島田さんと雄二が会話をしている。そういえば転校の話、瑞希はまだ私達にバレていないと思ってるんだっけ。

 まぁ、アレはアレで本当に酷かったわね。あの時は本気でブチのめしてやろうかと思ったよ。範囲外の問題とかならまだしも、範囲内かつ本人の慢心であのザマだったわけだし。

 

「それであんなに高得点だったんだ」

「大変だったぞ。特に先週例の(姫路の転校)話を明久が聞いてからは、ほぼ毎晩ヤツの日本史の勉強に付き合わされたからな」

「ふぅん……アンタはともかく、よくアキがそれだけであんな点数を取れたわね」

「アイツも少しは自分で――いや、水瀬の協力もあって結構な量をやっていたみたいだからな。後は虚仮の一念ってヤツだろ? 正直、物凄い集中力だったぞ」

「水瀬さんも一緒にやってたの?」

「あぁ。俺もわからないところは教えてもらったし、明久に至ってはアイツが寝た後でも、自分は寝る間もなく朝までやっていたそうだ。問題の答え合わせとか、間違ったところをどう復習させるとかをな」

 

 雄二の言う通り、私はここ数日アキ君に付きっきりで勉強を教えていたのだ。無論、彼に付き合わされていた雄二にも多少は教えていた。

 その雄二はある程度できていたし大丈夫だったが、アキ君はそうでもなかった。この数日という短い期間で、アキ君の元から低い学力をどこまで上げられるかが一番の問題になっていたのだ。

 結果に関しては今回の試合でキッチリと表れてくれたが、そうでなかったら全てが水の泡になるから発狂していただろう。

 

「だから今朝はあんなに眠そうにしていたのね……」

「ほぼ寝ていたけどな」

 

 それについては否定しない。

 

「ふわぁ~……教室に戻ったら寝よう」

「済まぬが水瀬。お主も喫茶店を手伝ってくれんかの?」

 

 ヤバイ。眠ろうと思った矢先にチャイナドレスを着た秀吉に話しかけられてしまった。

 こんなの、卑怯にも程があるわよ。眠気が一気に吹っ飛んでしまうじゃない。

 

「…………厨房ならいいよ」

 

 というか私、厨房班だし。

 

 

 

『ただいまの時刻をもちまして、清涼祭の一般公開を終了しました。各生徒は速やかに撤収作業を行ってください』

「死ねる……マジ、死ねる……」

「なんか、水瀬さんだけどんどん疲れてない?」

 

 天からのお告げとも言える放送を聞いた途端、少しは取れたはずの疲れがさらに溜まっているのを実感してしまった。

 私はただ、自分の役割を果たしただけだ。それなのに、これはどういうことなんだ。激しく動いたわけじゃないのに……。

 

「じゃ、ウチらは着替えてくるわ」

「は?」

 

 いきなり無体なお言葉が降りかかってきた。いや待ってよ、アキ君達はともかく私との約束がまだ残ってるんだけど。

 恥ずかしいから、と言って着替えのために教室から去ろうとする島田さんと瑞希を、私は無意識のうちに引き止めていた。

 

「えっ、水瀬さん?」

「か、楓ちゃん?」

「ナイスだ楓! そのまま二人を引き止めるんだ!」

「…………!(コクコク!)」

 

 二人が困惑しているが、そんなことはこの際関係ない。アキ君とムッツリーニには悪いが、私の目的は二人を引き止めることでもない。

 

「――着替える前にさぁ、ツーショット写真を撮ってくれるって約束したじゃん。忘れたとは言わせないわよ?」

 

 私がそう告げると、島田さんと瑞希は気まずそうに眼を逸らした。その様子を見るに、どうやら忘れたふりをしていたようだね。

 

「…………そ、そういうことなら」

「良いの?」

「はい。や、約束ですから……」

「良いのっ!?」

 

 よっしゃぁ! アキ君とムッツリーニを出し抜いて大勝利だ!

 

「えぇっ!? そんなのアリなの!?」

「…………裏切者……!」

 

 ふふっ、負け犬の声が良い味を出しているわね。恨めしそうな視線も気にならないわ。

 瑞希と島田さんの背中を押して教室を後にし、女子更衣室へと向かう。チャンスは一度きり。最高の写真を撮ってやる!

 

 

~~少々お待ちください~~

 

「ただいま~……何してんの?」

「あっ、楓! ちょうど良かった! 秀吉を引き止めるのを手伝ってほしいんだ!」

「…………!(コクコク!)」

「は、放すのじゃお主ら!」

 

 島田さんとのツーショット、瑞希とのツーショットにおいて最高の写真が撮れたので戻ってきたのだが、アキ君とムッツリーニが今度は足にしがみついてまで秀吉を引き止めていた。

 チャイナドレスを着ていた島田さんと瑞希を失った今、同じくそれを着ているのは木下秀吉ただ一人。なるほど、必死になるわけだ。

 

「秀吉、昨日約束したじゃん。私とツーショット写真を撮ってくれるって。だから今は我慢しよう?」

「むぅ……仕方ないのう」

 

 私がそう言うと、秀吉はあっさりと今の状態を受け入れてくれた。ほら見てよ、アキ君とムッツリーニがガッツポーズしちゃってる。

 それを呆れたような目で見ていた雄二がアキ君と私を『学園長室へ行くぞ』と誘い、ムッツリーニと秀吉もついてくることになった。

 

 

 

「「失礼しまーす」」

「邪魔するぞ」

 

 今度はノックと挨拶をきちんと行い、学園長室の扉を開けて中に入る。これは完璧だ。誰がどう見ても模範的な生徒のそれだろう。

 

「アタシは前に返事を待つようにと言ったはずだがねぇ」

 

 前言撤回。まだまだ改善の必要がありそうね。

 

「あ、学園長。優勝の報告に来ました」

 

 アキ君の報告に対し、言われなくてもわかってると遠慮なく述べる学園長。そりゃそうだ。アキ君達に賞状を渡したのはこの人なんだから。

 そして以前よりもこちらの人数が多くなっていることを咎める学園長だったが、雄二がこの二人も迷惑を被ったと言ったことでどうにかなった。

 ちなみに景品として勝ち取った白銀の腕輪は、まだ返さなくてもいいらしい。

 

「明久よ、不具合とはなんじゃ?」

「あっ、秀吉は知らなかったんだね。この腕輪はちょっと欠陥品でね、点数の高い人が使うと暴走しちゃうんだよ」

 

 まぁ、確かにそうなんだけど……ここが学園長室だからって、そんな重要なことをあっさりと言っていいとは思えない。

 最初にここへ来たとき、学園長以外にも例の黒幕――教頭の竹原がいた。実を言うと彼は出ていく際、一瞬だけ部屋の隅に視線を送っていた。

 そんなことに何の意味があるのだろうか? 私なら盗聴器でも仕掛けて、それがちゃんと動いているかどうかを確認するけど――

 

「――まさか」

 

 いや、ちょっと待って。だとしたら色々と納得がいく。けど、いつから? 連中、いつの間に仕掛けたんだ……?

 

「だから、教室の改修と交換条件で僕と雄二がこれをゲットするっていう取引を学園長と――」

「アキ君ストップ!」

「待て明久!」

「え? どうしたの二人とも?」

 

 私と雄二がほぼ同時に、真剣な顔でアキ君に怒鳴りかける。

 さっきからブツブツと考え込んでいた雄二も、おそらく私と同じ結論に至ったのだろう。私達の推測が正しければ――

 

 

「「――その話はマズイ!」」

 

 

 

 




 バカテスト

 問 以下の問いに答えなさい。

 家計の消費支出の中で、食費が占める割合を何と呼ぶでしょう。



 姫路瑞希の答え
『エンゲル係数』

 教師のコメント
 正解です。さすがですね、姫路さん。
 一般に、エンゲル係数が高いほど、生活水準は低いとされています。


 吉井明久の答え
『今週は塩と水だけです』

 教師のコメント
 食事の内訳は聞いていません。


 水瀬楓の答え
『エンジェル係数』

 教師のコメント
 名前はそれっぽいですが、間違いです。何を書こうとしていたのかはわかりませんが、何度も消した後が妙に気になります。


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