以下の英文を訳しなさい。
『Although John tried to take the airplane for Japan with his wife's handmade lunch,he noticed that he forgot the passport on the way.』
姫路瑞希の答え
『ジョンは妻の手作りの弁当を持って日本行きの飛行機に乗ろうとしたが、途中でパスポートを忘れていることに気がついた』
教師のコメント
はい正解です。
土屋康太の答え
『ジャンは 』
教師のコメント
ジョンです。訳せたのはそこだけですか。
吉井明久の答え
『ジョンは手作りのパスポートで日本行きの飛行機に乗った』
教師のコメント
手作りパスポートという言葉の意味をもう一度よく考えてみて下さい。
水瀬楓の答え
『ジョンはケイトの手作り弁当で日本行きの飛行機に乗った』
教師のコメント
色々と混ざっていますよ。
「……大丈夫? 三人とも口から魂みたいなのが抜けてるんだけど」
「な、何とかね……」
「ま、まさか高橋女史まで参戦してくるとはな……」
「…………アレは反則」
三人の乙女に散々お仕置きをされ、ぐったりとくたばっているアキ君、雄二、ムッツリーニの額にそれぞれ濡れたタオルを置く。
私が瑞希達によるお仕置きを力ずく(とセクハラ)で止めた後も、毎度の如く鉄人によるありがたい指導で心身共に削られまくったはずだしね。こんなに疲れているのは仕方がないよ。
「じゃがどうする? このままではお主らは脅迫犯の影に怯え、且つ覗き犯という不名誉な称号を掲げられてしまうぞい」
まだ未遂とはいえ、後者に関してはどうあがいても事実な件について。
例の脅迫犯云々は最悪こっちでどうにかすれば何の問題もないと思っている。ただし人手がいないので、解決には時間を要するが。
ちなみに秀吉はどういうわけか、昨日に引き続いて今日も無罪放免だった。いよいよ彼の男としての尊厳が失われてきたわね。
「水瀬には悪いが、諦める気は毛頭ない。残るチャンスは明日だけだが、逆に言えばまだ明日が残っているんだからな」
「なんで楓には悪いのさ」
「……明久よ。水瀬は女子じゃぞ」
このバカは自分の幼馴染みの性別まで忘れようとしているのか。生まれた時から、今に至るまでずっと一緒だった私の性別を。
そのバカことアキ君は秀吉の言葉を聞いてもまだピンと来ないと言った感じなので、仕方なく私自ら説明することにした。
「君達の目的は覗きを装い、その騒動に紛れながら脅迫犯を特定すること。だから可能な限り協力はするし、邪魔もしない。でもその装いにだけは一切手を貸さないから」
「つまり覗きの実行以外なら俺たちの味方というわけだ」
「なるほど。だから昼間もくっついてきたんだね」
くっついてはいない。
「楓のせいで圧倒的な戦力差に磨きが掛かっていたけど、それでも僕らにとってはいつものこと。こういった逆境を覆す力こそが僕らの真骨頂だ!」
「最初に私の名前を出す必要あった?」
明らかに最初の部分だけ私怨が入っていたよね。そのせいで良い台詞が台無しだわ。アキ君にしてはカッコイイとまで思いかけたのに。
「ねぇ、二人も何とか――」
「…………このまま引き下がれない」
「そうじゃな。こんなことはFクラスに入って以降、慣れっこじゃ。今更慌てるまでもない」
「――言って……」
「諦めろ水瀬。今回ばかりは明久が正しい」
否定できないのが心底悔しい。
「まっ、お前らが諦めていないようなら、まだ手はある」
「流石は雄二! もう作戦を考えてあるんだね!」
「当然だ。俺を誰だと思っている?」
レッドコング(和名:赤ゴリラ)。
「それで、今度はどんな作戦? 楓に聞かれても大丈夫なの?」
「あぁ、問題ない。何せ――正面突破だからな」
希望に満ち溢れた日々から、一気に絶望の日々へと叩き落されたかのような顔になるアキ君。一体どんな作戦を期待していたのやら。
もちろん雄二はそこまでバカじゃなかった。基本スタンスは変えないがその分事前の準備を徹底するようだ。どうやら今回以上に戦力を増加する気みたいね。質より量って感じかな。
ムッツリーニから得た情報も含めてまとめると、向こうの布陣――というか自陣は教師を中心とした防御主体の形を取っているらしく、その弱点が召喚獣を喚び出すフィールドの《干渉》だそうだ。
この《干渉》というものについてだが、これは一定範囲内でそれぞれ別の教師が異なる科目のフィールドを展開すると、科目同士が打ち消し合い、召喚獣が消えてしまう現象のことを指す。
ちなみに同じ科目のフィールドがそれぞれ展開された場合は混ざり合い、巨大なフィールドとなる。一つのフィールドが大体半径十メートルくらいだから……二十メートルほどか。
「……部屋に戻るわ」
「おう」
これ以上、女子の私がこの男子部屋にいても意味がない。それに今の説明で雄二の作戦が大体読めた。最後まで聞く必要はないだろう。
「ただいま~」
「あっ、お帰り水瀬さん」
男子部屋を出たところで鉄人に絡まれながらも、適当にはぐらかして無事部屋に戻ると、携帯電話を弄る島田さんが出迎えてくれた。
こういう時は真っ先に声を掛けてくれる瑞希がいないと一瞬思ったが、部屋の奥の方で島田さんみたく携帯電話を弄る姿が確認できた。
……それにしても、こんなところで二人同時に携帯電話を弄るなんて、何か面白いニュースでもあったのだろうか? ちょっと気になる。
「嬉しそうにしてるけど、何か良いことでもあった?」
「あっ、楓ちゃん。実は明久君からお誘いのメールが来まして……」
お誘い?
「ちょっと見せて」
それがどうかしたのか、と言わんばかりに可愛らしくきょとんとする瑞希から携帯電話を借り、お誘いのメールとやらの内容を確認する。
【ちょっと話があるんだけど、僕らの部屋に来てもらってもいいかな?】
本当にお誘いのメールだった。しかも送信先が瑞希と島田さんの二人になっている。瑞希の方は特に警戒はしていないようだが、島田さんの方はほんの少しだけ警戒していた。
まぁ私の知っている限り、瑞希はあんまり人を疑うタイプじゃないからねぇ。想い人であるアキ君に対する疑惑はともかく。
「……瑞希。それは何?」
なんか、瑞希の持っている入れ物から物凄く嫌な感じがする。
「手作りのお菓子です。楓ちゃんもどうですか?」
「遠慮しとくわ」
酷くビンゴだった。
「それじゃあ、行ってきますね」
地獄への片道切符を手に、部屋を出ていく瑞希。そろそろ島田さんも、時間的にアキ君達の部屋へ行くはずなんだけど……。
そう思って、妙に静かな彼女のいる方へ振り向いた時だった。
「えっ」
いつもの強気な島田さんからは想像もできない、可愛らしい声が聞こえたのは。
さすがの私もこの不意討ちには驚いてしまい、思わず彼女に続いて変な声を出しそうになるも、ギリギリのところで踏み止まった。
「……ど、どうしたの?」
「えっ、あっ、べ、別に?」
なんてわかりやすい反応なんだ。
「携帯、見せてくれる?」
「だ、大丈夫だから! ホントに何でもないから!」
「あっ! 黒いアイツ!」
「えぇっ!? ど、どこ――あぁっ!?」
何故か戸惑っている彼女の気を簡単な嘘で逸らし、その隙に携帯電話を取り上げて画面に表示されたままのメールの内容を確認する。
【勿論好きだからに決まっているじゃないか! 雄二なんかよりもずっと!】
なんて男らしくて力強い告白文なんだ。
「…………」
でも島田さんにはどう返答すれば良いんだ? そのままの意味だとフォローすれば良いのか? いやいや、それじゃ今よりもややこしいことになるのが目に見えてる。ならどうすれば――
「――み、水瀬さん?」
「はっ!?」
い、イケないイケない。危うく意識がどっかに飛んでしまうところだった。
「と、とりあえず携帯を返してくれない?」
「あ、あぁ、はい」
島田さんほどではないが結構戸惑いつつ、取り上げていた携帯電話を返す。アキ君としてはそういうつもりで送ったわけじゃないだろうが、内容が内容なだけにとてもややこしい。
というのも彼の場合、好きな相手に告白する時はストレートに自分の口から言うタイプだからだ。少なくとも、文通や遠回しな言い方はしないと断言できる。何せ極限のバカだしね。
「えーっと……」
「ね、ねぇ」
改めてどう返答しようか考えていると、島田さんがほんのりと頬を赤くしながら話しかけてきた。こうして見るとこの子も普通に可愛いわね。
「何?」
「水瀬さんは、アキのことは何とも思ってないのよね?」
「……君もしつこいね。そういう気持ちは抱いてないって、清涼祭の時にも言ったでしょうが」
前言撤回。見た目は可愛いけど、少々しつこいのが玉に瑕ね。アキ君へのスキンシップについてはできるだけ触れないことにする。
……同じ質問を忘れた頃にされたせいか、少しだけイライラする。私が好きなのはあくまで木下秀吉ただ一人。間違っても空前絶後のおバカであるアキ君を好きになるわけがない。
「そうなんだけど……ほら、アンタたちって幼馴染みだから……」
「一緒に過ごしているうちに、気持ちに変化が訪れるとでも?」
「うん……」
なるほど、そう来たか。確かにあり得ないとは言い切れないけど、そうなる前にアキ君を攻略するという考えには至らなかったのだろうか?
……それに加え、ただでさえアキ君とは生まれた時からずっと一緒なのに、当たり前のように恋愛関係へと至るのはさすがにごめん被りたい。生涯の伴侶くらいは自分で選ばせてほしいわ。
「あり得ないと言いたいけど、万が一ってことも考えると否定しきれないわ。そんなに私や瑞希がアキ君とくっつくのが嫌なら、今夜確かめれば良いじゃん」
「た、確かめるって?」
「そのままの意味――こっちから出向くのよ」
さっき行われた防衛戦の際、翔子と共に計画していたことを遠回しに告げる。
「ウチの方からアキに会いに行くの!?」
「嫌なの?」
「べ、別に嫌とかじゃないわよ。ただ、その……恥ずかしいっていうか……」
そのあどけないというか、女の子らしいというか、まぁそういう仕草をアキ君に見せたら普通にときめいてもらえると思うんだけどなぁ。
親しいくらいの相手なら普通に接しているのに、好きな相手に対してはどう頑張っても素直になれない。ツンデレの宿命と言うべきか。
「っと、そろそろ時間か」
見回りの先生が来る前に、島田さんか瑞希のどちらかが敷いてくれたっぽい布団に入って寝たふりをする。本当に寝てしまわないよう、気を付けないとイケないのが面倒くさいわね。
PiPiPiPiPi
さっそく眠気を掻き消そうと携帯電話を取り出した途端、その携帯電話からメールの着信音が響いた。こんな時間に、一体誰から?
【楓。もうすぐそっちに行く】
……頑張ったわね、翔子。
「……本っ当に、可愛い寝顔ね」
今、私の目の前には木下秀吉の天使のような寝顔がある。こうしてみると、本当に男子なのか怪しいわね。皆が彼を女子として扱うのも納得できてしまう。だって可愛いもの。
試しに秀吉の柔らかそうな頬をツンツンとつついてみるも、微動だにせず一向に起きる気配がない。ていうか本当に柔らかいわね。しかも女子のそれと同じく、肌触りが非常に良い。
『し、翔子!? なんでお前がここにむぐっ!?』
『……雄二に呼ばれたから』
「演劇のために手入れでもしてるのね……普段は女装を嫌がるくせに」
すぐ近くから聞こえてくる雄二と翔子の会話を聞き流しつつ、病みつきになりそうなほど柔らかく、触り心地の良い彼の頬をつつきまくる。こうなったら起きるまでつついてやるわ。
「むぅ……? なんじゃ一体――!?」
「おはよう、秀吉」
二分ほど頬をつついたところでようやく秀吉が目を覚まし、同時に顔がトマトのように真っ赤に染まった。なんて可愛いんだ。
「な、なぜ水瀬がワシの布団にっ!?」
「しー、大きな声は出しちゃダメよ」
驚きのあまり大声を出しそうになった秀吉の口を、人差し指で優しく押さえる。
そして今更だが、私は本人の言う通り、秀吉と向き合う形で彼の布団に入っている。一言で言うなら夜這いというやつだ。翔子が現在進行形でやっているものに比べたら結構温いが。
私的には今から本格的な夜這いを仕掛けても良いんだけど、それだと秀吉の意思を無視する形になってしまうからやりにくいんだよね。一歩間違えたら後味の悪いものが残りそうだし。
「……そ、それで、なぜお主がワシの布団に入っておるのじゃ?」
「君の寝顔が見たかったから」
ここで『君を(性的な意味で)襲いたかったから』なんて言ったら間違いなくドン引きされる。ただでさえ引かれていそうな感じなのに。
「……複雑じゃ」
「ダメだった?」
やっぱり遠回しな言い方がイケなかったのだろうか? ここは正直に『君に会いに来た』とでも言えば良かったのかな? でも、それはさすがの私でもかなり恥ずかしいし……。
「だ……ダメではないぞ。ワシとしてはむしろ嬉しいのじゃが……」
「えっ」
嬉しいの?
「嬉しいの?」
心の声がそのまま出てしまったけど私は絶対に悪くない。
「う、うむ……」
「そ、うなんだ……」
え……何これ。嬉しいと言われただけなのに、物凄く恥ずかしいんだけど。多分、この部屋の明かりが点いていたら顔が真っ赤になっているのを見られてしまうに違いない。
「…………」
どうしよう。今の不意討ちのせいで言葉が出てこなくなった。こういう時、いつもの私なら秀吉をからかってやり過ごすんだろうけど……ダメだ。どうからかえばいいのかわからないよ。
『助けに来ましたお姉さま!』
『また何か来たぁっ!』
『み、美春!? どうしてアンタがここに来るのよ!?』
『……雄二。とにかく続き』
『お前、マイペースにも程があるだろ!?』
本当にアキ君に会いに来た島田さんと彼女に力ずくで起こされたアキ君、そしてたった今乱入してきた清水さんによっていよいよ収拾がつかなくなってきたところで、状況が一変した。
『何事だっ! 今吉井の声が聞こえたぞっ!』
アキ君のせいで。
「ちょっと待って。なんで全員が『吉井が声を出したせいで見つかったじゃないか』みたいな目で僕を見ているの?」
いやしょうがないじゃん。だって実際、この状況に口頭で釘を刺そうとしていたのは君だけなんだから。他はともかく、こっちはそれっぽく良い雰囲気になりかけていたというのに。
「くそっ! 明久のせいで面倒なことになった!」
「なんだか納得いかないけどそういうことにしておこう! しかも部屋には半裸の女子が四人もいる! それが鉄人にバレたら……!」
「その四人目が誰なのか気になるのじゃが……」
それは私も気になる。
「僕と雄二と楓が囮になるから、女子はその隙に逃げて!」
「その配置おかしくない!? 私も一応女子なんだけど!?」
ここ最近、コイツらが私をどういう風に見ているのか本当に気になるところだ。女性ではなく男性として扱われている気がしてならない。
この状況でも島田さんを口説きに掛かる清水さんをある意味凄いと思ってそうなアキ君を睨みつけたところで、再び鉄人の声が聞こえる。
『吉井に坂本ぉ! お前らだとはわかっているんだ! その場を動くなよっ!』
良かった。まだ私の存在はバレていない。
「ヤバイ! 鉄人がすぐそこまで来てるよ!」
「時間がない! こうなったら俺と水瀬が『必殺アキちゃん爆弾』で鉄人の注意を引き受ける! 行くぞお前ら!」
「だからなんで私が行くこと前提になってるのよ!? その『必殺アキちゃん爆弾』で事足りるでしょうが!」
「だからどうして二人とも、僕を道具のように使おうとするのさ!?」
それ以外に使い道がないから――という冗談は置いといて、一応女子である私を囮役として勝手に選出したことに少々お怒りだからよ。
「全く……雄二、楓、行くよっ!」
「仕方ない、付き合ってやる!」
「貸し三つ! 三つだからね!」
マジで時間がないこともあり、やむを得ずアキ君と雄二に付き合うことにした。最悪、この二人を犠牲にしてでも逃げ切るつもりだ。
バンッ! ガスッ!
「ふぬぉぉっ!?」
アキ君が扉を押し開けた瞬間、その扉で鉄人が頭を痛打していた。凄く痛そうだ。
すぐさま逃げようとするアキ君と雄二だったが、ここで想定外の事態が起きた。
脳天を痛打したせいで出遅れた鉄人が、部屋の中を覗き込もうとし始めたのだ。マズイわね。このままじゃ計画が台無しになってしまう。
「鉄人! 僕はこっちだよ!」
「貴様は西村先生と呼べと何度言えば――」
「どりゃぁぁあーっ!」
すると同じことを考えていたであろうアキ君が、その場で脱いだ浴衣を鉄人の顔に巻きつけた。帯で縛り付けるというオマケ付きで。
その間に雄二が合図を出し、三人の女子が頷いた後に全速力で廊下を走って行った。あぁ、私もそっちに行きたかった……。
「吉井。貴様は俺の指導をとことん受けたいようだな……!」
しかも顔に浴衣を巻かれた鉄人は怒りを倍増させている。さすがに女子の私でも鉄拳制裁だけで済ませてもらえるとは思えない。
雄二と私は一瞬でアイコンタクトを交わし、いつものようにアキ君だけを囮にして逃げることにした。実際、狙われてるのはアキ君だけだし。
「西村先生すいません! 坂本雄二と水瀬楓の二人が持ち込んだ日本酒を隠すために注意を逸らせと言われたものですから!」
「なんてこと言うんだキサマは!?」
「名前が挙がるどころか思いっきりありもしないことで濡れ衣着せられたんだけど!?」
どういうことなんだ。一体どういう思考回路をしていればそんな妙にリアルな言い訳が言えるんだ。もちろん今のはアキ君の真っ赤な嘘だ。
「また貴様ら三人か……覚悟は出来ているんだろうなぁぁああっ!」
「「「出来てませんっ!」」」
鉄人が顔に巻かれた浴衣を剥がす前に走り出し、ある程度全速力で走ったところで学習室の脇を駆け抜けた。無論、鉄人は後ろから追いかけてきている。その様子を見る暇もない。
問題はどこに逃げ込んで鉄人を撒くかだが、雄二が言うにはその鉄人が入って来られないような場所へ逃げ込むとのこと。それって……。
「男で教師の鉄人が入って来られない場所、つまり――女子部屋だ!」
なるほど、女子部屋か。確かに、女子生徒という若い女子が大勢いる部屋なら鉄人でも入るのは難しい。しかも私は女子だ。アキ君達以上に逃げられる確率が高まるだろう。
――ただ、問題が一つある。
「なるほど。確かにそれなら、男の鉄人は入って来れない。男子禁制の女子部屋に、パンツ一丁の僕が逃げ込んだら――死は免れない……!」
そう、アキ君がパンツ一丁という有様なのだ。というのも、さっき鉄人の気を引きつけるために自分の浴衣を使ったのが原因だけど。
このまま行けば、アキ君一人のせいで大惨事になってしまう。しかし、それを見越していたらしい雄二がどこからともなく服のようなものを取り出し、アキ君に投げつけた。
「着たか明久!?」
「うん! セーラー服の装着、完了したよ!」
もはや何も言いたくない。
「よし、これで逃げ込めるな!」
「そうね! せめてカツラを用意してほしかったけど!」
「そんなのいらないよ! ていうか待って二人とも! この格好はある意味、全裸より致命的だ!」
いや、どう考えても全裸の方が致命的である。女装なら演劇の練習とでも言い訳すれば、社会的な死は確実に回避できるからね。
「それじゃここからは、別行動だ!」
「あいよー!」
雄二とアキ君の目を盗み、すぐそばにあった扉を開けて中に入る。ここはさっきの学習室とはまた別の部屋ね。だけどそんなことはどうでもいい。今は鉄人を撒くことだけを考えないと。
『待て雄二! 逃げるならどこまでも一緒だ!』
『ふざけるな! 変態と行動を共にするつもりはない!』
どうしよう。外で何が起きているのか、物凄く不本意だが容易に想像できてしまう。
『……………………お前ら、何をやっているんだ?』
あっ、鉄人の声だ。
『…………まぁ、女子に縁がないのはわかるが、そういったことはできれば人目につかんようにだな』
『『指導を受けるから言い訳をさせて下さい!』』
アキ君と雄二が、三日連続で熱い指導を受けることが決まった瞬間だった。でもお生憎さま、私はこのまま逃げ切らせてもらうわ――
ガチャッ
「残念だが、そうは問屋が卸さんぞ」
わかってた。簡単に逃げ切れるわけがないって私わかってた。
「「ウェルカム」」
呆れた表情で仁王立ちする鉄人の後ろから、ムカつくほど嫌な笑みを浮かべるバカ二人。鉄人がいなかったらぶん殴っているところだ。
こうして私もアキ君と雄二のように、鉄人との熱い夜を過ごすはめになった。