バカと私と召喚獣   作:勇忌煉

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 バカテスト 英語

 次の言葉を正しい英語に直しなさい。
『ハートフル ラブストーリー』


 姫路瑞希の答え
『heartfull love story』

 教師のコメント
 正解です。映画や本の謳い文句によく見かける単語ですが、たまに heart の部分を間違える人がいます。
 ちなみに日本語に訳すと『愛に満ちた恋物語』となります。是非そのような青春を皆に過ごしてもらいたいと思います。


 島田美波の答え
『hurt full rough story』

 教師のコメント
・hurt……怪我
・full……一杯の
・rongh……荒っぽい
・story……物語


 意図的に間違えたのではないかと思うほど綺麗に間違えていますね。
 そのようなハートフルラブストーリーを演じるのは貴女だけだと思います。


 霧島翔子の答え
『hurt full rough story』

 教師のコメント
 まさかもう一人いるとは。


 水瀬楓の答え
『heart fullbokko story』

 教師のコメント
・heart……愛
・fullbokko……フルボッコ
・story……物語


 これも意図的かと思うほど綺麗に――というほどでもありませんね。普通に間違いです。





修羅場と戦争回避編
第一問


「吉井、歯を食い縛れっ!」

 

 それは全くの不意討ちだった。

 目の前にはクラスメイトにグーで殴られる、凄く見慣れた間抜け面。

 彼のすぐそばではぼうっとした様子で何かを呟く、昔馴染みの姿が。

 そして、私の足下には――たった今殴られたバカが横たわっていた。

 なんだろう。何が起きているんだろう。どうしてこんな朝っぱらから、私は修羅場に遭遇しているのだろうか。どうして足下のバカから助けてほしそうな視線を向けられているのだろうか。

 今の状況を頭の中で整理していると、バカ――アキ君を殴った張本人である須川が弾かれたように彼から離れて、

 

「そ、その……冗談とかじゃ、ないから……っ! ……本気でコロス

 

 などとほざいた。これほど気持ち悪い声真似を、私は聞いたことがない。

 

 まぁ、そもそもの発端はさっきまでこの場にいた島田さんである。

 さっきまで停学明けのアキ君と共に登校していた私は、途中で合流した瑞希の可愛らしい姿を堪能していたのだが、そこへいきなり顔を赤らめた島田さんが現れた。そう、赤面した状態で。

 最初は何事かと思っていたが、彼女が瑞希の方をチラッと見たことですぐに察することができた。島田さんが未だにアキ君にメールで言われたことを真に受けている、ということを。そう、私なりに納得した直後だった。

 

 

 ――島田さんが、アキ君にキスをしたのは。

 

 

 それも頬ではなく、唇に。まさかの唇と唇によるガチ接吻である。

 さすがの私も驚かざるを得なかった。何せ、周囲には朝早くから登校している多くの生徒がいるというのに、彼女は周りが見えていなかったのか、それを気にすることなく行ったのだから。

 まぁ、そんなことを思っていたら、自分のやらかしたことに気づいたのかいきなりアキ君から弾けるように離れて、

 

『そ、その……冗談とかじゃ、ないから……っ!』

 

 と、アキ君に一言告げて脱兎の如く走り去ってしまった。もちろん赤面したまま。キスの感触とか聞きたかったなぁ……。

 そしてアキ君がその光景をモロに目撃してしまった須川にぶん殴られ、今に至るというわけだ。いやー、まさに修羅場だね。まだ緩いけど。

 

「美波ちゃん……やっぱり、明久君のことが……」

「……朝からゾクゾク――不愉快なものを見てしまったわ……」

「いや姫路さん! それはもういいから! あと楓! ニヤニヤしながら気持ちを興奮させてる暇があるなら助け――っ!」

 

 ひたすら似たようなことを呟く瑞希と、軽めとはいえ修羅場に遭遇して刺激に満たされている私に助けを求めるアキ君だったが、クラスメイトの一人に意識を刈られて動かなくなった。

 う~ん……いつもならここで彼を助けるところだが、今回はそんな気になれない。むしろ今のクラスメイトの勢いに乗りたい。

 

「……そうだ」

 

 あの手があったわね。

 

 

 

 

 

 

「え? あれ? どういうこと?」

「起きたか明久」

「……雄二、何やってんの?」

「……お前の巻き添えだ」

 

 サバトの会場となったFクラスの教室にて。暗幕が引かれ、教壇で覆面姿になったクラスメイト達が騒ぐ中、手足を縛られた状態のアキ君と雄二が目を覚ました。

 現行犯でシメられたアキ君はともかく、雄二は不幸にもそれの巻き添えを食らってしまったようだ。私も今知ったけど。

 ちなみにそうなった理由だが、一言でまとめると『寝ている間に翔子にキスをされた』というものだったりする。……あの子にとって夜這いは日常茶飯事なのだろうか。

 

 

「諸君。ここはどこだ?」

 

『『『最期の審判を下す法廷です!』』』

 

「異端者には?」

 

『『『死の鉄槌を!』』』

 

「人とは?」

 

『『『愛を捨て、哀に生きる者!』』』

 

 

「……ねぇ、雄二」

「……なんだ、明久」

「なんか違和感を感じるんだけど」

「奇遇だな。俺もそう思っていたところだ」

 

 私の方を見て、首を傾げながらそう呟くアキ君と雄二。どうやら目の前に私がいることに気づいていないようだ。勘の良い二人ならすぐに気づくと思ったんだけどなぁ。

 ……まっ、別にいいか。どうせ二人ともこれから審議に掛けられるのだから。

 

 

 

「宜しい。これより――二-F異端審問会を開催する!(※私の声)」

 

 

「「最悪の裏切りだぁ――っ!!」」

 

 

 

 やっと気づいたか。

 

「ではさっそく、罪状を読み上げ――」

「待て待て!」

「待って待って!」

 

 なんだ二人して。

 

「……えー、何か?」

「何かじゃねぇ! どうしてお前が仕切っているんだ!?」

「そうだよ! どうして楓が仕切っているのさ!?」

「それ聞いちゃう? 雄二はともかく、私と幼馴染みの君がそれ聞いちゃう?」

 

 雄二はともかく、それなりに私の考えを把握しているアキ君が知らないとは驚きである。

 仕方ないので審問会を一時中断し、右手を上げて殺気立っているクラスメイト達を落ち着かせる。素直な男の子は好きよ。

 

 

「――刺激たっぷりで面白そうだと思ったからよ!」

 

 

 それ以外に何があるというのか。刺激を得るためなら、多少の犠牲も仕方がないのだ。……なんか、悪役みたいね。今の私。もしくは愉快犯か。

 要はこんな修羅場を逃す機会はないと思い、須川率いる異端審問会に入会させてもらったのだ。まだ入りたての新人なのに、立場が会長よりも上になったのはさすがに予想外だったが。

 なので当然、私も彼らのように覆面を被っている。声以外は決してバレないのだ。……通気性が悪いのか、少々蒸し暑いけどね。

 

「おい明久! アイツの思考回路どうなってんだ!」

「そんなの僕が聞きたいよ! 高校に入って少しはマシになってると思っていたのに!」

「あれでマシになった方なのか!?」

「僕的には納得いかないけどね!」

 

 二人が何か話しているが、こっちはもう限界だ。主にクラスメイト達が。

 手元のアメリカなどの裁判で使われる木槌を叩き、くだらない口論をしているアキ君と雄二の意識をこっちに向かせると同時に、再び興奮し始めたクラスメイト達を落ち着かせる。

 

「……では会長。罪状を読み上げたまえ」

『はっ。水瀬裁判長!』

 

 いつから私は裁判長になったのだろうか。

 

『えー、被告、吉井明久(以下、この者を甲とする)は我が文月学園第二学年Fクラスの生徒であり、この者は我らが教理に反した疑いがある。甲の罪状は強制猥褻及び背信行為である。本日未明、甲が同Fクラスの女子生徒である島田美波(以下、この者をペッタンコとする)に対して強制的に猥褻行為を働いていたところを我らが同胞が確保。現在に至る――』

「よしもういい。読み上げご苦労」

 

 このままだと二人の関係を厳密に調査するとか言い出しそうなので、罪状の読み上げを中断する形で終わらせる。本物の裁判も、これくらいの量を読み上げるのだろうか?

 

「それでは――結論だけを述べたまえ」

『キスをしていたので羨ましいでありますッッ!!』

「うむ。実にわかりやすい報告だ」

 

 うん、実にわかりやすい嫉妬心だ。アキ君もたまに嫉妬で暴走するが、コイツらの暴走はアキ君の比じゃない。気を付けないと。

 私がそういう懸念を抱く中、こうして罪状を読み上げてもなお、自分のしたことを思い出せず首を傾げるアキ君。どうやらあまりの物理的ショックで記憶が飛んでいるらしい。

 そんなアキ君を見かね、彼に言い聞かせるように真実を告げる雄二。が、

 

「ははっ。冗談はよしてよ雄二。あの美波が僕なんかにキスをするわけないじゃないか」

 

 アキ君は欠片も信じようとせず、笑いながらそれを一蹴した。まぁ無理もないか。アキ君はわりと自分を卑下している節があるからね。

 確かに彼は容姿学力性格財力が最低だが、バカで愚直なところは素敵だから評価に値すると思っている。もちろん良い意味で。

 

「そんなに自分を卑下するな明久。確かにお前は容姿学力性格が最低だが、それらに目を瞑れば甲斐性と財力が皆無というだけじゃないか」

 

 つまりアキ君には何もないというのか。まだバカが残っているというのに。

 

「この野郎! つまり僕の取り得は肩叩きだけだと言いたいのか!?」

「その歳で肩叩きだけだと!? 反論するにしても他に何かあっただろ!?」

 

 なかったんじゃないかな。アキ君の悔しそうな表情から察するに。

 そろそろ審問会を再開したいところだが、なんか二人の口論がだんだん面白くなってきたので再開はもう少し後にしよう。

 

「…………裏切り者には死を」

 

 と思っていたら、犯行の決定的瞬間をカメラで捉えたムッツリーニが、証拠の写真をアキ君に突き付けた。物凄く恨みの籠った顔で。

 さすがにそれを突き付けられては認めるしかなかったのか、耳まで真っ赤になるアキ君。やっぱり女の子みたいで可愛いわね。

 どうしてアキ君と島田さんがキスをするに至ったのか。とりあえず経緯が気になったらしい雄二が直接アキ君に問いかけ、アキ君が当時の――合宿の最後の夜のことを思い出していく。

 

「くたばれ」

「……っ! 顔が……っ! 顔の骨が陥没したような感覚が……っ!」

 

 そしてある程度聞き出したところで、雄二はアキ君の顔面に靴裏をめり込ませた。まぁ、思い当たる節だらけだったからね。

 わかりやすくまとめると、アキ君が強化合宿の際に誤って送ったメールの内容を島田さんが真に受けてしまい、誤解だと気づかずにキスという形で行動に移してしまったのだ。

 

「んで、お前は島田に何て言ったんだ?」

「『雄二より好きだ』って」

「待て! お前の好きの比較基準は俺なのか!?」

 

 心底嫌そうな顔で、アキ君から距離を取る雄二。二人とも手足を縛られてミノムシみたいな状態になっているので、普通なら何ともないはずのやり取りがシュールな光景になっている。

 

 ……さて、もういいかな。

 

「異端者、吉井明久。汝は自らの罪を悔い改め、裁きと更生を受け入れるか?」

 

 そろそろ頃合いだと思い、我ながら神妙な声でアキ君に問いかける。

 異端者ことアキ君はこちらの出方を窺うように警戒していたが、何か気になることがあったようで、警戒したまま口を開いた。

 

「……あのさ、返事をする前に質問があるんだけど」

「許可しよう」

「裁きって何をするの?」

 

 何をしてやろうか。

 

「とりあえず……君の身体を十字に縛って――」

「僕信じてる! 楓が火あぶりなんて残酷極まりないことは絶対にしないって!」

 

 まだ誰も火であぶるなんて一言も言っていないのに、自分の末路を一瞬で悟るアキ君。こんがりと焼かれるのはお気に召さないらしい。

 アキ君の訴えで喋るのをやめた私を見かねたのか、隣にいた会長の須川が口を開いた。

 

『裁判長。ひとまずここは灯油とライターを用意して――』

「濡れ衣です! 僕ほど教義に順ずる信徒はいません!」

 

 幼馴染みの私はともかく、単なるクラスメイトの須川が相手だと分が悪いのか、魚のようにじたばたしながら叫ぶアキ君。

 

『そうか。それならば、自白を強要するまでだ』

 

 その行為は強要罪に該当しそうなのだが、大丈夫だろうか? ……いや、別に本物の裁判じゃないから特に問題はないわね。

 

「ちょ、今『自白の強要』って言ったんだけど!? この裁判は無効だ!」

「裁判の続行を認める!」

「裁判長ぉ!?」

 

 だってこれ、本物じゃないし。そもそも審問会であって裁判ですらないし。どちらかと言うと取り調べか拷問の類だろう。ていうかアキ君、君まで私を裁判長と呼ぶんだね……。

 クラスメイト達も『自白を強要させろ』とか『議事録を改竄しろ』とかノリノリである。裁判長の私が言うのもアレだが、彼らは本当に審問会の意味を知っているのだろうか。

 

「皆ノリで言ってない!? こういう時は普通、自白の強要が事実だと認めちゃダメだと思うんだけど!」

 

 それもそうだが、裁判長が許可を出していないのに勝手な発言をするアキ君もアキ君である。発言するなら私を通してもらわないと。

 ……そろそろイライラしてきたわね。話は進まないし、時間は無駄に経過していくし。

 私が不機嫌なのを察したのか、少し慌てるように会長こと須川が口を開いた。

 

『ええい、灯油とライターの用意はまだか!?』

「自白させる拷問もそれなの!? 要するにどっちも処刑だよね!?」

 

 要するに、裁きと自白の強要。両方とも内容が処刑のそれだと言いたいのだ、アキ君は。

 なお、須川が言うには自白用と断罪用の二回があるので、一回分お得になるとか。……尤も、灯油とライターを使っている時点で二度目はないわけだが。道具はちゃんと選びましょう。

 

「雄二も何か反論しなよ! このままじゃ僕らは焼死体になるよ!?」

「てめぇら……! やるならコイツだけをやれ!」

 

 これはひどい。

 

「雄二……ありが――違う! その台詞、よく考えると僕を売って自分だけ助かろうとしているだけじゃないか! 自分だけ助かればいいのかこのゲス野郎!」

 

 さすがのアキ君も台詞の違和感に気づいたようで、半分ほどキレながら雄二にツッコんでいる。私が同じ立場だったらどんな手段を使ってでも、相方を道連れにしていると思うわ。

 

『裁判長。いかがなさいますか?』

「ふむ……」

 

 ここは……まぁ、こうするしかないよね。

 

「清々しいほど外道で、男らしいじゃないか坂本雄二。――だが処刑する」

「何ぃっ!?」

 

 アキ君を生け贄にして自分だけ助かろうなんて、甘い。甘すぎる。その程度の浅知恵が通るほど、私は単純じゃないからね。

 

「だよね! 被害者が僕だけなんてあり得ないもんね!」

「ぐっ……! お、俺は巻き込まれただけなのに……!」

 

 諦めろ。アキ君を生け贄にしようとして時点で、貴様も処刑対象同然だ。バカやる時も一緒、死ぬ時も一緒。一人ぼっちにはさせないさ。

 ……にしても遅い。灯油とライターはまだなのか。そう簡単に手配できる道具でないのはわかるが、こっちもこっちで時間がないのだ。必要ならさっさと持ってきてほしいわね。

 

「どうやら火あぶりの準備が遅れているようなので、ここは『耐久バンジー』をやらせてみようと思う」

『た、耐久バンジー……ですか?』

「うむ。耐久バンジーだ」

 

 私の告げたことに不満があったのか、少し物足りないと言った感じで話しかけてくる須川。だがこの意見を曲げるつもりはないぞ。

 

「い……一応聞くけど、その耐久バンジーってどんなものなの?」

 

 大した罰じゃないと思っていたのか一瞬だけホッとしていたアキ君だが、冷静になったらしく険しい表情で処刑内容を聞いてきた。

 雄二に至っては今すぐにでも逃げ出したそうな顔をしているが、少しも動かない辺り多少の覚悟を決めているのかもしれない。

 

「そうね……。君達に余計な不安は与えたくないから、ヒントしか言えないけど――」

 

 処刑内容を察したっぽい須川と共に、暗幕で閉ざされた窓を見るように顔を背け、

 

「――高い所から死ぬまで逆さ吊り、とだけ言っておくわ」

 

 アキ君と雄二を逆さに吊り上げ、頭に血が上りきるまで置いておく……それが今回の処刑内容だ。必要な道具はロープだけだし、楽でいいわ。

 

「このバカエデ! 拷問通り越してじわじわと処刑する気だな!?」

「ヒントの意味を調べてきやがれ!」

 

 本気でヤバいものを見るような目で、私を睨みつけるアキ君と雄二。何だろう、マゾヒストじゃないのにゾクゾクするんだけど。

 アキ君の雰囲気からして、何となくだが窓に体当たりしそうだったのでクラスメイトの一人を窓際に配置したところで、雄二が私以外の連中の目を盗んで何かを取り出し、アキ君に渡した。

 

「雄二……。ありがとう……!」

 

 何だかんだ言いながらも、アキ君のピンチを救ってくれる。そんな雄二に感心して、アキ君に渡した物が何なのかを確認する。

 

 

 …………ハンカチ?

 

 

「頭に被せるといい」

 

 そう自信満々に告げる雄二を見て、目に熱いものが込み上げてくるのを感じた。

 嗚呼、コイツの頭はもう手遅れなんだ。きっと重度の疾患を抱えているに違いない。

 

「あのね雄二。嬉しいけど、こんなもの一枚じゃ僕の頭は覆いきれないんだよ」

 

 大方、落下の衝撃を和らげるための物だろうが、アキ君の言う通り、どう考えても無意味である。何故なら頭が地上にキスすることはないからだ。だって吊るすんだし。

 悪友の頭を心配するアキ君だったが、雄二は不敵な笑みを浮かべて答えた。

 

「バカだな明久。それだけじゃないさ」

「え? そうなの?」

「もう一枚用意してある」

「あのね雄二。枚数の問題じゃないからね?」

 

 またしても自信満々に取り出される、もう一枚のハンカチ。

 もう、コイツの頭は現代医学じゃ治せない領域まで来てしまったようだ。

 

「……停学明け早々、何をやっているんだお前たちは……」

 

 茶番を繰り広げるアキ君と雄二を眺めていると、朝のHRにやってきた鉄人が額に手を当てて溜息をついていた。これはマズイかもしれない。

 虐めだと述べて助けを求める被告人のアキ君と、聖戦だとほざいてこれが虐めではないことを主張する会長の須川を交互に見て、思いっきり呆れ顔になりながら鉄人が告げる。

 

「何でもいいが、お前たちは点数補充のテストは受けなくてもいいのか? 強化合宿のせいで男子は全員点数が無いに等しいだろう?」

 

 鉄人が言いたいことは何となくわかった。試験を受けるための申請のことだろう。

 授業の時間にテストを受けたい場合、先生の準備もあって事前に申請しておかなければならない。でないと、普通の授業になってしまう。

 強化合宿の決戦時、最終的にほとんどの教科が介入していたようで、男女ほぼ全員が全教科の点数を消費していたと聞く。なので、本来ならその点数の補充をするべきなのだが……

 

「「今はそれどころじゃありません!」」

 

 彼らとしては、今からのアキ君と雄二の行く末の方がよっぽど重要な問題らしい。

 前回の試召戦争からまだ三ヶ月経っておらず、しかも私達は最低設備のFクラスだ。こっちから試召戦争を仕掛けることはできないし、他のクラスに攻め込まれる理由もない。

 ……と、普通なら考えるだろうが、万が一ということも充分にあり得る。だから点数の補充はしておいた方が良いと思うのだが……。

 

「やれやれ、お前らがそう言うのなら構わんが……」

 

 呆れたままの鉄人は連絡事項を告げると、そのまま教室を出て行ってしまった。この状況を見て何とも思わなかったのだろうか?

 ちなみに連絡事項の内容は、『試験召喚システムのメンテナンスが予定よりも遅れている』というものだった。そのため、これが終わるまでは試召戦争ができないとのこと。

 

「吉井! 抵抗するな! ここまで来て往生際が悪いぞ!」

「くそっ! 誰か、助け――そうだっ! 姫路さん! 優しい姫路さんならきっと僕を助けてくれるはず!」

「待て明久! 俺はどうなるんだ!?」

「霧島さんに助けてもらえばいいだろ!」

「それだけは勘弁しろ! というか元はと言えばアイツが――」

 

 雄二は素直になればいいと思う。そしたら私が偽情報で翔子を呼んであげるのに。

 瑞希に助けを求めるアキ君を見て、私は自分の席に座ってさっきから同じことを呟く瑞希へ視線を向ける。……あれは無理だろう。あの様子じゃ、周りが見えていないっぽいし。

 アキ君もそれに気づき、万策尽きたかと言わんばかりに腹を括ったところで、

 

「こ、これは一体何事じゃ!?」

 

 来てしまった。一筋の希望の光が。木下秀吉が。私の天使(性的な意味で)が。

 

「秀吉……! ずっと来ないから、てっきり今日は休みなのかと」

「今朝は少々支度に手間取ってしまったがゆえに遅くなったのじゃが……明久よ。お主らは何をしておるのじゃ?」

 

 教室は暗幕で光を遮られ、被告人であるアキ君と雄二は蓑虫状態。そして私を筆頭にクラスメイトは覆面姿。登校してきて教室がサバトの会場になっていたら、普通は驚いて当然だろう。

 さすがに秀吉が相手だと分が悪いので、隠れるように黙り込む私をよそに、須川が秀吉に簡単な説明をしたところで、

 

 

 ガラッ

 

 

 秀吉が入ってきた方とは別の扉が開かれ、この公開処刑の発端となった島田美波さんが入ってきた。耳まで真っ赤になった顔で。

 

 

「「「…………」」」

 

 

 いつもと妙に異なる雰囲気で自分の席へ向かう島田さんを見て、水を打ったように静まり返る教室内。さっきの喧騒はどこへやら。

 

「おはようございます皆さん。今日は諸事情により布施先生に代わり、私が授業を――どうしたんですか? 皆さん」

 

 布施先生の代理らしい一時間目の授業の先生が、その様子を見て目を丸くしていた。

 

 

 

 

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