バカと私と召喚獣   作:勇忌煉

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第三問

 

「ムッツリーニ。畳の跡ならもう消えてるよ?」

「…………!!(ブンブン)」

「今さら否定されても君がHなのは知ってるから」

「…………!!(ブンブン)」

「どうあがいてもバレてるのに否定し続けるなんてある意味凄いよ」

「…………!!(ブンブン)」

 

 雄二を先頭に校内を歩いているのだが、さっきからこんな感じでアキ君とムッツリーニのやり取りが続いている。

 もしも周りに人がいたら痛い視線を向けられていたに違いない。幸いにも今はいないけど。

 島田さんは瑞希と話し込んでいるのか、二人の会話に気づいていない。ちなみに私はタイミングを見計らってムッツリーニと話し合うつもりだ。

 

「何色だった?」

「赤と水色――!?」

「チッ!」

 

 ムッツリーニがパンツの色を言うと同時にハイキックを繰り出すも紙一重で避けられた。

 オツムは残念なくせになんて反射神経だ……!

 アキ君は絶対にやると思った、という感じでこっちを見ていた。傍観者になりきってるところ悪いけど、君にも原因はあるからね?

 

「ほら吉井。もたもたしてないで早く来なさい」

「はいはい」

「返事は一回!」

「へーい」

「……一度、Das Brechen――日本語だと……」

 

 Das Brechen? 意味はわからないけどこれってドイツ語かな?

 

「…………調教」

 

 知ってて当たり前だと言わんばかりに答えたのはムッツリーニだった。

 もしかすると彼、性に関することならロシア語でもわかるんじゃないか?

 

「そう、調教の必要があるわね」

「それ私の役目なんだけど。前にアキ君から頼まれたし」

「…………あんた、水瀬さんになんてこと頼んでるのよ」

「待って島田さん! 今のは楓のデマだからね!? 僕はそんなことを頼んだ覚えはこれっぽっちもないからね!?」

 

 アキ君のことは私が一番よくわかっているつもりだ。伊達に幼馴染みをやってるわけじゃない。

 

「じゃあ中間とってZüchtigung――」

「…………わからない」

「それは折檻だよ」

 

 中間どころか悪化してるわね。いくらアキ君の天敵だからってここまでやる必要はあるの?

 まあ、やり過ぎなければ刺激になるかもしれないから見定めていこう。

 ちなみにムッツリーニが言うには『調教』のドイツ語訳を知っているのは一般教養らしい。彼の物事に対する基準がよくわかったわ。

 そんな会話をしているうちに、先頭の雄二は屋上に通じる扉を開けて青空の下に出ていた。

 

「いい天気ね」

 

 思わずそう呟いてしまうほどの眩しい光が差し込み、目を逸らすように周りを見渡す。

 ……相変わらず人はいないのね。だからこそこの屋上は使えるのだけど。

 

「明久、宣戦布告はしてきたな?」

「うん。ちゃんと今日の午後に開戦予定って言ってきたよ」

 

 雄二がフェンスの前にある段差に腰を下ろし、私達は彼を囲うように腰を下ろした。

 どうせなら今ここで昼寝がしたいと思ったのは内緒である。

 

「てことは今から昼飯?」

「そうなるな。明久、今日も水瀬の手作り弁当か?」

「まあね」

 

 そう来ると思ったので手際よく二つの弁当箱を取り出し、一つをアキ君に渡す。

 全く、毎日余分に作るこっちの身にもなってもらいたいものね。

 今日のメニューは炊き込みご飯とハンバーグだ。弁当に合うかは微妙だが味は大丈夫。

 

「えっ!? 吉井君っていつも楓ちゃんにお弁当を作ってもらってるんですか!?」

「どうりで最近、吉井がまともな物を食べてるわけだわ……!」

 

 瑞希と島田さんは仲良く驚きの声を上げ、私とアキ君を交互に見た。ちょっとウザい。

 作ると言っても好きで作ってるわけじゃないんだよ。できればそろそろ変わってもらいたいわ。

 

「なんか酷い言われようだけど……楓に作ってもらえない時でも一応食べてるよ?」

「……あれは食べていると言えるのか?」

「少なくとも、食べてるとは言えないわ」

 

 すかさず私と雄二が横槍を入れる。

 

「何が言いたいの?」

「いや、お前の主食って――以前は水と塩だったろ?」

「失敬な! きちんと砂糖も食べてるさ!」

 

 雄二が哀れむような声でそう言うと、私を含む全員が優しい目で彼を見つめた。

 アキ君、私の知る限り水と塩と砂糖だけで生活できる人は君だけだよ。

 

「飯代まで遊びに使い込むお前が悪い」

「仕送りが少ないんだよ!」

「なら節約すればいいじゃない。アキ君ってほんとバカ」

「うぐっ……!」

 

 あんなに良いマンションに住んどいて何が仕送りが少ないよ。オンボロアパートで一人暮らしをしている私からすれば贅沢でしかないわ。

 趣味もお金が掛からないものにしている。例えば…………なんだろう?

 

「あ、あの……もし良かったら、私もお弁当作ってきましょうか?」

「ゑ?」

 

 瑞希の天使顔負けの優しい言葉に変な声を出すアキ君。……これはいい機会ね。

 

「ちょうどいいわね。次からは瑞希の弁当を主食にしなさい」

「えっ!?」

「へ? い、いいんですか?」

「良いも何も、私もそろそろ誰かと代わってもらおうと思ってたから」

 

 これで余分に弁当を作らなくて済む。食べられる量が増えて嬉しいよ。

 それにしてもこのハンバーグ、ちょっと味が薄いかな? いつもより味がないわね。

 

「……ふーん。瑞希って優しいのね。吉井()()に作るなんて」

「あ、いえ、皆さんにも……良かったら……」

「いいのか?」

「はい。嫌じゃなかったら」

 

 先ほどから羨ましそうな視線を私と瑞希に向けていた島田さんが、ジト目で妙に棘のある発言をする。……なるほど。これはまた面白そうだ。見逃す手はないわね。

 それに気圧され、瑞希はアキ君だけでなく雄二達にも弁当を作ると発言してしまった。

 私も含めると七人分か……どうしてだろう、少し嫌な予感がする。念のために自分で作っておいた方が良さそうだ。

 

「そういえばアキ君。島田さんも弁当作ってくれるらしいわよ」

「え? う、ウチはそんなこと言ってな――」

「島田さんも? 本当に?」

「それは楽しみじゃのう」

「…………(コクコク)」

「うっ……わ、わかったわよ。ウチも作ればいいんでしょ作れば」

 

 恨めしそうに島田さんが睨んでくるが、その程度でたじろぐ私ではない。

 

「それじゃ、皆さんの分も作ってきますね」

「……お手並み拝見ね」

 

 こうして瑞希と島田さんによる料理対決が幕を開けた。瑞希はそのつもりかわからないけど。

 瑞希もだけど、渋々とはいえ断らなかった辺り島田さんも充分に優しい。

 

「今だから言うけど姫路さん。僕、初めて会う前から君のこと好き――」

「今振られると弁当の話がなくなるぞ」

「島田さんもいるのにそれはないわよアキ君」

「――にしたいと思ってました」

 

 なんて豪快なカミングアウトだろう。私にはとても真似できない。

 これじゃどっちにしても島田さんが不憫だ。やはり胸の大きさが物を言ったのだろうか。優しさだけなら島田さんも負けてないからね。多分。

 

「お前はたまに俺の想像を越えた人間になるときがあるな」

「アキ君は皆の想像を越えたおバカよ」

「だってお弁当が……」

 

 お弁当のせいにしない。

 

「さて、かなり話が逸れていたが試召戦争に戻そう」

「そうだ雄二。なんでDクラスなの? 普通はEクラスかAクラスよね?」

「それはワシも同じことを考えておった」

 

 どうやら秀吉も同じ疑問を持っていたようだ。

 Aクラスを打倒するなら最悪Dクラスは無視してもいい。段階を踏むならEクラスからのはず。

 まあ、雄二のことだから考えの一つや二つはあるのだろう。

 

「何か考えがあるんですか?」

「ああ。色々と理由はあるが、Eクラスを攻めない理由は簡単だ。戦うまでもない相手だからな」

「でも、僕らよりはクラスが上だよ?」

 

 確かに、一般的に見ればEクラスはFクラスよりかは上だろう。

 けど、それは強いて言うならクラス全体の平均点くらいだ。個々の実力となれば話は変わる。

 

「明久。お前の周りにいる面子を見てみろ」

「えーっと……美少女が二人と馬鹿が二人とムッツリが一人と幼馴染みが一人いるね」

「誰が美少女だと!?」

「雄二が美少女に反応するの!?」

「…………(ポッ)」

「ムッツリーニまで!? どうしよう、僕だけじゃ対応しきれない!」

「誰がムッツリよバカ久!」

「もうやめて楓! 僕のライフはゼロよ!」

 

 ムッツリーニと同類だなんて心外にもほどがある。そこはせめてバカか美少女でしょうが。

 

「まぁまぁ、三人とも落ち着くのじゃ」

「そ、そうだな」

「秀吉に免じて許してあげるわ」

「その前に美少女やムッツリで取り乱すことにツッコみたいんだけど」

 

 アキ君をスルーしてコホン、と咳払いをして説明を再開する雄二。

 イチイチ反応してたらキリがないもんね。特にアキ君の場合。

 

「姫路と水瀬に問題のない今、Eクラスには正面からやり合っても勝てる。Aクラスが目標である以上、Eクラスは踏み台またはそれ以下でしかない」

「それだとDクラス以降は正面からぶつかると厳しいの?」

「確実ではないな」

 

 Eクラスならまだしも、Dクラス以降だとはっきりとした戦力差が表れてしまう。

 勉強のできる瑞希や私が万全な状態で特攻したとしても、勝てる確率はそれなりに低い。それこそ教師並みの点数を取る必要がある。

 雄二が言うには初陣かつ打倒Aクラスの作戦に必要なプロセスらしい。

 今は瑞希と雄二の会話をアキ君が阻止しているところだ。……後で聞き出そう。

 

「さっきの話、Dクラスに勝てなかったら意味がないよ?」

「負けるわけがないさ。お前らが俺に協力してくれればな」

 

 試召戦争もれっきとした戦争。雄二一人で勝てるほど甘くはない。

 

「いいかお前ら。ウチのクラスは――最強だ」

 

 これほどその気になってしまう言葉はそうそうないわね。

 根拠はない。でも不思議といけそうな感じがする。面白いわ、本当に。

 

「面白そうじゃない!」

「うむ。Aクラスの連中をてっぺんから引きずり落としてやるかの」

「…………(グッ)」

「が、頑張ります!」

 

 次々と皆が賛同していく。無論、私もその一人だった。

 不可能を可能にする。下剋上。例えるならこういうことだろう。

 

「――こういうのを待ってたのよ」

 

 皆が勝利のための作戦に耳を傾ける中、私は一人微笑んだ。

 

 

 

 




 バカテスト 数学

 問 以下の問に答えなさい。
『(1)4sinX+3cos3X=2の方程式を満たし、かつ第一象限に存在するXの値を一つ答えなさい。
 (2)sin(A+B)と等しい式を示すのは次のうちどれか、①~④の中から選びなさい。

 ①sinA+cosB
 ②sinA-cosB
 ③sinAcosB
 ④sinAcosB+cosAsinB』



 姫路瑞希の答え
『(1)X=π/6
 (2)④    』

 教師のコメント
 正解です。角度を『°』ではなく『π』で書いてありますし、完璧ですね。


 土屋康太の答え
『(1)X=およそ3』

 教師のコメント
 およそをつけて誤魔化したい気持ちは分かりますが、これでは解答に近いとしても点数はあげられません。


 吉井明久の答え
『(2)およそ③』

 教師のコメント
 先生は今まで沢山の生徒を見てきましたが、選択問題でおよそをつける生徒は君が初めてです。


 水瀬楓の答え
『(1)X=およそ④』

 教師のコメント
 何でも掛け合わせれば良いと思ったら大間違いです。



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