以下の状況を想像して質問に答えて下さい。
『あなたは今、独りで森の中で道に迷っています。
明かりもなく暗い森の中を進むと、あなたは湖のほとりに小さな小屋を見つけました。これ幸いと中に入るあなた。すると、そこには椅子とベッドと肖像画が。さて、その肖像画に描かれている人物の特徴は? 頭に浮かんだものを三つ挙げて下さい』
姫路瑞希の答え
『1.楽しげな表情
2.優しい瞳
3.明るい雰囲気』
教師のコメント
これは『あなたの好きな人の特徴』についてわかる心理テストです。暗い森はあなたの不安を表し、そんな時に見つけた小屋の中にある肖像画は『あなたの心を支えてくれる伴侶』を表します。
どうやら姫路さんの好きな人は温和で明るくて楽しい人のようですね。
清水美春の答え
『1.気の強そうな目
2.男らしい胸
3.ポニーテール』
教師のコメント
最後の一つがおかしい気がします。
島田美波の答え
『1.折れた指
2.捻じ曲げられた膝
3.外された手首』
教師のコメント
全部おかしい気がします。
水瀬楓の答え
『1.女々しい表情
2.男らしい胸
3.演劇のホープ』
教師のコメント
女性か男性かどっちなんでしょうか。
『我々Dクラスは、Fクラスに対して宣戦布告を行う!』
翌日。朝のHRが終わった直後、Dクラスの男子がやってきて、私達に高らかにそう告げていった。
……えっ? なんでDクラスから宣戦布告されてるの? 昨日の交渉は失敗したんじゃないの? 昨日、アキ君と秀吉もそう言ってたし……。
私が内心戸惑う中、同じ疑問を抱いたらしい雄二が疑問符を浮かべ、秀吉も怪訝そうな顔になる。
ただムッツリーニによると、今朝から清水さんが異様に興奮していたとのこと。秀吉は昨日失敗と言っていたが、それは私達の側から見た話かもしれない。
「――まずは目先の試召戦争だ。ここまでやってDクラスに負けたら何の意味もない」
まぁ経過はどうであれ、とりあえずDクラスに宣戦布告をさせるという目論見は成功したということになる。
さっそく戦争の準備をしなければならないが、今のFクラスにはまともに戦える奴がほとんどいない。男子は全員使い物にならないと思った方が良いだろう。
それに今回は勝つために戦うのではなく、引き分けるために戦う。まず戦力的に勝ち目がないし、だからといって負けては何の意味もないからね。どうにかして引き分けに持ち込むまで、ひたすら粘る。
つまり常時防衛戦でいかなければならないが、それさえ上手くいけば、後は昨日聞いた雄二の作戦で解決できる。……無事にそこまで辿り着けるかが成功の鍵となるが。
「野郎ども! よく聞け!」
戦力の確認をするべく、教壇に上がってクラスの皆に呼び掛ける雄二。その内容は『自分の持ち点を紙に書いて持ってくる』というものだった。
例の覗き騒動で男子は確実に点数は減っているけど、それでも全て使い切ったわけじゃないらしい。クラスメイト達は次々と紙とペンを取り出していく。
ちなみに秀吉は古典以外の点数が一点も減っていないことがわかった。なので秀吉も瑞希と私と島田さんに並ぶ戦力として扱われることになった。まぁ、古典の点数がないのに関しては私がボコボコにしたからね。仕方ないね。
私も取り出した紙に点数を書いていき、真っ先に雄二に渡す。ぶっちゃけ危ないのは苦手な数学と、秀吉との戦いで消耗した古典くらいだ。なので特に問題ないだろう。
「……雄二」
「なんだ明久」
「これ、楓一人で充分じゃない?」
「いや、これがわからないほど向こうもバカじゃねぇ。間違いなく水瀬封じとして数学を主体にしてくるな」
私がメモを渡した途端、これである。この会話からわかることは、雄二の言った通りDクラスが私対策として数学を主体にしてくること。なので私は実質戦力外になってしまうのだ。
それから全員分のメモを受け取った雄二は、それをパラパラと捲りながら皆に呼び掛けていく。下位十名には点数の補充を、それぞれの教科で受けさせるらしい。配置は点数の確認を終えてから発表するとのこと。
……まぁ、雄二の言った作戦通りなら私と瑞希は外されるわね。何せ今回は単純に勝つのではなく、時間を稼ぐのが目的。戦術よりも心理戦による睨み合いが必要になる。
それに最後はアキ君と清水さんが作戦成功の鍵を握ることになるからね。この二人をどうにかしてぶつけないと、問題の解決にまで持ち運ぶのは難しいだろう。
そのため、アキ君は点数補充ではなく防衛戦への参加が決まっている。まぁ、作戦の要という意味では特別な人材でもあるんだけど。
「ねぇ雄二」
「なんだ、水瀬」
「……本当に上手くいくんでしょうね?」
「任せておけ。ベストは尽くすさ」
アキ君の末路が不安である。植物状態でも良いから、生き残ってよアキ君。
『ぃよっしゃぁああーっ!!』
雄二の説明が終わるとほぼ同時に時計の針がカチッと音を立て、開戦時刻の午前九時丁度になった。
渡り廊下や階段を確保するべく、先行部隊が開幕ダッシュで現場を目指していく。前回の反省から、向こうもこちらと同じ電撃作戦で来るはずだし、最初はスピード勝負になるだろう。
ついさっき雄二が説明していたことだが、今回は防衛戦なので『どんなに有利な状況でも深追いはせず、指定された場所でひたすら防衛に徹しろ』とのこと。
まぁ、作戦の全容を考えると当然だね。最終的には引き分けに持ち込むんだから、勝つために攻めても意味がない。だからといって負けてもダメ。かなりシビアである。
作戦の要であるアキ君は教室から出ようとしたところで、無表情の島田さんに話しかけていた。あのバカ、何をしても逆効果だって昨日言ったでしょうが。何普通に話しかけてんのよ。
『もう話しかけないでって言ったでしょ! いいからこっちに来ないで! ウチのことはもう放っておいてよ!』
ほら言わんこっちゃない。多少は収まっていた火に油を注いでどうすんのよ。アレは会話の内容以前に、話しかけること自体がアウトだ。何があっても相手の怒りが完全に収まるまで放っておくのが正解である。
「水瀬、姫路」
「ん?」
「はいっ」
「お前らにはここに留まってもらう」
雄二の率直な物言いに首を傾げる瑞希だが、昨日作戦の全容を聞き出した私は特に驚かない。ここで私か瑞希、あるいは二人で前線へ出向いたらほぼ確実に無双状態に入るからね。私は数学で封じられるが、これといった苦手科目のない瑞希は仲間のフォロー次第で普通に突き進めるだろう。
「楓ちゃん」
「ん?」
「私達は戦わなくて良いんでしょうか?」
一人じゃ要領を得なかったようで、私に雄二が言った言葉の意味を聞いてくる瑞希。深く考える必要はないと思うんだけど……。
「良いのよ。私達が出てったら一方的になっちゃうから」
「? それで良いと思いますけど……?」
この瑞希を見ていると、やっぱり勉強ができる=頭が良い、というのは少し違うわね。
雄二やBクラス代表の根本は策略面で優れた頭脳を持っているし、勉強なら翔子やAクラスの上位生徒が該当する。アキ君だってここぞという時の頭の回転は速いからね。私もどちらかというと学力寄りだ。つまり何が言いたいかと言うと、頭が良いにも種類があるということである。
「あぁもう! 言葉通りよ! 私達はここから動かなければいいの!」
「か、楓ちゃん!? どうして私の髪をツインテールにしようとしているんですか!?」
暇だから。
「そういえば昔、私を説教しながら勝手にポニーテールを三つ編みに変えたよね?」
「そ、それがどうかしたんですか? 三つ編みの楓ちゃんも可愛かったと思いますけど……」
「今度は私が変えてあげるよ!」
「だからって乱暴に弄らなくても~!」
昔を思い出したら少し腹が立ったのよ。これくらい昔馴染みの好で許しなさいな。
瑞希の髪をツインテールにし、次はどんな髪型に変えようか考えていると、雄二が呆れたような顔で話しかけてきた。
「お前らな……遊ぶのも程々にしておけよ」
「違うんです! 楓ちゃんが勝手に――」
「びよ~ん」
「楓ちゃん!!」
怒鳴られた。ツインテールを引っ張っただけなのに怒鳴られた。
「えっ? なんで怒鳴るの?」
「人の髪を引っ張るのはダメです! 女の子は髪が命なんですよ!?」
そんなこと言われても困るんだけど。私は前髪以外の髪には拘りないし。
とりあえずそっぽ向いて瑞希の訴えをガン無視していたが、瑞希に聞きたいことがあったので無視をやめることにした。
「ねぇ瑞希」
「だから楓ちゃんは――は、はい?」
「本当にアキ君のこと好きなの?」
「…………ふぇ!?」
少し間を置いて私の質問を理解し、顔を真っ赤にする瑞希。なんてわかりやすい子なんだ。私も秀吉の話をされたらこんな風になるのだろうか。いや、それはないはず。少なくとも本人に言われない限りは大丈夫だろう。……実際、恥ずかしかったし。
それはそうと、瑞希だ。せっかくの機会だし弄り倒してあげましょう。ついでにその大きな胸も揉んでみたいわ。何より昔は我が子を可愛がる母親のように接されたし……お返しはしないと。
「好きなんだよね?」
「え、えっと、そ、その……」
「ホラホラ、どうなのさ」
後ろから瑞希の髪をツインテールからちょんまげヘアに変え、押しに押しまくる。こういう子は基本、押しに凄く弱いからね。自分の意志を爆発させない限りは押し切れる。
「…………好き、です」
「そっかそっか。好きなんだむぐっ」
「か、楓ちゃんっ!」
アキ君のいない今、大きな声で瑞希の気持ちを言おうとしたらその瑞希に口を押さえられた。まぁ、これはわざと言おうとしてたから仕方ないね。
とはいえ、瑞希は病弱で非力だ。力で私に勝てるわけがない。すぐに私の手を塞ぐ瑞希の手を引き剥がし、髪の毛弄りを再開する。意外と面白いのよね、これ。
「……えーっと、姫路さん?」
「「あっ」」
なんてことだ。まさかこのタイミングでアキ君が戻ってくるなんて。しかも今の瑞希はちょんまげヘア。私から見ると全然可愛くない。まださっきのツインテールの方が……いや、どっこいどっこいか。
「そ、その髪型は一体……」
「ち、違うんです明久君っ。これは、楓ちゃんが勝手に……」
「瑞希がこの髪型似合ってるか、アキ君に見てほしいってさ」
「楓ちゃん!!」
また怒鳴られた。
「こっちに来て下さい!」
「アキ君バリアー」
「えっ? 何!? どゆこと!?」
こっちに迫ってきた瑞希を、アキ君を使って物理的にガード。するとどうだ。瑞希がアキ君の胸に飛び込むという、恋愛の王道っぽい構図が出来上がったではありませんか。
「え、あ、こ、こここれは、その……!!」
「あ、あはは……。だだだ大丈夫だよ、姫路さん」
さっきよりも顔を、湯気が出そうなほど真っ赤にし、自分から弾かれるようにアキ君から離れる瑞希。良かったねアキ君。ここに島田さんがいなくて。
加えて女子に密着されたのが凄く効いたようで、アキ君もアキ君で頬を赤く染めている。それもカツラを被っていたら女性にしか見えないほど、可愛らしく。
「――って、そうじゃない! なんてことするのさバカエデ!」
「誰がバカエデよバカ久!」
「君以外に誰がいるのさ!?」
昨日に引き続き、今日もアキ君と取っ組み合いの喧嘩をするはめになった。まぁ少しは時間があるし、この戯れに付き合ってあげますか。
今度はお互いに頬を引っ張り合い、空いている手でアイアンクローをかまし合う。思ったよりも握力あるわね、このバカ。
「いいなぁ……」
だからこれの何が良いのさ瑞希。それと小さな声で呟いても無駄だよ。
「おい明久。首尾はどうなんだ?」
「い、一応言われた、通りにしてきたけど……!」
雄二がアキ君に状況の確認を取ってきたので、アキ君をアイアンクローから解放し、私も自分に掛けられたアイアンクローを力ずくで引き剥がす。そのアキ君は雄二に今回の作戦(の過程)を説明してもらうと、隣にある空き教室へ移動していった。
過程の内容は簡潔に言うと『アキ君は向こうの主要人物である清水さんと一騎討ちを行う』というものだ。そんで私と瑞希が前線に出ないのは『Dクラスの代表の防衛に戦力を割かせるため』である。
「さて、これで俺たちは清水が来るまで待機だな」
「そうだね。それにしても……ぶふっ」
「そうですね。……ふふっ」
「なんだ、お前ら? 人の顔を見て笑うとは失礼なヤツらだな」
いや、なんだって言われてもねぇ?
「坂本君はやっぱり、明久君のことを理解しているんだなって思って」
「そうそう。まぁ私ほどじゃないけどね」
「んぁ!? な、何をいきなり気色悪いことを……!」
今の雄二の顔の方がよっぽど気色悪いんだけど。
「照れることないって雄二」
「そうですよ坂本君。照れなくてもいいじゃないですか」
「いや、本気で気持ち悪いんだが……」
何もそこまで嫌そうな顔をしなくても良いじゃんか。まるで『ナメクジを食え』って言われたかのような顔をしているわよ、君。
自分がアキ君のことを理解していることを認めたがらない雄二は、話題を変えるように昨日、アキ君が清水さんに何を吹き込んだのかは想像がつく、と言い出した。
「あー……まぁ、実際何か吹き込んだみたいだしね」
「そうなんですか?」
「うん。内容までは聞き出せなかったけど……ほら、アキ君ってわかりやすいから」
「そうだな。アイツはバカな分、考えていることがわかり易いしな」
この場合、良い意味で言えばアキ君は素直ということである。悪く言えば騙されやすいほど単純、であるが。
「明久君は素直なんですよ、きっと」
「それは同意しかねるな。その辺どうなんだ水瀬」
「どうなんだろうねぇ……両方って言えばいいかもね」
そうとしか言いようがない。良くも悪くも素直。アキ君の魅力の一つだ。
「なるほどな。……けど、いいのか姫路?」
「はい? 何がですか?」
この話、アキ君のことが好きな瑞希にとっては良い話とは言えない。まぁ、島田さんにとっても良い話とは言えないだろう。
「確かに、今の話は嬉しいものじゃありませんけど――」
「「けど?」」
「――けど、私はそういう明久君に、惹かれているんですから……」
「ん? すまん。聞こえなかったんだが」
「言いたいことがあるなら大きな声で言ってよ」
「あ、いいえ。何でもありません」
「そうか。まぁ、とりあえず――」
ハッキリとは聞かれたくないから小声で言ったのだろうが、鈍感でない私と雄二はハッキリとそれを聞き取った。なので――
「「――ご馳走さんっと」」
「二人ともきちんと聞こえてたんじゃないですかっ!」
こんな感じで、私と瑞希は何もしないという暇で仕方のない状況を切り抜けた。
「あれ? 四人ともまだ帰ってなかったの?」
放課後。私と雄二と秀吉、そして『面白いものが手に入った』と小型レコーダーを持ってきたムッツリーニの四人だけが教室に残っていると、交渉材料として犠牲になったアキ君が帰ってきた。
私達がそれぞれ妙に楽しそうな笑み、満面の笑み、前髪に隠れて見えない邪悪な笑みを浮かべる中、アキ君が雄二の方を見て口を開く。
「……雄二はどうしてボロボロなの?」
「…………聞くな」
そう、今の雄二はボロボロだ。顔も、服も。雄二がどうしてボロボロなのか。それはアキ君が犠牲になったことと関係がある。
あの後、アキ君はFクラスの隣の空き教室で清水さんと召喚獣バトルによる一騎討ちを開始。お互いに言いたいことを――本音をぶつけ合いながら好勝負を繰り広げていたところ、雄二率いるFクラス連中が乱入。
そのまま『これは勝負じゃなくて戦争なんだ』とかほざき、連中に指示を出して清水さんの召喚獣――ではなく、アキ君の召喚獣を一斉攻撃。
全身のあらゆる部分に激痛を感じて悶えるアキ君をよそに、雄二は清水さんとの交渉を開始。清水さんはアキ君が『放課後まで補習室に軟禁される』という条件でこれに乗り、全身激痛状態のアキ君に追い討ちで止めを刺した。
元凶の一人であるアキ君を犠牲に、今回の件を流してもらう。それが昨日、雄二から聞き出した作戦だ。だが、これは立派な作戦だからギリギリ許したようなもの。なので私は引き揚げてきた雄二を、許さなかった分だけフルボッコにし、今に至るというわけだ。
ムッツリーニから私のときと同じ言い分を聞かされ、少し楽しそうな顔で座り込むアキ君。自分のことだと全く気づいていない。
「ねぇ、中身は?」
「とある男女の会話らしいぞ」
「男女の会話……?」
あんまり気が進まないのか、どこか躊躇いがちになるアキ君。まぁ、私達はバカな真似はしても悪趣味な真似はしないからね。
だが、秀吉が自分達が気になっていた一件の顛末がわかる会話だと言った瞬間、アキ君が違和感を感じ始めた。こちらの思惑に勘付いたのだろう。
「…………スタート」
だが時すでに遅し。ムッツリーニがレコーダーのスイッチを入れると、レコーダーから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『この話し合いに何の目的があったのかは知りませんが、美春はもう貴方を恋敵として認めるようなことはありません。お姉さまの魅力に気付かず、同性として扱うだけの豚野郎に嫉妬するなんて、時間の無駄ですから。……お姉さまの魅力がわかるのは美春だけです』
この声は清水さんね。というかもう色々とツッコミたい。同性として扱うだけってなんだ。アレは島田さんの普段の行動にも原因があると思うんだけど。
『ちょっと待って、清水さん』
『……なんです? 美春に何か言いたいことでもあるんですか?』
アキ君に呼び止められ、鬱陶しそうに清水さんの声が続く。これが例の失敗した交渉の内容ってやつかな? にしちゃ二人の声しか聞こえないけど……あっ、だから男女の会話なのか。
「こ、これってまさか!」
「ご名答。これは、お前と清水が昨日の放課後に何を話していたか、その一部を録音した物だ」
ナイスよムッツリーニ。確かにこれは私も聞きたかったし、何より知りたかったことだ。雄二と共に明らかな邪悪な笑みを浮かべる中、アキ君と清水さんの声が聞こえてくる。
『うん。一つだけ。清水さんの誤解を解いておきたいんだ』
『誤解? 何がです?』
「ちょちょちょちょっと! なんて物を再生してくれてるのさ!? 冗談じゃ――」
「秀吉、水瀬」
「あいさ~」
「了解じゃ」
「むぐっ!? んむ――っ!!」
秀吉が後ろからアキ君を羽交い絞めにし、私が前からアキ君の口を手で塞ぐ。これでアキ君による邪魔は入って来ないから安心して聞けるわね。
『その……美波の魅力を知っているのはキミだけじゃないってコト』
へぇ……。さすがフレンドリーに接しているだけのことはあるわね。瑞希のような扱いはできなくとも、島田さんの女性としての魅力には気づいていたってことか。
『何を言っているんですかっ! いつもお姉さまに悪口ばかり言って、女の子として大切に扱おうともしないで!』
『うん。それは清水さんの言う通りかもしれない』
『だったら、お姉さまの何を知っていると言うんです!』
『確かにお姫様みたいに扱っているわけじゃない。男友達に接するみたいに雑な態度になっているかもしれない。けどね――』
これに関しては幼馴染みである私に対する接し方と同じような、もしくは近いものだと考えた方がわかりやすいだろう。瑞希は一応身体が弱いから、アキ君はその辺りに気を遣っているのかもしれない。
『けど、なんですか?』
『――けど、僕にとって美波は、ありのままの自分で話ができて、一緒に遊んでいると楽しくて、たまに見せるちょっとした仕草が可愛い、とても魅力的な――女の子だよ』
「「「…………」」」
まさかの直球勝負。そう思ったのか、私と口を塞がれていたアキ君以外の三人は少し驚いた表情で、アキ君を見ていた。
「……いや、意外だったな……」
そんなことはない。これが嘘のつけないアキ君にとっては普通である。
「う、うむ……。もう少し婉曲に言ったものじゃとばかり思っていたが……」
アキ君にそんな気を遣えるような真似ができるわけないじゃない。まぁ、一応やろうと思えばできなくはないけど、その前に自爆するだろうから意味はないわね。
「…………直球勝負だった」
それでいい。
「明久。お前、意外と言う時は言うんだな」
「…………男らしい」
「な、なぜかワシも鼓動が早くなって凄いのじゃが……」
ここにきて久々にアキ君が憎いと思った。秀吉までときめかせやがって……!
三人が意外そうにアキ君を見つめる中、
「あはははははっ! 相変わらずの直球だなんて、昔と何にも変わってないわねアキ君!」
ただ一人、私は爆笑していた。高校生になったというのに、昔と何一つ変わらない、魅力的なバカに対して。
私の言った『昔と何にも変わっていない』という言葉に反応した雄二が、少し驚いたまま問い掛けてきた。
「前にもこんなことがあったのか?」
「ま、まぁね……。何なら教えてあげよっか……あはははははははっ!」
「笑うなバカエデ! そして余計なことを言おうとするんじゃない!」
腹を抱えて笑いながら、私はまたしてもアキ君との取っ組み合いをやるはめになった。さすがにしつこいわねこのバカ……。
久々に一発殴り飛ばしてやろうかと思い、拳を握り込んでいると、何かの気配を感じたらしいムッツリーニが険しい表情になり、廊下に飛び出していった。
「なんだ!? どうしたムッツリーニ」
「…………油断した」
戻ってくるや否や、苦々しく呟くムッツリーニ。どうやら今の録音内容、誰かに盗み聞きされてしまったようだ。
ムッツリーニが言うには、盗み聞きしていたのは『張本人』とのこと。張本人……清水さんか? いや、あの子がここに来る理由は今はないはずだから…………まさか島田さん?
「あー、ごめんねアキ君。まさか張本人に聞かれてたとは思わなくって……」
「す、すまん明久。まさかこれほどの物だとは思わなかった」
「すまぬ明久」
「…………ごめん」
全員、アキ君に頭を下げる。今回は本当にちょっとした悪戯のつもりだったのだが、まさか張本人に聞かれるなんて……。
アキ君は『張本人が相手なら別にいいよ』と許してくれたが、『そう思うなら自分と島田さんの仲直りに協力してよ』と言ってきた。いや、それはもう大丈夫だと思うんだけど……。
「いや、それは多分大丈夫じゃろうな」
「そうだな。仲直りどころか……」
「…………うん」
「な、何? 何で大丈夫なの?」
「アキ君――」
自信満々で苦笑いする三人に代わり、私が皆の言いたいことをそのまま言うことにした。まぁ、鈍ちんなアキ君には多分わからないだろう。
「――大進展、おめでとう」
ありのままの言葉。嘘偽りのない言葉。私のそれを聞いても、やはりと言うべきかアキ君は首を傾げたまま考え込んでしまった。
まぁ、アレよ……『終わり良ければ総て良し』ってやつだ。うん、そういうことにしておこう。