バカと私と召喚獣   作:勇忌煉

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 バカテスト 化学

 問 次の道具の名称を答えなさい。

 液体の体積を量るために用いられる縦に細長い円筒形の容器。ガラスやプラスチックで作られており、転倒を防ぐ広い底板と、注ぎ口をもつ。


 姫路瑞希の答え
『メスシリンダー』

 教師のコメント
 正解です。実験器具の名称や使用法は基礎知識としてとても重要なので、正しく覚えておいて損はありません。目盛りを読む際の基準や注意点についても同様に覚えておくと良いでしょう。


 土屋康太の答え
『メス シリ』

 教師のコメント
 いかに君が自分の興味のある部分しか見ていないのか、ということがよくわかりました。できればあと3文字『ンダー』も覚えて欲しかったところです。 


 吉井明久の答え
『目盛り付きガラス筒』

 教師のコメント
 君にはガッカリです。


 水瀬楓の答え
『Graduated cylinder、もしくはMesszylinder』

 教師のコメント
 正解ですが何も英語とドイツ語で答えなくても。






期末試験編
第一問


「くそぉぉぉっ! また負けたぁー!」

「はっはっはーっ! 私に勝とうなんて一世紀早いわ!」

 

 梅雨前線の影響をあまり受けない、つまり梅雨の時期でも雨が降らないこの地域にしては珍しく、午前中に少しだけ雨が降った日曜の午後。

 だけど今ではその雨もすっかりと上がり、雲の隙間から日差しが差し込む中、私はアキ君の家で彼とテレビゲームを使った勝負をしていた。ジャンルはスポーツ、内容はボクシングでの一対一だ。

 このゲームは先週末に出たばかりの新作で、昨日はアキ君と雄二が激闘を繰り広げたが、勝ったのは反射神経と動体視力でアキ君に勝る雄二だった。ああいうの上手そうだったからね、アイツ。

 そんで雄二との再戦に燃えるアキ君を、私が直々に鍛えているというわけだ。……普通にこのゲームをやってみたかった、というのもあるが。

 

「雄二に続いて、楓にも負けるなんて……!」

「いやー、凄く簡単だねこのゲーム」

 

 だってコントローラーを持ちながら、それをTV画面に映っている相手に向かって突き出すだけで良いんだから。

 それにしても、こんなコントローラーを持ってシャドーボクシングをするだけのゲームなのに、よく売れたわね。もしも買うのが私だったら絶対に買わなかったに違いない。

 ちなみに対戦中、スカートを穿いているにも関わらず、鍛錬時の癖で何度か意味のない蹴りを放ってしまったが、肝心の相手はアキ君なので何の問題もないだろう。これで相手が秀吉だったらなお良し。

 

 

 ――ピンポーン

 

 

 悔しがるアキ君を見て嘲笑していると、甲高い呼び鈴の音がリビングまで聞こえてきた。

 

「アキ君、宅配便でも頼んでたの?」

「いや、頼んでないけど……ちょっと出てくるよ」

 

 そう言ってゲームを一時停止にし、玄関へ向かうアキ君。今日は日曜日の午後。だから誰が来てもおかしくない。秀吉かムッツリーニ、それにもしかすると雄二かもしれない。

 冷蔵庫を勝手に開け、(アキ君が)買ったばかりのアイスコーヒーを一口飲む。こういうのは間接キスに気を付けなければならない。好きでもない奴とするのは嫌、というのもあるけど、他者の唾液には何が含まれているかわからないからね。何せ外国のある事例じゃ接吻――普通のキスをしただけで死んだって人もいるくらいだし。ちなみに原因はアレルギーだったらしい。

 とまぁネットで調べたことを思い出しながらアイスコーヒーを冷蔵庫に直していると、

 

 

 

『なんでバスローブ姿なのさ――っ!?』

 

 

 

 アキ君の魂の籠った叫びが聞こえてきた。……バスローブ姿?

 

「アキ君どうかしたー?」

「あっ、楓がいるの忘れてた……」

 

 ひょっこりと覗き込むように玄関の方を見てみると、かなり慌てていたのかこっちを見て少し落ち着くアキ君と、見覚えのある女性がバスローブ姿で佇んでいるのが見えた。同性でも羨むほどのスタイルにショートカット、そして大きな旅行鞄……。

 

「なんだ、玲さんじゃないですかやだー」

「お久しぶりですね、楓さん」

 

 誰かと思えばアキ君こと吉井明久の実姉、吉井玲さんだった。なんでバスローブ姿になっているのかはわからないが、相変わらず外見だけなら依怙贔屓なしの美人である。

 こっちに帰ってくるという話は聞いていないけど、大方アキ君が何かしでかしたか、アキ君がその手の連絡を忘れていたに違いない。普通なら何の前触れもなく帰ってくるのは心臓に悪いからね。

 

「で、なんでアキ君は焦ってるの?」

「実の姉がバスローブ姿で帰ってきたら普通焦るでしょ!?」

「ここで着替えたわけじゃないのね……」

 

 その姿でここまで来たのか、この人。

 

「アキくん。楓さん。姉さんがこの格好をしているのにはきちんと理由があるんですよ?」

 

 いや、理由以前に常識的な意味でアウトだから。そんな露出狂扱い待ったなしの格好で、よく警察に通報されなかったわね。何でも玲さん本人が言うには、

 

 

 

 今日は暑く、重い荷物を持っていることもあって自分は汗だくだ。

 

     ↓

 

 電車の窓に映る自分の姿を見て、一年ぶりに会う弟に見せる最初の姿が汗だくなのは、姉としても如何なものかと思った。

 

     ↓

 

 会うのが肉親とはいえ、自分も女だ。身だしなみには気を遣うべき。

 

     ↓

 

 そこで全身の汗を何とかするために、自分は服を脱いでバスローブを装着した!(ここがおかしい)

 

     ↓

 

 さすが吸汗性に優れた服! これなら姉としての尊厳を保った状態で弟に会える!

 

     ↓

 

 警察に通報されることなく無事に目的地へ到着し、今に至る。

 

 

 

 ……とのこと。他人に自分の裸体を見せることには何とも思わなかったのだろうか、この人。私がその立場にいたらトラウマになって、幼児退行する自信があるんだけど。

 とりあえず今のでわかったことは、玲さんの意図していたことは物凄い勢いで失敗している、ということだ。確かに汗だくの姿は回避できたが、それと引き換えに多くのものを失ってしまっている。姉としての尊厳とか、人としての尊厳とか。

 それでも汗の主成分は水で、バスローブの素材である綿は通気性や吸水性に優れているのだから、自分の意図した通り汗を吸収しているはずだと言い張る玲さん。問題はどう考えてもそこじゃない。

 

「確かに汗は引いてるかもしれないけどさ……」

「わかってもらえたのなら、とりあえず中に入れて下さい」

 

 玲さんがわざわざ海外から日本に戻ってきたのは、アキ君の今の生活状況をチェックし、それをおばさんに報告するから……らしい。本人は義務だと言っているけど……まぁ、あの人の命なら仕方ないか。

 悪夢が現実になった。そう言い出してもおかしくないほど、平静を装って動揺するアキ君。ピクリとした動きだけで、その内面を教えてくれるのが何とも彼らしいわね。

 

「ところで姉さん」

「はい?」

「アレはなんだろうね?」

「なんでしょう?」

 

 アキ君が明後日の方向を指差すと、何も疑うことなくそちらを向く玲さん。翔子といい、瑞希といい、この人といい、どうして胸の大きい女性は天然――どこか抜けているのだろうか。

 

 

 ――バタン。ガチャガチャンッ

 

 

 その隙をついて、冷静かつ手際良く扉を閉じて鍵を掛けるアキ君。なんでコイツはこう、自分の首を絞める行為ばかりするのか。この辺りは理解したくないわね。

 

 

 ピンポーン

 

『アキくん。開けて下さい。姉さんはまだ家の中に入っていませんよ?』

 

 

 いくら非常識な姉が相手だからって、ここまでする必要はあるのだろうか。さすがの私でもここまではしない。ここまでは。

 

「やってくれたな、母さんっ!!」

「いや、悪いのアキ君じゃん……」

 

 アキ君がちゃんとした生活を送っていれば、こんな事にはならなかったに違いない。

 

「楓も楓だよ! そもそも君が母さんにさらっと僕の現状を言わなければ、こうして姉さんが帰ってくることはなかったのに……!」

「…………鍵開けるわよ?」

「やめて! これ以上僕を苦しめないで!」

 

 今のアキ君、面白すぎる。少しばかり本音を出したのだが、玲さんがいるだけでこうも良い反応をしてくれるとは……たまらないわね。

 

 

 ピンポーン

 

『アキくん。聞こえないのですか? それとも姉さんが外に取り残されたままだということに気が付いていないのですか?』

 

 

 まだ自分が騙されたとは気づいていない玲さん。開ける気のないアキ君じゃなくて私に頼めば良いのに。

 

 

『仕方ありませんね。……楓さん。ドアを開けてくれませんか?』

「はいはい――モガッ」

 

 

 言われた通りドアを開けようとしたらアキ君に口を塞がれた。その手に睡眠薬を仕込んだハンカチが持たれてなくて本当に良かった。

 すぐさま口を塞ぐ手を引き剥がし、玲さんに聞こえないよう小声でアキ君に抗議する。

 

「何するのさバカ久! 私を誘拐する気!?」

「ボケるのも大概にしろバカエデ! というか何ドアを開けようとしてるのさ!」

 

 いやだって、玲さんが困った声でドアを開けてほしいって、名指しで言ってきたから……。

 

 

 ピンポーン

 

『楓さん? どうかしましたか?』

「だ、大丈夫ですー。今開けま――んぐっ」

 

 

 またアキ君に口を塞がれた。

 

「ぷは――だから何するのさアキ君! いい加減開けてあげなよ!」

「だからなんでそう普通に開けようとするかな!? 姉さんを中に入れるということは、僕の幸せな一人暮らしがなくなるってことなんだよ!?」

 

 心底どうでもいいわ。

 

 

『二人とも、どうして姉さんを家に入れてくれないのですか。何か姉さんを入れたくない理由でもあるのですか?』

 

 

 違うんです。隣のバカ野郎が口を塞いで動きを止めてくるせいで開けられないんです。

 私が恨みだけを込めた視線を隣のバカ久に向ける中、自分を中に入れてくれない理由を考え出す玲さん。まぁ、肉親という面を差し引けば、バスローブ姿の変態を中に入れる理由はないからね。

 

 

『――ああ、わかりました。つまりアキくんと楓さんはこう言いたいのですね?』

 

 

 いや、私は別にどうも言いませんが。アキ君が頑固なだけで私は開ける気満々です。

 こちらが何も言っていないというのに、何かを感じ取るように何らかの答えに辿り着く玲さん。その辺はさすが姉弟というべきか。こういうのって以心伝心とも言うのかな?

 

 

『家に入れて欲しければ、バスローブではなくメイド服を着て来い、と』

 

 

 伝心なんて欠片もしてなかった。

 

 

「これ……そろそろ開けた方が良いんじゃない?」

「だ、ダメだ……っ! これは姉さんの天然の罠だ……! 楓も軽い気持ちでこのドアを開けちゃダメだよ……!?」

 

 物凄く開けたい。バーンってインパクト重視で、鍵という呪縛から解き放つように開けたい。

 ここが正念場だ。そう言いたげに堪えるアキ君だったが、次の玲さんの言葉でその状態は崩れ去った。

 

 

『……仕方がありませんね。今からお隣さんに事情をお話して、メイド服を借りてきます』

「やめてっ! バスローブ姿でご近所様にメイド服なんか借りに行かないでっ!」

 

 

 とうとう根気負けしたアキ君が、玲さんの奇行を止めるべくドアを開けて叫んだ。というか玲さん、メイド服は間違っても一般家庭に普及されてはいませんよ?

 

「そうなのですか? でも、先月知り合った海外の方は『Fujiya-ma(フジヤーマ)Tenpo-ra(テンポーラ)、メイド服』が日本の文化だと言っていましたよ?」

 

 ソイツはきっと日本人だ。きっと美人の玲さんを前に格好つけたかったに違いない。類は友を呼ぶという言葉があるが、これに関してはまさにその通りだろう。

 

「ソイツは絶対におかしいよ姉さん! どうして『富士山』や『天ぷら』すらきちんと言えていないのにメイド服の発音だけは流暢なのさ!」

「とてもヒップホップが上手な方で、自らをA-Boyと名乗っていました」

 

 A……メイド服……もしかしてそのAは秋葉のアルファベットの頭文字?

 

「玲さん、ソイツきっと日本人ですよ。おそらく自分のあだ名である『秋葉ボーイ』をヒップホップ風に名乗っただけだと思います」

「楓の言う通りだよ姉さん! しかもそこは本来B-Boyを名乗るべきところ!」

 

 秋葉――Akiba-Boyと本来のBad-Boyの違い。これは小さいようでとてつもない大きい。ちゃんとヒップホップを嗜んでいるのか、ただのメイドオタクなのか。それがよくわかるからね。

 まぁ口頭で日本人だと言い切ってしまったが、よく考えたら日本の文化に疎いくせに間違った知識で知ったかぶっている奴の可能性も少なからずあるわねぇ。

 

「まぁ、積もる話は後にして、とりあえず上がらせてもらいますね」

「「あっ」」

 

 アキ君が止める間もなく、とうとう玄関に足を踏み入れる玲さん。脱いだ靴を揃えていると、ふと何かに気づいたかのように手を打ち出した。

 

「なるほど、そういうことでしたか。アキくん、部屋を片付ける為に姉さんを締め出そうとしていましたね? 楓さんが開けてくれなかったのも、アキくんが妨害していたからでしょう?」

「う……」

 

 玲さんの指摘を受けて、図星のアキ君。正直なところ、片付けたとしてもアキ君キラーである玲さん相手じゃ何の意味も成さないんだよなぁ。実際、アキ君が玲さんを出し抜けたことって一度もないし。

 

「姉さんだってもう良い大人なんですから」

 

 呆れたような表情で、責めるような視線をアキ君に向ける玲さん。アキ君が気まずそうな顔になるが、それを気にしていないかのように、

 

「アキくんが2000冊以上のHな本を所持していたとしても、全然驚きませんよ」

 

 などと言い出した。待って、それはさすがの私でも驚く。

 

「そんな本を2000冊も買うお金はどこにもないよ……」

「つまり一冊はあるというわけですね?」

「ほほうっ!?」

 

 今度は鋭い視線を向ける玲さんに痛いところを指摘され、顔が酷く変形しているように見えるほど動揺するアキ君。どっかの漫画で見たような顔だね。

 

「ふむ……そういえば若い男性の臓器は高く売れるそうですね」

「何の前触れもなく物騒なこと言うのやめません?」

 

 どこで知ったんだそんな情報。

 

 自分の臓器はエロ本の為に売られるのか、と嘆き、自分の弟がどれだけスケベなのかと問い始めるアキ君。今にも怒りそうな顔をしているのが何とも可愛らしいわね。カツラを付けてほしいものだ。

 

「そうですね……学校の宿泊学習のような機会があれば、恥も外聞もなく全力で女の子のお風呂を覗きにかかる程度には性に関心のある弟だと思っています」

 

 この人エスパーだったりする?

 

「あはは。何を言っているのさ。そんなことするわけないじゃないか。ねっ、楓?」

「そ…………そうね。さすがのアキ君でもそこまではしないと思いますよ」

 

 しちゃってるんだよなぁ。しかも玲さんが例として言った内容を、完璧なレベルで。

 アキ君が助けてほしそうな視線を向けてきたから思わず嘘をついてしまったけど、正直なところ心が凄く痛い。これでも一応被害者側だし。

 アキ君が冷や汗を流し、私が心を痛めて胸を押さえる仕草をしている間に、玲さんはリビングへと足を踏み入れていく。リビングは昨日、雄二がゲームをしに来ていたこともあって綺麗に片付いてあるから大丈夫だろう。

 

「あら……? アキくんにしては凄く綺麗にしてありますね」

 

 その辺りは私の働きによるものだ。最初の間はなかなか片付けないものだから、痺れを切らした私がアキ君のエロ本を人質にしてギリギリのギリギリまで粘り、それでも聞いてくれなかったからその本を躊躇いながらも三冊ほど燃やしたんだよね。それ以降、彼はきちんと片付けを行うようになったわ。

 リビングを見回した玲さんは抱えていた旅行鞄を下ろすと、流れるような動きでタイトル画面で中断されていたゲーム機の電源を切り、ゆっくりとソファーに腰を下ろした。

 

「今流れるような動作でゲームの電源を切ったよね? ……まぁいいけどさ」

 

 そりゃそうだ。あそこでセーブをしていたとしても、データに残るのは私と雄二に負けたという記録だけ。つまりアキ君にとっては何の未練もない状態だったわけだ。

 本来なら非道であるその行為をあっさりと流したアキ君に、少し驚くような表情を見せる玲さんだったが、一息つくとある事を切り出した。

 

「アキくん。姉さんはアキくんが楓さんのように一人暮らしをする時に、二つの条件を出しましたよね? まさかそれを、忘れた、なんて言うつもりじゃないですよね?」

 

 二つの条件……確か①『ゲームは一日三十分』、②『不純異性交遊の全面禁止』だったはず。お互いに一人暮らしを始めた当初、アキ君が繰り返すように呟いていたのを覚えている。

 一つ目はともかく、二つ目に関してはアキ君にとって忘れる=死ぬに等しい。何せ玲さん、アキ君の異性交遊には昔から厳しかったからね。ずっと一緒だった私ですら、少し許容されているに過ぎないのだから。

 

「すっかり忘れてた――って言ったら、姉さんは怒る?」

 

 アキ君終了のお知らせ。

 

「いいえ、怒りませんよ」

 

 そう思っていた時期が、私にもありました……。

 

「……怒らないんですか?」

「はい。怒りません」

 

 驚きのあまり恐る恐る問い掛けてみるも、怒気の欠片もなく穏やかに答える玲さん。これは意外過ぎる。もしかして少しは許容する気になったのかな?

 私が少しばかり感心していると、アキ君が安堵の表情を浮かべながら、頭を掻きながら呑気そうに口を開く。

 

「良かった~。実は僕、約束のことなんてすっかり忘――」

「ですが、怒らない代わりにチュウをします」

「――れるわけないよねっ! ちゃんと覚えてます!」

 

 許容なんてなかった。むしろ自分の身を差し出してまでアキ君の不純異性交遊を阻止しようとするなんて、本気すぎるぞこの人。

 それも唇同士のソフトキスではなく、お互いの舌を絡み合わせるディープキスの方をする気満々の玲さん。さすがに実の姉に唇を汚されるのはアキ君でも嫌…………のはず。

 

 そんな私の予想通り『何する気!?』と何度も叫び、自分は男だからお嫁には行ったりはしないと述べるアキ君。彼は外国で認められている同性結婚を知らないのだろうか?

 しかもお嫁に行けなくなるのは玲さんの方で、汚されたアキ君は玲さんに罪の意識を背負いながら今後の人生を送っていく――ということになるらしい。

 

「これ以上にないほど陰湿なやり口ですね……」

「待つんだ楓。どうして君はカメラの準備をしているのかな?」

 

 実の姉と弟がディープキスをしている瞬間を収めるためですが何か?

 

 きちんと覚えていると言い張るアキ君だったが、思い出して下さいという玲さんの言葉で考え込んでしまった。どうやら覚えてるってのは嘘っぽいね。でなきゃ考え込んだりはしない。

 

「アキくん……。目を、閉じて……?」

 

 くるか? 決定的瞬間きちゃうか?

 

「覚えてる! 覚えてるから! だから妙な雰囲気を作りながらこっちに近付いてこないで! それとバカエデ! キサマはそのカメラをこっちに渡しなさい!」

 

 冗談を言わず、やると言ったことは何の躊躇いもなく実行に移す玲さんを前に、酷く狼狽えるアキ君。この力関係は全く変わっていないわね。

 

 

 

 さぁ、腹を括ってアキ君。諦めて私に禁断の果実という、最上級の刺激を頂戴な……!

 

 

 

 

 




 一ヶ月ぶりの投稿。良い区切りどころが見つからずちょいと焦った。

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