以下の英文を正しい日本語に訳しなさい。
『Die Musik gefaällt Leuten und bereichert auch den Verstand.』
島田美波の答え
『音楽は人々を楽しませる上に心を豊かにします。
※これは英語ではなくてドイツ語だと思います』
坂本雄二の答え
『出題が英語ではなくドイツ語になっている為に解答不可』
水瀬楓の答え
『音楽は人々を楽しませる上に心を豊かにします。
※文章がドイツ語で構成されています。英語だと――
The music pleases people and does a heart wealthily.
――になるはずです。なのでドイツ語を知らないと解答できません』
教師のコメント
申し訳ありません。先生のミスで違う問題が混入してしまいました。日本語訳は島田さんの解答で正解です。ただ、今回はこちらの手落ちなので無記入の人も含めて全員正解にしたいと――
土屋康太の答え
『 ←あぶりだし』
吉井明久の答え
『 ←バカには見えない答え』
教師のコメント
――思っていたのですが、君たち二人だけは例外として無得点にしておきます。
「アキくん……目を閉じて……?」
バカ馴染みと彼の姉による恋愛模様。私は今、その決定的瞬間に立ち会おうとしている。スクープというものは隠れているように見えて、実はそこら辺にゴロゴロと転がっているものだ。
だから私はそういう場面に遭遇することを想定して、常にカメラを持ち歩いている。間違ってもムッツリーニのように、女子のやや卑猥な写真を撮ることが目的ではない。
マイカメラを構えながら、空いている左手で『早くしろ』という意味合いを込め、上へ上げるようにクイクイと動かす。手招きの逆バージョンだ。
私の方をチラッと見て今にもこっちを殴りそうな顔になるも、目の前に実の姉である玲さんが迫っていることを思い出し、物凄い勢いで口を開く。
「覚えてる! 覚えてます! 姉さんとの約束は、①『ゲームは一日三十分』、②『不純異性交遊の全面禁止』だった! うん! やっぱり覚えてるよ!」
チッ、もう少しだったのに思い出したか。
「……残念です」
あれ? 違った? 私の記憶だと今ので間違いないと思いますけど……。
「正解だとチュウできません……」
「そこ残念がるところ!?」
「あぁっ!? そういやそうだった……!」
「君は君で露骨にガッカリするのやめなさい!」
そう言ってサラッと私からカメラを取り上げ、ゴミ箱へ投げ捨てようとするアキ君。いやいや待て待て。
すぐさまアキ君の右手首を掴み、圧し折る勢いでこっちに曲げる。彼の手首がどうなろうと知ったことではないが、カメラだけは返してもらわないと。
「私のカメラを捨てようとするんじゃない! このバカ久!」
「そうはいかない! このカメラはこの世から消えるべきなんだ!」
コイツにとって私のカメラは何なんだ。
「カメラにだってバッテリーがあるのよ!?」
「まるで僕が今から誰かを殺そうとしているような言い方だけど、バッテリーと言った時点でその言い分には説得力がないことに気づくんだ!」
一体何をどう捉えたのか、頑固なにカメラを離そうとしないアキ君。お願い返して。私が自腹で買った初めてのカメラを、返してよ……!
私がアキ君の手からカメラを取り戻そうと必死になっていると、何食わぬ顔で元の位置に戻っていた玲さんが、ポケットから小さな手帳を取り出した。
「これは……減点の対象になりますね」
「「減点? 何それ?」」
アキ君と久しぶりに台詞が被ったがそんなことはどうでもいい。減点ってどういうことだ。
「姉さんとの約束、覚えてはいたのに実践はできていないようですからね」
「いや待って姉さん。減点って何?」
今の減点という呟きと、アキ君が一人暮らしのために交わした玲さんとの約束。なるほど、アキ君の現状を調べに来たのか。
玲さんの説明によると、これからアキ君の一人暮らし続行が可能かそうでないかを決定するために、点数形式で評価するらしい。点数評価の主な対象は生活態度、勉学の結果。
そして最終的に点数が一定値に満たなかった場合、アキ君の一人暮らしが終了するとのこと。もちろん玲さんの独断ではなく、おばさんの判断が主となる。
アキ君がその説明に驚愕している間にも、さっそく20点の減点を食らうアキ君。減点した玲さんによると、期末テストの点数が明確になった時点での総計が、0点以下であった場合がアウトのようだ。
要は総計をプラスの値にしておけばいいのだ。そんで点数をプラスにするには、生活や学習成績などを良好なものにすればいいみたい。
「……えっ? 規則正しい生活と良好な学習成績?」
ダメじゃん。アキ君の場合、前者どころかどっちもアウトでしかない。もうチェックメイトじゃん。
「アキ君……。君のことは、三日だけ忘れないよ……!」
「諦めないで! 諦めないでよ楓!」
アキ君の肩に右手を置き、今にも泣きそうな声(棒)で別れの言葉を告げる。当のアキ君は両手で私の肩を掴み、今にも泣きそうな顔で私の体を揺さぶっている。痛い。これ首が痛い。
このままだと玲さんの気にも障りそうなので、彼の頭に軽くチョップを入れ、力ずくで引き剥がす。危なかった。もう少しで汚いものをゲロゲロと吐いてしまうところだった。
まぁ、そんな感じで絶望的だと思っていたのだが、玲さんが言うには『今度の期末試験の成績-振り分け試験の成績=余った点数』を評価の対象として考慮するとのこと。つまりアキ君が次の期末試験で振り分け試験以上の点数を取れば、さっきの減点を帳消しどころかお釣りが付いてくるのだ。
「さて、アキくん。もう一つの約束の方はどうですか? きちんと守れていますか?」
「えっと確か……不純異性交遊の全面禁止、ってやつだよね?」
玲さんが言うもう一つの約束。不純異性交遊の全面禁止。もちろんアキ君は守れていない。というのも、どこからがアウトなのかがわからないのだ。いやまぁ、それでもアウトなのはわかるんだけどね。
「ええ。情けない上に生活力もなく、頭も悪くてブサイクなアキくんの相手をしてくれる女の人は姉さんや母さん、そして楓さんしかいない――とは思いますが」
当たり前のように告げられる悪口の嵐。アキ君でなきゃ泣いていたに違いない。
念入りに同じことをもう一度問い掛ける玲さんに対し、アキ君は気になったであろうその基準をそのまま口にした。
「えっと……不純異性交遊って、何をするとどのくらいの減点になるの?」
「異性と手を繋いだ場合、減点100点です。相手が楓さんだった場合はその10倍になります」
バレたら道連れにされる。
「「…………」」
「二人ともどうしました? 顔色が悪いですよ?」
「あはは、き、気のせいだよ」
「そ、そうそう、気のせいですよ」
うぉーい待て待て。
『ここで台詞被っちゃダメでしょうがこのバカ久! 怪しまれたらどうするのよ!』
『それはこっちの台詞だよバカエデ! 怪しまれたらどうするのさ!』
「怪しいですね。二人とも、何か隠し事をしていませんか?」
一瞬のアイコンタクトでやり取りをする私とアキ君。台詞は被っちゃダメと言っているそばからこれである。こんなの怪しまれて当然だわ。
次の言葉は物凄く慎重に選ばないと。そう思いながら考え込んだところで、アキ君がさり気なく爆弾とも言うべき自白をやってのけた。
「もちろん隠し事なんてしてないし、キスなんてしたこともないよ!」
誰もキスとは一言も言ってない。
「そうですか。何かあったようですね。詳しく、隠さず話して下さい」
「だから何もないってば!」
じゃあキスなんて言うなよバカ久。さらっと自白していることに気づいていない辺りはさすがアキ君である。
私の方には何の問い掛けも来ないので安心していると、玲さんが拳を握り込んだままこちらへ振り向いた。えっ、何? 私殴られるの?
「楓さんも、詳しく話してくれないと……アキくんに酷いことを、しますよ?」
「あっどうぞご自由に」
なんだ、殴られるのはアキ君だったか。警戒して損した。
「どうぞご自由に、じゃないよバカエデ! そこは僕を助けるところだよね!?」
「いや、私自らアキ君を殴るのはともかく、玲さんが手を下すなら別に良いかなって」
「良くない! 何も良くないから! このままいけば、僕が姉さんに何をされるかわからないんだよ!?」
物凄くどうでも良いと感じる言い分だが、とりあえず助けてほしい、ってことだけは伝わった。仕方がないから体罰が少しでも軽くなるよう頑張ってみるか。
「玲さん。殴るのはダメだと思います」
「まだアキくんを殴ると決まったわけではないのですが……」
「なので関節技にしてあげてください。弟の肌を存分に味わえますよ?」
「やめて! それならまだ殴られる方がマシだよ! ……ま、まぁ、やれるならの話だけどね」
ガッ(脚払いの音)
ドスッ(玲さんが倒れたアキ君のマウントを奪う音)
ゴッ ゴッ ゴッ ゴッ(玲さんがひたすらアキ君を殴りつける音)
「やってみました」
「酷いっ! 何もマウントを奪うことはないじゃないか!」
そう、見た目こそ美人な玲さんだが、中身はこういう人である。ブラコンが過ぎるあまり、その愛情を拳に乗っけて放つような人なのだ。
……まぁ、ちゃんと良いところも辛うじてあるけどね。例えばこの人、自分にも他人にも厳しく、できないことはできるようになるまで努力し、そうして結果を出さなければ意味がないというスタンスを持っている。この点は私にはとてもじゃないが真似は出来ないので、凄く良い評価ができる。
「いいですか、アキくん。以前から言っていることですが、貴方は決して異性の目に魅力的に映ることはありません。女である姉さんが言うのだから間違いありません」
そんなことはないんだよなぁ。現在、アキ君に惚れている女子が二人もいる。昔馴染みの姫路瑞希と、帰国子女の島田美波だ。なので玲さんと同じ女である私から見れば、アキ君が全くモテないということは決してない。というか小学校時代なんて人気者だったからね。
モテないアキ君が悪女に騙されて悲しい思いをしないよう、不純異性交遊を禁止したのだと言い張る玲さんに対し、当のアキ君は青春の幅を制限されていることに気づかず、素直に感謝していた。
「でも姉さん。さすがに心配しすぎじゃないかな。手を繋ぐのもダメなんて、それじゃフォークダンスに参加することもできないよ」
なんでフォークダンスなの?
「気持ちはわかります。アキくんももう十六歳の立派な男の子ですし、色々な感情や若い肉体を持て余しているはずですし」
「誰もそこまで言ってないけど」
「それを言うなら性欲を持て余している、だけで充分だと思います」
色々な感情や若い肉体なんて、わざわざ遠回りに言う必要がどこにあるというんだ。どうせ不純異性交遊は禁止なんだから、ストレートに言っても何の問題もないわよ。
私の発言で少し考える素振りを見せた玲さんだが、すぐに納得した顔になって続ける。
「楓さんの言う通り、アキくんは性欲を持て余しているに違いありません。なので、姉さんとしても最大限の譲歩をするつもりです」
「じょ、譲歩?」
譲歩か。一体何を……まさか。
「…………玲さん」
「はい、なんでしょう」
「まさかとは思いますが――異性ではなく、同性との不純交遊なら認めるとか言うんじゃないでしょうね?」
「その通りです。アキくんと違って楓さんは賢いですね」
アキ君が不憫すぎる。そんなの久保と付き合うしかないじゃないか。
「待って何があったの!? 海外生活で姉さんの価値観に、どんな変化がもたらされたの!?」
「まぁまぁアキ君。ここは風呂にでも入って落ち着きなよ」
これ以上はアキ君の頭が持たない。一刻も早く玲さんの圧から解放し、熱いシャワーでも浴びさせないと。
何か言おうとしているアキ君の背中を強引に押し、脱衣所に無理やり押し込む。これで少しは負担が軽くなるだろう。多分。
「さーて玲さん。これからどうします?」
アキ君がいなくなった今、リビングにいるのは私と玲さんだけだ。
私のやったことに抗議でもしてくるのかと思っていたが、玲さんはソファーから立ち上がると、アキ君の部屋を一瞥して一言。
「アキ君の着替えを取りに行きましょう」
「………………私も行きます」
間違ってもこの人を一人にしてはいけない。何故ならここはアキ君の家だから。
「あの、玲さん」
「なんでしょう?」
「着替えを探すのにどうしてベッドの下を探る必要があるんですかね……?」
アキ君の部屋に来たは良いが、やはりと言うべきか玲さんは真っ先にアキ君のベッドの下を捜索し始めた。大方、彼のエロ本を全て探し出すつもりだろう。
でもまぁ、せっかくだし私も捜索してみるか。アキ君の着替えなんて裸エプロンで間に合うし。
「えーっと…………パッとしないなぁ」
まず手始めにアキ君の学生鞄をひっくり返し、中身を全て出したはいいが、これといったものが一つもない。筆記用具と教科書数冊、携帯ゲーム機や漫画などの遊び道具しかない。では単行本やゲームソフトがある棚はどうか。
「あっ、この漫画は私も持ってるな……」
そう言って私は棚にあった一冊の本を手に取り、パラパラとページを捲っていく。この漫画、私とアキ君が中学に上がったときに発売されたものだ。懐かしいなぁ。ちなみにジャンルは学園ラブコメ。主人公がヒロインとラッキースケベと夫婦漫才を繰り広げ、最終的に人生の墓場にゴールするというお話だったはず。
ちなみにこの作品のヒロイン、ポニーテールかつ巨乳である。エロ本の時もそうだったけど、コイツはホントに好みのタイプがわかりやすいわねぇ。
その後も捜索は続けられたが、私の方は何の成果も得られなかった。強いて言うなら瑞希と島田さんの写真が学生鞄から出てきたくらいだ。何枚か同じのあるし、二枚ずつもらっておこう。
「楓さん。物色もそこまでにして、早くアキくんに着替えを渡しに行きましょう」
「わかりま――ま、待ってください玲さん。どうしてパンツがないんですか」
アキ君に着替えを渡す気満々な玲さんが抱える物を見て、思わず吹きそうになった。何故なら――
→ナース服
→エプロン
→野球帽
――そこにトランクスがなかったからだ。
「せめて下着くらいは用意しましょうよ」
「それもそうですね。ではこれにしましょう」
「どっから取り出したんですかそれ」
私の言い分に納得はしてくれた玲さんだが、彼女がドヤ顔で取り出したのは女性用のハイレグだった。まだTバックじゃないだけマシだが、こんなの私でも穿かないぞ……。
呆れ返る私をよそに、一人笑顔で脱衣所へと向かう玲さん。もちろん、私もついていく。さっきも言ったがこの人を一人にしてはいけない。
「アキくん。着替えはここに置いておきますからね」
『ありがとう、姉さん』
どうやらアキ君の反応から察するに、タイミングよく風呂から上がろうとしていたようだ。そんで着替えがなくて困っていた、という感じか。
玲さんは脱衣所にさっき持っていたもの全てを置くと、どこか誇らしげに戻ってきた。あれ置いてそんなに胸張れるなんて驚きである。
するとその直後、玲さんが開かれようとしていた脱衣所の扉を強引に閉めた。なんて反応の早さだ。
「こら、アキくん。そんな格好でうろうろしようとしないで、姉さんの用意した服を着てから出てきなさい」
『いや、着ろって言われても女物か帽子しかないんだけど。ていうかバカエデ、どうして姉さんを止めなかったんだよ!?』
「私だって精一杯止めたわよ。ていうか、止めてなかったらそこに置いてある着替えがエプロンだけになっていたんだから、少しは私に感謝しなさい」
『誰が感謝するかバカエデ! それに姉さんは実の弟を裸エプロンに着替えさせるほど非常識な人じゃない!』
「ありがとうございます、アキくん」
マズイ。このままだとエプロンが私の選択肢だってバレてしまう。ていうか玲さん、今ので喜ぶってどんだけアキくんが好きなんですか。
アキ君に怒ることなく、一人嬉しそうにする玲さんをよそに、私は咄嗟に考えた言い分をアキ君にぶつけていく。
「だから止めたって言ってるでしょうが。ハイレグがあるだけマシだと思いなさいよ」
『せめて男物のブリーフにしてよ! 男の僕がこんなの着たらただの変態じゃないか!』
「えっ」
アキ君って変態じゃなかったの? それとトランクスじゃなくてブリーフが良いの?
「アキ君って変態だよね? それも女装趣味の尻フェチと来ている。こんなの変態でしかないよね?」
『全部違う! 断じて違う! 僕に女装趣味なんてないし、だからといって尻フェチでもないからね!?』
強化合宿で女子の私にケツを見せろと迫り、録音機によるものとは言えあれだけ『お尻が好き』って連呼してたくせに、まだ違うと言い張るのかコイツは。
私とアキ君がこんな感じで、いつものように下らない口論を繰り広げ、玲さんは今度こそアキ君の着替えを取りに行くために、再び彼の部屋へと向かうのだった。
……こんなんでこの先大丈夫だろうか?
はい、ひっさびさの更新です。ぐらんぶるのOPを聞いてたら異様に執筆意欲が湧いてきたんですよね。
いやーバカテスと言い、ぐらんぶると言い、ああいうバカやってる作品は良いよねぇ。