バカと私と召喚獣   作:勇忌煉

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第四問

『吉井。保健室に行ってきなさい』

 

 七回。この台詞が午前の授業四つでアキ君に言い放たれた回数である。どうやら教師陣にはアキ君が真面目にノートを取るという、常識的に考えて普通と言える光景は異常なものだったようだ。

 

「まったく、皆失礼だなぁ……」

「いつもまともに授業を受けてないからよ」

 

 とはいえ、確かにあのアキ君がここまでちゃんと授業を受けている姿はかなりレアだ。一生に一度か三度くらいしか見られないだろう。

 先公――あっいや、教師方の態度を遺憾に思っていそうな顔で、授業道具をしまい、昼休みの用意をするアキ君。するとさっきからアキ君の様子を窺っていた、島田さんがやってきた。前回の一件で崩壊しそうな関係の二人だったが、今じゃこの通り、元通りだ。

 

「べ、別になんでもないよ。ちょっと真面目に勉強に取り組んでみようと思っただけで」

「アキ。おでこ出しなさい。とりあえず熱を測るから」

 

 心底心配そうに声をかけ、アキ君の返答を聞くなり彼の頭がどうかしている、とでも言いたそうな発言をする島田さん。一瞬でその落差を出せるなんて驚きである。

 だがしかし、今彼女が行おうとしていることはアキ君にとって寿命を縮めること(玲さんに今の場面を知られてしまい、減点食らって一人暮らしが遠ざかる)に等しかった。

 

「って、これはダメだっ!」

「きゃっ」

 

 アキ君がいきなり飛び退いたせいで、小さな悲鳴を上げる島田さん。今の悲鳴をもっと聞きたいと思った私は絶対におかしくない。だって可愛かったんだもん。……イジメたくなるほどには。

 多分自分の妹に接するような感覚だったであろう島田さんは軽く怒り、思わず『色々と事情がある』と口を滑らせてしまうアキ君。コイツにライアーゲームは絶対にできないわね。

 

「事情? 何よそれ?」

 

 そんなアキ君の事情を知らない島田さんは、首を突っ込みたいのか疑わし気な視線をアキ君に送り始めた。やめてあげて、アキ君の精神がガリガリって削れちゃう。

 どうしても玲さんの存在を知られたくないのか、アキ君は話を逸らそうと用意していた昼食を鞄から取り出し、卓袱台の上に広げた瞬間、

 

「え!? ど、どうしてアキがお弁当を持っているの!?」

「一体どうしたんですか明久君!?」

 

 島田さんといつの間にか彼女の隣にいた瑞希が、ほぼ同時に驚きの声を上げた。一体この二人は何を見てきたのだろうか。今年の春から今に至るまで、アキ君は私が作ったお弁当を持ってきているというのに。

 

「いや、そこまで驚く必要はないんじゃ……」

「あのね二人とも。こんなバカでも一応人間なのよ? 栄養くらい摂らないと死んじゃうでしょうが」

「楓の言う通りだよ二人とも。……そろそろ当たり前のように僕をバカにするの止めてくれない?」

 

 お断りだね。

 

「そ、それはそうでしょうけど……」

「なんていうか、その……いつもと違うというか……」

 

 いつもと(多分雰囲気が)違う理由は至ってシンプル。アキ君自身が今のまま一人暮らしを続けられるよう、玲さんの目をごまかすためである。普通ならそのまま説明すればいいのだが、残念なことにアキ君は姉の存在を知られたくないため、そのまま説明することができない。

 どうしたものかと考えていそうなアキ君をよそに、島田さんが目を細めながら問い掛ける。

 

「まさか、誰かに作ってもらった……とか?」

「い、一応、楓に作ってもらったんだけど……」

 

 二人の反応が凄く気になるようで、ビクビクしながら答えるアキ君。今の彼ほど女性のカツラが似合う男の子はいないだろう。

 

「そうでしたか。それなら大丈夫ですね」

「そうね。アキのことだから『自分で作った』とか見え透いた嘘をつくかと思ってたけど、心配して損したわ」

 

 物凄く酷い言われようである。どうもアキ君に料理はできないと思っているらしい。いやまぁ、一応できるんだけど彼の生活的には効率が良くないからね。いつも通り私がお弁当を作る方が効率は良いのだ。

 私と同じことを思っていたのか、何故かホッと胸を撫で下ろす二人を見て少し困惑した表情を浮かべるアキ君。島田さんが今言ったように、ここで『自分で作った』とか言っていたら『嘘だ』と一蹴されていただろう。

 

「だけど、もしもこのお弁当を作ったのが水瀬さんじゃなかったら……」

「土屋君か坂本君のどちらかになっていたのかもしれませんね……」

 

 何かいきなり話の方向がおかしくなった件について。

 

「えーっと……二人の想像に任せるよ」

「任せない方が良いと思うけどなぁ」

 

 絶対BL方面に走ると思うから。

 

「それって──もうアキはそこまで汚れちゃったてこと!?」

「し、信じたくないですっ!」

「二人とも何を想像したの!? どうして顔を真っ赤にしながら泣いてるの!?」

 

 ほら言わんこっちゃない。アキ君が真実を聞いたら二度と立ち上がれなくなるに違いないわ。

 それにしてもアキ君と雄二が男女の関係……うえぇ、気持ち悪い。BLもイケるっちゃイケるけどバカ同士のそれはダメだ。せめてイケメン同士であってほしいわね。……ごめん嘘。BLだけは男の娘でなきゃ絶対に無理。

 盛大な勘違いをしている瑞希と島田さんがアキ君がさっき口に出したメール(雄二宛て)の内容について話していると、さらに勘違いしている奴がアキ君の背後に現れた。

 

「……やっぱり、雄二の浮気相手は吉井だった」

 

 霧島翔子。綺麗な日本人形のような外見をした学年主席にして、雄二の婚約者(今は嘘)である。

 ついさっき来たらしいが、それにしてはタイミングが良すぎる気がしないでもない。まぁ、今回は完全に偶然だろう。そう思いたい。

 瑞希が用件を訊ねると、翔子は僅かに顔を歪めてそれに答える。

 

「……雄二にズボンを返すつもりだった」

 

 そう答える彼女から、わかりやすく殺気が伝わってくる。言い方が過去形になっている辺り、今の話がなければ本当に返すつもりだったのだろう。

 私が翔子の腕に掛かっている男子用制服のズボンに視線を向けていると、そのズボンの持ち主である雄二が平和ボケしまくりの顔でこっちにやって来た。……本当にボケてるのかコイツは。

 

「……浮気には、お仕置きが必要」

 

 背筋が凍るほどの冷たい囁き声。逃げて雄二。アキ君も目でそう訴えているから。

 しかし残念ながら平和ボケしている雄二が私達の静かで確かな警告に気づくことはなく、それどころか食虫植物に飛び込むハエのように翔子の前へ立ってしまった。

 

「──ん? 何故ズボンを離さないんだ翔子?」

「……雄二」

「なんだ?」

「……私は雄二に酷いことをしたくない」

 

 いやもう現在進行形で酷いことしてるから。雄二からズボンを取り上げ、下半身クールビズになった彼を事実上の公開処刑にしている時点で酷いから。

 翔子の言っていることがよくわからない雄二は、首を傾げながらも良い心がけだと一人感心し出した。ここまで来るとボケてるなんてレベルじゃないのかもしれない。翔子は静かに警告を促すと、

 

「……大人しく、私にトランクスを頂戴」

 

 まさかの追加注文を繰り出した。

 

 

 ダッ(雄二、猛ダッシュ)

 

 

 そして雄二は逃げ出した。

 

 普段のアキ君ほどではないが、今のやり取りは完全にバカの極みだろう。少しは自分の身を案じるべきである。

 小さくため息をつきながらそう思っていると、今度はアキ君が瑞希に絡まれていた。どうも私の弁当に関する話っぽいね。

 

「それなら、食べ比べてみて下さい」

「食べ比べ?」

 

 瑞希が食べ比べって言うと基本的に嫌な予感しかしない。

 

「はい、実は──昨日作った特製クッキーが」

 

 

 ダッ(アキ君、猛ダッシュ)

 

 

 アキ君は逃げ出した。

 

「ああっ! どこ行くのよアキ! 坂本との関係はどうなってるのよ!」

 

 島田さんが何を言っているのかこれっぽっちも理解したくない。

 私が内心ドン引きしていると、瑞希が仕方がないといった感じでこっちに近づいてきた。どうしてだろう、嫌な予感が強くなった気がする。

 

「あの、楓ちゃんも食べてみませんか?」

「い、いきなり何? 私には自分の弁当が──」

「大丈夫ですっ! 今回のクッキーは楓ちゃんの口にも合うように頑張って作りましたので!」

 

 

 ダッ(私、猛ダッシュ)

 

 

 三十六計逃げるに如かず。

 

『水瀬さんまでどうしたのよ一体!?』

『か、楓ちゃん!? どうして明久君のように走り出すんですか! 一口でいいから食べてみて下さいっ!』

『……三人で逃避行なんて、絶対に許さない』

 

 私が逃げ出すと同時に、背後から足音がついてくる。いやいやおかしいでしょこの展開。なんで私にまで三人の殺気が向けられているのよ。

 脇目も振らず猛ダッシュで逃げながら、前で並走しているアキ君と雄二に追いつく。なんか言い争っているようだが、この際だ。私も言いたいことを全部言ってやる。

 

「このバカコンビ! 瑞希と翔子に何を吹き込んだのよ!? なんで私まで追われなきゃならないのよ!」

「俺が知るわけねぇだろうが! お前こそアイツらに変なこと吹き込んでねぇか!? でなきゃ俺がいきなり襲われるなんてありえねぇ!」

「僕が知ってるわけないでしょ! というか僕よりも楓の方が姫路さんや美波に何か吹き込んでる気がしてならないんだけど!?」

 

 そうか、そんなに私のせいにしたいかお前ら。事が終わったらぶん殴ってやる。

 

「はぁ!? 君達の日頃の行いが最悪なだけでしょ! 少なくとも私はまだ、二人に何も吹き込んではいないから!」

「その言葉そのまま返してやる! 俺はともかく、お前と明久はどう考えてもロクな生活送ってねぇだろ!」

「こんなバカエデと一緒にしないでくれる!? これでも僕は最近、ちゃんとしたご飯を食べているんだから!」

「お前と一緒にするなバカ久! ちゃんとしたご飯を効率よく食べられているのは誰のおかげだと思ってるのさ!?」

 

 罵り合いながらバカコンビと並走する。自慢ではないが、日々体を鍛えている私は人並み以上に足が速い。そんな私と当たり前のように並走しているアキ君と雄二は何気に凄いのかもしれない。認めたくないけど。

 まぁ、それはそうと今は逃げなきゃ。いくら女子三人が相手で、しかもそのうちの一人が病弱だからって油断してはいけない。そういう慢心は敗北に繋がるから──

 

 

「またお前らか。吉井、坂本、水瀬。今度は何の騒ぎだ」

 

 

「「げっ! 鉄人!?」」

「に、西鉄先生!?」

「西村先生と呼べ」

 

 慢心なんてしてなかったのに、前方から筋骨隆々の西村教諭こと、鉄人という名のピンチがやって来た。慢心なんてしてなかったのに!

 

「「「…………」」」

 

 一瞬、前髪越しにアキ君と雄二と目が合う。その目は間違いなく、今の私と同じことを考えている目だった。

 

(((コイツらを鉄人の生け贄にすれば、少しは時間を稼げるか……?)))

 

 これは物凄く魅力的な案だ。何故ならバカコンビという重荷を捨てられるし、鉄人と乙女三人の気を私から逸らすこともできるからだ。……よし。逃げ道もあるし、やってみるか──

 

「仕方ねぇ! ここは協力するぞお前ら!(サッ)」

「オーケー! 今は命を優先しよう!(ガシッ)」

「そう思うなら放してアキ君! 言ってることとやってることが一致してないから! 雄二もサラッと逃げ道塞いでんじゃないわよっ!」

 

 おかしい! おかしいよこの状況! どうして協力し合うのに私を捕まえる必要があるのさ!? しかもご丁寧に私だけの退路まで断って!

 

「水臭いよ楓。ここまで来たら一蓮托生じゃないか!」

「そうだぞ水瀬。ここまで来たら死なばもろともじゃねぇか!」

 

 君達にとって、私が敵なのか味方なのかはっきりして欲しい。

 

 

「──起動(アウェイクン)!」

「──試獣召喚(サ  モ  ン)!」

 

 

 私が一人逃げようとジタバタしている間に、雄二が白金の腕輪で召喚フィールドを作り出し、そこにアキ君が自分の召喚獣を喚び出す。

 そして立ち塞がる鉄人に攻撃を加えようとするも、その鉄人が消え去っていた。だがこの場合、鉄人が消滅したわけじゃない。そもそも奴は辛うじて人間だ。そんな芸当はできない。となると──

 

「アキ君危ないっ!」

「ボケッとするな明久!」

「へ? ──おぉっとぉ!?」

 

 急いでアキ君の前に立ち、一瞬で彼に肉薄した鉄人の拳を、両手で流すように左の方へと逸らす。なんつーパンチ……あんなのまともに食らったら顔面が砕けちゃうわ……。

 

「貴様ら……何の騒ぎかは知らんが、よりによって召喚システムを悪用するとは……!」

「誤解です西村鉄人! 私達はただ、物理的にも社会的にも死にたくないだけなんですっ!」

 

 私の言い分に同調し、そうだそうだと言わんばかりに後ろで頷きまくるアキ君と雄二。

 

「それに私は召喚システムを使っていません! それに関してはこの二人だけを指導してください!」

「「この裏切り者ぉーっ!!」」

 

 そして私は保身のため、後ろのアキ君と雄二を見限るため、真実だけを告げた。これならさすがの鉄人でも怒りを収めてくれるはず。

 

「だから西村先生と呼べ! 全く、あれほど試召戦争以外には使うなと指導したのに……!」

 

 あ、ダメだコレ。怒りが全然収まっていない。召喚システムを自衛のために使うのがそんなにイケないことだったのだろうか?

 私を囮にして逃げ出さないよう、アキ君と雄二の手首を掴む。これで私が見捨てられることはないわね。抗議の視線も全然気にならないし。

 

 

『待ちなさいアキっ! 瑞希のクッキーと水瀬さんの弁当を食べさせてあげるから、本当のことを聞かせなさい!』

『……雄二。抵抗を続けるなら、Yシャツも没収する』

 

 

 後方から乙女(刺客)の気配。ていうか今の言い分を聞く限り、やっぱり私は関係ないじゃないか! どうして巻き込まれなきゃならないのよ!

 

「──その腐った性根、叩き直してくれる!」

「お前らっ!」

「わかってる!」

「わかりたくないけど……わかりたくないのに……!」

 

 鉄人が攻撃を外して体勢を崩しているうちに、全速力でその場を離脱する。私の必死の説得が失敗に終わった以上、私達にできるのは逃げることだけだ。

 前方は鉄人に、後方は乙女達に塞がれているけど、幸いにも横手に誰もいない階段がある。そこに道がある限り、親からもらった足を止めるわけにはいかないっ!

 

 私達は三人同時に、少し間隔を空けて階段を下り出した。なんで雄二が先頭を走っているのよ……! これじゃ一人で逃げられないじゃない……!

 

「よしお前ら、階段を下り切ったら二手に分かれるぞ! 俺が先行して囮になるから、明久と水瀬は柱の陰に隠れて連中をやり過ごした後で逃げろっ!」

「ダメだよ、そんな雄二を犠牲にするようなやり方! 僕が囮になるから、雄二の方こそ楓と一緒に隠れてやり過ごすんだ!」

「そんな、自分の身を滅ぼすようなことしないでよアキ君! ここは私が囮になるから、雄二と一緒に隠れてやり過ごして!」

 

 このバカコンビ……! 口ではそれっぽいこと言ってるけど、私を売る気満々じゃないか……!

 

 アキ君が、雄二が、そして私が。それぞれが自ら囮になるという主張を譲ることはなく、そうしているうちに階段が終わった。もう、これ以上は埒が明かないわね……!

 

「こうなりゃ無理矢理にでも!(ドンッ)」

「あっ! 雄二──こっちだ楓!(グイッ)」

「えっ、ちょ、なんで私!? 雄二じゃないの!?」

 

 そこは普通雄二を引き止めるべきでしょ!? どうして私が引き止められなきゃならないのさ!?

 柱の陰に突き飛ばされたアキ君に捕まり、彼と睨み合っている間にも、雄二は全速力で廊下を駆けていく。ぐぬぬ、あの勝ち誇ったような背中がムカつくなぁ……!

 

 

『鉄人、姫路、島田! 明久と水瀬なら柱の陰に隠れているぞ!』

 

 

 そんでもって私達を売った! 売りやがった! 最初から予想していたし、私もそのつもりだったけど、売りやがったあの赤ゴリラっ!

 

「おのれ雄二! 僕と楓をまとめて売るなんて! 売るなら別に楓だけでも良いじゃないか……!」

 

 堪えろ私。隣のバカを殺したい気持ちはわかるが堪えるんだ。

 血が出るほど拳を強く握りつつ、翔子がいそうな方角へ、

 

 

「翔子ぉ! 雄二ならアキちゃんと一緒に、そっちの方へ逃げたわよぉーっ!!」

 

 

 思いっきり叫んだ。雄二を売るために。普通の人には伝わりにくいメッセージだが、翔子には間違いなく伝わるだろう。私はそう祈っている。

 

『水瀬テメェ! なんてこと言いやがる!?』

「楓のバカ! なんてこと言うのさ!?」

 

 知らない。女の子を売ろうなんて考えているバカコンビの言い分なんてこれっぽっちも知らない。

 

「というわけでアキ君! 私は逃げるから君はこれを被りながら隠れていてねっ!」

 

 アキ君に女装用のカツラ(茶髪ロング)を強引に被せ、追手が来る前に柱の陰から離脱する。今ならまだ大丈夫。それに相手が鉄人でなければ誰に見つかっても逃げられるからね。

 

 

『これって何──バカエデぇぇーっ!!』

『見つけたぞ吉井!』

 

 

 遅れて聞こえてくるアキ君の魂の叫びと鉄人の声。今回ばかりはザマァ見ろとしか言いようがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、こんなところに出入口が」

 

 あれから廊下をひたすら全力疾走し、途中で瑞希に見つかりながらも、彼女を軽々と足払った私は、校舎の外を走っていたところで開けっぱなしになっている窓を見つけていた。

 うーむ……これは入るしかないね。そうしろと言わんばかりに開いてるし、何より敵の気配がない。

 さっそく走るのをやめ、一息で窓枠を越える。カーテンのせいで部屋の中は見えていなかったが、危険な臭いはしないので隠れ家程度には使えそう──

 

「あっ、山姥」

「誰が山姥だいクソガキ」

 

 いきなり妖怪が視界に入ってきた。そっか、なんか見覚えがあるかもしれないと思ってたけどここは学園長室だったのか。……ん? この感じ……もう一人いるな。

 

「──そこっ!」

「危ねぇっ!」

 

 本棚の陰に向かって蹴りを入れると、それをかわした雄二が姿を現した。なるほど、コイツがここに隠れていたてことはアキ君もやってきそうね。

 

「何もいきなり蹴りを入れることはないだろ!?」

「警戒するに越したことはないからね」

 

 それにさっき私を見捨てた報復の分でもあるし。というか、本当ならフルボッコにしているものを、これくらいで許してあげるんだから感謝してほしいものだ。

 ……しかしまぁ、ここが学園長室だったとはね。来る機会が滅多にないものだから存在そのものを忘れていたわ。よく見ればフカフカしてなさそうなソファーに客人用っぽいテーブルもあるし、本棚には専門書がぎっしりと詰まっている。私なら読めるけど、間違ってもバカコンビには読めないほどの代物がぎっしりと。

 

「まさか、お前もここに来るとはな」

「偶然だけどね」

「アタシとしては一刻も早く、アンタらには出て行ってほしいんだけどね。不細工が二人もいると空気が汚れて仕方がないよ」

 

 本当に教育者なのだろうかこの妖怪は。もしかしてこれが種族の違いというやつだろうか? にしたって酷すぎるけどさ。

 雄二がここに隠れていた理由はそれはもう簡単で、学園の長たる者の部屋なら追手に見つかる確率が低くなる、というものだった。

 

 ……雄二のために口頭では言わないでおくが、すでに学園長室の扉の方からは追手の気配がビンビンと伝わってきている。素直に扉から逃げようものなら確実に捕まるだろう。

 

「この時間はここに身を隠すとして、問題はこの後だ。放課後になればまた追いかけられる」

「つまり今のうちに今後の対策を考えると?」

「そういうことだ。お前はともかく、俺の場合は相手が翔子だからな」

 

 アキ君のことを微塵も考えていないところはさすがと言う他ない。それに相手が翔子である以上、対策なんて無意味だと思うが。追手には翔子だけでなく、トライアスロンを趣味としている鉄人もいるし。

 私の場合は追手が病弱の瑞希だからね。対策なんて考えなくても普通に逃げ切れる。鉄人の矛先が私にも向けられた場合はその限りじゃないが……。

 

「──あっ、山姥のオブジェ」

「礼儀知らずにも程があるよクソガキ!」

 

 オブジェという言葉に反応して窓の方へと振り向くと、私や雄二のように窓から侵入してきたであろうアキ君が、学園長を見て率直な感想を述べていた。

 全くアキ君という奴は……さすがにオブジェ扱いは失礼でしょうが。死んでいるならともかく、その山姥は生きているんだから。

 

 まぁ、そんなことは頭の片隅に一分だけ置いておくとして……これからどうすれば良いか。それが問題だ。

 

 

 

 

 




 約一年ぶりの登校になるのか、これ……。最近書く余裕なかったから執筆が捗ったのが懐かしく感じるなぁ。

 やっぱりここに来て意欲が湧いたのはバカテスのBlu-rayコンプリートboxを買ったのが大きいかも。一期と二期とで色々違うから面白いよね。
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