バカと私と召喚獣   作:勇忌煉

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第四問

 

『来るんだこの負け犬め!』

『て、鉄人!? 嫌だ! 補習室だけは行きたくない!』

『黙れ! 戦死者は全員この戦争が終わるまで補習室で特別講義だ! 終わるまで何時間かかるかわからんが、たっぷりと指導してやる!』

『見逃してくれ! あんな拷問耐えられる気がしないんだ!』

『これは立派な教育だ。趣味は勉強、尊敬する人は二宮金次郎、という理想的な生徒に仕立て上げてやるから覚悟しろ』

『だ、誰か、誰か助け――イヤァァァ――(バタン、ガチャ)』

 

「ねえ雄二。これアキ君達は大丈夫なの?」

「さあな」

 

 Dクラスとの試召戦争が始まった。私はついさっき回復試験を終えたところだ。

 今前線にいるのは秀吉が率いる先攻部隊、そことFクラスとの中間地点にアキ君が率いる中堅部隊のはずだけど……不安だわ。

 アキ君の部隊には島田さんがいるが、雄二達の話によれば彼女は漢字が読めない点を除けばBクラス並みの学力らしい。加えて問題文に漢字があまり出ない数学は私よりも良いとか。

 

「初めて島田さんを恨んだわ」

「お前の場合、数学だけは――」

 

『島田、前線部隊が後退し始めたぞっ!』

『総員撤退よ!』

 

 ふと、そんな声が聞こえてくる。いやいや、ここで逃げたらこっちに突っ込まれるかもしれないのに何保身に走っちゃってるのよ。

 

『よし、逃げよう! 僕らには荷が重すぎたんだ!』

『ええ、ウチらは精一杯努力したわ』

 

「……横田。これをあのバカ二人に渡してこい」

「了解です!」

 

 雄二はメモに何かを書くと、それを待機していた横田に渡した。どうやら伝令らしい。

 中身がなんなのか気になったが、すぐに彼の声が聞こえてきた。

 

『代表より伝令があります――逃げたらコロス、だそうです』

『全員突撃ぃーっ!』

 

 あまりにもシンプルかつ物騒な伝令だった。まあ、効果的だったみたいだけど。

 

「ところで――私は前線に出なくていいの?」

「ああ。お前や姫路がこのクラスにいることは極力隠しておきたいからな」

 

 ちぇっ、私も暴れたかったのになぁ……アキ君や秀吉ばっかりズルいよ。

 ところでさっきから島田さんと誰だかわからない女子の声が聞こえてくるのだが気のせいかな?

 

『死になさい、吉井明久!』

『島田さんが錯乱した! 誰か本陣に連行してくれ!』

『落ち着け島田! 吉井隊長は味方だぞ!』

『コイツは味方じゃなくて最大の敵よ!』

 

「……あのさ雄二」

「落ち着け。お前は知らないだろうがあの二人はいつもあんな感じだ」

 

 親しい人が錯乱した味方に殺されそうなのに落ち着けるわけがない。

 少しすると、未だに錯乱してるっぽい島田さんを須川が連行してきた。

 拳を握り締め、恨めしそうにアキ君がいるであろう方向に視線を向ける島田さんに話しかける。

 

「島田さん。さっきのあれは何かな?」

「み、水瀬さん……」

 

 どうしてだろう。やけに怖がられてるけどまだ何にもしてないよね?

 その事に疑問を抱いて首を傾げていると、言うことがまとまったのか島田さんが口を開いた。

 

「よ、吉井がウチを見捨てたから、その――」

 

《船越先生にお知らせします》

 

 ん? この声は……須川? それに船越先生と言えば四十五歳♀独身だった気がする。

 

《吉井明久君が体育館裏で待っています。なんでも生徒と教師の垣根を越えた、男と女の大事な話があるそうです》

 

 待て。今洒落にならんことを言ったぞ。奴め、何のつもりかは知らんがよりにもよってアキ君を船越先生に売り飛ばしやがった。

 婚期を逃し、結婚願望が強すぎるあまり単位を盾に生徒達に交際を迫るような人だ。須川の奴はそんな人にアキ君を売り飛ばした。理由はどうであれ……肉体言語を発動せねばならないわね。

 

 

 ガシャァァン!

 

 

『な、何事だ!?』

『し、島田さんっ! そんな物をどうするつもりなのさ!』

 

 何かが割れたような破砕音が聞こえ、割った張本人であろうアキ君がその場にいない島田さんの名前を出す。

 こういうときのアキ君は大抵追い詰められているはずだ。つまり……演技か。

 

 

 ブシャァァッ!

 

 

『うわっ、なんだこりゃ!?』

『ぺっぺっ! これ消火器の粉じゃねえか!』

『ま、前が見え……!』

『島田さん! 君はなんてことを!』

『Fクラスの島田め! なんて卑怯な!』

『許せねぇ! 彼女にしたくない女子ランキングに載せてやる!』

『在学中には彼氏のできない状況にしてやる!』

『でも、男らしくてステキ……お姉さま……』

 

「……島田さん。アキ君に仕返ししたいなら船越先生を使うといいよ」

「え?」

 

 これならアキ君でも対処できる。精神的な疲労は免れないけど。

 さてと、

 

「雄二」

「今度はなんだ?」

「――須川はいつ戻ってくる?」

 

 初陣だ。

 

 

 ★

 

 

「明久、よくやった」

「……もしかして校内放送、聞こえてた?」

「ああ、バッチリな」

 

 初陣を勝利で終えた私が戻ると、ピンチを切り抜けたらしいアキ君が怒りのこもった瞳で晴れやかな笑顔の雄二と会話していた。

 内容はさっきの校内放送だ。そりゃあんなの流されたら誰でもキレる。意味がわかる人は。

 

「雄二、須川君がどこにいるか知らない?」

 

 アキ君の目が復讐鬼のそれになっている。これはちょっと危ないわね。

 右手にどこからパクってきたのかわからない包丁を持ち、左手に砂が詰まった靴下を持つその姿は完全に犯罪者だ。

 

「ああ、須川ならさっき水瀬が――」

「私が粛正しといたよ」

「………………え?」

 

 残念だったね。私もあの放送は不愉快だったから先に執行させてもらったよ。

 それを聞いたアキ君は残念で嬉しそうな複雑な顔になった。どっちなのかはっきりしてほしい。

 

「僕なら殺れると思ったのに……!」

「殺るなっての」

 

 仮にアキ君が須川を殺ったとしても私が止めていたに違いない。撲殺ならまだしも凶器で殺しはいけない。

 複雑な顔から少しずつ、目的を失ったような顔になっていくアキ君。

 そんなアキ君をどう思ったのか、ふと雄二が口を開いた。

 

「ちなみに――あの放送を指示したのは俺だ」

「シャァァァアッ!」

 

 雄二の一言でアキ君の中にあったわずかな憎しみが爆発してしまった。

 ていうか元凶は雄二だったのか。……ははっ、なるほどねぇ。

 

「あ、船越先生」

 

 雄二のあからさまな嘘でアキ君が掃除道具入れに隠れてしまった。どうも憎しみという感情は判断力を鈍らせてしまうようだ。

 

「よし、バカは放っておいて、そろそろ決着をつけるか。水瀬、一度前線で暴れてから俺の護衛に回ってくれ」

「……了解」

 

 今が頃合いと見たのか、ついに代表の雄二が動いた。アキ君が出てこないけど……別にいいか。

 そして私は特攻隊長のような役目と雄二の護衛に任命された。うふふ、楽しみだわ。

 とりあえず暴れるべく、援護に来たDクラスの本隊のうちの三人と対峙する。雄二によればこの人数で充分らしい。

 

「Fクラス水瀬楓、そこのDクラス三人に化学勝負を申し込む。――試獣召喚(サ  モ  ン)

 

 私の喚び声に応えて足元に幾何学的な魔法陣が現れ、その中心から召喚獣が姿を見せた。

 黒のロングコートで背中には刃の部分を数珠状に分割した鞭状に変形できる剣――ガリアンソードを納めている。それが私の召喚獣の装備だ。

 とはいっても得物がないと戦えないわけではない。普通に肉弾戦でもやり合える。

 

 

『Fクラス 水瀬楓 VS Dクラス 男子×3

  化学  250点 VS 90点&95点&89点 』

 

 

 一瞬で勝負はついた。

 

「嘘だろ!?」

「これが水瀬楓か……!」

「そもそもどうして彼女がFクラスに!?」

「でも思ったほどじゃない気が……」

 

 当然、手は抜いてある。この程度で主戦力にされるわけがない。

 もう少し暴れたいところだが、雄二の護衛があるのでそっちを優先する。他はクラスメイトにでも任せよう。

 

「雄二。言われた通り暴れてきたよ」

「ご苦労さん。あれくらいでもプレッシャーは掛けられたはずだ」

 

 プレッシャーどころか大いに警戒されてしまったけどね。

 このあと執念で雄二を追いかけてきたアキ君が偶然Dクラス代表の平賀源二に遭遇するもその近衛部隊に阻まれたが、Aクラスに所属していると勘違いされた瑞希が彼を討ち取ったのだった。

 ……今度はもっと暴れたいな。今回のように手抜きではなく、本気で。

 

 

 

 




 バカテスト 物理

 問 以下の文章の( )に正しい言葉を入れなさい。
『光は波であって、( )である』



 姫路瑞希の答え
『粒子』

 教師のコメント
 よくできました。


 土屋康太の答え
『寄せては返すの』

 教師のコメント
 君の解答はいつも先生の度肝を抜きます。


 吉井明久の答え
『勇者の武器』

 教師のコメント
 先生もRPGは好きです。


 水瀬楓の答え
『杖先から放たれる緑色の閃光』

 教師のコメント
 あまりにも恐ろしい答えに一瞬言葉を失いました。


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