バカと私と召喚獣   作:勇忌煉

50 / 53
 バカテスト

 問 以下の問いに答えなさい。
『少年探偵団』や『怪人二十面相』を世に送り出した、日本の小説家の名前を答えなさい。



 姫路瑞希の答え
『江戸川乱歩』

 教師のコメント
 正解です。
 江戸川乱歩は大正から昭和にかけて活躍した、推理小説を得意とした小説家で、アメリカの文豪、エドガー・アラン・ポーの名にちなんだペンネームです。


 吉井明久の答え
『犯人はこの中にいる!』

 教師のコメント
 先生ではありません。


 水瀬楓の答え
『謎は全て解けた!』

 教師のコメント
 全員集合させますか?






第六問

「何があるんだろうな」

「ムッツリーニや水瀬と違って明久は滅多に隠し事をせんからな。何があるのか楽しみじゃな」

「私がいつ何を隠したってのさ」

「…………隠し事なんて心外」

 

 アキ君の家に向かっている道中にて。アキ君以外の面子は楽しそうに雑談をしながら歩いていた。

 何故か私とムッツリーニが普段から隠し事をしているかのように思われているが、さすがに隠し慣れているムッツリーニと同列には扱わないでほしい。

 

「隠し事と言えば水瀬。お前、明久が何を隠しているのか知ってるんじゃないか?」

「さぁどうだか」

 

 探るような目の雄二に疑われて一瞬ドキリとするも、平常を装ってはぐらかす。ホントにコイツは、こういう時に限って鋭いわね。

 秀吉も秀吉で私の表情を観察しているが、その辺は問題ない。前髪のおかげで顔の全貌が見えない分、表情から考えを読み取るのは難しいからね。

 だけどいつまでも見られるのは恥ずかしいし、そろそろこっちから仕掛けるとしますか。

 

「どしたの秀吉? 私の顔に何か付いてるの?」

「な、何もないから顔を近づけるでない! 少しは周りを気にしたらどうじゃ!?」

 

 あからさまに口元をニヤニヤさせながら、グイッと秀吉に自分の顔を近づける。それこそ、勢いでキスしてしまいそうなほどの距離まで。

 これは効いたのか、顔を赤くして勢い良く私から離れる秀吉。ほーんっと、なんでここまでわかりやすいかな。思わずこっちから告っちゃいそうだ。

 

「秀吉も素直じゃないな」

「…………良い絵になる」

「ま、待つのじゃムッツリーニ。どうしてカメラを構えておるのじゃ?」

 

 大方、私と秀吉がくっついている姿を撮ろうとしたのだろう。事情を知らない人から見れば百合な光景だからね。

 私達が秀吉を中心に盛り上がったところで、今度はアキ君の隠し事は何か、へと話題が変わり始める。瑞希も島田さんもそっちが本命なだけに、真剣に耳を傾けている。

 

「急に手作り弁当を持ってきたこと、Yシャツにはアイロンが掛かっておったことなども合わせて考えると……」

「女でもできたか」

 

 いやそれはない。

 

「「「…………っ!?」」」

 

 そこ、あからさまに驚かない。

 

「あ、アキッ! どういうことよ!? せせ、説明しなさい!」

 

 まず島田さんが私をチラチラと見ながらアキ君に迫り、

 

「ふむ、明久に伴侶か……」

 

 次に秀吉が私を見ながら呟き、

 

「…………裏切り者……っ!」

 

 最後にムッツリーニが私を一瞥してから純粋な嫉妬心とそれによる殺意をアキ君に向けた。反応にそれぞれの個性が表れているわね。……どうして私を見ながら反応していたのかが心底気になるけど。

 そんなほぼ全員が同じ意見であろう最中、一人静かになっていた瑞希だけは意見が違った。

 

「大丈夫ですよ。明久君が私達に隠れてお付き合いなんて、そんなことをするはずがありません。そうですよね? 明久君……?

 

 後半から感じられる念が凄く怖い。私を見ながら言ってるし。そこまで思うところがあるなら、前半のアキ君を庇うような台詞は絶対にいらなかったはず。

 

「これ……そのうち皆の家にも家庭訪問することになったりしない? ゲーム的な流れというか、そんな感じで」

「ここは現実だぞ水瀬。まぁそうなった場合、次はお前の実家から家庭訪問することになるかもな」

 

 やめて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうこうしているうちに、アキ君の住むマンションに到着した。ここでわかることは、さっきまでアキ君が必死に言っていたことは全て嘘だったということだ。家は燃えてないし、業者もいないからね。

 

「ほら明久。観念して鍵を開けろ」

「ヤ……ヤだね」

 

 素直に腹を括れば良いものを。ここで往生際の悪さを見せるなんて情けないわよアキ君。

 抵抗を試みたアキ君を追い詰めるように雄二がアキ君に裸Yシャツを提案し、ムッツリーニが涙目で上目遣いという細かい注文を入れ出した。

 

「土屋君。できれば、Yシャツのボタンの上二つは開けておいてもらえると有難いです……」

「姫路さんオーダー細かいよ! わかったよ! そこまで言うなら開けるよ! 開ければいいんでしょ!」

「「ボタンを?」」

「鍵を!」

 

 元からどっかのネジがダメそうな島田さんはともかく、瑞希はいよいよ手遅れかもしれない。島田さんですらしなかった細かいオーダーをするなんて。

 今度こそ腹を括り、家の鍵を開けるアキ君。玄関に玲さんの靴がないのを見る辺り、外出中なのは確かだが……。

 これなら大丈夫だと思ったらしいアキ君は皆を招き入れると、リビングへ続くドアを開け放つ。

 

「「「………………」」」

 

 

 

 

 その室内には、ブラジャーという女物の下着が干されていた。

 

 

 

 

「いきなりフォローできない物がぁーっ!?」

 

 もうダメだ。こんなの私でもフォローは不可能だ。どうしていきなり目に付く物的証拠品がブラジャーなのさ。女装用にしてもサイズがデカいから本当にもうダメだ。

 

「D……いやF……違う、Eか!」

「ブラのサイズ測ってないで何とかしてよ楓!」

 

 間違いなく玲さんのものであろうブラを始めとした洗濯物を、慌てて別室に放り込みながら、私に助けを求めてくるアキ君。ごめんアキ君。こればっかりはどうあがいても無理だと思うんだ……。

 島田さんを筆頭に、皆が思い思いの感想を言っていく中、瑞希だけは笑顔でアキ君にこう言った。

 

「あのブラはダメですね。明久君にはサイズが合っていませんから」

「「「コイツ認めない気だ!」」」

 

 何を考えたらさっきのブラの持ち主がアキ君だと思えたのか、私には不思議で仕方がない。アキ君の女装に必要なブラのサイズはA~Cなのだから。

 最悪の誤解をされたアキ君は必死に弁解しようとするも、それを遮るように瑞希が次なる物的証拠品を見つけたせいでそれどころではなくなった。

 

「あら? これは──」

「ふむ、化粧用のコットンパフじゃな」

 

 瑞希の視線の先にあるのは秀吉の言う通り、化粧用のコットンパフだ。それが卓上に一つだけポツンと置かれていた。玲さんの忘れ物かな?

 

 

 

 

「──ハンペンですね」

 

 

 

 はんぺん。中国では方餅 fang bingと書く。

 主にサメの肉を使う、すり身として粘性の強い白身の魚肉であり、そのすり身にヤマノイモなどを加えて成形し、ゆでたもので、柔らかい感触の魚肉練製品の一種でもある。名前の由来は駿河国(静岡県)の料理人半平が考案したのによると言われている。使われるサメはホシザメ、アオザメ、メジロザメ、オナガザメ、ヨシキリザメと多岐に渡る。

 

 

 

「「「ハンペェン!?」」」

 

 

 

 コットンパフ。化粧用道具の一つで、主にスキンケアの際に使用するものだ。化粧水を肌に付けるとき、メイクやネイルを落とすとき、肌をパックしたいときに使用される。

 

 

 

 

 そんなハンペンとコットンパフを見間違えるなんて、瑞希は私とは次元の違う存在なのかもしれない。

 

「…………これは……!」

「女性向けのヘルシー弁当だな」

 

 今度はムッツリーニと雄二が食卓の上に置かれていた、今朝私とアキ君が一緒に作った玲さんのお弁当を見つけ、瑞希がそれを見てその場に座り込んだ。

 ……あぁ、うん。もう知ーらない。無駄に弁解を手伝って貴重な刺激の糧を減らしてたまるか。私のためにも一人で足掻きなさいアキ君。

 

「しくしくしく……」

「ひ、姫路さん!? どうして急に泣き出すの!?」

「もう、もう否定し切れません……」

「どうして下着や化粧品はセーフなのに、お弁当がアウトになるの!?」

 

 私ならどれを取ってもアウトだと断言するだろう。

 泣いている瑞希を見てようやく観念したのか、アキ君は事の真相を話した。今自分の家に実の姉が帰って来ていて、その姉が非常識な人間であることを。

 

「あ、アキが非常識って言うなんて……どれだけ……?」

「恐ろしくはあるが、気にもなるのう……」

「…………是非会ってみたい」

「そうですね。良い機会ですし、私も会ってみたいです」

 

 やはりと言うべきか、吉井玲という奇怪でしかない人物に強い興味を持ってしまった一同。……やっぱりもういいか。もう個人的にも見てられないから。

 

「あー、お前ら、そういう下世話な興味は良くないぞ。誰にだって、隠したい姉とか()()とか、そんなもんがいるモンなんだから」

「そうそう、どんな秘密よりも()()()()()こそ恥だって人もいるくらいだしね」

 

 これで良し。最低限の手助けは出来たと思うわ。雄二までアキ君に助け舟を出したのは意外だったが。

 

「ゆ、雄二……! 楓……! ありがと──」

 

 

 ガチャッ

 

 

『あら? 姉さんが買い物に行っている間に、楓さんと一緒に帰って来ていたのですね、アキくん』

 

 

 問題発生。

 

「いやぁぁ帰ってきたぁーっ! 皆、早く窓から避難を──」

「明久君のお姉さんですか? ど、ドキドキします……」

「ウチ、ちゃんと挨拶できるかな……?」

「ダメだ! 会う気満々だ!」

 

 皆がリビングの扉を見つめる中、アキ君は天に向かって祈りを捧げ始めた。

 そんな緊張の一瞬の後、扉が開かれた。さぁ、どう出る……?

 

「あら、お客様ですか。ようこそいらっしゃいました。狭くてこれといったものもない家ですが、ゆっくりしていって下さいね」

 

 玲さんにしては珍しく常識的な挨拶だった。服装も七分丈のパンツに半袖のカッターシャツ、その上に薄手のベストという実に常識的なものだった。

 普通の格好に普通の挨拶。そんな玲さんを見て、拍子抜けしたといったような表情で彼女に挨拶をする一同。一体どんなイカレポンチを想像したのやら。

 

「自己紹介がまだでしたね。私は吉井玲といいます。皆さん、こんな出来の悪い弟と仲良くしてくれて、ありがとうございます」

 

 これまた普通の自己紹介。なんだ、一体どうしたというんだ。もしかしてドッペルゲンガー? それともホムンクルス? いや、クローン? もしくはゴーレム? アンドロイド? ヒューマノイド? い、いやいや、ひょっとしたら魔法で形成されたデコイ人形かもしれないわね……。

 

「ああ、どうも。俺は坂本雄二。明久のクラスメイトです」

「…………土屋康太、です」

 

 我に返った雄二が慌てて頭を下げ、ムッツリーニがそれに続く。うんうん、二人にしてはかなり礼儀正しいわね。普段が普段なだけに。

 その雄二がアキ君とコソコソと会話している間にも、挨拶は続く。どうやら次は秀吉みたいね。

 

「ワシは木下秀吉じゃ。よしなに。初対面の者には確実に間違われるのじゃが、ワシは女ではなく──」

「男の子、ですよね? 秀吉くん」

「…………っっ!!」

 

 玲さんの言葉を聞いた瞬間、秀吉が驚いたように、いや驚いて玲さんの顔を見上げた。

 こればっかりは無理もない。何せ秀吉を一目で男だと見抜けた者は、今に至るまで私だけだったらしいし。他は必ず女と間違えていたようだ。

 ちなみに秀吉が男だとわかったのは、彼の体に女体との相違がいくつもあったからだ。喉仏、股間のもっこり、骨格辺り等々……。パッと見じゃわからなくても、細部をよく見れば意外とわかるんだよね。

 

「わ、ワシを一目で男だとわかってくれたのは、水瀬と主様だけじゃ……!」

 

 ほら、珍しく感動しちゃってるよ。可愛い奴め。

 感動する秀吉に内心キュンとしていると、玲さんは笑顔を崩さずに口を開く。

 

「勿論わかりますよ。だって──うちのバカでブサイクで甲斐性なしの弟に、楓さん以外の女の子の友達ができるなんてあり得ませんから」

 

 なんて酷い確信の仕方なんだ。

 

「ですからこちらの二人も、男の子ですよね?」

 

 と、今度は瑞希と島田さんに視線を移し、やっぱり物凄く酷い発言をしてのける玲さん。どうすればそんなバカな間違いができるのだろうか。二人ともどう見ても(見た目は普通の)女の子なのに。

 さすがに今の発言は無視できなかったアキ君が三人ともきちんと女の子だと言い張り、サラッと女子扱いされた秀吉が抗議すると、玲さんの雰囲気に変化が生じ始めた。

 

「…………()()()、ですか……? アキくんは姉さんの知らない間に、楓さん以外の女の子を家に連れてくるようになっていたのですか……?」

 

 これはダメだ。今の玲さんはおそらく怒り心頭だ。アキ君の世話係とはいえ、おばさん経由で容認されている私と違って、瑞希と島田さんは(玲さんとは)今回が初対面だ。私も含めて異性が三人もいるこの状況は非常に気に食わないはず……。

 今度こそ玲さんの化けの皮が剝がれるかと思って身構えていると、その玲さんは二人の性別を間違えたことを、ちゃんと頭を下げて謝罪した。……やっぱりホムンクルスじゃないの……?

 

「ね、姉さん。怒ってないの……?」

「? どうして姉さんが怒る必要があるのですか?」

 

 さすがに取り越し苦労だったようだ。うん、二人が女の子とはいえ、友達が家に遊びに来るのは珍しいことじゃないもんね。

 私が内心ホッとし、アキ君が胸を撫で下ろしていると、玲さんは変わらず笑顔のまま告げる。

 

「ところでアキくん。楓さん」

「何? 姉さん」

「なんですか? 玲さん」

「お客様も大勢いらっしゃるようですし、アキくんと楓さんが楽しみにしていたお医者さんごっこは明日でもいいですね?」

 

 良かった。いつもの、本物の玲さんだった。……いや待て。

 

「何言ってるの姉さん!? まるで僕が日常的に実の姉と幼馴染みとお医者さんごっこを嗜んでいるかのような物言いはやめてよ!」

「私そんなの楽しみにしてた覚えないんですけど!? そもそもアキ君とは間違ってもやりたくありません!」

 

 何が好きでそんなことをしなければならないのよ。相手が秀吉でなきゃ絶対にしないわよそんなこと。

 というかやっぱりお怒りだったか。普通に怒の感情を向けるんじゃなくて、こっちに変態のレッテルを貼ろうとするなんて陰湿にも程がある。

 

「か、楓ちゃん……。いつから、そんな趣味を持ち始めたんですか……?」

「アキ……実のお姉さんが相手って、法律違反なのよ……?」

 

 案の定、瑞希と島田さんは思いっきり誤解し、それ以外の面子はドン引きし始めた。ムッツリーニは鼻血を堪えているようにも見える。

 いやまぁ、シチュエーション的には悪くないのかもしれないけど、それを実行するとなれば話は別だ。私の尊厳に大きく関わってしまう。

 

「何を慌てているのですかアキくん。あなたもその気だったのは姉さんもわかっていますから」

「ち、違うんだ姉さん! これは今日の昼休みに楓に被せられて──」

 

 玲さんが笑顔で、アキ君の学生鞄──正確にはその鞄からはみ出ている髪の毛を指差す。確かあれは昼休み、私がアキ君に被せたカツラじゃないか。なんで捨てずに持ち歩いているんだこのバカは。

 

「それと、不純異性交遊の現行犯で150点の減点です」

「150!? いくら何でも多過ぎるよ! 僕はまだ何もしていないのに!」

「……『まだ』? ……200に変更します」

「ふぎゃああーっ!」

 

 なんだ、たったの200点か。私絡みで十倍にされなくて良かったわねアキ君。もしされてようものならここでアキ君は終了していたところだよ。

 

「──明久。お前も苦労してたんだな……」

「ゆ、雄二……」

 

 おそらく最初で最後になるであろう、雄二からの癒し。言葉だけだとめちゃくちゃ気持ち悪いとも思うが、状況が状況なだけに今回は本当に癒しだろう。

 するとその光景が不純同性交遊に見えたらしく、玲さんは嬉しそうに10点追加した。それでも190点は失ったわけだが。

 先の無礼を詫び、瑞希と島田さんに名前を聞く玲さん。瑞希は普通の自己紹介だったが、

 

 

「ウチは島田美波です。アキとは────友達、です」

 

 

 島田さんのそれは、自分がアキ君の恋人だとでも言いたそうなものになった。お願いだからそういう言い方はやめてあげて。アキ君の今後の生活に大きく影響が出るから。

 こっちの心情など知るよしもない玲さんは二人の自己紹介に対し、終始笑顔で対応していく。ズレているのがデフォルトなだけあって、こういうまともな面があるのはなかなか質が悪い。

 

 そんな玲さんの手には、アサリやベーコンなどの食材の入った袋が掲げられている。その量が一家庭分にしても余るほど多いのが少し気になるけど、大方苦手な料理の練習でもするつもりだったのだろう。もちろん単純に間違えた可能性も否定はできないが。

 その点をアキ君に指摘され、少し不機嫌そうに唇を尖らせる玲さん。どうやら前者で正解っぽいな。今になって練習だなんて珍しい。

 

「せっかく皆さんがいらっしゃったことですし、お夕食を一緒にいかがでしょうか?」

 

 大したおもてなしはできませんが、とこれまた笑顔で提案する玲さん。まるで最初からそのつもりであったかのような言い方だが、どうあがいても分量に関する説明をする気はないといったところか。

 

「それじゃ、ありがたく好意に甘えさせてもらうとするかな」

「…………御馳走になる」

「ワシも是非相伴させて頂きたい」

「ウチも、御馳走になろうかな」

「じゃ、じゃあ、私も……」

 

 全員が首を縦に振って肯定の意を示し、今日のアキ君宅は大人数での夕飯が決定した。当然私もそのうちの一人だ。ここまで来た以上、ハブられて堪るか。

 

「ではアキ君。お願いしますね」

「うん。了解」

 

 アキ君が玲さんから材料の入った袋を受け取ると、瑞希と島田さんが驚き出した。えっ、男が料理を作るのってそんなに驚くことなの?

 まぁ、今日の弁当を作ったのは私だから彼が料理上手なのを知らないのも無理はないのかもしれない。にしても大袈裟だけど。

 

「そんなに不自然でもないだろう? 俺だって料理くらい作るしな」

「…………紳士の嗜み」

「わ、ワシは、その……あまり得意では……」

 

 雄二とムッツリーニの腕前は披露済みだから驚かないが、秀吉は……そっかそっかぁ……。

 

「じゃあさ秀吉。今度一緒にカレーでも作らない? 手取り足取り教えてあげるよ」

「よ、良いのか?」

「もちろん。何なら花婿修行でもやる?」

 

 これはイケる。そう思って遠回しに『定期的に二人でデートしようよ』という意味の籠められた発言をするも、これに関しては「そこまでお主に迷惑を掛けるわけには……」と断られてしまった。せめて言葉の真意にだけは気付いて欲しかった……と、ここは希望的観測を抱いておく。

 自分の気持ちを直接伝える。その難しさを実感していると、雄二に何かしらの共感でも覚えたのか、アキ君が自分の──吉井家の家庭事情を堂々と明かしていた。

 

 

「夕飯って、家の中で一番立場の弱い人が作るもんなんでしょ?」

 

「「「………………」」」

 

 

 可哀想だ……アキ君が可哀想過ぎる……!

 

「母の方針で、我が家ではそういうことになっています」

 

 こうやって聞かされると、やっぱりおばさんはパワフルな人だよねぇ。力無き者、能力無き者を雑用係に仕立て上げているようなものなんだから。まぁ、人の家庭事情にツッコミを入れるのは野暮というもの。後で笑ってあげよう。

 雄二とムッツリーニがアキ君に料理の手伝いを申し出た途端、必然というべきか、置いていかれまいと慌てて瑞希も名乗り出た。

 

「あの、それなら私もっ」

「「「いや、女子は座ってていいから」」」

「そ、そうですか……」

 

 男子総員で断られ、しょんぼりする瑞希。少しは自分の料理の腕前を自覚してほしいものだ。

 この流れなら私が手伝う必要はないわね。そう確信して瑞希を慰めていると、アキ君がふと思いついたような顔でこっちを向き、口を開いた。

 

「楓はこっちを手伝ってね」

「なんでそうなるのよ!? この流れでやるわけないでしょ!」

 

 なんでここで女子の私に手伝わせようとするのよ!? 女子は座ってていいって言ったのお前らでしょうが!

 私の必死の訴えが通じたようで、雄二とムッツリーニがアキ君を強引に台所へと連行していった。でもなんで私に手伝わせようとしたのだろうか。気になって仕方がないわ。

 

 

 

『離して二人とも! このままだと楓が秀吉に何をするかわからないから!』

『…………特に問題はない』

『別に騒ぐほどのことでもないだろう。過剰なスキンシップでもない限りは』

『それをやり兼ねないのが楓なんだよ! お願いだから離して──』

 

 

 

 これでむさ苦しい邪魔者は消えた。さーてさて、秀吉にどう絡もうかなぁ?

 

 

 

 

 




 ふぃ~、更新でけた。やりたいこと多過ぎて困る最近。しかもやっと書けたと思ったら展開の進まなさよ……。今期のアニメは蜘蛛子さん推しです。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。