問 以下の意味を持つことわざを答えなさい。
『(1)得意な事でも失敗してしまうこと』
『(2)悪いことがあった上にさらに悪いことが起きる喩え』
姫路瑞希の答え
『(1)弘法も筆の誤り』
『(2)泣きっ面に蜂』
教師のコメント
正解です。他にも(1)なら『河童の川流れ』や『猿も木から落ちる』、(2)なら『踏んだり蹴ったり』や『弱り目に祟り目』などがありますね。
土屋康太の答え
『(1)弘法の川流れ』
教師のコメント
シュールな光景ですね。
吉井明久の答え
『(2)泣きっ面蹴ったり』
教師のコメント
君は鬼ですか。
水瀬楓の答え
『(1)河童の日光浴』
『(2)泣きっ面にキロネックス』
教師のコメント
殺意が高過ぎます。
『『『処刑じゃぁぁーっ!!』』』
「僕の話を聞けぇぇーっ!!」
朝っぱらからなんでこんなにうるさいの。
「おう水瀬。今来たのか」
「雄二。……これは何の騒ぎ?」
どうして朝っぱら、アキ君がクラスメイトに縛られ、袋叩きにされているのか。マジで一体何があったのよ。
今日はアキ君と玲さんが騒いでたから置き去りにして、途中で新しく発売されたゲームのソフトを買いに行ってたのだが、これじゃアキ君にソフトを貸してやれそうにもない。
「お前と明久が混浴してたって噂が──」
「納得したわ」
バレるの早すぎない?
「あっ、楓! ちょうど良いところに!」
『裁判長! 吉井と混浴していたというのは本当ですか!?』
そして私の存在に気づくのも早い。アキ君なんていつもは気づかないことが多いくせに。
そして会長須川。君は質問がストレート過ぎるぞ。しかも声色からして怒りだけじゃなくて、明らかな羨望も混じっている。
「あー、そのことなんだけど……」
『裁判長。用意しておきました』
そういってクラスメイトが渡してきたのは覆面だった。あぁ、あくまでそういう立場なのね……。
さっそく覆面を被り、教壇まで移動する。経緯はどうであれ、私から撒かれた種だしね。アキ君が黒焦げの廃人になる前に何とかしないと。
クラスメイト全員の視線が私に注がれる中、アキ君に『任せて』とアイコンタクトを送り──
「──その件は紛れもない事実だ」
「だから言い方ぁ! どうしてわざわざ誤解を招くように言うのさ!?」
正直に告白した。こんなもの、嘘を言ったところで拗れるのがオチだ。
「嘘は言っていない。思春期に入るであろう中学校以降ならともかく、それ以前なら誰だって経験しているだろう?」
さすがに全部話すのはやめておこう。アキ君だけじゃなくて、私の生活にまで影響が出てしまう。
それにこういうのは皆の想像力を試す方が面白い。真実とは当事者の口から語られるだけじゃ面白味に欠けるからね。
『お言葉ですが裁判長! 俺にはそういう経験がありません!』
「そうなの? 他の皆は?」
『『『ありませんっ!!』』』
最初に発言した須川を筆頭に、私の問いに答えるクラスメイト達。コイツらの今に至るまでの学生生活がどんなものか、少しだけ気になってしまった。女に縁がないにしてもこれほどとは思わなかったからだ。
まぁ何にせよ、言うことは言ったし早くこの茶番を終わらせないと。手を二回叩いてもう一度クラスメイト達の注目を集め、少し考えてから口を開いた。
「というわけでだ、吉井明久には──」
『火炙りの刑はいかがでしょうか!?』
『全身の穴という穴に過酸化水素を流し込むというのはどうでしょうか!?』
『次亜塩素酸ナトリウムを一リットル、口から流し込みましょう!』
『ここはシンプルに奴の脳天を、一時間ほど鉄板で殴り続けましょう!』
だから今日に限って早すぎるんだよ君達は。今回の一件を嗅ぎつけるのもそうだし、台詞を遮ってまで処刑方法を提案してくるのもそうだし。台詞くらい最後まで言わせてほしいわ。
この様子じゃ耐久バンジーは無理そうだし、どうしたものか……アキ君に合った処刑方……何かないか、何か……!
「だからなんで毎回、僕に限って弁護や遺言の発言権すらないのさ!?」
「諦めろ明久。お前をどうするか──処刑の決定権は水瀬にあるんだからな」
「わざわざ言い直さなくてもいいだろ!? 助けて雄二!」
「明久……今のお前は輝いてるぞ」
「助ける気がないということだけはわかったよ!」
はっ! そうだ、あの方法なら──!
「吉井明久!」
「は、はいっ」
「貴様を──水攻めの刑に処す!」
「意外とシンプルな判決を下されたっ!」
しょうがないでしょ。だって今朝よ? こちとらまだ頭の目が覚めてないから、あんまり考えられないのよ? シンプルだって、良いじゃない。
私の判決に不満がなかったのか、クラスメイト達は数秒で一枚の布とバケツ三つ分の水をどこからともなく仕入れてきた。
「それじゃ私は寝るから、後始末よろしく」
『『『了解!』』』
「では閉廷!」
「ちょ、待っ、覚えてろバカエデぇぇーっ!!」
私の合図にも等しい終了の言葉と共に、アキ君に飛び掛かるクラスメイト達。後ろからアキ君の捨て台詞が聞こえたけど気にしなくてもいいわね。
「今日という今日はキサマを許さない……!」
「上等よ。やれるものならやってみなさい」
放課後。水攻めから無事に生還したアキ君が突っかかってきた。水も滴る良い男とはよく言ったものである。実を言うと笑いを堪えるのに必死だけどね。
それはそうと、やはりと言うべきかアキ君はあれから更なる減点を食らっていた。しかも今朝。どうりで騒いでいたわけだ。
なので今日も今日とて「楽しく勉強しよう!」と気持ち悪さ全開のアキ君。まぁ、こればかりは仕方がないか。
「今はどのくらいの減点なんだ?」
「合計で290点。結構厳しいんだよね」
「290か。なら、期末の総合目標は1090くらいだな」
「それくらいなら一夜漬けでどうとでもなるわよ。私が徹底的に──」
「お願いします! これ以上僕の睡眠時間を減らさないでくださいっ!」
なんでよ。私が付きっきりで扱く方が効率が良いって言っているのに。こっちだってアキ君のせいで睡眠不足なのよ?
まぁ、睡眠不足でせっかく教えたことを忘れられても困るわね。次からは少しだけ睡眠時間を増やしてあげましょう。そうね……一時間くらい増やせばいいかな? それと教えるのは理数系よりも暗記科目をメインにしよう。短所を克服するよりも長所を伸ばせってやつだ。
アキ君への指導時間と方針について考え込んでいると、鞄を抱えた秀吉がやってきた。何をしても可愛いだなんて反則だと思わない?
「なんじゃお主ら。今日も明久の家で勉強会かの?」
「僕の家? う~ん……今日からは姉さんが仕事でいないから、それでも良いんだけど……」
「けど?」
「今日は楓の家でやろうよ。資料も豊富にあるし、何より楓自身が指導してくれるから効率が良いと思うんだ。良いよね? 楓」
私の家で? あのオンボロアパートで勉強会?
「私の家? 別に良いけど……オンボロだからなぁ……。人数次第じゃ他を当たってもらうわよ?」
「あ、いや、そうじゃなくて──」
そうじゃない? どういうことだ?
嫌な予感がビンビンとする中、今だと言わんばかりにアキ君の口から最悪の言葉が発せられた。
「──今日は楓の“実家”でやろう、ってこと」
「嫌に決まってるでしょ!?」
ふざけたこと言ってんじゃないわよクソ久。なんであそこでやらなきゃならないのよ。しかもよりにもよって私が一人暮らしを始めた原因なる場所で。
冗談じゃない。実家でするくらいならアキ君と関わらない方がマシよ。オンボロアパートにあるノーパソでSNS弄ってる方がよっぽど楽しいわ。
「水瀬の実家か。そういえば行ったことなかったな」
「ワシも気になるのう……」
マズイ。雄二と秀吉が興味を持ってしまった。何とかして、興を削がないと……!
「あ、あのね二人とも──」
「おーい、ムッツリーニ、姫路さん、美波ー!」
「はい。なんでしょうか明久君?」
「何か用?」
「…………どっかに行くとか?」
あぁぁ本当にマズイ! このままじゃ同調圧力に圧されて実家行きになってしまう! 考えろ水瀬楓! この状況を打破する方法を、逆転の一手を……!
「うん。今日は楓の実家でテスト勉強をしようと思うんだけど、良かったら──」
「あー待って待って! じ、実家の方はいろいろと忙しいみたいで、絶対に行きたくないというか、その……!」
もう手段なんて選んでいられるか! どんなに惨めな言い訳をしようと、どんな嘘を吐こうとも、私は実家にだけは帰らないんだから……!
「あの暇人の集まりみたいな一家が、どうやったら忙しくなれるのか僕は物凄く知りたいんだけど?」
殺すぞ貴様。
「…………確かに、私の家族はクソのゴミ溜めみたいな連中ばかりだけど、非常識の集合体とも言える家族を抱えたアキ君にだけは、そんなこと言われたくないかなぁ~?」
「その台詞、倍にして返すよバカエデ。確かに僕の家族はまともな人はほとんどいないけど、身内以外の人に悪く言われるほど腐っていないんだよねー」
「「…………!!(メンチの切り合い)」」
何だかんだでいつものように睨み合う、アキ君と私。これはもしかするとイケるかもしれない。このままアキ君達の興味を、私の実家以外のものに向けさえすれば……!
「あ、あの……私、久しぶりに楓ちゃんの実家に行ってみたいです……」
What!?
「う~ん、水瀬さんには悪いけど、ウチも興味はあるわね」
「…………行くに越したことはない」
「わ、ワシも、凄く興味があるのじゃが……」
嘘でしょ!? そこは遠慮してくれるところじゃないの!?
「観念しろ水瀬。お前が何をどう言おうと、コイツらは行く気満々だぞ」
「だから嫌だって言ってるでしょ!? というか別に私の実家でなくても良くない!? それこそ雄二の家でも良いじゃない!」
そうだ、まだ諦めるには早い。こうやって他の奴の家でやるように仕向ければ……!
「確かにそれでもアリだが……せっかくの良い機会だ。一度も行ったことがないのもそうだが、何よりお前がそこまで狼狽えているのを見てなおさら行きたくなった」
「鬼か貴様!?」
コイツの性格が悪いのは知っていたけど、その矛先が向けられることになろうとは思いたくなかった。
だ、ダメだ……。何とかしないと、私の黒歴史の塊こと家族を曝け出してしまうことになる。こうなったら……!
「できることなら声も聞きたくなかったけど……!」
ポケットから携帯電話を取り出し、実家に電話を掛ける。皆を止められない以上、向こうに礼儀正しくしてもらうしかない!
『──もしもし? どちら様ですか?』
電話から聞こえてくる、実年齢には合わないほど可愛らしい声。これだけだと高校生に間違えられそうな、可愛らしい声。
「繋がった! 母さん久しぶり! 楓だけど──」
『新手の詐欺ですか? うちに楓という名前の娘はもういませんよ? それっぽいのが去年、逃げるように出て行きましたから』
「私がその楓だよ! あんたは自分の娘の名前すら覚えられないの!?」
まさかの勘当扱いに驚きを隠せない。いや、さすがにそんな違法行為を本当にやったわけじゃないだろうけど、この連中は保身に関しては天才だからな……。
『もちろん覚えてますよ? 確か──バカとか言ったかしら?』
「全然覚えてないじゃない! ああもういいわ! 今から友達連れてそっちに行くから! 非常識な振る舞いだけはやめてよね!」
『友達って、あなた借金取りか何かですか!? 警察呼びま──(ブツッ)』
これ以上茶番に付き合っていられないので、不穏な発言を無視して強引に通話を切る。つ、疲れた……。なんで実家に電話するだけで疲労しなきゃならないのよ……。
肩で息をしながらも皆の方を見てみると、アキ君と瑞希以外の面々は啞然としていた。
「い、一応、話は通しておいた、けど……どうする? 撤回するなら、今のうちよ……」
「……いや、そこまでしてもらった以上、行かないわけには行かねぇだろ」
「そ、そうよね……いろいろと不安だけど」
「…………答えは同じ。行くに越したことはない」
「み、皆に同じじゃ……」
どうあがても考えは変わらないか。私としてはここで退いてくれたら凄く有難かったんだけどなぁ。
おっと、一応アキ君と瑞希にも確認を取らないと。私が二人に視線を向けると、こっちが確認を取る前に答えを聞かせてくれた。
「あ、相変わらずのようですけど……賑やかなので良いと思います!」
何がどう良いのかはわからないけど、全然良くないから。何を言っているんだこの巨乳ピンクは。
「もちろん行くよ。そもそも言い出したのは僕だからね。それに──」
アキ君に至っては言葉を句切ってまで言いたいことがあるようだ。どうせロクな事じゃないのは目に見えてるが。
「──今朝のこともあるしね! これくらいがちょうど良いんだよ!」
「良くねぇんだよクソ久!」
久々に荒々しい口調でキレた私は絶対に悪くない。
「着いて、しまった……」
学校から歩くこと三十分くらい。住宅街の一角にある、あってはならない大きな一軒家に到着してしまった。逃げたい……この場から凄く逃げたい……!
はぁ、今更どの面下げて入れば良いのよ……いや、アイツらに気を遣う必要はないんだけども。顔も見たくなかったし。
「懐かしいなぁ……誰かいるかな?」
「私も、最後に来たのは小学生の頃でしたから、凄く懐かしく感じます」
「お、大きいのね……」
「一軒家とは聞いたが、俺ん家の倍の面積はあるんじゃねぇか?」
「…………大家族?」
「裕福、なのじゃろうか……?」
何度か来たことのあるアキ君と瑞希は特に驚いてはいないが、今日が初めての四人はとても驚いている。これに関しては無理もない。私が同じ立場だったら呆然と家を見上げるだろう。
何せうちの家族は私を入れて六人もいるうえ、父と母以外の面々にはそれぞれ個室がある。もちろん、私の部屋もあるのだ。
さて……こっからどうしようか。本当に私はここから進みたくないんだけど。隙さえあれば全速力で逃げたいのです。
「が、頑張って下さい楓ちゃん! 私達がついていますからっ!」
「そうだよ楓。いくら芽衣さんがフリーダムでも、僕らがいれば何とかなるよ」
「だと良いんだけどね……」
意を決して、玄関の扉を開ける。どうか、どうか穏便に済みますよう──
「お帰り楓ちゃーん! お姉ちゃん寂しかったよ~!」
「嫌ぁぁ出たぁぁっ!」
──突然、身内のクズが飛び出してきた。
「離して姉さん! この年でスキンシップは恥ずかしいと思わないの!?」
「全然。そんなことよりお金貸してくんないかな? お姉ちゃん競馬と宝くじやりたくってさ」
「自分の金でやりなさいよそんなの! それにあんた、一等は一度も当てたことないでしょうが!」
飛び出してきたそのクズは、私によく似た顔立ちに姫カット、碧眼と黒のロングヘアーをしている。
最悪だ。どうして最初に出くわした家族がコイツなんだ。コイツに、小学六年生レベルのメンタルしかないコイツに、礼儀なんてわかるわけないのに。
私と姉さんのやり取りを見て、呆然とする一同。いや、アキ君と瑞希は見慣れた感じで苦笑いしてるわね。ぐぬぬ……! こんなのでも紹介しないといけないなんて……!
「こ、これが姉の──」
「ども、楓ちゃんの姉こと
す、凄い……。ここだけ聞くとまともな自己紹介みたいだ……。
だが、そこは簡単にはいかないのが姉さん。男子組を見て、言ってほしくないことの一つを平然と言い始めた。
「おっ! 君は清涼祭の時に楓ちゃんとアキ君と一緒にやんちゃしてた子だよね? 確か名前は坂本ゴリラ──」
「誰がゴリラだ! 俺の名前は坂本雄二だ!」
「そうだっけ? ごめんね~、私これでも人の名前を覚えるの苦手でさ。そっちの小柄な子がムッツリーニだよね?」
「何が苦手よ! ちゃんと名前知ってるじゃない!」
「…………最近、本名で呼ばれない」
ムッツリーニはムッツリーニでしょ。
「え? 清涼祭って……美雪さん、あの時学校にいたんですか?」
「おー瑞希ちゃん! 大きくなったねぇ~。それはそうと、私も文月学園の生徒だよ? 三年Aクラスに所属しているんだけど、知らなかった?」
ちょっと待って。その情報、私も今知ったんだけど。コイツが同じ学校にいるのは知ってたけど、まさかあの常夏コンビと同じクラスだったなんて……。
私が一人で納得していると、姉さんは私を見てこれまた言ってほしくないことを言ってのけた。
「なーるほどねぇ。うちのハゲとモヒカンを潰したのが君達だったのか……うん、今度Fクラスに遊びに行くね!」
「絶対に来るな」
お願いだから来ないでください。
島田さんと秀吉を軽く紹介してから金貸せとせがんでくる姉さんを力ずくで追い出し、改めて家の中に入る。
すると今度は台所の方から、酷く見慣れたババアが、エプロン姿のままこっちに走ってきた。まるで主婦のお手本だ……電話の声の主が直接お出迎えですか、そうですか。
「あら~、お帰り楓ちゃん。本当に友達ができたのね~」
「た、ただいま……母さん」
私を──いや、さっきの姉さんをさらに大人っぽくしたかのようなババア。見た目は二十代に見えるほど若いが、実際の年齢は四十半ばである。本当にババアなのだ。
「聞いてよ楓ちゃん。実はさっきあなたの名前を名乗る詐欺師から電話が来てね? お母さん、思わず警察に通報しちゃったわ」
「…………そ、そうなんだ」
ここでその電話の主は私だと言ったらどうなるだろうか。
「皆さん初めまして。楓ちゃんの母親の
だから……なんでお前らは自己紹介だけは普通にできるのさ……!
とりあえずあの二人は見なかったことにし、皆が母さんに頭を下げ終えたのを確認して自分の部屋に向かう。私の部屋、無事に残ってると良いんだけど……。
皆がついてきているのを確認しながら二階の一番奥にある部屋を目指して歩いていると、手前の部屋の扉が開いた。
「……あれ、楓姉さん? 無様に出てったんじゃなかったの……?」
「…………」
もうアパートに帰っても良いかな?
「久しぶり、有海ちゃん。元気にしてた?」
「大きくなりましたね、有海ちゃん」
「アキ兄さんに、瑞希さん……? それに、その人たちは……?」
「僕のクラスメイトだよ」
大まかな顔立ちは姉さんにほとんど似ているから説明はいらないとして……髪型はボサボサのセミロング、前髪は私ほどじゃないけど長め、そしてダルそうな目付きと時々見える八重歯。妹の有海だ。性格が陰気でクソで人見知りなのが玉に瑕か。
「ど……ども、このカスの妹、
一言余計だがやっぱり普通の自己紹介だ。私の伝言が功を奏してくれたのだろうか?
もちろん、相手にしたくもない。有海を可愛がる皆を置いて一足先に自分の部屋に急ぐ。もうすぐだ、もうすぐで私に安息が──
「おっかえりーバカエデ姉さん! 去年よりもバカに見えるけど何かあったのかな!? 惨めに失恋でもした!?」
「お前らのせいだよ……!」
──訪れなかった。仕事でいない父さん以外、オールスターですか……!
顔立ちはどこか姉さんの面影があるが、雰囲気的にはどっちかというと父さんに近い。陰気臭い有海とは異なり、表情もめちゃくちゃ明るい。髪型はツインテール、前髪は程々の長さ。一言で言うならハイテンションクズ。
「……うるさいわよ愚妹。皆さんに失礼でしょ……?」
「あっはー! 有海姉さんいたんだ! 影薄すぎて存在忘れてたよ!」
「……殺すぞ」
「せめて自己紹介しなさいよ。客人に対する礼儀すら知らないのあんたは?」
「楓姉さんに怒られるとか心外ですな! どうも皆さんはじめまっ! 末っ子の
テンションだけはまともに感じるが、言動がどうしようもない。なんで私の家族はこんなのしかいないんだろう? まぁ、だから私は一人暮らしを始めたわけだが。
せっかくここに帰ってくることはないと思っていたのに……帰ってきたらこれだよ。オンボロアパートが恋しいわ。
「あはは……相変わらずのテンションだね、恵ちゃん」
「お久アキ兄さん! そっちも相変わらずのバカ面で安心したよ!」
「そんな安心の仕方はやめてほしいんだけど」
やめるわけないでしょうが、コイツらが。
「なんていうか、水瀬さんの家族って……」
「ひ、酷い四人姉妹じゃのう……」
「…………個性的」
「……お前も、苦労してたんだな……」
お初の雄二、ムッツリーニ、島田さん、秀吉からそれぞれ慈悲と同情に満ちた視線を向けられた。皆の視線が、辛い……。
『……お二人さん、つ、付き合ってるの……?』
『ふぇ!? い、いえ、まだそういう関係じゃ……』
『瑞希さんは相変わらずクソあざといねっ! ぶりっ子か何かですか!?』
『それ以上はもう喋らないで恵ちゃん! 姫路さんが変なことを覚えたらどうするんだ!』
『ぶ、ぶりっ子ってなんですか……?』
『……もう、手遅れじゃない……?』
『まだ手遅れじゃないからぁーっ!』
アキ君と瑞希がいてくれて、本当に良かった。
執筆欲が湧いてきたおかげで書けた。ここまでのめり込むの久しぶりだなぁ。次はいつ書けるだろうか。