守矢神社で風祝をしている東風谷早苗です。今日はいいお洗濯日和で、半日かけてお布団などを干してました。
ちょうど洗濯も終わり、参拝客達が歩く参道を掃き清めてたら射命丸さんが山で迷われた参拝者を連れてきたんですが、なんなんでしょう。
参拝者なんでしょうか?あれ。
大きな双剣を背負ってますが赤い腰巻だけで、これからリングにあがるプロレスラーみたいなんですけど。
神奈子様以上に、覇気があるような…それにこの方、かなり高位の神格がある気がするのですが…荒神というかなんというか。
一緒にきた射命丸さんから聞いた所、クレイトス様と言う名で、スパルタの戦神とのこと。スパルタってギリシャのほうですよね…だからローマ風の衣装なんだ。
通りでスゴイ力を感じるはずです。私は日本のお二方しか知りませんので、外国の神様と会うのは緊張します。
あ、そそくさと射命丸さんが帰って行きました。クレイトス様は腕組みをして難しい顔をしておられます。なんだか話しかけるのが怖いなあ…。
「え、ええとクレイトス様、と呼ばせて頂いてよろしいでしょうか。こちらへはどういったご用件でいらっしゃったのでしょうか。ご参拝…ではないですよね」
「そうではない。ここにいる戦神とやらに会いに来た」
「そうですか。戦神というのは八坂様のことでしょう。それではお伺いしてきますので少しお待ちください」
神奈子様の神様友達でしょうか。海外の神々との交流もあるんですね。荒々しい神様のようですしどちらかというと諏訪子様よりのような気がするんですけど、同じ戦神という事で知っておられるのかも知れません。
神奈子様は今は拝殿にいらっしゃるのかな?私は拝殿へと向かい、神奈子様がいるお部屋へと向かう。そこでは神奈子様が諏訪子様とお二人で雑談をされていた。
「ん、早苗、どうしたんだ?」
「神奈子様。スパルタの戦神、クレイトス様がお見えですが」
「え?誰?」
「スパルタの戦神、クレイトス様です」
「すぱるた?」
私がお伝えすると神奈子様は諏訪子様と誰だそれ、と言ったように顔を見合わせる。
あれ?知らない方なのだろうか。でもクレイトス様は荒々しいが神格を持っているし、強い力を感じたのですが。
首をひねる神奈子様の横で、諏訪子様がどこからか紐で綴られた電話帳のように分厚い本を取り出して調べている。
諏訪子様がクレイトス、くれ、く、くと言いながらページをめくる所を見ると、あいうえお順なのだろうか。というか何を調べているのだろう。
「ああ、ギリシャ系列のクレイトスだね神奈子。知っているかい?」
「欧州方面の神族には面識はない。ましてやここは幻想郷だ。何の用だろう」
…なんだろう、あの本の中身をものすごく見たい。世界の神様の電話番号でも書かれているのだろうか?
宗教的に神様の世界はもう少し閉鎖的だと思っていたが、考えていたよりワールドワイドだったようだ。
もしや神奈子様達はその気になればキリストやブッダとかパールバティーとかにも連絡が取れるのだろうか。流石としか思えない。
「早苗、クレイトスはなんと言って来たんだい?」
「ほえ!?あ、はい、守矢神社にいる戦神に会いたいとおっしゃってましたので、てっきり神奈子様かと」
「あー。ちょっと闘いに来たのかな?あそこは良くも悪くも欲に忠実な神様が多いし。あそこと絡むと女癖の悪い主神ゼウスがいるからねえ。いろんな意味で一発やらせろっていってきそうだ」
そ、そうなんだ。戦神の間では、ちょっと買い物に、という感じで闘いをするものなのだろうか?ギリシャ神話といえば数名の神様の名前ぐらい、あとヘラクレスの物話ぐらいしか知らないが、ゼウス様の女癖の悪さは神様間では有名なのだろうか。ちょっとショック。
私がそう言うとヘラクレスもゼウスがどっかの王様から王妃様を寝取って出来た子だよ、と諏訪子様が言われた。更にショック。
「え、えーと神奈子様。それではクレイトス様は」
「あ、私から会いに行くよ。あそこ当りの神は空気読まないし今は戦いたくない。それに万が一この拝殿で暴れられても困る」
そういって神奈子様が立ち上がり拝殿から出る。私は先に立ち、クレイトス様が待っている場所まで案内を行う。
お二人はやはり初対面のようで、軽い挨拶のあとお二人でいくつか話をし、私は後ろで諏訪湖様と共に、二人が話しているのを聞く事にした。
クレイトス様は神奈子様が男神なら戦おうと考えていたらしいのだが、女神の神奈子様を見たクレイトス様は気を抜かれたようになり、神奈子様とギリシャの話で盛り上がっていた。おもに主神の女癖の話だが。
ギリシャは行かないわー主神がアレだから女神の私行きたくないわー。みたいな事を神奈子様は言っていた気がする。
クレイトス様は、中でもゼウスの女癖や気まぐれに、ものすごく同意されていてびっくりした。同じギリシャの主神ですよね?
お互いマジ喧嘩で2,3回剣で刺されたこともあるらしい。どういう確執があったのだろうか。喧嘩中にアテナもうっかり刺しちゃったとか聞くと、もうなんて言っていいか分からない。ものすごい聞いたことある名前なんですけど。なんか…聖闘士が来ちゃいそうです。ギリシャの神様は仲が悪いんでしょうか…。
神奈子様はそれからここへどうやって来たのかと聞かれましたが、どうやらクレイトス様は何かのきっかけで幻想郷へと迷い込んだらしい。これは霊夢さんのお仕事でしょう。
そう、私が考えていた時、ぐらり、と大きな地震がありました。外にいるにもかかわらずどんどん大きくなっていく揺れに、私は立っていることが出来ず四つん這いになります。お三方は大きな揺れにもかかわらず、驚きもせずに揺れが収まるのを待っています。しばらくすると揺れが遠ざかるように小さくなり、収まりました。幻想郷に来て地震なんて初めてです。一体どうしたんでしょう。
「今のはなんだ」
クレイトス様が神奈子様達に問いかけます。確かにギリシャとかは地震も少なそうですよね。慣れるぐらい地震が来るのって日本とかぐらいですし。
ですがお二人にも今の地震は分からないようで首を横に振りました。
「今のは自然の地震じゃないね。地下の地霊殿でまた何か起きたのかな?」
諏訪子様がそう言ってじろり、と神奈子様へ視線を送ります。以前、神奈子様が地霊殿のうつほさんに力を与えた為に異変が起こった事があるのですが、またなにか神奈子様がしたのでしょうか…。
「わ、私は何もしていない!天人の仕業かもしれないだろ」
神奈子様、そんなに動揺しないでください。何かしてそうに見えるじゃないですか。
「ちれいでん とは何だ。」
「ああ、元地獄にある妖怪の住処さ、地獄というのはそっちでいう冥界だよ」
地霊殿を知らないクレイトス様に諏訪子様が説明される。それを聞いた後、クレイトス様は眼光鋭い目をさらに細めた。
何か気になる事でもあったのだろうか。
「まあ私達が考えても仕方ないだろう。クレイトス。それで先ほどの話だがここから元の世界に戻るのは博麗の巫女の仕事だ。そこにいけばどうにかしてくれる。早苗、案内してやりな」
「え、はい。分かりました」
未だ四つん這いのまま這いつくばっていた私は神奈子様の言葉で、慌てて立ち上がる。拝殿を見ても先ほどの地震の影響はないようだ。
クレイトス様はこちらを睨むような視線で見つめてきます。うう、私、何か悪いことしたのでしょうか…
「行くぞ小娘」
そういうと、クレイトス様は拝殿横にある崖っぷちで飛び降りようとしてらっしゃいますけど、飛べないんじゃ…え?あ、飛んだ…ん?クレイトス様の背中から、大きな黒い翼が生えて滑空していきます。おお。グライダーみたい。妖怪の山の麓にある魔法の森の方へと…って私も行かないと!
私は後を追うべく空へと舞い上がり、クレイトス様の後を慌てて追いかけた。