大洗"学園"の、ある自動車部員の物語   作:けんとん

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お待たせしました。

冒頭に映画ネタがあります。


第十八話 Distress in Action

牧人が生焼けの海老を食しておなかを壊してから数日後。

 

 

 

「というわけで、2回戦の相手はアンツィオ高校だ。戦車が依然見つからないのでこのままの面々で参戦となる」

 

練習開始前、戦車倉庫に集まった戦車道関係者全員を前にして桃はそう宣言した。

 

 

 

アンツィオ高校。

 

本籍は栃木だが海なし県であるため、母港として静岡県下の港を用いた高校。

 

ローマの街並みを再現した街路や、トレビの泉らしき建造物などを備える艦にある高校。

 

 

その設備にある通りイタリア風の学校であり、生徒達の"食"に対するこだわりは他の追随を許さない。

 

…しかし、"食"以外に対するこだわりは戦車道も含めて他の追随を完全に許している。

 

 

戦車道においてはイタリア製の戦車を用いているが、やや戦力不足感はあるが

 

「ノリと勢いに任せられると手ごわい」という評価が下されているあたり、チーム全体としての評価は決して悪くない。

 

 

 

 

 

「気を抜いてはならぬ!絶対に勝つのだ!いいな!腰抜け共!」

 

『はい!』『Yes,Ma'am!』女子の掛け声と、男共のテンションの高い声がグラウンドに響き渡った。

 

 

 

「…腰抜けはどっちですか桃ちゃん先輩」光がそう呟いた刹那、

 

「誰だ!どのクソ野郎だ!私の事を桃ちゃんと呼んだ豚以下の存在は!」

 

「自分であります、マム!」光が敬礼する。

 

「頭がイカれるまで戦車を整備し続けろ!それ以外におまえに許される道などないのだ!」「イエス、マム!」

 

「…ももの しゅつりょくが あがった!」今度は三菱だ。

 

「おい!このロン毛野郎が!じっくりかわいがってやるぞ!それともお前を的にしてやろうか!38tで打ち抜いてやろうか!」

 

 

 

「ふふっ、桃ちゃん、ノリノリじゃない」「いいねーハー○マン軍曹のマネも。三菱くんロン毛じゃないけど」「…こんな会話が続けられたら」

 

本人には聞こえない声で生徒会の2人はそう会話した。

 

 

===

 

そしてその日の練習が終わった。

 

ここからが整備隊の出番だーーという所で、戦車から出てきた西住みほを乗員の面々が一斉に囲った。

 

「どうしたらうまくカーブが曲がれるようにーー」「躍進射撃の射撃時間の短縮についてーー」「臀部がこすれて痛いんだがどうすればーー」「戦車の中にクーラーってーー」

 

 

「…おい、兎の面々は後にしてやれよ」今日は特製のものではなく緑色のツナギを着た、顔色のいたく悪い牧人が割って入った。

 

「隊長さんがお困りじゃないか」「ふえっ、私はーー」「僕に教えられることがあったら、できる範囲で教えます。こうみえても戦車史には強いので」

 

「本田殿の知識はすばらしいですからね!」「ありがとうございます、秋山さんの方がお詳しいですけどね」「えへへ…」

 

 

 

「じゃあ牧人に聞こーっと」「整備の邪魔だけはしないでくれよ」「知ってまーす」

 

 

大洗の倉庫も、しばらく前と比べるとにぎやかになった。

 

 

===

 

 

 

「燃料がこれだけ、演習用の弱装弾が各戦車3ダース、あと整備用のグリスが1ダース…こんなもんでしょう」「まぁ、さすが部長さんね」「それほどでもないですよ」

 

練習の後、達也は華と共に必要資材のチェックを行っていた。するとそこに副会長が書類を持って来た。どうやら古い戦車に関する資料のようだった。

 

 

「やっぱりお花があるといいねぇ。私も華道やってみたいなぁ」「小山先輩、お花の名前ついてますものね」「…柚子、でしたっけ」なんとか会話に混ざる。

 

 

 

そして3人で大洗学園の古い戦車に関する資料をひも解いていたのだがーー

 

 

 

いろいろおおきい2人に挟まれて仕事にならなかった。

 

(…五十鈴さんはまだ分かるよ。まだ高校生ならこの大きさは…うん。問題は小山副会長だよ!なんだよあの大きさはよ!絶対女子高生じゃないだろ!あと動くたびに揺れるのやめろよ!!!)

 

 

…女子嫌いだった筈の彼の脳内にも雑念が湧いて出ていた。

 

(俺もこんなことを考えるようになってしまったか…アイツもかなり変わっーー)

 

 

 

「あの、書類上ではほかにも大洗に戦車があった形跡が…」五十鈴さんがそう宣言した。

 

「ほぉー」会長が返した。

 

 

(…皆変わった、のか。俺も変わらなきゃダメなのかもな)

===

 

翌日。

 

「第一回大洗の使いあらへんで!この目に命を懸けろ!チキチキ!戦車探し大会~!」『わー!!!』

 

「あの、本田さんひとついいですか?やっすいパロディやなぁと」

 

「なんでや!」パコーン

 

 

まだ学園艦内に戦車があるかもしれないという情報を入手した戦車道関係者は、生徒会からの命を受け再び戦車の捜索を始めようとしていた。

 

前回戦車を発見した場所には戦車はないだろうから違う場所を探せ、と会長が高らかに宣言したので、

 

「というわけで我々ウサギの面々と武部先輩を含めた9人はですね、これから学園艦の内部を捜索しにいく訳ですが」

 

「皆携帯電話は持ったかー?万が一のために連絡は取れるようにしておけよ」

 

『はーい』「乙女にとって携帯は命だからね!」

 

 

約一名視点がずれていたが、捜索開始。

 

 

しかし彼らは慢心していた。懐中電灯を持たずに学園艦の内部へと潜入していったのだ。

 

 

 

 

しばらくして。

 

 

「戦車かどうかは知らないけど、なにかそれっぽいものを見たことがあるよね」「たしかもっと奥の方だった筈」

 

「本当ですか!ありがとうございます」船内を監視していた船舶科の生徒からの有力な情報を入手した。

 

足取りも軽やかになった9人は、学園艦の奥を目指して歩む。

 

 

 

…しかし。

 

 

「ここ、どこ…?」「迷っちゃったみたい」「あい…こわい…」「…」「…何か言いなさいよ、牧人」「…まさか迷うとは」「…」「研人…」

 

「…麻子にメールしてみるから、皆落ち着いて。こんなときは下手に動くともっと危険だから、ね」

 

『はい…』

 

 

広い学園艦の中で、彼らは遭難してしまった。

 

 

「…よし。あとは圏外じゃないことを祈るだけ…!」

 

 

 

===

 

「ニャオーンwwwニャオーンwww」

 

 

from:沙織

to:麻子

件名:遭難しちゃった

本文:学園艦の底で遭難しちゃった 今どこにいるか分からない すぐに助けに来て

 

 

「…1年生と沙織が遭難したらしいぞ」ルノーb1Bisと、IV号用の砲塔を発見して歓喜の声を上げていた一同から驚きの声が上がる。

 

 

「まずいな…」「もうすぐ日も暮れるってのに」自動車部の面々も困惑の声を上げる。

 

 

「何か表示があるはずだ。それを探して伝えろと言え」桃の命令に対し、麻子がメールを打ち始めるのと同じタイミングで

 

 

「はい、これ船の地図ね」会長が1枚の紙をみほに渡した。「捜索隊、行って来て」

 

 

「…会長、ひとついいですか」達也が言う。「なーに?」「俺達にも行かせてください。少しでも力になりたいんです」

 

 

「わかったよー。じゃああんこうの子たちに2人ほどついてってあげてね」「はい。光、頼めるか」「言われなくても」

 

 

こうして、あんこうの面々に達也と光を加えた6人による捜索隊が結成された。

 

 

===

 

一方の9人は。

 

 

「あっ、携帯が…」「俺達もバッテリーが死にましたね」「これじゃあ…」

 

不幸にも沙織を含めた全員の携帯のバッテリーが切れ、最初に送り届けたメールさえも届いているかどうかが分からなくなった。

 

 

 

明かりもなく、どこにいるかも分からない、暗闇の空間に9人は取り残された。

 

時間が経つにつれて、辺りは暗く、静まり返っていく。

 

面々の口数も減少していった。

 

 

 

「おなか、すいたね」「うん…」「今晩は、ここで過ごすの…?」「うっ…」優希は泣きかけていた。

 

 

 

普段の元気のいい様子はどこへ行ってしまったのか。優希につられて5人の少女の目から涙が零れ、嗚咽が混じった声が辺りに響く。

 

「…」紗希もうつろな目をして、あさっての方向を向いてしまっていた。

 

 

 

男2人にとっても不安に押しつぶされそうなのは同じであり、

 

「…どうにかできないのか」「…こいつらの不安を取り除くことが最優先事項だ」「でもどうやって」「…」「…無いよ、な」

 

会話の1つ1つに、不安と諦めが入り混じっていた。

 

 

 

しかし、武部沙織は違った。

 

「皆落ち着いて。大丈夫だって! …そうだ!私、チョコ持ってるからみんなで食べよ!」

 

この状況において、自分の身を顧みずに強く振舞っていた。

 

 

 

その振る舞いに、男子2人の心が動いた。

 

「チョコレートですか!ウサギさんの女子の面々に先にあげてください」「えっ、でも君たちいいの?」「僕達は男なんですから」「こんなもんぐらい平気ですよ」

 

「…やっぱり男子って強いね。ありがとね」

 

そう言うと沙織はチョコレートを泣きじゃくる5人とあさっての方を向く1人に渡した。

 

これでポケットに入っていたチョコレートは全部だった。彼女は自分の食べる分すらも、後輩のために渡した。

 

「…これが俺達のできる唯一の事なんだろう」「…そういうこと、なんだろうね」

 

 

 

 

それからどれだけの時間が経過しただろうか。

 

糖分を摂取したことによる安心感かは分からないが、1年生5人は少なくとも泣き止んでいた。

 

 

絶望的な状況に変わりはなかった。このまま助けなど来ないのではないか。

 

9人がそろって絶望しかけていたその時ーー

 

 

 

 

背後から、懐中電灯の光が照らされた。

 

 

 

 

「あっ!」みほの声だった。

 

 

面々が声のした方を見ると、そこにはIV号戦車の乗員である4人と、自動車部部長である達也、それに光の姿が見えた。

 

 

 

それまでの不安に押しつぶされそうであった9人の表情が、安堵の表情に変わった。

 

 

「やったぁー!」「救助隊だ~!」「助かった~!」5人が、今度は違った意味で涙を流しながら沙織に抱き着いた。

 

「みんな…もう、大丈夫だからね」沙織は優しく微笑み返す。

 

 

 

「部長…それに、光先輩まで」「ご心配をおかけしてすいませんでした」「すいませんでした!」ヒューマンコンビは駆け寄ってきた先輩2人にそう謝ったが、

 

「いや、みんな無事そうだし、よかったよ」と達也が優しく声をかけた。

 

「ぶちょお~!僕一生部長についていきますから!」感極まった牧人が、涙ながらにそう宣言した。研人も、

 

「…ありがとうございました。この恩は整備で返します、から」目頭が熱くなるのを感じていた。

 

 

 

「…武部殿も片山殿も、モテモテです」「希望していたモテ方とは違うようですが…」遭難していた面々には聞こえていなかったようだ。

 

すると、「あっ、あれは…」みほが何かに気づいた。

 

 

 

 

遭難していた面々の背後で妖しく黒く光るその砲塔はーー

 

 

 

かつてティーガーIとの制式採用合戦に敗れた、ポルシェティーガーのそれであった。

 

 

 

 

 

しかしこの時、光という男だけは

 

(女子の皆から愛される武部さん…いいな!むっちりしてるのもいいな!あんな優しい女子なんてそうそういない!)

 

ほとんどいつも通りのようだったが…

 

 

 

沙織に春の予感がしていた。




<はじめに>

SteamのセールでCiv5買って始めたら執筆と睡眠時間がガリガリ削られてて危機を感じている

<タイトルについて>

Distressは遭難という意味です。

<フルメタルジャケット>

桃ちゃんに言わせるのにだいぶ表現を選びました。

<ガキ使>

笑ってはいけないシリーズとガルパンのコラボSSもとても気に入っています

<遭難>

実際に遭難した時は下手に長距離移動をせず、暖を取って動かないようにすると生存率が上がると言われていますが…

<ポルシェティーガー>

この戦車が登場するということはつまり。



<次回予告>


最高っすよ姉さん!
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