騎士王がロキファミリアに入るらしいですよ 作:ポジティブ太郎
酒場の目の前――大通りには、異様な空気が立ち込めていた。
黒衣の騎士と狼人の激しい睨み合い。解き放つ殺気は先の比ではない。
繰り広げられるであろう戦闘の予兆が克明に感じられていた。
無音の間が続き、両者の距離は一向に縮まらないと思われたが。
突如凄まじい速度で漆黒の影が飛び出した。
獣人の青年――ベートに向かって矢の如く一直線に疾駆するアルトリア。
戦闘開始から、一度も引き抜くことがなかった愛剣に手を掛ける。
背中に携えている鞘から、『シュナイダー・ブレード』を引き抜き、振りかぶる。
相手を両断する為の無慈悲な一撃。ベートが避けられたのは奇跡に近かった。
瞬間的に感じた『死』を逃れるために、上体を捻ったことで剣筋から外れていたのだ。
ベートは反撃に転じようと地を蹴り、アルトリアに接近。
わき腹狙いの横蹴りを放つが、長剣に弾かれ失敗に終わる。
「くたばりやがれっ!」
「…………目障りだ」
ベートの追撃。最大限の加速から放たれる右蹴り。
アルトリアは蹴りが自身の腹部に当たる直前――斬った。
ベートの右足を包んでいる装備――『フロストヴィルト』が瞬時に砕けた。
特殊金属ミスリルを加工して作られ、強度は随一。
それを意図も容易く……。
ベートの右足は装備を失うだけに留まらず、衝撃でミシリと骨の砕ける音が鳴った。
致命傷だった。戦闘においての機動力の源である足を失えば最早戦う術はない。
「ぐがあああああああああああ! くっそがっっ!」
「足は潰した。最早貴様に勝ち目はない」
グニャリと曲がり正常に機能しない足を抱えながら、ベートは苦悶する。
アルトリアは、そんな様子を欠片も気にする素振りは見せずベートに近づいていく。
地べたに横たわるベートの胸倉を掴み、上空へと投げ飛ばした。
手に握る剣を納刀し、虚空から漆黒の剣を出現させる。
暗黒のオーラを剣先に集約させ、構えるは
「【『卑王鉄槌』、極光は反転する。光を呑め……!」
相手を慈悲なく葬り去る歌が紡がれていく。
暗黒のオーラを纏った剣は、急速に下降を始めたベートに向けられる。
「【
アルトリアは今まさに、ベートを冥土送りにする一撃を放たんとしていたが。
「アルトリアッ! やめるんだーーーー!!」
アルトリアの凶行を止めるためフィンが飛び出す。
アルトリアの突然の暴走状態に戸惑っていたフィンだが、状況の変化に意識を引き戻されていた。
彼にしては珍しく冷静さを欠いた表情。考えるよりも先に体が動いていた。
「………………………………」
剣を静かに下ろす。暗黒のオーラは飛散し、消滅する。
そのまま音も立てず鞘へと納刀。
ベートは、ドシャッと痛烈な音を立て地面へと墜落した。
そんな彼の姿を横目で見て、ため息を一つ。
「…………興がそがれた」
「なん……だと…!」
「……最後に一つ、教えてやろう」
表情一つ変えることなくハッキリと告げた。
「私が一番嫌いな者は『弱い者』だ。体だけではない、心が弱い奴の事だ。そう――貴様のようにな」
ベートの顔が絶望に染まると同時に、過度なダメージの蓄積によって失神。
同ファミリア団員による喧嘩は、唐突に幕を閉じた。
アイズ達が一人去っていくアルトリアを呼び止めようとするも、リヴェリアに止められる。
「今は一人にさせてやれ」、と。
一方倒れているベートの傍らには、
それは、密かにラウルがベートの余りの悲惨さに同情し、置いた物だった。
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アルトリアは、一人北のメインストリートの大通りを歩いていた。
深夜に差し掛かろうとしている為、辺りを照らすのは魔石灯の微かな光のみ。
そんな中、彼女は探していた。現在感じている極度の空腹を満たしてくれる店を。
願わくばハンバーガーの様なジャンクフード。とにかく、手早く食べれる物が食べたい。
彼女の意図を読んでいたとばかりに現れたのは一軒の出店。
看板には、ジャガイモをモチーフにしたキャラクターの絵柄が描かれている。
店から漂う匂いに食欲を刺激される。
足が思わず露店へと向かって行った。
「いらっしゃい! おや、こんな夜遅くに女の子一人かい?」
活力溢れた来店の挨拶をするのは、一人の小さな女の子。
真っ白な布を体に巻きつけたような質素な服装。
小柄な体に似合わない豊満な胸。
そんな少女が目の前に立っていた。
「腹が減った。何か食べ物を」
「分かったよ! それじゃあ、ジャガ丸君はどうだい? 塩味でとっても美味しいんだぜ」
「それで頼む」
店奥に店員が下がり数分後。温かな湯気が立ち込める袋を持ってきた。
アルトリアはそれを無言で受け取り、中を覗く。
ジャガイモを油で揚げた簡素な食べ物だったが、彼女の食指を動かすには十分だった。
「もきゅもきゅ、もきゅもきゅ」
口の中で咀嚼する。
塩加減は絶妙、外はカリカリ、砕けたジャガイモも申し分ない。
アルトリアの手は止まらない。何時の間にか、袋に入っていたジャガ丸君5つはなくなっていた。
「美味しかったかい?」
興味津々とばかりに目を輝かせる店員。
「美味!!」
目をキラリと輝かせ上機嫌な声で答えるアルトリア。
彼女の感嘆の声はまだ止まない。
「こんなに旨いジャンクフードがこの世界にあったとは。店員、この食べ物をあと1ダース…いや、2ダース頼む。テイクアウトでな」
「えぇ!? そんなにかい! でも、気に入ってくれたなら嬉しいよ」
「ああ、それと勘定だ。釣りはいらない」
「え? これ、10万ヴァリスって……! ちょっと君、多すぎるぜ!!」
「……この店は私の贔屓にすることにした。毎日来るから、その時はジャガ丸を作っておいてくれ」
アルトリアは本来の値段よりも10倍以上の金額を支払う。
どうやら、この店は彼女のお眼鏡にかなったらしい。
少女の方は目を白黒させていたが、純粋な好意として受け取った。
「ところで君。僕は【ヘスティア・ファミリア】主神のヘスティアって言うんだけど、どうだい? 僕のファミリアに入らないかい?」
「残念だが断らせてもらう。私は既に入っているのでな」
「えーー!! そうなのかい。それじゃあ仕方ないか。もしよかったら、また食べに来ておくれよ」
「無論そのつもりだ。では、先を急いでいるのでな。これで失礼する」
店員との会話を終え、アルトリアは足を速めた。
目指すは、白亜の巨塔バベル。
アルトリアは、魔石灯が照らす夜道を、ジャガ丸片手に走り出した。
次回で一応二章完結ということにさせていただきます。
新章は、『怪物祭』編の予定です。
その前に、閑話でエロ回挟むかも。