拙い文章かと思いますが、よろしくお願いします!
2020/04/07:全体的に修正しました
遅れてきた新入生
『魔法』。
それが伝説や御伽噺の産物ではなく、現実の技術となった現在。
2095年4月、優秀な魔法師を輩出している国立魔法大学付属第一高等学校では入学式が行われていた。
そこでは新入生総代である司波深雪の神懸かった美貌に男子も女子も関係なく誰もが見とれていた。
そして、その美貌に惑わされず、実の妹の姿を誇らしく思っている司波達也がいた。
だが、達也を含めほとんどの新入生が『あること』に気付いていない。
それは、新入生の定員が二百名であるにもかかわらず、入学式に出ているはずの学生が一人だけ足りなかったことに……。
その最後の一人はと言うと……。
「あの野郎! 時間ピッタリに間に合うとか言って嘘つきやがったな!」
最後の新入生である少年は我武者羅に走っていた。
「入学式が始まる時間に着けるから安心しろって嘘じゃねぇか! 入学式が始まる時間に空港に着くようにしやがって! あのクソ兄貴の野郎、ふざけんなっ!」
自分を罠にはめた人物にひたすら文句を言いながら少年は走り続ける。その速さは通り過ぎた人の服や店舗の暖簾をはためかせる風のようだった。
「入学式早々遅刻なんてシャレにならねぇよ、マジで!!」
ドップラー効果が発生するほどの速さで文句を言いながら少年はひたすら走り続ける。
新たな高校生活を送る国立魔法大学付属第一高等学校へ向かって、少年はひたすら走り続ける。もう既に入学式は始まっており、間に合わないと分かっていても彼は諦めずに走り続けるのだった。
入学式終了後、講堂の外では二人の女子生徒が今日から後輩になる少年少女達を眺めていた。
「どうした真由美、随分と嬉しそうじゃないか?」
第一高校の風紀委員長である渡辺摩利が友人である生徒会長の七草真由美が笑みを浮かべていることに気付き問いかける。
「だって、私が求めている人材が新入生総代にいるんだもの。それが嬉しくって」
「ああ、彼女か。確かにあの答辞は良かったな」
二人が話しているのは新入生総代である司波深雪のことだ。
彼女は答辞に「等しく」「一丸となって」「魔法以外にも」などと言ったこの学校の風潮に異を唱えるフレーズを含めていたのである。
普段であれば、それに反感を抱く者もいるだろうが、今回においては深雪の美貌によってそれを考える余裕すらなかったため、特にざわつくことは無かった。
真由美はその答辞を聞いて、彼女を是非とも生徒会にスカウトしたいと思っていたのである。この学校が抱えている問題を自分の代で解決するために、真由美は深雪に生徒会のメンバーとして是非とも参加してほしいのだ。
「そろそろ司波さんが出てくると思うから生徒会に勧誘してくるけど、摩利も一緒に来る?」
近くに生徒会副会長である服部刑部(少丞範蔵)が現れ、そんな提案をする真由美。
「そうだな、まだすることもない……」
特にこの後の予定もない為、真由美の提案に乗ろうと思った矢先、摩利の携帯に着信が入った。
着信相手を見て、摩利はギョッと目を開ける。
彼女の珍しい反応を見て、真由美は訝しんだ。
「はい、渡辺です」
恐る恐る電話に出る摩利。普段強気な性格である彼女にしては珍しく、今回の電話の相手に対し委縮していた。
「はい、分かりました。それでは」
一通り話し終えると緊張が解け、軽く息を吐いた。
「どうしたの? 随分緊張してたみたいだけど……」
摩利の様子に心配した真由美は尋ねる。近くに来ていた服部も摩利の普段とは異なる態度を見て、どうすれば良いのか困っていた。
「先々代の生徒会長からだ」
「……ああ」
摩利の答えに真由美は納得した表情をする。
昔のことを思い出すと、摩利があのような態度になるのは分からなくもないのだ。それほどまでに嘗ての生徒会長は彼女達に影響を与え続けたのである。
「それで、先輩からはどういう用事だったの?」
昔のことを思い出す前に話題を変えることを真由美は摩利に勧める。
「ああ、どうやら『あのバカ』が入学式に間に合わなかったらしい」
『あのバカ』という単語で真由美は誰なのかすぐに分かってしまった。それほどまでに彼女の頭の中ではバカのつく人間は一人しかいないのだ。
「そう言えば、会場にいなかったわね。てっきり風邪でも引いたのかと思ったけど……。それはないわね、絶対。寧ろ風邪を引いたら世界の滅亡じゃないかしら?」
会場にいた新入生達の顔触れを思い出してみると、確かに話題の人物がいなかった。病欠と思っていたが、その人物が病気にかかる姿を真由美は想像できない為、それはないと断言出来た。
「で、そろそろ着く頃だから迎えに行ってやれってさ」
「あらあら、あの人も過保護ね」
「仕方ない、あの人は弟と妹には甘いからな。すまないが……」
「ええ、先輩の頼みだったら断れないわね。勧誘は私達だけで行きましょうか。ね、はんぞーくん」
真由美は服部を連れて生徒会の勧誘へと赴いた。
「あいつ、初日から問題を起こすとは……。覚悟は出来てるだろうな」
そして摩利は人には見せられない邪悪な笑みを浮かべて、校門へと向かうのだった。
第一高校の校門付近では息を荒げて、膝に手をついている少年がいた。
制服はまだ新品であり、新入生であることは間違いない。だが、中学生を卒業したばかりという割にはかなり体格が良く、ざっと身長は170cmは余裕で超えていた。
そして少年の制服の左胸には八枚花弁の紋章が描かれている。
「ねぇ、あの子……」
「入学式早々遅刻なんて恥ずかしくないのかしら」
近くにいた上級生たちはひそひそとその少年について話している。本校の生徒はそれほど多くはない為、見知った顔とそうでない者の見分けは割とつきやすいのだ。
(こっちも好きで遅刻したんじゃないんだがな……)
息を荒げている少年が聞こえてくる上級生の言葉に怒りが募ったが、声に出さずどうにか怒りを抑え込む。
普通の高校では遅刻程度でそこまで注目を浴びることはないかもしれないが、ここは魔法科高校。一般的な高校と訳が違う。その最たる一つが、この国立魔法大学付属第一高等学校にはある『一科・二科制度』である。
それは魔法を教えられる教員が圧倒的に少ないために定められた制度。教師から魔法の個別指導を受けられる定員二百名中、上位百名の『一科生』と呼ばれ、残り百名は『二科生』と呼ばれ、『一科生』の補欠とされている。
区別をつけるために『一科生』の制服の左胸には八枚花弁の紋章があり、それによって一科生を『ブルーム(花弁)』、二科生を『ウィード(雑草)』と呼ぶようになっていた。
このような差別があるが故にこの第一高校では『二科生』を見下す『一科生』が少なからずいるのである。
この少年が『二科生』であれば、『一科生』の上級生から蔑まれた視線を向けられただろう。しかし左胸の紋章を見ただけで、周りから向けられる視線は全く異なるものとなっていた。
少年に向けられている視線は一言で言えば同情であった。何か理由があって遅れたのだろうと、同情する視線が周りから伝わってきた。
その視線が少年をやや不機嫌にさせた。
「君、新入生だね?」
そんな中、一科生の上級生であろう男子生徒が話しかけてきた。
(こんな紋章があるだけでここまで扱いが違うものなのかね……)
自分の制服にある紋章を見てそう思ったが、その考えはすぐに消え去った。何故なら、その上級生には『風紀委員』と書かれた腕章があったからである。
恐らく新入生の案内をしていた為か随分自然に話しかけてきた。
「はい、急用がありまして、時間に間に合いませんでして」
少年は簡単な事情を説明すると上級生は納得した。
「ああ、なるほど、それは災難だった。職員室に行けばどうにかなると思うんだが、場所は分かるかい?」
「いえ、まだ校舎の構造を理解してませんので」
入学したばかりの少年には、校舎のどこに何があるのかなど知る由もない。
「なら、自分が案内しよう」
「その必要はない。案内は私がする」
突如、上級生の後ろから女性の声が聞こえた。
(げっ……)
その声を聞いた瞬間、少年は嫌な予感がした。
今すぐダッシュで逃げようと思ったが、すでに遅いと諦めてその衝動を抑えた。
そして、目の前の上級生の後方を見ると彼の予感が的中した。
「げっ、出やがった」
「ほう、私をお化け扱いとは大した度胸じゃないか」
摩利を見て少年は嫌そうな顔をしていた。
「委員長、どうしてこちらに?」
「なに、そこのバカがここに来ると連絡があってな。私が直々に迎えに来ただけさ」
「バカ……?」
困惑した顔をする上級生を他所に少年は摩利の言葉に反応した。
「誰がバカだ!」
「君、先輩に向かってその口の利き方は……」
上級生が少年に注意するが、摩利は特に気にしていない様子であった。
「気にするな沢木、そこのバカとは随分前から知り合いでな。昔から私にはそんな態度になるんだ。今回は大目に見てやってくれ」
どうやら、目の前の上級生は沢木と言うらしい。
(ん、沢木……?)
その名前を聞いて、少年は何処かで聞いたことがある名前だと思ったが、直ぐに思い出せなかった。
「委員長がそう仰るのでしたら。だが、今後は注意するように」
「はい、分かりました。……あっ」
すると少年は何かを思い出したかのような声を上げる。
「あの……沢木先輩、一つ聞いてもいいですか?」
「ん、なんだい?」
突然の質問に眉をひそめる沢木。
「もしかして、沢木先輩はマーシャル・マジック・アーツ部に入ってませんか?」
「確かにそうだが……」
少年の質問に対し、沢木は肯定すると、少年の目は一瞬にして輝いた。
「じゃあ、先輩がマーシャル・マジック・アーツ部のエース、沢木碧先輩なんすね! やぁ、会えて光栄です!」
突然、少年のテンションが上がったことに驚く沢木。
それを見た摩利はやれやれという顔をしていた。摩利は沢木のような人物にあったらこうなるだろうと粗方予測していたのだ。何せ彼女はその前例を目撃したことがあるのだから。
「前の大会の試合見て感激しました。いやぁ、あんな攻撃の仕方があるなんて思いませんでしたよ! 特に準決勝の試合が……」
「そ、そうか。あの時の試合を見てくれてたのか」
「ええ! 相手の攻撃を見切ったカウンターは見事でしたよ。爺さん達も珍しく関心するほどでしたし」
徐々にヒートアップしていく少年に沢木は摩利に顔を向け、助けを求めた。
それに摩利は気付いたのだが、今は笑いを堪えるので必死だった。
しばらく見学していようと思ったが、周りの視線が集まりだした為、摩利はそろそろ少年を止めることにした。
「そろそろいい加減にしろ。止めないなら真由美を呼ぶぞ」
摩利がそう言った瞬間、マシンガントークをしていた少年の口が一瞬にして止まった。
「その冗談、マジできついですよ、
少年が摩利を
「うぐっ……」
ほぼ鳩尾であったため、少年は腹を抑えてうずくまった。
「誰が
腹を殴るだけでは飽き足らず、摩利は少年の左右のこめかみを両の拳を回転させながらプレスする。
「イデデデデデデデデ……鋼太郎って誰ですか」
「お前の先輩だ!」
「あの、流石にそれくらいでよろしいのでは……」
沢木が摩利を止めようとするが、まったく止める素振りを見せなかった。
「大体、お前は何で遅刻なんかしてくるんだ! あの人の頼みじゃなかったら迎えになんぞ来ないぞ!」
「こっちも色々あったんですよ! 好きで遅刻する訳ないで……」
「口答えするな!!」
「イデデデデデ……。マジでヤバい、それマジでヤバい! 何か出る! 何か出るよ、これ!!」
「あの委員長、そろそろ止めた方が……」
沢木にそう言われ、一応手を止める摩利。
ようやく解放された少年は今度は両方のこめかみを抑えてうずくまっていた。
「やり過ぎでは?」
「なに、気にするな。乱暴に扱っても問題ないと許可が下りている」
「誰からっすか。いや、やっぱ答えなくていいです。予想がつきました。後でブッ飛ばしときます」
さらりと酷いことを言う摩利に、少年は誰がそんな許可を出したのか聞こうと思ったがすぐに予想が付き質問するのを止めた。
こめかみをさする少年を他所に沢木はずっと放置されていた疑問について話題を変えることにした。
「ところで委員長、彼は?」
新入生であること以外、何も知らなかった沢木は少年のことを尋ねた。摩利の方もそう言えば忘れていたなという顔をしていた。
「
「イデデデ……、了解です。あね……渡辺先輩」
危うく姐さんと呼ぼうとして睨まれ、即座に言い直して、少年は沢木に自己紹介することにした。
「では改めまして。自分は
丁寧にお辞儀をして挨拶する篝禅十郎と名乗る少年。
名前を聞くと沢木は彼がどうしてあそこまで自分に興味を抱くのか理解した。
「
それを見た摩利は彼の考えが正しいと頷く。
「そう、剣術で有名な『千葉家』に並ぶ徒手空拳の名門『篝家』の三男だよ、そいつは」
この日をもって、篝禅十郎は晴れて第一高校の生徒となった。
だが、この時誰も気付いてはいない。今年の一年は明らかに異常であると。
新入生総代を務めた才色兼備の優等生、司波深雪。
そして、深雪の実の兄であり規格外の劣等生、司波達也。
加えて、かなり厄介ごとを引き起こす問題児、篝禅十郎。
この三人を中心に波乱万丈に満ちた日々になると、誰も予想など出来る筈がなかった。
はい、いかがでしたでしょうか?
基本的に原作に沿って話が進み、ちょくちょくオリジナルストーリーを加えていくつもりです
主人公の篝禅十郎が原作の登場人物達とどう関わっていくのか楽しみにしていただけると幸いです
では、今回はこれにて