魔法科高校の劣等生と優等生、加えて問題児   作:GanJin

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はい、どうもです

当分書けなくなると思っていたのですが、割とサクサク書けたので投稿しました

それでは、お楽しみください!

2020/04/07:修正しました。


新入部員勧誘週間 その1

 新入部員勧誘週間。それは、第一高校の部活が有力な新入生を巡り、熾烈な戦いが繰り広げられる期間である。

 そして、この期間においてCADの使用制限がほぼない状態、すなわち校内が完全なる無法地帯となってしまう。

 親友部員確保の為に多くの生徒達があの手この手を考えて、その時が来るのを今か今かと待ちわびていた。

 そんな新入部員勧誘週間の初日の昼休みに禅十郎は昼食をクラスメイトと一緒に学食でとっていた。

 学食の電子掲示板には放送部が新入部員勧誘のための放送が流れていた。しかし、この放送にほとんどの人が耳を傾けず、完全にバックグラウンドミュージック扱いである。

 禅十郎のグループもそんな感じで放送を聞いていた。

 因みに深雪は生徒会室で達也と一緒に昼食をとっている。今では深雪がブラコンであることはクラスの全員が周知の事実であり、彼女の愛する欠点となっていた。

 

「新入部員勧誘週間ってのは、つまり学校全体が戦場になるってわけだ」

 

 昼食を食べながら禅十郎は新入部員勧誘期間についてかなり適当に説明していた。

 

「禅、それはさすがに言い過ぎだと思う」

 

「それほど危険なことはしないと思いますけど…」

 

 一緒にいた雫とほのかは流石に言い過ぎではないかと思った。

 

「イヤイヤ、侮っちゃいけねぇよ、御二人さん。今の三年生が入学した頃なんて、収拾がつかなくなりそうな事件が多発してたんだぜ」

 

 クラスメイトの何人かが頷いて肯定している。

 何人かは上に兄弟や知り合いの先輩がおり、第一高校だけでなくどこの魔法科高校も新入生の勧誘はかなり騒がしくなるらしい。

 

「それって千景さんがいたからじゃないの?」

 

 雫は禅十郎の姉である千景が生徒会長をしていたから、騒ぎが大きくなったのではないか推察する。彼女はある意味で伝説の生徒会長であり、そこに就く前からかなりのことをしでかしていた。

 

「否定はしない!」

 

「いや、そこは否定しろよ」

 

 きっぱり言う禅十郎にクラスメイトの男子がツッコんだ。

 

「でも、何で勧誘している新入生が有力かどうか分かるのかな?」

 

 ほのかが疑問ふと疑問に思ったことを口にする。誰が優秀な生徒なのか判明するとしても入学式で新入生代表を務めた深雪ぐらいしか分からないはずだ。だというのに、彼等は何処で優秀な学生の情報を得ているのか分からない。彼女が疑問に思うのも当然である。

 

「それ、噂によるといろんな部活が裏で新入生の入試成績リストを持ってるからみたいよ」

 

 クラスメイトの女子がほのかの疑問に答えた。

 

「ああ、それ、噂じゃなくてマジでやってるよ。学校側はほぼ黙認してるけどな」

 

 そして、その噂が事実であると禅十郎は言うとここにいた全員が驚き、目を丸くする。

 

「マジかよ……」

 

「そんなことしていいんですか……」

 

 クラスメイト達がそんな反応をしても仕方がないだろう。

 

「禅、嘘じゃないよね?」

 

 雫が禅十郎に疑うような(実際は分かりにくい)顔をして尋ねる。

 

「嘘なもんかよ。七草先輩と先々代の生徒会長の俺の姉ちゃんが認めたからな。間違いねぇよ」

 

 現生徒会長と先々代の生徒会長が認めていると知りほとんどの人が納得した。

 

「つう訳だ、A組の奴らは特に気をつけておいた方が良いぞ。何せ、成績上位者の集まりだからな」

 

 禅十郎は主に雫を見てそう言った。

 雫は禅十郎が何を言いたいのか少しばかり理解したが、そこまで気を付ける必要はないだろうと思っていた。

 しかし数時間後、雫はそれが誤りだったと気付くことになる。

 この先の自分達の活動の為にどれだけ優秀な後輩を欲しているのか。先輩方の熱意を彼女は全く見抜けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、風紀委員会本部で業務会議があるため、風紀委員は一度本部に集結していた。

 前回の騒動で森崎の風紀委員の任命は取り下げられることは無かったため、森崎もここに来ていた。

 そこで達也が本部にいることでひと悶着あったが、摩利がそれを即座に沈め、早速会議を始めた。

 

「さて諸君、今年もまたあのバカ騒ぎの一週間がやってきた。風紀委員会にとっては新年度最初の山場になる」

 

(何だかんだ言ってやっぱり組織のトップなんだなぁ)

 

 伊達に風紀委員長を務めているわけではないのだと改めて感じた。彼女を除き男子生徒しかいない風紀委員を纏めてきただけのことはあるのだと禅十郎は感心して彼女を見ていた。

 

「今年は幸い、卒業生分の補充が間に合った。紹介しよう。立て」

 

 事前の打ち合わせが無かったが、三人はすぐさま立ち上がった。

 三人の表情はそれぞれ温度差があった。

 緊張が顔に現れている森崎と、落ち着いた顔をしている達也、そして落ち着いた顔を通り越して気だるげな顔を浮かべる禅十郎である。

 それを見た摩利は怒りを通り越して呆れて思わず溜息をつきなくなった。

 禅十郎と面識のある沢木と三年の辰巳鋼太郎は小さく笑っていた。

 

「1-Aの森崎駿と篝禅十郎、それと1-Eの司波達也だ。森崎と司波は今日からパトロールに加わってもらう」

 

(それなら、俺も今日からにして欲しかった……)

 

 何故、入学二日目に風紀委員の仕事をやらねばならんのだと思っていたが、今となっては過ぎたことであるために掘り返すようなことはしなかった。

 達也と初めて顔合わせする上級生がざわついたが、あまり長くは無かった。

 

「役に立つんですか?」

 

 そのうちの一人、岡田と言う二年生が三人に向けて言ったように見えた。

 だが、本心は二科生である達也に向けていることなど分かり切っていた。

 

「心配するな。三人とも使える奴だ。司波の腕前はこの目で見ているし、森崎のデバイス操作もなかなかのものだ。近接戦闘においてなら篝と渡り合えるとすれば、ここにいる上級生なら私と沢木だけだ。それ以外は三秒も持たんだろう。それでも不安なら、お前がついてやれ」

 

「いえ、止めときます」

 

 結局、岡田は摩利の提案に乗らず、身を引いた。

 

「他に言いたいことのある奴はいないな?」

 

 喧嘩腰の摩利に上級生は誰も気にしている様子はなく禅十郎に至ってはくつくつと笑みを浮かべていた。

 

「よろしい。では早速行動に移ってくれ。出動!」

 

 そう言うと上級生が一斉に立ち上がり、一斉に右手の握り拳で左胸を叩いた。

 これは風紀委員会で採用している敬礼である。

 既にそれを知っていた禅十郎もやっており、何も知らなかった達也と森崎は呆気にとられていた。

 摩利と達也、そして森崎を残して、禅十郎を含めた六人が次々と部屋を後にする。

 

「張り切り過ぎんなよ」

 

「分からないことがあれば何でも聞いてくれたまえ」

 

「まぁ、気楽にやっときゃ大丈夫だ。頑張れよー」

 

 達也が風紀委員に任命された日に会っている沢木と辰巳、そして禅十郎が達也に声を掛けて部屋を後にした。

 部屋を出るとき、禅十郎はちらっと森崎の顔を見た。

 かなり忌々しそうな顔をして達也を睨んでいた。

 

(あーあ、嫉妬してらぁ。たく、器が小さいことで)

 

 二科生だからといって、実力がないと頭ごなしに決めつけるのは間違っているのだが、どうやら森崎は未だに納得できないでいるらしい。

 彼もまだまだ未熟なのだと思えばいいかもしれないが、家の手伝いをしているのであるのだから、それぐらいの気持ちの整理も出来ないのは情けないことこの上なかった。

 それから禅十郎は途中まで沢木と鋼太郎と一緒に移動し、外に出て別れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「ほぉ、噂通りスゲェな」

 

 禅十郎はクラブ勧誘の光景を見てそんな感想を持った。どこかのお祭りじゃないかと見間違えるほどの活気に溢れていた。

 

「こりゃあ、確かに取締りが要るわな」

 

 これほど賑わっているのであれば、騒動の一つや二つが起こっても仕方がない。

 そう思っているとどこかで一際騒ぎが大きくなっていた。

 

「うちの部活に入りませんか!?」

 

「軽体操部、興味ありませんか!」

 

「いや、是非うちの部に!」

 

 禅十郎は早速騒ぎが起こっている場所を探し始め、捜索開始五秒で一際人混みにあふれている場所があった。

 築かれた人垣の中にいる人物を見て、禅十郎はやれやれと溜息をついた。

 

「あーあ、予想通り、雫ちゃんに集まってきたかぁ。ありゃりゃ、光井さんも巻き込まれてんな」

 

 優秀な新入部員を手に入れたいクラブはほとんどだ。

 事前に密かに手に入れた新入生の入試成績リストをもとに、成績上位者である新入生を手に入れるためにあれやこれやと策を練っているのである。

 だが、こんな人垣の中でそんなこと出来る筈もない。統率が取れておらず、全員が自分本位に行動している為に収拾がつかない状況になっていた。。

 人垣の中にいる雫は困った顔をしており、ほのかは人混みに目を回しかけているのを目にし禅十郎は早速行動を開始することにした。

 

「そろそろ、止めるか……」

 

 いつまでも高みの見物をしているわけにはいかず、人垣の中に入ろうとしていると事件は起きた。

 

「バイアスロン部だ! 取られた!」

 

「はっ……?」

 

 突如現れたジャージ姿の女性二人組に雫とほのかが拉致されたのである。

 彼女達を抱えた女性二人は魔法でスケートボードを操り、颯爽とその場を後にする。

 去っていく姿を茫然とその場にいた上級生達と共に眺めていたが、すぐさま我に返った禅十郎はCADを操作して自己加速術式を発動し二人を追いかける。

 

「おい待てや、ごらぁぁぁぁっ!!」

 

 颯爽とその場を後にした二人を追う禅十郎に今度は周りにいた生徒が茫然と眺めていた。

 そして、あっという間にその場から遠ざかる三人(正確には五人)を見て、人垣の中にいたある人物がニヤリと笑みを浮かべていた。

 

「これは良いネタになりそうね。早速、用意しなくっちゃ!」

 

 まさか自分が新入部員勧誘の手を貸すことになっていたとは禅十郎は思ってもみなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「そこの二人! 新入生二人を解放して止まれっ!!」

 

 禅十郎は雫とほのかを拉致した犯人を捕まえるために校内を走り続けていた。

 魔法師を狙った誘拐ではないのは明らかであり、恐らく部活のOG辺りだろうと禅十郎は推測する。

 本当の誘拐ではない為、大事にならずに済みそうだが、明らかな過剰な勧誘であり、違反行為である。故に禅十郎は必ず二人と捕まえると決意する。

 追いかけられている二人は当然止まることもなく、颯爽と逃げていた。

 

「だから待てって言ってんだろうがーっ!!」

 

 雫とほのかを拉致した女性二人は、後ろから追いかけてきている禅十郎を見ていた。

 

「ほぉ、なかなか腕の立つ新人の風紀委員がいるな」

 

 関心しているのはショートヘアの女性、萬谷颯季。

 

「そうねぇ。一年生で自己加速術式をあれほどの扱えるなんて珍しいわ。正直、アレで全力とは思えないわね。ちょっとマズいけど、そう簡単に捕まる気はないでしょ」

 

 そして、もう一人の女性はロングヘアの風祭涼歌。

 二人は昨年度の卒業生であり、バイアスロン部のOGである。

 

「当然ッ!振り落とされないよう、しっかり捕まってろ!」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 更に速度を上げる二人に、抱えられているほのかは悲鳴を上げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 禅十郎が第一高校のOGを追跡しているほぼ同時刻、摩利は近くで違反行為をしている生徒がいる報告を鋼太郎から受け、現場に立ち会っていた。

 

「危険魔法使用の容疑で確保だ!」

 

「くそっ!」

 

 鋼太郎ともう一人の風紀委員が違反行為をしていた生徒を確保し、連行しようとしていた。

 ここはもう大丈夫だろうと、ふと余所見をしていると摩利はあることに気が付く。

 

「あれは……」

 

 摩利は雫とほのかが萬谷と風祭に拉致されているところを目撃する。

 すぐさま新入生を救助するため、摩利は近くにあったスケートボード手に取った。

 

「鋼太郎、ちょっとこのスケボー……」

 

 借りるぞ、と言おうとしたその瞬間。

 

「いい加減、二人を解放して止まれや、ボケェェェっー!!」

 

 二人を追いかける禅十郎の姿を目撃した。

 自己加速術式で疾走している禅十郎の姿を見て、摩利はかなり呆れた。

 

「事件が起こったら連絡を寄越すように言っただろうが……」

 

 摩利は連絡を寄越さなかった禅十郎を注意しようかと若干現実逃避気味になっていた。

 

「姐さん、今そんなこと言ってる場合ですか?」

 

 鋼太郎が摩利を姐さんと呼ぶが今の摩利にそれを注意する気もなかった。

 

「まぁいい。とうに卒業した不良共に好き勝手されちゃ、風紀委員の名が廃るからな。ちょっとシメてきてやる。ついでに禅もな」

 

 摩利が風祭達を追う直前、今になって禅十郎から連絡が入ってきたのだが、摩利は後で説教してやると決心するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 新入生を拉致して逃走していると、風祭があることに気が付く。

 

「やっぱり来たわね」

 

「どうした?」

 

 風祭の反応に萬谷が怪訝な顔を浮かべるが、直ぐに彼女の言葉の意味を理解した。

 

「ほう、やはり来たか、摩利」

 

 いつの間にか、禅十郎に並んでスケートボードに乗った摩利が二人を追いかけているのである。

 

「止まれ! 過剰な勧誘行為は禁止だ!」

 

 しかも、凄い形相で追いかけてくるため、拉致されている雫とほのかは若干ビビっていた。

 

「いい加減、諦めやがれ!」

 

 禅十郎の目も獲物を狩るハンターと同じ目であった。

 

「残念だが、そう簡単に捕まる気はないな」

 

 だが、それに動じることなく萬谷は余裕の笑みを浮かべた。

 

「ぬかせ! 篝の人間の前で違反行為したらどうなるか、たっぷり教えてやらぁ!」

 

 禅十郎の言葉を聞いて、風祭が眉をひそめた。

 

「ねぇ、あの子、今『篝』って言ったかしら?」

 

「言いました。彼は先々代の生徒会長の篝千景さんの弟で、一年生の中で最高最悪の問題児です」

 

 風祭に抱えられながらも、冷静であった雫が彼女の疑問に答える。

 隣を走っていた萬谷も雫の話を聞いており、気のせいか何処か顔色が悪くなっているように見えた、

 

「確かにあの人には弟がいるのは知ってたが……。摩利もそうだが、こりゃ、意地でも逃げ切らないとヤバいな」

 

「ええ……そうね」

 

 萬谷の提案に風祭も即座に同意する。

 二人の顔色がよくないことに気付いた雫は、千景が昔何をしたのだろうかと呆れるのであった。

 

(やっぱり姉弟揃って問題児)

 

 そしてこの時、六人は気付いていなかった。

 逃げる萬谷と風祭と二人を追う摩利と禅十郎を追いかけるように、カメラを備えたドローンがいたことを……。

 

 

 

 

 

 

 

 そして場所は変わって、第一高校の放送室ではこそこそと数人の生徒が何かに取り掛かっていた。

 

「部長、準備できました」

 

「いつでも行けます」

 

「ドローンのカメラも良好です」

 

「職員室からも許可が下りました!」

 

 数人の生徒が何かの準備をしており、順調に用意ができたようである。

 部長と呼ばれた女子生徒は、やる気に満ちた顔で頷いた。

 

「オッケー、それじゃあ、やっちゃって! 面白い映像を撮って、新入生ゲットよ!」

 

「「「了解!!」」」 

 

 話の流れでご理解いただけたと思うが、彼らは放送部である。

 そして、そこの部長は先程、禅十郎が居合わせた現場におり、彼女はこのネタは使えると思い、すぐさま予定を変更して、次のデモの放送の為に用意していたのである。

 

「バイアスロン部の不良OG VS 風紀委員長&『噂』の新入生。これは面白くなりそうね!」

 

 この時、放送部の新入生確保のために一役を買っていることに、追跡中の禅十郎と摩利は気付く筈もなかった。




いかがでしたか?

新入部員勧誘期間の話は優等生の話を交えるため、長くなると思いますがお付き合いください

次回、バイアスロン部の不良OG VS 摩利&禅十郎、決着です

それでは今回はこれにて!

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