もうすぐ、八月も終わりですね
今回はかなり長くなりました
ではお楽しみください
2020/04/08:修正しました。
雫達を襲った男達を撃退した後、禅十郎は後処理をしていた。と言っても、男達が逃げ出さないように縛り上げる程度である。
雫とほのか、英美は現場が見えない場所で深雪と一緒に待機させている。
後始末と言えども、年端も行かない少女達には刺激が強すぎると判断したからだ。
彼らを縛り上げるにはそれ相応の代物が必要であるのだが、襲撃者達の着ているものはすべてライダースーツだ。つまり、縛れるものは身に付けているものだけと言う訳で、完全に身動きが取れないようにするには彼らには下着一丁になってもらう必要があった。
そんなものを年頃の少女に見せるわけにもいかない。
正直、彼女達がいなければ、、携帯端末を没収してライダースーツで拘束しつつ、下着を燃やして裸族にして公然わいせつ罪にしてやろうかと思っていた。
男達を縛り上げている途中、禅十郎は彼らの腕を見ていた。
(エガリテの信奉者、もしくは構成員か…)
男達の腕にはエガリテの信奉者であるリストバンドがあった。
「ただの下っ端か……。さて、どうするかねぇ」
これ以上は契約事項に反する可能性があり、禅十郎は扱いに困っていた。
(警察に届けると司一の耳に入るのは必須。とすればやっぱり…)
禅十郎は考え事をしながら、深雪達が待機している所に向かうのであった。
後始末を一通り終えた禅十郎は深雪達の下に戻った。
「さて、あいつらどうする?」
「禅、警察には通報しないの?」
今後の方針を聞いてきた禅十郎に対し、雫はそう聞き返した。
それを聞いた禅十郎は考え事をするような構えをする。もう既に今後の予定を決めてはいるのだが、これは念のためだ。
「いや、暴行と言っても未遂だしな……。証拠映像もないし、向こうがしらばっくれたら訴えるのは難しいだろうな。下手すりゃ、魔法を使ったこっちが過剰防衛だと悪く言われる可能性がある」
「そんな……」
絶句するほのかに禅十郎は肩をすくめる。
「それが現実ってもんだ」
「じゃあ、どうする? あいつら逃がすの?」
英美の問いにも禅十郎は首を横に振った。
「いや、少し考えがある。悪いんだが、この件は俺に任せてくれねぇか? 勿論、警察に通報したければそっちでもいい。被害者は三人だから判断は任せる」
そう言うと、三人は目を合わせた。
どうするか少し話をするかと思ったが、三人の答えは意外とすぐに決まった。
「通報はしない。禅に任せる」
雫がそう言うと、禅十郎は頷いた。
「そうか。じゃあ、ちょっと近くの喫茶店で待っててくれ。念のために俺の車で送っていく」
「うん、分かった」
そう言うと雫達は禅十郎の言う通り、近くの喫茶店で待つためにここから去っていった。ここの近くには防犯カメラの多い通りに出る為、一緒に行くことはしなかった。
三人が去った後、禅十郎だけでなく深雪も残っていた。
「さて……じゃあ司波さん、悪いんだけど九重のおっさんに連絡頼むわ」
「分かりました」
「悪いな。俺から九重のおっさんに頼むとちょーっと面倒なことになっちまうんだわ」
頬を掻きながら、バツの悪いような顔をする禅十郎。
ここに辿り着く前に禅十郎は深雪にお願いをしていたのである。もし誰かを捕まえるようなことになったら、九重寺で身柄を確保するよう頼んで欲しいと言うことだった。
禅十郎から頼むことも出来るのであるが、形式上これ以上ブランシュの件に積極的にかかわる訳にはいかない為にそうせざるを得ないのである。
「篝君にも事情があるのは理解していますから」
微笑んだ顔をして言う深雪に、禅十郎は感嘆してしまう。
(本当に良く出来た妹だよ……。それに比べてあいつと来たら……)
そんなことを考えて溜息をつくと、深雪に不審がられた。
「どうかしましたか?」
「いや何でもない。こっちの話だ。さて、七草先輩に心配されないようにさっさと終わらせようか」
「そうですね。では……」
そう言うと深雪はサイオンシールドと音波遮断を発動する。
(へぇ。これはなかなか)
深雪の即座の判断に禅十郎は彼女の手際の良さに感心していた。
その後、深雪は八雲に連絡を入れると、相手はすぐに出てきてくれた。
「おや、深雪君が電話をくれるなんて珍しいね。どうしたんだい?」
「いきなりこのようなことを申し上げるのは誠に不躾かと存じますが、先生に御助力いただきたい件がございまして」
「いいよ。僕にできることなら」
深雪の頼みに八雲は快く引き受けてくれることを知り、禅十郎は少し安堵した。
「ありがとうございます。実はつい先ほど学校のすぐ近くでクラスメイトが暴漢に襲われまして」
「一高の近くで? それはまた大胆だね」
「その者達はアンティナイトを持っていました」
「へぇ……、単なるゴロツキじゃなかったか。それにしてもさすがは深雪君だね。キャスト・ジャミングをものともしないとは」
その一言に深雪は言葉を詰まらせてしまう。ここで禅十郎の名前を出して良いものか、悩んだからだ。
「いえ、それは……」
チラッと禅十郎を見ると、話して良いと禅十郎は首を縦に振った。
「それは私ではなく篝君が……」
「ふむふむ、なるほどなるほど」
電話越しではわからないが、この時八雲の目付きが少し変わっていた。
「深雪君、禅君とも話がしたいんだけ、いいかい?」
「はい。分かりました」
そう言うと、深雪はスピーカーに設定して禅十郎と会話できるようにした。
「やぁ、禅君、久しぶりだね。ご家族は元気にしてるかい?」
「先生、その話はまた今度に。早急に先生にお願いしたいことがあります」
「うん、分かってるよ。その暴漢の身柄を警察や仲間が回収する前に確保すれば良いってことだよね。今、弟子達を向かわせたから彼らのことはこっちに任せておくといい」
手際の良さは八雲の方が一枚上手だったようだ。大方、会話の内容からこちらの頼みを予測していたのだろう。
八雲の頭の回転の速さには、禅十郎だけでなく深雪も舌を巻いた。
「何でもお見通しですか。流石ですね」
「いやいや、それほどでも。今回は君の頼みではなく、深雪君の頼みとして受けておくよ」
「ありがとうございます、先生」
無意識に禅十郎は頭を下げた。
「今回の件は君にも事情があるだろうし、君の祖父には僕も世話になったからね。そのお返しだと思ってくれて構わないよ」
「……はい」
禅十郎は八雲の言葉を聞き逃さなかった。
(相変わらずの情報収集能力だ。うちの面目丸潰れじゃねぇか)
「いやいや、君の家と僕とじゃあ情報の方向性が違うじゃないか」
「人の心を読まんでください」
禅十郎のツッコミに八雲は軽快な笑い声を上げる。
「それじゃあ、君達はもう帰りなさい。後はこっちに任せるといい」
そう言って、八雲との電話を切り、二人はその場を後にするのであった。
念の為に深雪を学校まで送り届けた後、喫茶店で雫達と合流して彼女達を家の車で送っていった。
雫の家の前に着き、雫とほのか、それに禅十郎が車から降りた。
「んじゃ、エイミィのことよろしく」
「分かりやした、大将。お任せくださ……いってーっ!」
運転手の顔面に禅十郎のチョップが叩き込まれた。
「テメェ、人前で俺を大将呼びすんなって言ってんだろうが、アホ!」
「痛いっすよ! 別に殴らなくたっていいじゃないっすか!」
「こいつはチョップだ!」
「あんたの場合、威力的に大差ないっすよ!」
「だったら余計な事を喋るな!」
「理不尽っす、パワハラっす!」
「学生相手にパワハラどうこう言ってんじゃねぇよ、良い大人が!」
禅十郎と運転手の漫才に完全に蚊帳の外になっている三人は揃って苦笑を浮かべることしか出来なかった。
「ったく、良いから行け。彼女に手を出したり、怪我でもさせたら東京湾に沈めるからな」
「あんたの場合、冗談じゃすまないから怖いっすよ!」
「だったらちゃんと働け社会人!!」
禅十郎は運転手の漫才が終わり、後ろに座っている英美に顔を向ける。
「じゃな、エイミィ」
「うん、皆、また明日ね」
「うん」
「バイバイ、エイミィ」
別れの挨拶を済ませ、英美を乗せた車は走っていった。
「さて、気は乗らんが行きますかね」
車が見えなくなり、禅十郎は北山邸の門を見てそう口にする。
「何で禅が仕切るの?」
「細かいことは気にすんな」
それから禅十郎達は北山家の門を通っていき、二人もその後を追った。
雫の家に禅十郎とほのかが来ているのには理由があった。
まず、ほのかは一人暮らしと言うこともあり、もう一度狙われる可能性があることを見越して、当分の間、北山邸で寝泊まりしてもらうことにした為だ。幸いにも、ほのかのことを雫の両親は娘のように可愛がっており、急に泊まり来ても快く受け入れてくれることに禅十郎は安堵した。
禅十郎がここに来たのは事情説明である。いくら仲の良い間柄とはいえ、泊まる理由をはっきりさせておいた方が良いと禅十郎が判断し、その説明をすることにしたのだ。
幸いにも今晩は雫の両親は二人共家におり、雫にはほのかを含め、五人で話を出来るよう頼んでいた。
後は雫の両親にどう話すかだが、契約上彼らにも詳しく話をすることが出来ない。その為、四人にはブランシュのことを伏せて、雫とほのかの身に危険があるかもしれないことを伝える必要があった。面倒な事だが、その原稿は頭の中でどうにか出来ていた。後は怪しまれないよう話をしていくだけである。
北山家の使用人に連れられ、禅十郎達は雫の両親達がいる部屋に案内された。
その後、禅十郎は用意していた内容を四人に怪しまれないよう話をしていくのであった。
禅十郎の話に雫の両親は納得し、当分の間、ほのかを北山邸で預かることとなった。
その後、二人から夕食を誘われたが、禅十郎はやんわりと断った。早急に帰ってやらなければならないことが山積みになってしまったからだ。
そして現在、禅十郎は北山邸の玄関に向かいつつ、今後の対策を考えていた。
今回の一件で、第一高校の生徒がブランシュに感化されていることに気付いた組織が動いたと司一が考え、数日以内に動き始めるかもしれない為にその対策を練る必要があった。
その為には一度、『結社』に戻ってより詳細な報告をする必要がある。
「禅……」
玄関まであと少しという所で後ろから呼ばれ、禅十郎は後ろを振り返った。
「ん、どうした雫?」
そこにいたのは雫一人だった。
ほのかはここにはいなかった。事件の後、まっすぐ北山家に来た彼女は着替えの用意を一切していない為、北山家の使用人と共に一度自宅に戻っているところだ。
「禅、少し話があるけどいい?」
雫の顔を見ると普段通りとは言い切れなかった。
彼女は表情が乏しいが、付き合いが長いと微妙な変化がよく分かるようになる。その為、今の彼女を突き放すのは良くないとすぐに判断した。
(まぁ、この件はもう報告してあるし、どうにかしてくれるか……)
「少しだけならな」
「……ありがとう」
そう言うと禅十郎は雫の部屋に案内された。
「適当に座って。もうすぐお茶が来るはずだから」
「あいよ」
部屋の複数人掛けのソファに禅十郎は座ると、すぐに使用人が紅茶を持ってきてくれた。
雫は禅十郎が話を聞いてくれると分かっていたらしく、二人分のカップが用意されていた。
それから雫は禅十郎の右隣に座り、用意してもらった紅茶を一緒に飲んだ。
どうでもいい話だが、正直に言うと、禅十郎は紅茶はあまり得意ではない。
禅十郎はお茶ならば急須で淹れた緑茶を最も好んでいる。
「うーん……上手い?」
禅十郎が誤って疑問形で言ってしまったことに雫は思わず笑みをこぼした。
「フフ……、どうして疑問形?」
「あー、その……悪い」
折角用意してくれたのに酷い態度を取ってしまい、歯切れの悪い解答しか禅十郎にはできなかった。
「知ってるよ、禅が紅茶が苦手な事。だから出した」
「おいおい、確信犯かよ」
わざと出したことに禅十郎は呆れた。
「日頃のお返し」
「俺は何もしてないと思うんだが……」
「自覚してないだけ」
「さいですか……」
そう言うと禅十郎はもう一度紅茶を口に含んだ。
(うん。やっぱり無理だ、これ)
一生紅茶が合わないことを決め付けると、禅十郎は紅茶のカップをテーブルに置いた。
それから雫をちらっと見る。
雫は先程まで浮かべていた笑みが無くなっており、何かを思い詰めている様子だった。
「それにしても珍しいな、俺を部屋に入れるなんて」
「……」
禅十郎が話し掛けるが、雫は黙ったままであった。
「最後に俺が雫ちゃんの部屋に最後に入ったのは何時だったっけ? 確か……小学六年の頃に」
「禅……」
雫は禅十郎の言葉を遮った。
それから雫は何かを言おうとしているが、躊躇って再び黙ってしまう。
しばらくの間、沈黙が続いた。
この時、禅十郎は既に雫が今どんな気持ちなのかを理解していた。
だが、その感情を押しだす勇気が今の雫には無かった。それに気付いた禅十郎はその後押しをすることに決めた。
「怖かったか?」
禅十郎が口にしたのはその一言だけ。その一言に雫は一瞬だけ目を見開いてうつむいた。
「……うん、怖かった」
それはかなり弱々しい声だった。
「殺されると思った」
それから雫はようやく自分が言いたかったことを口にする。
「相手はナイフを持ってた上に身動きが取れなければそう感じるのは当然だろうよ」
「魔法が使えるのに……何も出来なかった」
「アンティナイトを持っていたのは流石に俺も驚いたな。それを除いてもアレは高校生で対処できることじゃない。魔法は万能の力じゃない。所詮は道具で、使う人によって出来ることが変わってくる」
「……ほのか達を守れなかった」
「今は全員無事じゃねぇか」
「それは結果論だよ。二人が現れなかったら私達は殺されてた。あの時、理由も分からないまま死ぬと思った」
死という恐怖を再び思い出した雫は両手を力いっぱい握りしめた。
「本当に怖かった。誰にも気づかれないまま死ぬと思うと怖くて仕方がなかった」
余程怖い思いをしたのだろうと、禅十郎は察した。
それほど口数の多くない雫がここまで話すと言うことは、相当感情の抑えられておらず、肩の震えが止まっていないのがその証拠だ。
「死が怖いのは人として当たり前の感情だ。遅かれ早かれ必ず死がやってくる。だから大抵の人は生きるために足掻く。足掻いて足掻いて、生を掴みとろうとする。それが生き物だって俺は思う」
「でも私は足掻くことも出来なかった。怖くてほのかもエイミィも自分も守れなくて……」
震える声で雫は自分の弱さを嘆いた。新入生の中でも魔法師として優秀だから何とか出来ると自惚れていた結果がこの有様であることに雫は悔しかった。
だから最後まで自分の気持ちを正直に話してしまおうと雫は思った。
「魔法が使えるから、私は何か出来ると思ってた」
「実戦と練習は違う。練習で出来たとしても本番で出来るかは本人次第だ」
「あの時、不安だったけど三人もいればどうにか出来ると思ってた」
「成績なんてあくまでも学校の中でのものだ。学校のお勉強が出来る程度で魔法師としての実力は決まる訳じゃない。成績が良いだけで一流の魔法師になれると思っているなら、そいつはただの世間知らずの大馬鹿者だ」
禅十郎の返事は先程から少し冷たいものだった。だが、こうでも言わないと人は次に活かせないと彼は考えている。自分を甘やかせば、何も学ぶことは出来ないと今まで叩き込まれた彼は少々雫に冷たくしていた。
「……」
そう言うと雫は黙ってしまったが、禅十郎は話すことを止めなかった。
「確かに潜在能力はかなり突出してるのは間違いない。だが、あくまでも魔法力での話だ。魔法師として社会に出れば、少々優遇されるかもしれねぇが、それでも素人であることに変わりはない」
「……うん」
小さく雫は頷いた。
「だからと言って、森崎みたいに実戦を知ってるから偉いってわけでもない。あいつの場合は家業ってのも影響されてるだろうし、ああいうのは例外だからな」
「それは禅もでしょ」
「まぁな」
雫は禅十郎の魔法師としての実力が同学年の中で突出していることを知っている。。
いや、下手をすれば上級生より上かもしれない。
純粋な魔法力であるなら雫の方が上であるが、魔法師としての実力なら禅十郎は間違いなくずっと上なのだ。
それほどの修練を彼は積んできており、その成果を見せつけてきたからこそ、禅十郎の言葉には説得力があった。
「自分が出来ることを冷静に見極めるのが人を成長させる上で大切な事の一つだ。勿論、誰かと比べるなとは言わねぇし、誰かを目指すなとは言わねぇよ。だけどな、結局まず超える必要があるのは自分自信なんだ。自分を超えなきゃ、その先に、次に進むことなんて出来ない。だからこそ……」
「しっかり自分と向き合う必要がある、でしょ?」
禅十郎は頷いた。
「そう言うこと。ま、あんまり自分が情けなくて自己嫌悪に陥る奴もいるけどな。知り合いにいるんだよなぁ、そういう奴」
そう言うと禅十郎は愉快に笑った。それがわざとやっているのだと分かるが、それでも何処か心が安らいだ。
彼は昔からそうだった。初めて出会った時から禅十郎はいつも雫の先を歩いていた。何かに躓いた時も、落ち込んでしまった時も手を差し出して自分を立ち直らせてくれる。
本当に癪だと思っているが、兄のような存在と言っても嘘ではない。
それ故にこんな気配りもすることも少なくなかった。
「禅……?」
雫も違和感に気付いた。いつの間にか禅十郎の左手には端末型のCADが握られていた。
禅十郎は汎用型であるなら腕輪型を好んで使用するが、学校以外の屋内の場合では端末型を使用することが多い。
その理由は魔法の使用目的の違いだ。自己加速術式などの外で使用する頻度の高い魔法を腕輪型に、音波遮断などの屋内で使用する頻度が高い魔法を端末型に入れているのである。
そして、今、禅十郎は音波遮断を雫の部屋に発動していた。
音波遮断は外部に音が洩れることは無く、外にいる人に聞かれる心配がない。
雫は禅十郎の行動の意図を理解していた。
別にやましいことを考えているわけでは無く、純粋に自分のことを思ってやっていることだと分かっていた。
だが、あえて雫は首を横に振る。
「禅、もう大丈夫だよ」
「ん、そうか」
禅十郎は音波遮断を解除してCADを懐にしまう。
「ま、欲しければ何時でも……って、おいおい?」
雫に目を向けると彼女はいつの間にか眠ってしまっていた。
先程、雫の言葉に覇気が無くなっているのは気付いていたが、まさか眠くなったとは思わなかった。
「ま、仕方ねぇか」
使用人に雫が眠ってしまったことを伝えようと立ち上がるが、いつの間にか雫が制服の裾を握っていることに気付いた。
「えー……」
無理に放すわけにはいかず、禅十郎は立ち上がることを止めてその場に座った。
「ったく、光井さんが戻ってくるまでには起きてくれよ」
今はゆっくり寝かせておこうと決め、禅十郎は仕方なく当分のこのままでいることにした。
結局、雫はそれから一時間以上起きることは無く、ほのかが戻ってくるまで禅十郎はその場に留まるしかなかった。
なおその光景は北山家のメイド達に見られており、あらぬ噂が立ってしまったのだが、当の本人はそのことを知ることは出来なかった。
いかがでしたか
今更ですが、お気に入りが四百越え、UAが四万越えたことに驚いています
読んでくださって、ありがとうございます
これからも頑張って書いていきます
それでは今回はこれにて