魔法科高校の劣等生と優等生、加えて問題児   作:GanJin

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はいどうも

ようやく出来上がりましたので更新します

新作アニメが徐々に始まってきましたね

自分が一番楽しみなのは『鉄血のオルフェンズ』です!

それではお楽しみください


ヘルメットの下

 服部の前に現れた桐原は切先を向けたまま目の前の男を睨み付ける。

 

「服部、こいつは俺がやっても文句は言わねぇよな?」

 

 好戦的な態度を取る友人に服部は笑みを浮かべる。

 

「……好きにしろ」

 

 金属の棒が半分に斬れたことに男は驚いたが、直ぐに気持ちを切り替えて棒を構え直す。

 剣術使いとして学生でも自身の硬化魔法を掛けていなかったとはいえ、高周波ブレードで金属を易々と断ち切った桐原はかなりの剣術の使い手だと理解し、男は冷静さを取り戻していた。

 桐原と男の膠着状態は長くは続かなかった。

 

「はっ!」

 

 先に動いたのは桐原だ。

 桐原は服部から離れるために男に斬りかかる。

 剣術では学生の中でもトップクラスの桐原の動きに男は即座に硬化魔法を作用させた棒で応戦する。

 硬化魔法を付与された金属棒と高周波ブレードを纏った刀が何度もぶつかり合う金属音が鳴り響いた。

 桐原は自己加速術式を使って、男より速く斬りかかるが、男は桐原の動きを捉えて前身の作用させた硬化魔法の防具で防いでいく。

 桐原の見立てでは、相手の硬化魔法は人体には作用しておらず、身に付けている装備にのみ作用している。故に生身の部分を突けば勝負がつくのであるが、それは頭部のみである。

 場所が限られていれば、相手も対処がしやすいのは明白であり、一進一退の攻防が何度も繰り広げられる。

 二人の戦いはこのまま続くと思われたが、鍔迫り合いになった直後に男の背後に突如として帯電した蒸気塊が現れる。

 

(おいおい、いきなりすぎだろっ!!)

 

 それを見た桐原は心の中で悪態をつきながら即座に後方へと跳ぶ。

 男が後ろの異変に気付いた時には既に遅く、蒸気塊に呑まれ、意識を刈り取られた。

 男が倒れると、桐原は先程の蒸気塊を放った人物に目を向ける。

 

「あぶねぇじゃねえか服部。というか人の獲物を取るんじゃねぇよ」

 

 腹を抑えたまま倒れている服部に桐原は不満を口にした。

 

「好きにしろとは言ったが、交代するとは一言も口にしてないからな」

 

 軽口を叩く余裕がある友人に桐原は笑みを浮かべる。

 

「それもそうだな」

 

「それより肩を貸してくれるか? まだ思うように動けん」

 

「そいつは構わねぇが、後で会長さんにでも看病してもらうよう頼んでやろうか?」

 

「なっ!?」

 

 やや顔を赤くする服部の反応に桐原はニヤニヤと笑みを浮かべた。

 こんな会話が出来るのは既に図書館前は鎮圧に向かっていると分かっているからだ。

 桐原達の周りには向かってくる襲撃者は見られず、残っているのはここから少し離れている所のみであり、そこも収束するのは目に見えている。

 服部を揶揄っていると、桐原はあることに気付いて、そこに目を向けた。

 彼の目には図書館の入り口の集団が映っていた。

 達也、深雪、エリカと壬生の四人であり、壬生は達也に抱きかかえられていた。見たところ気を失っているようである。

 

「壬生……」

 

 桐原はそう呟いた。

 無意識に刀を持った手に力が入る。

 

「桐原?」

 

 服部に声を掛けられ、桐原は我に返った。

 

「ああ、悪い」

 

 まずは友人の治療だと桐原は服部をここから運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 図書館前の戦況はたった数名の魔法師が参戦しただけで劇的に変化した。

 戦闘のプロである魔法師が参戦したことで襲撃者が突然息を吹き返し、その後、ヘルメットの男が参戦したことで襲撃者側の戦意は一気に喪失した。

 武器をもってしても抗いきれず、数の暴力さえ通じない圧倒的な力。

 それを可能とする魔法はこれまでの戦い方の在り様を変えていった。

 たった一人の強大な力を持った魔法師が参戦するだけで、戦況は大きく変化する。

 今、第一高校の生徒達は、いずれ(きた)る『魔法が戦いの勝敗を決する力』だと証明する前触れを目にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ヘルメットの男は襲撃者の最後の一人を無力化した。

 周りを見てみると襲撃者を拘束する生徒や教師が徐々に動いており、事態はほぼ終息したと言っても過言ではなかった。

 摩利の方も片が付いており、拘束は他の者に任せていた。

 

(これで終わり……だな)

 

 それを確認した男はここから移動しようかと考えていた。

 

「待て」

 

 だが、少し歩いたところでここの男性教師が彼を呼び止める。

 

「貴様、何者だ?」

 

 拳銃型の特化型CADをヘルメットの男に向けて教師は尋ねる。

 いくら襲撃者を撃退するのに手を貸したとはいえ、素性が分からない以上、警戒するのは当然であり、教師の行動は間違っていない。

 周りの生徒達からも不審がられていた。中には妙な動きをしたら魔法を発動しようとしている者もいた。

 

(面倒だな、まだ来ないのかよ……)

 

 男は心の中で溜息をついた。さっさと上が来てくれれば話がこじれなくて済むのだが、まだ来ていないようである。

 実際のところ、彼の仲間が予想しているよりも今回の騒動が収束するのが早かっただけなのだ。彼は本気でやり過ぎてしまったのである。

 

「残念ながらお答えできません」

 

 相手が教師と言えども自らの素性を明かすわけにはいかない為、彼は回答を拒んだ。それが自分の状況を悪くすると分かっていて彼はそう答えた。

 当然教師は彼を訝しんだ。何処の馬の骨とも分からない者をこのまま校内を徘徊させるわけにはいかない。

 

「素性が分からない以上、悪いが君も拘束させてもらう」

 

 教師がそう言うと、ここにいた他の教師や生徒が数名動きだす。

 男はその場から動こうとしなかった。正直に言えば、この包囲網を抜け出すことは簡単だ。だが、実行する必要はないと彼は考えていた。

 何故なら、この場で拘束されることは無いと確信していたからだった。

 

「皆さん、その方を拘束する必要はありませんよ」

 

 彼らは声のする方に視線を向けると、真由美がこちらに向かってやって来ていた。

 

「その方は私のボディガードです。爆発の後、彼に早急に事態を収束するよう命じていました。本来であれば、先生方にお話を通しておくべき事なのですが、連絡が困難であったため、事後報告となってしまいましたことをお詫びします」

 

 優雅にお辞儀をする真由美の言葉を彼らは疑わなかった。

 彼女は十師族の直系である七草家の御息女であり、姿はともかく、ボディガードが学校の近くで待機しているのはありえない話ではない。素性を答えられないのも七草家の関係者であっても特殊な立場であれば不思議ではないのだ。

 それに加えて真由美の護衛をしているのであれば、その戦闘技能の高さには納得せざるを得ない。それほどまでに十師族は強大な力であると認識されているのである。

 

「私は他にすることがありますので、後のことはよろしくお願いします。では参りましょうか」

 

 そう言うと男は真由美の後に続くようにこの場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 図書館前から離れ、人気がない場所まで来ると真由美は足を止めた。

 後ろから付いてきた男も同時に足を止める。

 

「さてと」

 

 真由美は音波遮断を二人を覆うように展開する。

 

「これなら誰にも話を聞かれずに済むわね」

 

 男に背を向けたまま、真由美は話を始めた。

 

「ね、そろそろ話してくれてもいいんじゃない?」

 

 真由美の口調は明らかにボディガードに対するものではない。

 それ以前にの二人に主従関係は存在せず、彼女が言ったのはその場凌ぎの嘘なのだ。

 親しげに話しかける真由美に対して男は黙ったままでいた。

 

「今回の件で大体の事情は把握してるわ。司君がブランシュの一員を手引きしたこと、その狙いが図書館の非公開文献であることもね」

 

 男が何も話そうとしない為に、少々ムッとした真由美は仕方なく一人で話を進めることにした。

 

「さっきね、一年生の北山さん、光井さん、明智さんの三人から数日前に当校の近くで暴漢に襲撃された話を聞いたの。このことは先生方も知らなかったわ。どうしてなのか聞いてみたら、何処かの誰かさんが口外しないようにしたんだって」

 

 真由美は振り返り男の顔をじっと見つめた。

 

「彼女達三人が暴漢にあったのは司君の後を付けた後だった。偶然にしては出来過ぎてるし、もし魔法師を狙った誘拐が目的なら殺すことはしないわ」

 

 ヘルメットで男がどんな顔をしているか分からないが、真由美は彼が自分と目を逸らしていないと確信した。そしてそれが自身の推理を否定していないことも彼女は理解した。

 

「その口止めをした誰かさんは本当は今回の襲撃を予想していた。でも、ブランシュは表立った犯罪をしていない所為で警察も公安もまともに動けない。だからいっそ今回の襲撃を促して、ブランシュに介入する隙をわざと作らせた」

 

 それを聞き、男は顎を上げて相槌を打った。

 この時、真由美は彼がニヤリと笑みを浮かべていると悟った。その反応に少しだけイラっとした。

 

「勿論、向こうの計画が成功したら、正体不明の襲撃者として有耶無耶にされる可能性があるわ。だから『結社』はあなたをここに寄越した。勿論、学外には襲撃者が逃げられないように別動隊を配置しているんでしょう? さっき外を見てみたけど、不審な人影が数名ほど見えたわ。見知った顔だったからすぐ分かったわ。アレは確か……お姉さんの旦那さんじゃなかったかしら?」

 

 真由美の話を聞いた男は肩をすくめた。

 

「大体合ってますよ。流石ですよ、七草先輩」

 

 そう言うと男はヘルメットを外した。

 その下にあった顔を見て、真由美は溜息をついた。

 

「やっぱり……。今回は随分手の込んだ悪戯をしたわね、禅君」

 

 真由美の前にいたヘルメットの男は、数日前から消息不明となっていた禅十郎であった。

 

「いやぁ、よく俺だって分かりましたね。校内に入ってからあんまり人と話してなかったんですけど?」

 

 彼は笑みを浮かべてそう言った。

 

「動きを見てれば分かるわよ」

 

 禅十郎はその程度で分かるものなのかと眉を顰める。

 

「そこまで先輩に俺の手口みせたことありましたっけ?」

 

「魔法と体術だけであんな戦い方が出来るのは禅君か道場の門下生、それも上段者クラスの人達だけじゃない」

 

「えー、今回使った技なんて、うちの道場じゃ、基本中の基本ですよ?」

 

「それを当たり前の様に使っているから上段者クラスだって分かるのよ」

 

「そんなもんですかね?」

 

 禅十郎の反応に真由美は呆れた。

 

「禅君はもう少し自分が常識の外にいる自覚を持った方が良いわよ。相手の動きをあれだけ正確にコントロールするなんて同年代でも無理よ」

 

 禅十郎が図書館前で戦っている時、真由美はその光景を遠くで眺めていた。

 あの乱戦の中でヘルメットの男が禅十郎だと確信したのは、彼の戦闘スタイルが大きく関わっていた。

 彼女は昔から何度も禅十郎の練習を見学する機会があった。

 篝家の道場で教えている体術はマーシャル・マジック・アーツとも八雲のような古流武術とも違う。篝家の体術の基本は『力の制御』、つまり力の向きや大きさを制御することにある。雰囲気で言えば、合気道に近いかもしれないが、魔法を併用しているため完全に別物だ。

 『力の制御』とは言うが、それは自分に対してだけではなく、自分以外のモノの力を制御することも含まれる。例えば、対人戦闘で自身の身体能力を上げるだけでなく、相手の動きに干渉して自分に有利な戦いに持っていくことも篝家の技の一つだ。

 その技術を幼い頃から叩き込まれた禅十郎は先程の戦闘で見事にそれを体現してみせた。

 相手の拳の動きを少しずらしてカウンターを喰らわせる。敢えて相手が得物を振り下ろす力を増大させることで相手の姿勢を崩し、一気に投げ飛ばす。敵の放った礫の軌道を変えて、近くにいた別の敵に当ててみせた。そして極め付きは自身の拳の威力を十数倍にして敵を吹き飛ばしてみせた。

 自身と相手の動きを完全に掌握した禅十郎に誰一人として致命傷どころか掠り傷さえ負わせることが出来なかった。そんな芸当が出来る人はそう何人もいるはずがない為に、真由美は彼が禅十郎だと確信したのである。

 

「まぁ、俺の道場は『力を以って全を制す』がモットーですからね。俺が知ってる門下生は殆んど出来ますよ」

 

 禅十郎はそう言っているが、彼の言っている門下生はその殆どが禅十郎の倍以上の年月を費やして修練を積んだ人達だ。彼らと肩を並べる実力を持っていることがどれほど凄いことか、禅十郎は理解しているのだろうかと真由美は頭が痛くなった。

 

(あー、もう禅君ったら。どうしてこうも変な所でアホなの)

 

 そう言いたかったが、話が脱線しているため、真由美は本来の話題に戻すことにした。

 

「それで、結社はこれからどう動く予定なの?」

 

「今回の襲撃で証拠が見つかれば、すぐにでもブランシュを駆逐する予定です。まぁ、今拘束してる奴らから聞きだすだけでも、充分な情報が得られますよ。それに……」

 

「それに?」

 

 真由美が首を傾げると禅十郎は彼女から視線を外しどこか遠くを眺めるような目をしていた。

 

「ようやく奴等を根絶やし出来ますからね」

 

 その言葉を聞いて真由美は息を呑んだ。

 

「禅君、あなた……まだ」

 

 彼女は禅十郎が犯罪者に容赦がない理由を知っていた。直接見たわけではないが、彼がこうなった理由を彼女は知っている。

 

「その件はもう割り切ってます。俺はただ魔法師を、魔法を理解しようともせずに化物だと迫害する奴等を許す気はない。ただそれだけです」

 

(嘘……割り切ってるわけないじゃない)

 

 真由美はそう思ったがあえて口にしなかった。

 本当に割り切っているわけがないと真由美は彼の目を見て悟った。喜怒哀楽が明確な禅十郎だが、本当に後悔している時は決まって悲しそうな眼をしているのだから。

 しかし、彼がそんな目をしていたのはそれほど長くはなかった。目を瞑って彼は深呼吸をする。瞼を開けた時には彼はいつも通りの顔に戻っていた。

 

「……さて、社長が来るまで残党がいないか見回りに行きたかったんですけど、お嬢様、これからどこに向かうので?」

 

「え?」

 

 普段通りに戻った禅十郎の言葉に真由美は何を言ってるのかわからないという顔をしていた。唐突にお嬢様と呼ばれて、一体目の前で何が起こったのか分からなかった。

 それを見た禅十郎は眉を吊り上げた。

 

「先輩が言ったじゃないですか。俺は先輩のボディガードだって」

 

「あ……」

 

 アレは正体を隠した禅十郎が怪しまれないようにする為の咄嗟に思いついたの嘘である。その為、真由美はすっかりそのことを忘れていた。

 

「それに俺がここに来てることがバレると面倒なんですよね。あの時、ボディガードだって嘘ついてくれたおかげで変な目で見られる心配がなくなるんで助かりますよ」

 

 けらけらと禅十郎は軽快な笑い声をあげる。

 

(あー、やっちゃった……)

 

 まさか咄嗟の思い付きがここまで来るとは思ってもみなかった。だが、禅十郎が助かるというのであれば、真由美は仕方がないと思った。

 彼が所属している組織は十師族と違い、大っぴらに表社会に出てくることはない。その為、学校側は禅十郎が行方不明だと未だに信じているのである。

 今ここにいることがバレて、彼の立ち位置が危うくなるのは真由美自身もよく思っていなかった。仕方がないと思い、真由美は禅十郎をしばらくの間、ボディガードとして傍に置くことを決心した。

 

「分かったわ。でも摩利とリンちゃん、十文字君にはちゃんと禅君の無事を伝えておきますからね。まったく、昔っから問題ばかり起こして。振り回される身にもなりなさい」

 

 真由美が腕を組んで少しだけ頬を膨らませて怒っているのを禅十郎はじーっと見ていた。

 

「どうしたの?」

 

 明らかに反省している様子ではない為に真由美は少し頭にきたが、彼の様子がおかしいことに首を傾げる。

 

「ん? いやー、相変らず怒ってる顔も可愛いなぁと思って」

 

「へっ……」

 

 間の抜けた声を真由美は上げ、少しずつ顔が赤くなっていった。真顔で可愛いと言われれば、流石の彼女も平静を保てなかった。

 

「ぜ、禅君! こっちは真面目な話をしてるんだけど!」

 

「だって事実じゃないっすか。先輩って自他共に認める美少女ですよ。そんな人から真正面から説教される男なんてこの学校じゃ俺ぐらいですよ。いやぁー役得役得、はっはっはー!」

 

 確かに真由美はこれまで異性に対して本気で怒ってきた事があるのは禅十郎だけだ。

 それを知っている禅十郎はそんな貴重な経験が出来るのなら、反省するより堪能した方が良いと考えていた。

 

「禅君……」

 

 だが、禅十郎はやり過ぎた。

 自分の失言の所為で、先程まであたふたしていた真由美が少しずつ冷静さを取り戻した。

 

「どうやら全然反省が足りないようね。こっちは本当に禅君の身に何かあったんじゃないかって心配してあげたのに、そうやってまた笑って誤魔化して……」 

 

 やや低い声になることに、禅十郎は久方ぶりに嫌な冷や汗をかいた。

 

「いやー、全然誤魔化してなんか……」

 

 そう言いかけるが禅十郎は真由美の顔を見て、息を呑んだ。

 満面の笑みを浮かべるはずなのに彼女の眼が明らかに笑っていないのだ。

 

「あ、あれ……せ、先輩?」

 

「何度も悪戯をしてきても怒らなかったのは私や妹達を喜ばせる為だったのに……。アレから随分成長したと思ったらこんな悪いことまでして。あーあ、お姉さん悲しいわ」

 

 ゆっくりと腕輪型のCADを操作して禅十郎に掌を向ける。

 

(あ……。やべぇ、やり過ぎた)

 

 自分の真上に白い靄が現れて自身の失態に気付くが、時すでに遅しである。

 

「禅君、少しは反省しなさい。大丈夫よ、悲鳴は漏れないから」

 

「いや、それ全然大丈夫じゃな、ぎぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 そして禅十郎の真上からドライアイスの弾丸の雨が降り注ぎ、彼の悲鳴は真由美だけの耳に収まった。

 それから数分後。

 

「何するんすか、先輩っ!! 俺じゃなきゃ死んでますよ!」

 

 ドライアイスの弾丸の雨が止んだ後、髪の毛が若干凍っている禅十郎が不満を漏らした。

 普通であれば装甲車でも貫通する魔法だというのに、全くダメージを受けていない彼を見て真由美はプイっとそっぽを向いた。

 

「だからやったのよ」

 

「おおっと、まさかの確信犯っ!?」

 

 結局、真由美のお仕置きは全く意味をなさなかった。そもそも彼女もこの程度でお仕置きになるとは思っていない。この程度でやられるほど彼が弱くないと知っている為に、わざとあのような事をしたのだ。

 それに本物であれば、この程度の事で傷を負うことなどしないという信頼があったからこそ、対物用の魔法を禅十郎に向ける事が出来た。

 そして彼女は遠回しに彼が本物であることを確信した。でももう少しくらいダメージがあっても良かったのではないかと、自分の実力に自信を無くす真由美だった。

 

「禅君はもう少し自分がどれほど周りに影響を与えるか考えなさい」

 

「しょーがないじゃないっすか。俺だって好きでこんなことしてるわけじゃないんですよ。学校だって休む予定じゃなかったんですから。本当だったら学生のまま奴等を吹っ飛ばしてたんですよ」

 

 事件に巻き込まれずに学生として戦闘に参加した禅十郎の姿を想像し、真由美は眉間に皺を寄せた。どう考えても碌なことにならないのは明白である。

 

「そっちの方が酷いことになりそうな気がするんだけど。禅君、加減しないし」

 

「いや、それぐらいは出来ますよ」

 

 そんなことを言う禅十郎に、真由美は信用できないと言いたげな目でじーっと見つめる。

 

「信用ないですか、そんなに?」

 

「結果だけを見れば満足なのに、蛇足が多いのが禅君だもの」

 

「えー」

 

 そんな話をしていると、二人は壬生から事情聴取をするという連絡を摩利から受け、彼女がいる保健室へと足を運ぶのであった。




いかがでしたか?

と言う訳で、ヘルメット男は禅十郎でした

いくつか疑問があると思いますが、それは今後の話に出てきますのでしばしお待ちを

それでは、今回はこれにて

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