漸く九校戦編に入りました
いやー、入学編がアレだったんで、この話は何話で終わるんだろうと思って書いています
それでも読んでくださる皆さんには本当に感謝しています!
では、お楽しみください
2020/10/18:文章を修正しました。
技術スタッフ
九校戦。正式名称は『全国魔法科高校親善魔法競技大会』。
毎年夏に開催される全国九つの魔法科高校が選りすぐりの生徒を集め、学校同士で競い合う魔法の競技大会である。
七月中旬、一学期の定期試験も終了し、今は多くの生徒が夏の九校戦にエネルギーを向けていた。九校戦は非魔法科高校で言う高校総体のようなものであり、多くの生徒が闘志を燃やしている。
そんな中、禅十郎は風紀委員会本部で摩利のお願い(という名の命令)を引き受けていた。彼女からのお願いとは風紀委員長の引継ぎの為の資料を作ってくれということだ。資料が存在しないのも風紀委員会には悪しき伝統であり、殆どが口頭によるだけで委員長のまともな引継ぎが行われたことが一度もない。
今回もそうすればいいと思っていたのだが、どうやら摩利が目を付けた次期風紀委員長は経験が一切ない人物らしい。しかもかなり可愛がっていたようで、出来るだけその人が困らないように引き継がせたいと摩利は考えていた。後輩の為にこれまでの風習を見直そうとする彼女は良い先輩と言えるだろう。
「今更だけど、何で俺らこんなことしてるんだっけ?」
資料作りのすべてを禅十郎と巻き添えを喰らった達也に丸投げにしなければの話であるが。
「ああ、なんだか俺がとんだお人好しに見えてきたな」
禅十郎の反対側に座っている達也も同意見であるが、さっさと終わらせる為に黙々と手を動かしていた。
「極悪人でお人好しか、なかなか興味深い二面性だ」
仕事をしていないが、的確な摩利のツッコミに達也は何も返せず、仕方なく話題を変えることにした。
「それにしても意外だったな。禅が資料作成できる能力があるとは」
驚いている達也を見て禅十郎はジト目になった。
「馬鹿にすんなよ。これでも中学三年は生徒会長やってたんだぞ。こういう資料なら作った事あるっつうの」
中学三年の時に生徒会をしていたことがある禅十郎は引き継ぎ資料を作り上げて引退し、後輩は彼が残した資料によって今後起こるだろう問題を見事に対処してみせた。だが、その資料の所為で色々と問題が起こってしまったのだが、その話はいずれすることにしよう。
「おいおい、学校崩壊しなかったのか?」
本気で心配しそうな顔をする摩利に禅十郎は溜息をついた。
「渡辺先輩は俺を何だと思ってるんですか!?」
「日常破壊装置」
「この人、達也と同じこと言いやがった!」
因みに禅十郎に密かに付けられたあだ名はこれ以外にもあるのだが、当の本人はすべてを把握できていなかった。
徐々に資料作成が進んでいき、三人の話題は九校戦に変わっていった。達也が九校戦を見たことがなかったことには驚かされたが、大体のことは知っているらしい。
「今年は三連覇がかかってるんでしたっけ?」
「そうだ。あたしたち今の三年にとっては、今年勝ってこそ本当の勝利だ」
「頑張ってくださいねー」
資料作成に飽きてきて、ほぼ投げやりに言う禅十郎に対し、摩利は首を傾げた
「何を言ってるんだ。禅にも出てもらうぞ」
「……は?」
資料へ向けていた目を摩利に向け、ポカンと口を開ける。
「暫定だが、君にはモノリス・コードともう一種目に出てもらうことになっている」
「えー、それって断って良いですか? 夏休みは基本九州の道場で兄貴と修行してるんすよ」
「ダメに決まってるだろう。寧ろ、選ばれることは光栄な事なんだぞ。それに毎年見学に来てるじゃないか」
本来なら九校戦に出たいと思う生徒が多いはずだが、どうやら禅十郎は違ったらしい。物凄く面倒くさいと顔に書いていた。
「去年は妹の付き添い、一昨年は姉貴に強要されただけっすよ。毎年行っても本戦だけ見て帰るだけっすから。そんな長期間いたわけじゃないですし」
ぼやく禅十郎に摩利は肩をすくめた。
「諦めろ。お前が一高に来る時点で新人戦に出るのは決まっていたからな」
「いやいや、何で俺なんですか?」
「モノリス・コードは魔法攻撃以外の直接攻撃は禁止されているが、実戦に近い形式の競技だ。一年男子の中で間違いなく最も君に相応しい競技じゃないか」
体術が封じられている時点であまり相応しいわけでは無いのだが、禅十郎はあえてツッコまなかった。頭をはたかれるのは目に見えているからだ。
「んじゃ、残りのメンバーの一人は森崎で決まりですかね。あと、十三束……はダメか。あいつは本当に直接攻撃が得意だから、モノリス・コードには向いてないしな」
「三人目はまだ決まっていないが、君なら何とかするだろう」
「俺は姉ちゃんみたいに戦略家じゃないんで、そこんところは期待しないでくださいよー」
「ああ、そう言えば、お前の姉はここの卒業生だったな」
以前、そんな話をしたことを思い出した達也に禅十郎は軽く相槌を打った。
「そっ。一年の渡辺先輩達を引っ張った元生徒会長」
「深雪の話では競技に出ていたらしいが……」
「一応、アイス・ピラーズ・ブレイクにな。確か三位でしたよね?」
「ああ。あの時は三高の生徒に惜しくも負けてな、それでも他の競技の作戦を立案したり、エンジニアを務めたりと陰ながら多くの功績を残した人だった」
その話に達也は関心した。禅十郎の姉が生徒会長を務めていたくらいしか話に聞かなかった為、特に目立つような人ではなかったのだろうと想像していた。しかし、やはり生徒会長を務めるだけあってかなり優秀な人物だったようだ。
因みに、千景が全国高校生魔法学論文コンペティションで大量破壊兵器に代替する魔法の開発をテーマにしたことがあるのはまだ話していない。今から数か月後に優秀な生徒というイメージが一気に瓦解することになるのだが、当の達也は知る由もない。
「そう言えば、姉ちゃんも言ってましたけど技術スタッフの方は大丈夫なんすか?」
「……問題はそこだ」
渋い顔をする摩利に禅十郎はおでこに手を置いて溜息をついた。
「やっぱり足りてなかったんですか」
「ああ、今年の三年生は選手の層に比べて、エンジニアの人材が乏しいからな。真由美や十文字はCADの調整は得意だから不自由は感じないだろうが……」
摩利は調整が苦手らしく言葉を濁していた為、達也もこれ以上聞こうとはしなかった。
「俺も微妙っすねぇ。CADの調整は出来なくもないですけど、ここ最近は姉ちゃんに任せっきりだったんで、競技で使えるほどの調整できるかどうか怪しいですね」
それから話題もなくなり、禅十郎と達也は再び資料作成に没頭することになった。
数日後の昼休み、禅十郎は最近よく一緒にいるメンバーと昼食をとっていた。よく一緒にいるようになったのは達也と深雪に加え、雫、ほのか、エリカ、レオ、美月の六名である。因みに、達也と深雪は生徒会室で昼食をとっている。今頃、九校戦の準備で疲れた真由美の愚痴でも聞かされているのだろう。
一方、禅十郎の方も時期が時期であり、皆の話題は九校戦へと自然に流れていった。
「じゃあ、選手はもう決まってるんだ」
禅十郎の話をエリカは興味深そうに聞いていた。
「今年は十文字先輩がいてくれたから割と早く決まってな。選手の殆どが定期試験の上位者で構成されたってよ」
「じゃあ、雫も出場できそうだね」
一緒にいたほのかは友人が晴れ舞台に出場できることを喜んでいた。
「ほのかもね」
実技では二人は深雪に次ぐ成績であり、間違いなく選手として選ばれることは確実である。因みに禅十郎の総合成績は十六位である。成績を見た全員からその数字は狙ってやったのかと言われた。
「二人とも頑張ってください」
「ま、問題は技術スタッフの方らしいんだが……」
「なんだ、そんなに人材が少ないのか?」
レオの質問に対し、禅十郎は渋い顔で頷く。
「今年の三年生は特にな。二年生にもいるはいるんだが、それでもギリギリのところらしい。最悪一年から選出する可能性もあるんだが、問題は上級生と肩を並べるほどの実力者がいるかなんだよな……」
まるで九校戦メンバーのような言い方をするが、ここにいる人は誰もそこをツッコまない。禅十郎のモノリス・コードの出場は噂に流れているのもあるが、既に多くの実績を残し続けている禅十郎が選手として選ばれないはずがないからだ。
「達也さんはダメかな?」
そんな中、ほのかの言葉に禅十郎達は目を向ける。
「なんで達也?」
「深雪のCADの調整は達也さんがしてるんですよね。いつみても深雪の使う魔法の技量には驚かされますけど、それは深雪の才能だけじゃなくってCADの調整がしっかり出来てるからだと思うんです。だとしたら、達也さんの技量ならメンバーに入れるかも……」
「「「あー」」」
禅十郎だけでなくレオとエリカは思い出したように頷いた。
禅十郎しか知らないことだが、深雪はブランシュの一件でニブルヘイムを使っている。アレを見た時は、てっきり四葉のお抱えの技術者にでもやってもらったのかと思っていたが、今思えば有り得ない話だった。あの
それを含めると、達也はプロにも引けを取らない魔法師としての実力だけでなく魔工師としての実力もあることになる。
(達也って思ってた以上にとんでもない奴なのかもな)
今月から道場の師範代となり、その上、結社の次期社長と見なされている自分のことを棚に上げて、そう思う禅十郎であった。
出場選手が決まり、放課後に部活連本部で九校戦準備会合が開かれた。
事前に内定通知が来ており、禅十郎は摩利から聞いた通りモノリス・コードの他にクラウド・ボールに出場することが決まった。クラウド・ボールは体を動かすことに関して他の追随を許さない禅十郎にはもってこいの競技だと多くの友人達が口にしていた。
案の定、深雪と雫とほのかにも通知が来ており、三人も二種目の競技に出場することになっている。
今回の会合は主に出場競技の確認と顔合わせだけであり、特に話し合うことは無いのであるが、残念なことにここでもトラブルが発生した。原因は技術スタッフとして達也が選出されたことにあった。
「まぁ、そうなるわな」
目の前の状況を見て禅十郎はそう呟いた。
二科生である達也が技術スタッフとしてふさわしいかどうか、論理的な反対よりも感情的かつ消極的な反対であるため、結論がいつまでも出ないまま時間だけが過ぎていた。
「たく、チンタラしやがって……」
先程から会話を聞いていた禅十郎は頬杖を突きながら苛立っていた。
「皆、達也さんの実力も知らないのに」
「うん、私も達也さんに担当してもらいたいな」
隣にテーブルに座っていた雫の言葉に禅十郎は賛同したが、ほのかのは実力以前の話ではないかと頭をよぎった。
部屋の様子を見た所、一年生では女子が様子見、男子が反対派に肩を持つと言った感じだ。反対派は達也が二科生だからという理由が最も多く、時折二科生だからCADの調整が出来るのかと侮ることを口にする者もいた。
正直、禅十郎はこのような無駄な時間を掛ける会議は嫌いだった。結社の会議でも隆禅の意向でそれを避けており、無駄に時間が掛かろうものなら彼がガツンと怒鳴るのである。
一体どのような結末に行けばここにいる全員が満足せずとも落ち着くのか、禅十郎はこの物議が繰り広げられたときから決まっていた。
「ああ、めんどくせぇ。さっさとこの無駄話を止めさせますか」
「禅?」
いつまでも続く意味のない会議をさっさと終わらせるために禅十郎は動くことにした。
「あのー、発言よろしいですかー?」
手を挙げて、覇気のない声を上げる禅十郎に誰もが口を止める。禅十郎がいるのは一番後ろの席であり、ほとんどの生徒がこちらに目を向けた。
「どうした?」
対応に当たったのは克人であった。
発言の許可も得た事で、禅十郎は席から立ち上がった。余計な前置きはいらないので、端的に解決方法を禅十郎は口にする。
「ダラダラと話しても時間の無駄ですから、実際に司波の実力を見てもらうのが早いと思います。いかがでしょうか?」
それを聞いて周りがざわつき始めた。
「では、どうすればいい?」
聞いていた摩利はそう返すが、実際はどうすれば気付いているのだろう。もしくはしばらくしていれば、克人か摩利あたりの口からそれを言うかもしれないが、禅十郎はこれ以上待てなかった。
「今から実際に調整をさせてみるのが一番かと。それを見て、司波が技術スタッフのメンバーとして相応しいかその場で判断しましょう」
「ふむ、確かにそれが得策だろう。だが誰のCADを調整をさせるつもりだ?」
CADのチューニングは失敗すれば、身体や精神に異常をきたすことがある。その為、実力が定かではない魔工師にCADの調査を任せるのは、魔法師においてかなりリスクのあることである。そのリスクを誰が背負うのかと克人は禅十郎に叩きつけた。
「勿論、自分に決まってるじゃないですか」
その問いかけに対し、禅十郎はそんなこと知ったことかと即答する。その答えを聞いて、ざわめきは更に大きくなった。
「いえ、彼を推薦したのは私ですから、その役目は私がやります」
だが、それに真由美は待ったをかけた。彼女自身としては禅十郎にこれ以上余計な責任を取らせるわけにはいかないつもりなのだろう。
(真由美さーん、それを言ったらアウトなんだよなぁ)
しかし捉えようによっては、その言い方は達也の実力を完全には信用していないようにも聞こえるので、その援護射撃は誤射に近いものとなった。
聡明な達也からしてみれば、あまり愉快なことではないだろう。わずかに達也と目が合うと、禅十郎はうまく話を進められなかったことに「すまん」と軽く口を動かし、達也は仕方がないと言いたげな苦笑を一瞬だけ浮かべた。
「いえ、その役目、俺にやらせてください」
その直後、すぐに予想外の立候補者が現れた。
(へぇー)
興味深く禅十郎が目を向けた立候補者は桐原だった。
ここにいる誰もが桐原の立候補に驚きを隠せなかった。
いかがでしたか?
最初の方はかなり省略しています
まぁ、あそこは無くても大丈夫な所なんで気にせず書いていきます
さて、禅十郎がどのような活躍を見せるのか楽しみにしてください
それでは、今回はこれにて