少し期間が空いてしまいました
なるべく定期的に更新できるように頑張りたいです
それではお楽しみください
2020/04/07:修正しました。
ホームルーム終了後は専門授業の見学となっており、クラスメイト達はどうするか話していた。
「なぁ、見学どうする?」
「当然、先生の解説付きだろ」
「だよな。折角一科に入れたわけだし」
「それに比べて、二科の奴らはかわいそうだよな。最初から放置されてるんだからさ」
「入れただけで喜んでるんだからいいんじゃね? というか、大した魔法力もないのに魔法師になろうなんて図々しいんだっつうの」
「一般人は一般人らしくしてろっての」
近くにいた三人組がそんな話をしているのをぼんやりと禅十郎は聞いていた。
(アホか、あいつら……)
確かに、一科生は優秀な生徒で構成されている。だからと言って成績が優秀だから優秀な魔法師であるのは必ずしもイコールではない。そのことを禅十郎はよく知っている。その為、先ほどの彼等の会話にはかなり呆れていた。
二科生は確かに一科生と違い、魔法の個別指導が受けられないが、第一高校に受かっている時点で魔法師としての実力は決して低いわけではない。特にギリギリのところで一科生になれなかった生徒の実力は、ギリギリ一科生になれた生徒とさして変わらないはずなのだ。
その気になれば二科の上位の生徒は一科生の寝首を掻くことが出来るのであるが、とある問題によって、その例が例外(一科生の生徒が学校を辞めなければならない場合)を除いて一度も見られないのである。
そのようなことが何年も続いたことにより、一部の一科生は自分達の補欠である二科生を見下すようになったいた。
(ま、自分の立っている地位にすがって誰かを見下す奴に限って、自分の実力に自身がないんだろうがな)
禅十郎は基本、人を見下すことを良しとしない。
他者を見下しても何も変わりはしない。それはただ己のプライドを守るだけであることを禅十郎はよく知っている。
(まっ、一科生になって舞い上がってるだけかもしれないわけだし、いちいち口にして注意する必要もないか)
だがこの時、禅十郎は一科生というプライドによって引き起こす面倒ごとが勃発するとは予想していなかった。
午前の授業見学はほとんどの一科生が教師の解説付きを選んだ。
折角なので雫と回ろうと誘うと、彼女の友人であるほのかとホームルーム前の出来事で知り合った深雪と行動することとなった。
見学中、突然の教師の質問に簡潔に答えられた深雪に全員が驚かされ、その後も深雪の優秀さにほとんどの生徒が度肝を抜かれた。
そして一通りの見学が終わって昼休み、禅十郎は雫達と学食に行くことにした。ついでに深雪とお近づきになりたい下心が見え隠れしているクラスメイトも一緒である。
「そう言えば、さっきの授業見学で出た質問内容をよく答えられたな。俺の記憶が確かなら魔法科高校に入ってから習う内容だったと思うんだが」
割と誰とでも気さくに話せるタイプである禅十郎は、既に深雪に対して砕けた話し方になっていた。
「あれは私の兄が教えてくれたんです」
「へぇ。というと、司波さんの兄貴は上級生か大学生か?」
「いえ、私と同じこの高校の一年です」
心なしか表情が険しくなる深雪の言葉に禅十郎は首を傾げる。
「ん……同級生?」
どういう意味かと聞こうと思ったが、禅十郎の端末に連絡が入った。
メールの送り主は真由美だった
そこに書かれていたのは、「禅君、生徒会室に出頭してね。なるべく早く来るように♡」とのことであった
(出頭って……、つか、最後のハートは何?)
今のところ、何も悪いことはしていないはずなのだが、こちらからも言いたいことが山ほどあるため、禅十郎は真由美の指示に従うことにした。
「禅、何かしでかしたの?」
禅十郎の脇から端末を覗いていた雫が聞いてきた。
「なぁ北山、質問の内容が間違ってないか? 何で俺が問題行動した前提なんだよ」
「中学時代に先生からの呼び出されたのはほとんど禅が問題行動したのが原因だから」
即答する雫に禅十郎は眉間に皺を寄せた。
「中学違ったよな? 何で知ってんだよ」
雫が自分の中学時代を知っていることに疑問を抱くが、それ以上に問題行動を起こしていることを前提にしていることが気に入らなかった。
「禅のお姉さんから聞いた」
「あいつ……」
どうやら諸悪の根源は禅十郎の姉らしい。
「それで、今回は何をしでかしたの?」
結局、問題行動をした前提で話を進める雫に禅十郎はもう反論することを止めた。
「知らね。ま、呼ばれたからには行くしかねぇか。と言うわけ俺はここで離脱するわ。じゃあ司波さん、北山は無表情で分かりずらいかもしれんが良い奴だ。今後とも仲良くしてやってくれ。ほんじゃなー」
「禅……」
雫はムッとした顔をしていたが、禅十郎はお返しだと言わんばかりにニヤリと笑い、颯爽と生徒会室に向かうのであった。
立ち去った禅十郎と雫のやり取りを見ていた深雪は微笑んでいた。
「北山さんは篝君と随分仲が良いのですね」
「禅は年上ぶって偉そうにしてるだけです。初めて会った時に禅が私を年下だと勘違いしてずっとあんな態度なのでかなり迷惑してます」
珍しく分かりやすいほど不機嫌にムスッとした顔をしている雫にほのかは内心驚いていた。
「でも雫、篝君と話してる時、結構生き生きとしてたけど…」
確かに雫の表情は分かりにくいが、楽しそうに禅十郎と話していたのは深雪でも分かった。
「ほのか、それは誤解。今までの仕返しにちょっとからかいたかっただけ」
「普通にやり返されてたけどね」
「いつものことだから、気にしてない。それに…」
「それに?」
「ううん、何でもない」
何かを言おうとしていたが、雫は言うのを止めた。
この時、禅十郎のおかげで深雪と親しくなれた雫はなんだかんだで感謝しているのである。だが、そんなことを態々言うつもりもない。どうせ、色々と揶揄われると理解しているからだ。
「では、参りましょうか」
禅十郎が不在のまま深雪達は揃って学食へと向かうのであった
この後食堂で起こるちょっとした面倒ごとを禅十郎が知るのは昼休みの後の話である。
生徒会室に呼び出された禅十郎は扉を開けて、部屋に入った。部屋に入ると、上級生達が揃って禅十郎を待っていた。
部屋には真由美の他に摩利と市原がおり、中条はそこにはおらず、代わりに別の生徒がそこにいた。
(あー、これ絶対面倒な話だ)
扉が閉まった瞬間に、真由美が遮音障壁を発動したのを察知し、禅十郎はそう考えた。
最初は真由美に『ある件』について文句を言おうと思っていたが、少々真面目にやることにした。
「来たか。なら、そこに座れ」
禅十郎に座るように指示したのは、部活連会頭の十文字克人。
十師族の一角である十文字家の次期当主であり、現在は部活連会頭を担っており三年生の中でも真由美と摩利に並ぶ実力者でもある。
克人に言われた通り、禅十郎は席に着いた。
禅十郎に向かい合うように、真由美、摩利、克人が並び、市原は真由美の後ろに立っている。
(第一高校の幹部が勢揃いだな……)
そんなことを考えながら、禅十郎は彼等の目的を推測しつつ話を促した。
「それで、時間もそれほどありませんので出頭しろと言った理由を教えてください」
次の見学まで時間があると言っても、なるべく早く進めたい。昼食を抜くことは禅十郎にとって死活問題だからだ
「この呼び出しは『篝家として』あなたを呼んだということをご理解ください」
市原がそう言うと、禅十郎は目を細めた。
『篝家』と言う言葉が出てきたことでここに呼ばれた理由が粗方推察できた。
「なるほど……。つまり今回はここ数年、第一高校を侵食しようとしてる反魔法国際政治団体『ブランシュ』とその下部組織『エガリテ』に関すること、と言う訳ですか」
反魔法国際政治団体『ブランシュ』。
禅十郎が口にしたのは、魔法師が政治的に優遇されている政治システムに反対し、魔法能力による社会差別を根絶すると言う目的で活動している組織とその下部組織の名前である。
その名は情報統制されて、世間では広まらないようにしてある。
しかし、禅十郎はそれを知っている立場の人間である。
序でに禅十郎はこの情報統制は無駄なことだと思っている。完全に秘匿するのは困難であり、その気になれば組織名を調べることは可能であるからだ。
特に彼の家……正確には彼の父親がそれを得意としている。
「話が早くて助かる」
禅十郎の推察を肯定し、克人は話を続けた。
「てっきり自分が入学式に来た時点で話があると思いましたが、もしかして、服部先輩と中条先輩はこのことをご存じないと?」
初めて生徒会室に呼ばれた時に話は出来たはずだと、禅十郎は思っていたのだ。
一日遅れて話をするのもそれほどおかしい話ではないが、今回はかなり揃っている面子が違う。だとすれば現在二年生はこの件を知らないのだろう。
そして、禅十郎の考えは当たっていた。
「あまり後輩を厄介ごとに巻き込ませたくないの」
(ふーん、なるほどねぇ)
真由美の考えは間違っていないと思ってはいるが、
「今年何もなければ、嫌でも後輩にこの問題を押し付けることになります。そのことは分かっていますよね?」
「おい!」
禅十郎の言葉に摩利は声を荒げた。
「いいの摩利、禅君が言ってるのは事実なんだから」
真由美の反応を見るに図星のようだ。
触れられたくないことを言われて辛そうな顔をしている真由美に禅十郎は追い打ちをかけるようなことはしなかった。
「ですが、その心配も杞憂ですよ」
「え?」
「篝、それはどういうことだ」
真由美と克人の反応は違ったが、どちらも禅十郎の言葉の真相が知りたい様子であった。
「言葉通りの意味です。ブランシュはこの年で仕掛けてくる可能性が高い、と言うことです」
禅十郎の言葉に誰もが驚愕した。
最も冷静な態度でいる市原でさえも、驚きを隠しきれていなかった。
唯一落ち着いた態度を見せている克人だが、内心はどうかは分からない。
「禅、何故そう言いきれる?」
摩利が尋ねた。
「これ以上詳しいことは俺の口から話すことは許されていないので言えませんが、実際ブランシュがこの学校に手を出し始めて既に五年が経ちます。それにもかかわらず、今まで大きな動きが全くなかった。この時点で奇妙でしょう」
「つまり、奴らは何か大きなことをする為の準備をしていると?」
克人の言葉に禅十郎は頷いて肯定した。
「で、どうしてそれが今年だと言いきれる?」
摩利が質問するが禅十郎は首を横に振った。
「申し訳ありませんがこれ以上は何も言えません。因みに正規の手続きを踏んでも無駄です」
「おいっ!」
禅十郎の態度に腹を立てる摩利に真由美が待ったをかけた。
「摩利、これ以上無理に話させる必要はないわ」
「真由美。だがな…」
「お気になさらず。それと先輩達が気に病む必要はありません。こうなることは既に予測しておりましたから。寧ろ、十師族だからと言って一介の高校生にこの問題を押し付ける学校側が対処すべきでしょう。使えるモノは使うというのは分かりますが、自分達が何もしないのは如何なものかと思いますしね」
きっぱりと言う禅十郎に真由美達は瞬きをして驚いていた。
克人に関しては少しばかり懐かしそうに笑みを浮かべていた。
「どうしました?」
三年生の反応に怪訝な顔をする禅十郎。
「いや、やはり血は争えないのだと思ってな」
「はい?」
克人の言葉にどう反応すればいいか分からない禅十郎。
「学校側に問題があると言って教師に喧嘩を売る姿勢を見せるとなると今後は本格的に警戒した方が良いかもしれませんね」
「確かにそのようだな」
同じように笑みを浮かべている市原と摩利もなぜそんな顔をしているのか分からない。
禅十郎の疑問に答えたのは真由美だった。
「前にね、禅君と同じことを言った人がいたの。『何故私が教師の尻拭いをしなければならなかったんだ! 謝罪を要求する!』って」
「誰ですか、そんな気骨のある人は?」
第一高校にそれほどの猛者がいたとは知らなかった
そして真由美は笑みを浮かべてその人物の名前を口にした
「先々代の生徒会長であなたのお姉さんの千景さんよ。これ結構有名な話なんだけど、禅君、知らなかったの?」
「……はぁーっ!? あのバカなにしてんだよ!」
部屋中に禅十郎の驚愕の声が響き渡る。
「いや、君も大概色々やらかしてるだろ」
摩利のつぶやきは禅十郎の耳に届かなかった。
その後、禅十郎は生徒会室で昼食を食べて、午後の見学へと向かうことになるのだった。
いかがでしたが?
多分ですが、次回には前々話の最後のところに持っていけると思います
さて、禅十郎と達也がどう関わっていくのか、楽しみにしていただけると幸いです
それと、ここで感想を書いてくださった方々にお詫びします
感想に意見を書いてもらうことを示唆する文を書いてしまい、ご迷惑をおかけしました
このようなことが起こらないよう、今後は気をつけていきたいと思います