魔法科高校の劣等生と優等生、加えて問題児   作:GanJin

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どうもです。

劇場版 魔法科高校の劣等生にリーナが参戦!

これを聞いた時、かなりテンションが上がりました。

どのように関わってくるのか、公開が楽しみです!

勿論、この作品でも登場させますので、気長にお待ちください。

それでは、お楽しみください。

2020/10/19:文章を修正しました。


直感でその人と成りを語る

 新人戦二日目のすべての競技が終わった後、第三高校のメンバーはミーティングルームで今日の試合について振り返っていた。

 

「まさか女子の三回戦出場選手の半分が一高で埋まるとはね」

 

「ああ。ジョージの睨んだ通り、あのエンジニアはただものじゃないな」

 

 女子アイス・ピラーズ・ブレイクの結果を見て、将輝と吉祥寺は第一高校の化け物エンジニア(達也)について考えていた。

 

「そうだね。でも次で十七夜さんと当たる明智選手への対策は考えてあるよ。今から急ピッチで用意することになるけど、君の実力なら問題無く使いこなせるはずだ」

 

「流石、吉祥寺。俺らのブレーンだ」

 

『カーディナル・ジョージ』の異名を持つ彼の立案した作戦に異を唱える者はここにいなかった。

 

「後は『氷炎地獄(インフェルノ)』を使ってきた司波深雪もそうだけど、一番の問題は……」

 

「篝禅十郎だな」

 

 正直な所、第三高校で禅十郎はそれほど重要視されていなかった。体術の使い手として同い年の中ではかなり名の通った人物であるが、九校戦でここまで頭角を出すとは思わなかったのである。

 

「リスクの高い戦術を使ってくるなんて普通じゃ有り得ない。相手の意表を突くには十分だけど、それくらいしかアレに効果はないはずだ」

 

「坂田の言う通り、常識で測れる男ではないな」

 

 将輝も吉祥寺と同じ考えだった。

 

「そう言えば、そいつって中学時代は相当な問題児だって坂田が言ってたよな。確か、九州の名門校が廃校寸前にまでなったとか」

 

「その話知ってるぜ。学校が隠してきた秘密を暴露したのがそこの生徒だってな」

 

 他校からも問題児扱いされ始めているなど、今の禅十郎に知る由もない。

 

「そうかのう? 皆が思っておるほど妙な男ではないと思うがの」

 

 禅十郎が異端児として認識されるところで、それに異を唱える者がいた。

 

「沓子?」

 

 禅十郎を擁護する沓子に愛梨だけでなくここにいる大半が眉を顰めた。

 そんなことを気にすることもなく、沓子は無邪気に笑った。

 

「さっき話してみたが、あやつはなかなか面白い男じゃったぞ!」

 

 彼女の一言にチームメイトは揃って驚くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 禅十郎は一人、自動販売機の隣にある椅子に座っていた。隣の自動販売機で買ったコーラを飲んで、背もたれに全体重を掛ける。

 

「はぁー、疲れたー」

 

 空を見上げてそんなことを口にする。

 クラウド・ボールを見事優勝した禅十郎は勝利の余韻に浸ることが出来なかった。その理由は男子アイス・ピラーズ・ブレイクの結果が再び女子より悪いものとなったからだ。

 女子が三人共決勝トーナメントに出場に対し、男子は再び一人。

 昨日とほぼ同じ状況になってしまった。

 

「やっぱり響いてんのかなぁ。達也の件」

 

 今はもうそれしか言えなかった。これは全て達也の所為ではないのは分かっている。

 だが、彼がここまでとんでもない結果を叩きだすのは予想外だった。

 現在、彼が担当した選手は負けなしであり、立案した作戦もエンジニアとしての腕前もプロ顔負けの結果を残している。

 友人として誇らしいのだが、統括役としては頭が痛い内容だ。

 達也が関わらずに快勝することで士気を高めるつもりが、彼の功績が凄すぎてまったく効果が出なかったのである。このままで男子の不振が続き、面倒なことになるのは目に見えていた。

 

「井上はともかく森崎だなー。会う度に機嫌が悪くなりやがって……。あー、何時になったら吹っ切れんだ、あいつは……」

 

 偶には愚痴を言わねば気が済まないほどに、禅十郎はまいっていた。

 大人になれとは言わんが、服部のように割り切る度量ぐらいはあって欲しい。

 だが、森崎は口で言っても分かる男ではない為、空を見上げてもう一度長い溜息をついた。

 

「こらこら溜息はいかんぞ。幸せが逃げてしまうからの」

 

 唐突に声を掛けられた禅十郎は自分に話しかけられているのだと理解し、きょろきょろと声の主を探す。

 すると目の前に髪を腰まで下ろしている小柄な第三高校の少女がやってきていた。

 

「溜息は自律神経のバランスを整えるから体に良いって聞くが」

 

「むっ、確かにのう。うーむ、そのように返されるとは思わなかったのじゃ」

 

(間違いねぇ、古臭い喋り方してるのはこいつかぁ……)

 

 目の前の少女の喋り方に対して、禅十郎は心の中でツッコむだけにした。

 

「確か、三高の四十九院沓子さん……だったか?」

 

「ほほう、わしの事を知っておるとはの」

 

「これでも新人戦のリーダー的存在なんでな。他校の戦力は可能な限り調べてある」

 

「ほほう、かなり真面目なのじゃな!」

 

 沓子は嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。

 しかし、禅十郎からしてみれば彼女が接触してきた理由に心当たりがなかった。懇親会で見かけているが、それを除けば間違いなく初対面だ。

 

「あれだけ興味深い魔法を使えば、マークするのは当然だろ?」

 

 ちょうど誰かと話をしたい気分であった為、それほど深く考えないことにした。

 先程口にした通り、先日行われた彼女のバトル・ボードの試合は興味深いものだった。彼女は水面に干渉する魔法を使用して試合に臨んでいた。

 一見違反をしているように見えるが、レギュレーションに則った試合運びであり、興味を引くには十分だった。

 

「ふっふっふ……お主にのような御仁に注目されておるとは儂も鼻が高いのじゃ」

 

「俺ってそんなに評価高いの? 道場の子倅だぞ」

 

「その歳で師範代になったのじゃろう? それに大人も泣いて逃げ出すほど厳しいと聞いておるぞ」

 

「あー、まぁ、入門試験の時点で結構切られてるからなぁ」

 

 確かに厳しさで言えば余所より突出しているのは間違いない。初めて入門試験を見学した際も思っていた以上にハードルが高く、合格者も三割を超えることはないらしい。

 

「ふむ……。それにしても儂の事も調べているとなると、愛梨や栞、一条や吉祥寺も調査済みじゃろうな」

 

「そっちのエースは全員マークしてる。特にモノリス・コードに出場する二人を無視する方が無理だな」

 

「あの二人は有名じゃからの。あちこちからマークされておるから大変じゃ」

 

 沓子はうんうんと頷いた。

 

「ハハハ、有名人ってのは辛いなぁ」

 

「お主も今回の試合で注目の的になると思うがのう? スタイルそのものを変更して優勝した選手は過去一人もおらんぞ」

 

 首をかしげる彼女の仕草は、若干幼さが抜けていない顔も相まって随分愛らしいものだった。

 

「さあな。俺は全力で試合に臨めるようにしただけだ。スタイル変更が普通のやり方じゃないと言われようが、アレは最も俺らしく試合に臨めると思ったからやっただけだ。その所為でどこに注目されようが、危険視されようが、知ったこっちゃねぇな」

 

 不敵な笑みを浮かべる禅十郎に沓子は満面の笑みを浮かべた。

 

「うむ、やはりそうか!」

 

 その反応に禅十郎は怪訝な顔を浮かべた。

 

「お主の戦術は五試合とも全力で臨む為であったか! 儂の思った通りじゃったな!」

 

 話し始めてからテンションが少々高いと感じていたが、今は更に拍車が掛かっていた。

 

「どうしてそうなるんだ?」

 

 沓子の言葉に禅十郎は眉を顰める。先程の会話で何故自分が五試合とも全力で臨むためだと言い切れるのだろうか。

 ライバル校の選手としてではなく、一個人として禅十郎はこの少女に興味を持ち始めた。

 

「お主の試合運びはなかなか面白いものであった。少数の魔法による多彩な軌道変更、魔法以外の技術の応用。極めつけは準決勝以降の高速移動による一糸乱れぬラケット捌き。あれらは相当な努力が無ければ身に付くものではなかろう」

 

「どうだか? ただ才能があったからじゃないか」

 

 人の悪い笑みを浮かべる禅十郎に対し、沓子は首を横に振った。

 

「いいや、それだけではないじゃろ」

 

「根拠は?」

 

 否定する彼女に対し、禅十郎の態度は変わらなかったが、沓子も自信のある態度をとったままでいた。

 

「それこそ今日行った試合で物語っておるではないか。お主は全ての対戦相手に敬意をはらっておった。不遜な態度もしておらねば、相手を見下すような振る舞いもせん。そんな男が才能だけで勝ち上がれるものではなかろう」

 

 そう言い切る彼女に禅十郎は興味深げな顔をして、話を聞いていた。

 

「お主はこの日の為に研鑽を積んできた者達と手を抜くことなく全力で渡り合いたいと望んでおったからスタイル変更を選んだのではないか? お主の性格からして手を抜いて戦うことが出来んのじゃろう。じゃが、ラケットスタイルだけではお主は勝ち上がれん。もって三試合といった所であろうな」

 

 沓子がそう言うと思わず禅十郎は吹いた。それから禅十郎は左手で両目を覆い、空に向かって大笑いした。

 それは沓子を嘲るような笑いではなく、彼女のようにどこか嬉しそうに、それでいて彼女を称賛するように笑っていた。

 

「スゲェなアンタ! そこまで見破られるとは思わなかった。いやぁ、本当にスゲェよ!」

 

 笑いを少し落ち着かせると禅十郎は沓子の推察を素直に称賛した。

 ここまで来れば、もう隠す意味も無い。

 彼女の言う通り、禅十郎がスタイルの変更と言う策を使用した目的はすべての選手と可能な限り全力で戦いたいからであった。試合に勝つにはペース配分を考えるのが普通であるが、その加減を禅十郎はしたくなかった。

 確かに加減をすれば、ラケットスタイルだけで試合に臨めるし、決勝に上がれる自信があった。当然、あのような一方的な試合結果になることはないが、それでも十分に決勝まで上がれると鈴音も断言していた。だがペース配分のために手を抜いて戦うのは相手を見下しているような気がして気に入らなかったのだ。

 九校戦は魔法科高校に通う多くの生徒が望む舞台であり、その為に多くの選手やスタッフがこの日の為に自分が出来る最大限の準備をしてきた。ペース配分の為に余力を残すことは戦術として間違っていないのであるが、そんな思いを抱いている相手に手を抜くようなことは禅十郎には出来なかったのである。

 だが、ラケットスタイルだけでやるには想子の枯渇と言う壁が立ちふさがってしまった。

 幼い頃から鍛えられてきた禅十郎にとって、体力と集中力を長時間保つことに自信があり、一切問題がなかった。だが、想子保有量だけはどうしても努力でどうこうできるものではない。

 深雪並みにあれば、ラケットスタイルで全試合可能であるが、残念ながら保有量は一科生の平均を少々上回る程度である。

 それを鈴音に相談し、一緒に考えて辿り着いたのがスタイル変更と言う戦術であった。

 禅十郎は身体能力を向上させる魔法を頻繁に使う為に知られていないが、系統魔法は殆ど使いこなせる技量がある。故に特化型CADに『半回転返還』の改良版を組み込むことで、想子の枯渇の危険性を無くし、尚且つ禅十郎の魔法以外の身体技能を存分に使えることで自身の希望を満たしてみせたのだ。

 因みに、同じ競技に出る真由美達にこの戦術を使う理由として、想子の枯渇と相手の意表を突くための作戦とだけ伝えてある。自分の闘争心丸出しの理由など口にすれば、怒られるのは目に見えていたから当然である。

 

「試合を見ただけでそこに辿り着けるとはな。やっぱり世界は広いなぁ」

 

「ふふん、儂の直感は良く当たるのじゃ!」

 

「直感かよ! そりゃあ、スゲェ!」

 

 上手く二人の波長が合った為に二人の談笑はそれからしばらく続き、互いに有意義な時間を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「っとまぁ、こんなことがあったのじゃ。あの者は儂らと何ら変わらん。これまでの研鑽で得たもの全てを懸けて試合に臨んでおる。そんな男じゃ。まぁ、ちょいと好戦的で闘争心の塊みたいなところはあるが、そこはご愛敬じゃのう」

 

 沓子の話を聞いていたチームメイトの大半は揃って、信じられないと言う顔をしていた。チーム全体より個人の願望を優先するとはとてもではないが褒められたことではない。それでも自身の望みを叶えた上でチームに貢献してみせた。それだけの力を禅十郎は持っているのである。

 残念なことに沓子が禅十郎を自分達と同じだと言いたかったのだが、多くの者は彼が明確に三高にとって最大の脅威であると認識するよう後押ししただけだった。

 

「そう……。沓子がそう言うなら間違いはないわね」

 

 その中で愛梨は沓子の言葉をそのまま受け止めた。彼女の直感には愛梨も信頼を置いており、一度スランプ気味に陥っていた栞もちゃんと立ち直ると言い当てている。ならば彼女から見た禅十郎とはそういう男なのだ。

 

「確かに私達と少し考え方が違うかもしれないけど、彼も私達と同じく勝利する為に全力で臨んでいる。そんな相手を貶すのは無礼ではないかしら」

 

 愛梨のその一言に誰もがその通りだと気付かされた。勝利に懸ける思いは自分達と同じであるならば、貶すことなど選手としてあるまじき行為である。

 

「九校戦は単なる魔法の力差を比べるものではなく、ルールに則った魔法競技。ならどんな強い相手でも勝つことは可能であり、その為の訓練を積んできた。だからこそ、たとえ規格外の相手であっても私達は勝てるわ」

 

 愛梨の力強い言葉に誰もが鼓舞された。確かに第一高校の面々には驚かされたが、それでも自分達も負けておらず、消極的に考えることを止めた。

 

「一色さんの言う通りだね」

 

「ああ、まだ二日目だ。新人戦優勝への道は潰えていない。明日からの試合、気を引き締めていくぞ」

 

 愛梨と将輝の言葉に、この場にいる者達は再び闘志を燃やし始めた。

 この時、この場に坂田の姿がいなかったことに誰も追及はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、ミーティングルームにいなかった坂田は一人、自室で夕日を眺めていた。本来なら出席しなければならないのであるが、気分がすぐれないと嘘をついて欠席している。

 今日の禅十郎の試合を見て、坂田はどうしても一人になりたかったのだ。

 彼の試合を見て、坂田は苛立っていた。

 あの試合運びといい、スタイル変更の戦術と言い、何もかもが気に食わない。

 アレは優れた力を持っている者がそれを自慢げに見せびらかしているようにしか見えなかった。

 

「ふざけるなよ……」

 

 小さくも力の籠った声で恨みを口にする。

 

「あの人の思想を否定しておいて、その成果を当たり前の様に使いやがって……」

 

 『あの出来事』さえなければ、このような気持ちになることは無かった。アレの所為で、自分を支えていた誇りを粉砕したと言うことを本人は理解していないだろう。

 だからこそ、あの男には苦痛を知ってもらわねばならない。

 地を這いつくばらせ、自分の行動の愚かさを理解させる。

 これは復讐だ。

 九校戦にどんな思いで周りが出ているかなど知ったことではない。

 あの男に復讐できるなら、どんな手段を使ってでも遂げてみせる。

 拳に力が入り、血が滲み出るほど強く握った。

 

「絶対に潰してやる! 否定してやる! ここで……お前の全部を!」

 

 誰もいない部屋の中で一人、坂田は強く復讐を誓った。




如何でしたか?

今回は三高の話がメインとなりました。

殆どが、禅十郎と沓子の会話でしたけど……。

さて今後のお話ですが、九校戦が終了した後、夏休み編、横浜騒乱編と続きますが、どこかにオリジナルの章を設ける予定です。

来訪者編に入る前であるのは確実ですので、どのような話が繰り広げられるか、楽しみにしてください!

それでは、今回はこれにて。

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