魔法科高校の劣等生と優等生、加えて問題児   作:GanJin

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はい、どうもです

もうすぐ、UAが一万を超えそうです

読んでくださり、本当にありがとうございます

これからも頑張っていきます!

それではお楽しみください

2020/04/07:修正しました。


問題児と劣等生

 騒ぎが起こる少し前、摩利に言われるがまま、禅十郎は学内を適当に歩き回っていた。

 

(やべぇ、退屈だ……)

 

 出て五分もせずにそう感じるようになった。

 歩き回っても何も起こる気配もなく、ただ暇を持て余している気がしてならなかった。

 そもそも風紀委員の目の前で問題を起こすこと自体ありえないのだ。

 事件が起こることを少しばかり望んでいたが、そんなことはしょっちゅう起こるわけないと諦めることにして、校内を散策する。

 ずっと歩いていると先程から気になっていたことがあった。

 

(さっきから変な視線を感じるんだよなぁ)

 

 先ほどから周りの視線が気になるのである。

 最初は新人の風紀委員が来ていることに気になっていたのかと思っていたが、どうやら違うらしい。

 

「ねぇ、あの子でしょ。噂の……」

 

「そうらしいわよ。昨日から何度も会ってるそうだし。それに先輩が去年の九校戦の時にも会ってたって聞いたわ」

 

「じゃあ、やっぱり」

 

(さっきからうるせぇな)

 

 ちらっと話声の聞こえた方を見ると、禅十郎を見てこそこそと話をしていた女子生徒達が慌てて他の方を見た。

 

(ったく、バレバレだっつうの)

 

 先ほどから彼女達だけでなく周りにいた他の生徒も何かこそこそと話をしている。

 正直、近くでこそこそと話をされるのは鬱陶しい。

 しかし魔法による校則違反をしていないため、いちいち注意する必要はないと判断し、禅十郎はすぐにまた歩きだす。

 さっさと他の所を回ろうと思っていると、携帯端末に連絡が入った。

 

(珍しいな)

 

 学校に来ている間に緊急事態を除いて誰かから連絡を貰うことが少なかったため、何か事件でも起こったかと少しだけ期待を膨らます。

 

「あ?」

 

 連絡してきた相手を見て、禅十郎は怪訝な顔を浮かべた。

 

「はいはい、禅十郎でーす。……分かった、直ぐ行く。何もするなよ」

 

 通話を切った直後、すぐさま走り出した。それと同時に彼は右手に身に付けていたCADを操作する。

 この時、近くにいた生徒達は驚いた。先ほどまで目の前にいた禅十郎が一瞬で遠くまで走っていったことに

 

「なぁ、あれって自己加速術式だよな…」

 

「一年であの速さっておかしくねぇか…」

 

 近くにいた上級生達は禅十郎の非常識な速さに驚かされるであった。

 

 

 

 

 

 

 

 自己加速術式で走り続けていた禅十郎は自身の視界の先にあった光景を見て驚愕した。

 

(おいおい、マジかよ!)

 

 禅十郎が見ていたのは、対立する二つのグループ。そのうち片方は禅十郎が所属しているA組の生徒達であった。

 もう片方のグループは記憶が確かなら午後の見学で真由美の授業を最前列で見ていた二科生だ。

 そのグループを見て、禅十郎は心の中で首を傾げた。なんとそのグループには深雪が混ざっていたのだ。

 この二つのグループが今回の騒動を起こしているのは間違いなかった。

 しかし、禅十郎にとって()()()()()()()()()()()()()()

 この時、最も危険視することが他にあったからだ。

 既に一触即発のような状況であり、A組の生徒である森崎駿と二科生の男子生徒が前に出ていた。

 二科生の男子生徒の後ろには赤毛の女子生徒も立っている。

 

「だったら教えてやるよ。これが、才能の差だ!」

 

 森崎が小型拳銃形態のCADを瞬時に取り出していた。

 

(バカがっ!)

 

 恐れていたことが起こったことを心の中で愚痴る。

 森崎がCADを取り出し、魔法を発動するまでわずかな時間しかない。

 だがこの時、禅十郎は目の前の光景に一瞬だけ目を丸くする。

 一つは森崎の前に立っていた男子生徒が魔法を発動しようとしている森崎のCADに掴み掛かろうとしていた。普通なら危険な行為だが、それを反射的にやってしまう男子生徒の度胸に驚かされた。

 もう一つ驚いたことは男子生徒の後ろにいた赤毛の女子生徒が、彼の後ろにいたにもかかわらず一瞬で彼の前に出てきていたことだ。どこから取り出したのか伸縮警棒を携え今にも森崎のCAD目掛けて振り切ろうとしている。

 

(ああ、もう! 血の気が多いやつらだな。間に合えよ!)

 

 だが、禅十郎はその驚きをすぐさま抑えてこの状況を抑える為の行動を開始する

 目の前にいる三人の動きは決して遅くはないが、それはあくまでも生身のみの動きであって自己加速術式を使っているわけではない。

 故に高速移動していた禅十郎の動きと比較すればかなり遅い。

 どうにか三人の間に割って入れると判断した禅十郎は、女子生徒の警棒を止めることにした。彼女の警棒が森崎のCADを叩き落とすのは明白であり、森崎を対処してからではこちらに被害が出かねない。

 彼女の腕前は僅かな時間しか見ていないが、相当高いものだと直感で理解し、本気で止めにかかる。

 女子生徒の警棒を持った手を左手で掴んだ瞬間、禅十郎の左腕に予想以上の衝撃が走った。

 

(イッテ―っ!)

 

 この時、禅十郎は知る由もなかったが、女子生徒は誰かが割って入ってきた瞬間、反射的に警棒を振り切るタイミングを調節したのである。禅十郎が掴もうとしたわずか一瞬で、それを調節した彼女の才能は驚くべきものであった。

 なお、禅十郎はそのことに気付くのは今から少し後のことである。

 だがこの時気付いたからと言って今の禅十郎には腕の痛みや彼女の技量に対し気を取られている暇はない。

 禅十郎はその痛みを気合と根性と鍛え抜いた肉体でどうにか堪えてみせ、即座に森崎のCADを右手で振り落とすことに意識を切り替える。

 森崎のCADはいつ魔法が発動してもおかしくないところまで来ていた。

 その為、加速した勢いを乗せたまま右手に集中させ、森崎のCADに上から手刀を叩き込む。

 手刀が当たった森崎のCADは主の手を離れ、地面に叩き落とされた。

 咄嗟の判断であったため、少しばかり威力が強すぎた気がしたが気にしている余裕はない。

 CADが叩き落され、地面に落ちる音が鳴り響いた。

 彼が参入し、赤毛の少女の一撃を止め、森崎のCADを叩き落した一連の流れはわずか一瞬のことであった。

 それ故にここにいたほとんどの生徒達は禅十郎がまるで瞬間移動でもして現れたように見えただろう。

 

「双方そこまで!」

 

 周りに響き渡るように禅十郎は声を上げる。

 

「何であんたが……」

 

 禅十郎に手を掴まれていた女子生徒がそんなことを呟いたが、禅十郎はそれを無視して周りを見渡した。

 二科生の男子生徒は突如目の前に現れた禅十郎に驚き、その場に立ち尽くしていた。

 森崎はCADを叩き落とされた衝撃で右手を抑えてうずくまっていた。

 

「これ以上の行為は校則違反、それ以前に犯罪行為とみなされるぞ!」

 

 それを言ったことで周りの生徒達は不用意に魔法を発動しないようCADから手を放していた。

 それを確認した禅十郎は再び口を開いた。

 

「この騒動、風紀委員としてこの俺、篝禅十郎が仕切る!異論は認めん!」

 

 誰も動かないことを確認し、女子生徒の手を放すと禅十郎は真っ先に森崎に目を向ける。

 手を抑えていた森崎は痛みが引いたのか、持ち直して立ち上がろうとしていた。

 だが立ち上がろうとする前に、禅十郎は森崎の制服の襟を乱暴に掴み、無理矢理立たせた。

 それを見た誰もが驚き、息を呑んだ。

 

「いっ……」

 

 いきなりのことに森崎は頭が混乱し、情けない声を上げた。

 

「おい森崎、お前……何をしようとした?」

 

 その声には明確な怒りが含まれているを理解し、多くが戦慄した。

 

「もう一度聞くぞ、森崎。お前、何をしようとした?」

 

「そ、それは……」

 

 先ほどまで頭に血が上っていたがために気が付かなかったが、森崎は自分がとんでもない失態をしていたことに気が付いた。

 校内での魔法の使用は禁止されている。森崎家の人間としてそのことは耳に胼胝ができるほどに聞かされていた。だというのに、彼は一時の感情に任せて魔法を発動しようとしていたのだ。これは当然許されざることである。

 

「俺の目が間違っていなければ、お前は魔法で彼らを攻撃しようとしていたな。自衛目的以外での魔法による対人攻撃は犯罪行為だってのは森崎の人間であるお前は知っていて当然だよな?」

 

 森崎は禅十郎の気迫と事実によって何も言い返せすことが出来なかった。

 

「お前が教職員推薦枠で風紀委員に任命されることは知っていたが、任命される前に校則違反をするとは情けねぇな」

 

 襟を掴んでいた手を放し、バランスを崩してしりもちをつく森崎を禅十郎は睨み付けた。

 

「森崎、今回の件では魔法の発動は未遂に終わったが、CADの操作はしていた。最悪退学は覚悟しておけよ」

 

「…………」

 

 森崎は視線をはずして、悔しそうな顔をしていた。

 自身が起こした軽率な行動がこのようなことを引き起こすとは思ってもおらず、後悔の念が森崎を襲い掛かかろうとした。

 しかし。

 

「いえ、それは誤解です」

 

 重い空気を打ち消すように、禅十郎の後ろから声が聞こえた。

 後ろを振り向いて、禅十郎は声の主に視線を向ける。その声の主は深雪の隣にいた一人の男子生徒だった。

 

(こいつは確か……)

 

 その人物はどこかで見覚えのある二科生の男子生徒だった。だが、ここ最近見た顔ではないというのだけは間違いない。

 

「誤解……?」

 

 直ぐに思い出せなかった為、禅十郎は余計なことを頭から離し、彼が言った言葉に耳を傾ける。

 

「申し訳ありません。悪ふざけが過ぎました」

 

「はぁ? 悪ふざけだ?」

 

 禅十郎は眉をひそめた。

 これのどこが悪ふざけだと言うのか。

 明らかな嘘であるのに堂々と言い切る彼を禅十郎は睨み付けた。

 しかし、禅十郎と向かい合っていた男子生徒は森崎と違い淡々と話を続けた。

 

「はい。森崎一門のクイックドロウは有名ですから、後学の為に見せてもらうつもりだったのですが、あまりにも真に迫っていたもので、思わず手が出てしまいました」

 

「……」

 

 その返答に禅十郎は内心驚いていた。まさか二科生が一科生を擁護することを言うとは思わなかったのだ。

 これには少々驚かされたが、その程度の嘘で禅十郎は納得しない。

 

「俺の間違いじゃなければ、そこの森崎は魔法で攻撃しようとしていたようにしか見えなかったが?」

 

「それは真に迫ってやった方が実力を発揮しやすいのではないかと自分が提案しました」

 

(おいおい。こいつ、正気か?)

 

 白々しい嘘を並べる男子生徒に禅十郎は愕然とした。

 

「それで怪我人が出るとは考えなかったのか?」

 

「いえ、彼は森崎一門の人間です。そのようなミスは犯さないと確信していましたし、もし失敗していたならすぐに分かります」

 

「へぇ、まるで展開された起動式が分かるような言い方じゃねぇか」

 

 常識的に考えればありえないことだ。膨大な情報量の塊である起動式を読み取ることなど普通は出来ないのだ。

 

「実技は苦手ですが、分析は得意ですので」

 

(『分析』……『分析』と来たか。待てよ。これのやり取りどっかで……)

 

 彼の非常識な技能を『分析』と一言で片付けることに禅十郎は彼に興味がわいた。

 そう思っていると、禅十郎はこのような会話をどこかでしたような気がした。あと少しで思い出せそうなのだが、何処で会ったのだろうか未だに思い出せない。

 頑張って記憶を掘り出してみるが、考えいるのも束の間だった。

 

「兄が申した通り、ちょっとした行き違いだったんです。お手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」

 

 深雪が深々と頭を下げるのを見て、禅十郎はどうしようかと悩む。

 

(さて、どうするべきか…)

 

 魔法で攻撃しようとしていた森崎を対立していた二科生が擁護し、加えて深雪が兄の言ったことが事実だと……。

 

(ちょっと待て。兄……?)

 

 深雪の言葉を振り返って禅十郎は首を傾げ、先ほどまで話していた男子生徒をじっと見ていた

 

(今、こいつが兄だって言ったか……。いや待てよ、そう言えば『しば』っていやぁ、九重のおっさんとこの弟子にいたわ、アイツが)

 

 漸く思い出し、納得するように僅かに頷く禅十郎。その姿を見て疑問に感じる人は少なかったが、このまま黙ったままではいけないと瞬時に頭を切り替える。

 

「さて、二人の話に異を唱える人もいない。実際、俺も最初から見てたわけじゃないし、森崎がCADを使おうとしていた所からしか知らん」

 

 もう一度回りを見るがやはり誰も何も言おうとしない。

 

「ま、入学して早々一科生と二科生が対立するのは毎年の恒例みたいだし、さっきあった匿名の通報はその人が勘違いしたってところか。俺も勘違いしてた訳だしな。まぁ、お互いに教え合うのも良いがほどほどにしておけよ。こんなことが立て続けに起こると面倒だ」

 

 そう言うと周りの空気が少しばかり軽くなった気がした。

 

「これ以上迷惑かける訳にはいかんから、さっさと解散だ。解散」

 

 パンパンと手を叩くと、A組の生徒達は徐々にその場を後にした。

 ほとんどの生徒が立ち去った後、禅十郎はまだ残っている生徒達に目を向ける。深雪を含めた二科生の生徒達である。

 

「寛大な処置をしていただき、ありがとうございました」

 

 深雪が再び禅十郎に頭を下げ、礼を言った。

 

「別に。犯罪は基本見逃さない俺だが、将来有望な魔法師の芽を潰すようなことはしたくはないが、今の俺じゃあ残念ながら森崎を擁護する良い言い訳が思いつかなかった。感謝するとすれば俺の方だ」

 

 苦笑いをしながら禅十郎は言った。

 

「やはり、嘘だと分かっていたのですね」

 

 申し訳なさそうにする深雪に、禅十郎は不敵に笑う。

 

「気にしなくていいさ。森崎とか他の奴らには良い薬になったろうし。こういう面倒ごとは毎年恒例らしい」

 

 このような騒動があるから気を付けろと姉の千景に言われていたが、まさか本当に起こるとは思わなかった。だが、事件に遭遇できたので今日の所は良しとすることにした。二度目は御免だが。

 

「後、お礼を言うなら俺じゃなくて()()()に言ってくれ」

 

 禅十郎が後方にいる二人を親指で指した。

 深雪はそれを追うとそこには雫とほのかがいた。

 

「北山さんと光井さんにですか?」

 

「そ、二人が俺に連絡入れてくれなかったら間に合ってなかった。下手をすれば、事故になってたかもな。あまり大事にならずに済んだのは、すぐに連絡を入れてくれた二人のおかげだ」

 

 禅十郎の言う通り、先ほど連絡が寄越した相手は雫であり、校門まで一科生と二科生が揉め事を起こしていると連絡を受け、即座に駆けつけたのである。

 

「そうだったんですか」

 

「ああ、悪いがお礼なら俺じゃなく二人に言ってやってくれ。この騒動を収めた陰ながらの功労者だからな」

 

「分かりました」

 

 そう言うと、深雪はすぐさま雫とほのかに駆け寄った。

 深雪がお礼をし、それにほのかがそれに面食らってしまう様子が微笑ましかった。

 それを見ていると、禅十郎の隣に誰かがやってきた。

 

「よう、さっきはすまなかったな。即興にしては悪くなかったぜ」

 

 その人物は先ほどまで禅十郎と会話をしていた二科生の男子生徒だった。

 

「いや、こっちこそ下手な三文芝居に付き合わせた」

 

「気にするな。それにお陰でお前さんのことを思い出せたからな」

 

 カッカッカッと笑い声を上げる禅十郎。

 

「あの反応を見てまさかと思っていたが、本当に忘れていたとはな」

 

 それを見た男子生徒は呆れた顔をして溜息をついた。

 

「仕方ねぇだろ。身長伸びてるし、体つきも随分変わって、当時とは別人になってたからな」

 

 二人の会話はまるで古い友人と再会したような会話をしていた。

 いや、実際は二人は以前から知り合いだった。

 

「一応聞いておくが、名前は憶えているのか?」

 

「当然じゃねぇか、短い期間とはいえ同じ釜の飯を食った仲だろうが。なぁ、『たっつん』」

 

「その呼び名は止めろと言った筈だ」

 

「じゃあ、『しばたつ』?」

 

「いい加減にしろ、『禅』」

 

 男子生徒はドスの入った声で禅十郎を愛称で呼ぶ。

 

「おお、こわっ」

 

 睨む男子生徒に禅十郎は軽快に笑う。

 

「たく、ちょっとは冗談に付き合えよ」

 

「断る。お前の冗談に付き合うと碌なことがない」

 

「ひでぇ言われようだ。まぁ、心配するな。ちゃんと覚えてるよ。久しぶりだな『司波達也』。元気そうで何よりだ」

 

「一年半ぶりか。師匠から聞いてはいたが、相変わらずバカをやってるようだな、禅」

 

「バカってなんだよ」

 

 これが、第一高校の規格外の劣等生と言われるようになる『司波達也』と第一高校の問題児と呼ばれるようになる『篝禅十郎』の邂逅となった。




はい、いかかでしたでしょうか?

禅十郎と達也は昔、会っていたという設定にして見ました

どのようにして出会ったのか、それは後日書いていこうと思います

まぁ、場所はほとんどの方が分かると思います

それでは今回はこれにて

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