一か月以上空けましたが、どうにか更新できました。
今回は少々短めですが、楽しんでいただけたら幸いです。
レディ・ラン、そして禅十郎の圧倒的な勝利を皮切りに、この戦いの為に集った選手達の戦いは過激さを増した。
「海外から参戦してきた男、ロウ・ジー!! 二メートルにも及ぶこの大会屈指の体格を活かした一方的な攻撃に、相手選手は全く反撃できず!! その拳はまさしく鬼神のごとくぅぅぅっ!!!」
大亜連合から参戦してきた男は自身の体格を十分に活かし、対戦相手をほぼ一方的に攻撃して三連勝を果たした。
ただ、彼の戦い方はまるで殺戮機械のように冷徹であり、冷淡であるために本試合の中で最も観客を戦慄させることとなった。
「USNA出身のローガン!! 彼の動きはどんな格闘技にも当てはまらず、相手選手は全く対処しきれない!! まさに闘技場に現れたストリートファイターだぁぁぁぁっ!!」
USNA出身の赤毛の男は、まさしく地下闘技場の本来の戦い方をしていた。
観客を楽しませつつ相手を翻弄し、型に嵌らない動きで一方的に嬲っていく。
初参戦した選手の中で、彼以上に観客の歓声が止まなかった試合はなく、新チャンピョンとしての株があり得ない程上がっていく。
「闘技場先代チャンピョン天塚祥吾、その実力はやはり折り紙付きぃぃぃっ!! 新たに参戦してきた者達を一蹴して三連勝をもぎ取ったぁぁぁぁっ!!!」
この地下闘技場に住まう古強者の中でも連続で優勝してきた本当の実力者である天塚祥吾はローガンほどではないが、観客を楽しませる戦い方のみで別の目的でやってきた初参戦の選手達を圧倒して己の強さを見せつけた。
そして、数多くの戦いを経て、本戦に残った選手達が決まる。
勝負に敗れた者は裏の賭場にいる者も含めてかなりの数が減り、彼等をなぎ倒した強者共が闘技場のステージへと並ぶ。
「さぁ、数多の敵を叩き潰した闘技場の新たなる戦士達の登場だぁぁぁぁっ!!!」
オジゴットの叫びに応じて、観客が歓声を上げる中、戦い抜いた選手、総勢十八名がステージへと上がる。
男性十五人、女性三人が勝ち残り、この中で本来の試合を進めることになる。
勝利して賞金を得ようとする者、裏取引で行われている賞品を狙う者、純粋に強者との戦いを望む者。
ここに立っている者達は様々な思惑で勝ち上がった。
だが、ここにいる観客達はそんなことを知るはずもなく、これまでにない激戦の開幕を彼らは今か今かと待ち望んでいるのだった。
ローガンことUSNAの『スターズ』であるラルフ・アルゴルは自分の番に回ってこないかと闘争心を昂らせていた。
(ああ、思った通りここに来て良かったぜぇ)
ラルフは今回の任務を知る前からこの地下闘技場について知っていた。
自身もここの動画サイトを見ており、このご時世でもまだ心躍る戦いをしている場所があるのを知り、いつかあそこで暴れてみたいと望んでいた。
そんなある日に日本の国防軍から紛失した重要サンプルについてある情報筋から入手し、今回の任務を任されることになった。
確証はないが、可能性がある程度で『スターズ』の一人を出すのかと思われたが、今回は少数で動ける上に可能な限り近接戦闘に特化した軍人を連れていけることが切っ掛けで彼が選ばれたのだ。
そして、当の本人は任務を言い渡されて歓喜した。
USNAでもこのような場所があるが、今回は世界各国から選りすぐりの強者達が集結する。
となれば、これほどまでに楽しい戦いが出来るのは戦争ぐらいにならない限りない。
故に彼は珍しく今回の任務に対して同僚から気味悪がられるほど忠実だった。
そして、思った通り地下闘技場に集まった強者達は間違いなく自身の闘争心を満たすに相応しい者達だった。
自身の戦いを見て歓声を上げる客の反応も心地よかった。
死ななければ目の前の獲物だけにどれだけの傷を与えても構わない為に、彼は一切の手加減をせず、じわりじわりと嬲るのを楽しめた。
そうして勝ち続けたことで、今度は今まで戦ってきた者達以上の強さを持った奴等が相手となり、楽しみで楽しみで仕方がなかった。
(ああ、戦いてぇ! 戦いてぇ!! 戦いてぇなぁっ!!!)
彼は分かりやすいほど狂気の笑みを浮かべて、戦いを今か今かと待ち望むのであった。
ロウ・ジーこと大亜連合ブラッドリー・張はただ純粋に己の任務を遂行することに集中していた。
しかし今回の任務について、張は不満がないと言えば嘘になる。
直接聞いたわけではないが、今回の任務では自分ではなく
確かに近接戦闘において彼は自分の頭一つ上に立っている。
それは変えられない事実である。
だが、日本で開かれるお遊びに本気になる必要はないという思惑で上層部から選ばれたのではないかと彼は疑念を抱いていた。
それが事実であれば、それは彼のプライドに傷をつけるに等しいことであり、事実であれば到底許せることではなかった。
だからこそ彼は証明しなければならない。
たかがお遊びと思われるこの試合で、任務を遂行し、己の力を認めさせる為に。
多くの者達が試合を前にしている中、禅十郎は大神と端末で連絡を取っていた。
「勝ち残ったメンバーはどれほどだ?」と端末からのメッセージに書かれており、「兄貴と同等の奴はいない。あいつの方が頭一つ以上強い」とだけ返信する。
「それは安心できるのか分からん基準だぞ」と返されて、禅十郎は肩をすくませて端末をしまった。
自分の試合は少し先なので、しばらくはのんびりと待機室にあるドリンクバーで喉を潤しつつ勝ち残った者達の試合を眺めることにした。
そんなことをしていると、自分の視界の端にレディ・ランが入ってきた。
どうやらこちらに何か話があるらしい。
「……なんだ?」
「別に? ただ学生さんがこんな血生臭いところいるなんて思わなかったから声を掛けただけよ」
「それほど珍しいことか? 噂じゃあ魔法師の家系もしくは先天的特異能力者なんかだとボディーガードもしくは暗殺なんかを請け負っているって聞くぜ。それと比較すれば、ここの方がまだマシだと思うな」
「……そう」
マスクの所為で表情が一切分からないが、どうにも彼女は今の発言が気に入らないらしい。
「何が気に入らない?」
「あなたみたいな年の子が平然とここにいることによ。あなたみたいな年なら……」
何処か悲しそうな声で言う禅十郎は目を細めた。
「言っておくが、テメェの尺度で俺を測ろうとするなら迷惑だから止めろ。俺は俺のしたいようにするためにここにいる」
「……っ」
言葉に詰まるレディ・ランに禅十郎はマスクの下で溜息をつく。
彼女の反応を見るだけで、どうして自分に接触してきたのか何となくだが分かった気がしたからだ。
「もし俺が親の借金を抱えて、家族も人質に取られちまってここで一気に金を手に入れなければならないとする。俺は喧嘩が強いだけで、相手は戦闘のプロで凄腕の強敵、もう勝ち目はゼロだ。なるほど、確かにその状況は同情するに値するだろうな」
禅十郎は淡々と仮定の話をした。
それも何処か気に食わないと言いたげな声で口にすると、禅十郎は彼女に肉薄する。
「だがな、同情するのは勝手だが、同情しておいてその場に立ち尽くして何もしないなら、同情された側からすればそいつは周りにいる『何もしないその他大勢』と同じなんだよ。そんなことも分からないのか?」
「そ、それは……」
レディ・ランは禅十郎から離れるように後退りする。
禅十郎は相手に同情するということをあまり好かない。
「覚えておけ。同情なんてものは唯の自己満足でしかない。手を差し伸べることも出来ない奴が他人の不幸を見て自分のように悲しんでも、それは決して『優しさ』から出る感情じゃない。自分も『ああなってしまいたくない』って感情が出してるだけにすぎない」
禅十郎の言葉に彼女は動揺を隠せていなかった。
そして、彼女は感じたのだ。
彼の言葉は経験によるものだと。
かつて同じような経験をしたことがあるからこそ実感できる言葉の重みがそこにあった。
「あんたが何を求めてここにいるのかは知らないが、俺は俺の目的の為にここにいる。その邪魔をするなら、どんな相手だろうが俺の敵だ。他に気を取られるならあんたはここで辞退しろ。半端な気持ちで挑んだところで、あんたはここにいる誰一人にさえ勝てはしない」
そう言って禅十郎は彼女を残して立ち去った。
レディ・ランの横を通り過ぎた後、ちらりと彼女を見ると体が震えるほど強く己の拳を握りしめているのだけが目に映った。
それからもう一杯何かを飲もうとしていると今度は赤髪の男、ローガンが近寄ってきた。
「おい坊主、テメェの言葉、あの女にはかなり効いてたみたいだぜ?」
下卑た笑みを浮かべるローガンに禅十郎は肩をすくめた。
「みたいだな。カマをかけてみたが、あの反応からするにもしかしたら案外外れてねぇのかもな」
そう言うとローガンは下品な笑い声をあげる。
「テメェもそう思うか。どう見てもアレは喧嘩慣れしてるだけで殺しの経験はないだろうぜ」
「それを言ってしまえば、先代チャンピョンと彼女を除けば全員人を殺した経験がある奴等ばかりだろうが」
それを聞いたローガンは更に声を張り上げて笑った。
「あひゃひゃひゃっ!! 日本の平和ボケも治ったのは本当みたいだな! こんな餓鬼でも人殺しに躊躇いがないんだからよぉっ!! こりゃあ、思った以上に楽しい戦いが出来そうだぜ!!」
「期待していろ。ま、勝つのは俺だがな」
次の試合でローガンが試合に入り、その次の次に禅十郎が入ることになっている。
恐らく今残っている選手と禅十郎の前の選手では彼に勝つことは無いだろう。
確かにここに勝ち上がるほどの実力者ではあるが、運も含まれればその力はピンキリである為に、彼等は運が良いとも悪いとも言えた。
「そいつは楽しみだ! 精々テメェと楽しくやれるようにサクサクッと倒しておいてやるよぉっ!!」
楽しそうに下卑た笑い声をあげて、ローガンは待機室を後にする。
そして、彼の言う通り、ローガンは初戦の相手も二試合目の相手も余裕の態度で嬲って勝利した。
一方、禅十郎とローガンの試合が確定した同時刻、大神は本確的に始まった賭け事に力を注いでいた。
賭けは三種類存在し、そのうち一つが競馬などと同様に単純に試合の勝敗結果に対して金銭を賭けることだ。
これは参加するかしないかは個人の自由であり、予選の時も行われていた。
しかし、本戦は予選と異なるところが存在している。
予選は賭ける金額は無制限であったが、本戦からは賭ける金額の最低額が百万である為に、一般人の参加など到底不可能なのである。
因みに大神は最初の方からこの賭け事に一度も敗北しておらず、かなりの金額を稼いでいた。
ここで手に入れた金は結社の資金になるというなら大神も出し惜しみはしなかった。
彼は相手を観察して分析する能力に長けており、身体能力のみであるが相手の実力を大まかに把握することが出来る。
それ故に、大神は誰が勝つのかを的確に把握することで何度も賭けに勝利し手持ちの数倍の金を稼いでいた。
しかし、本戦から大神も完璧に観察するのは困難であると実感し始めていた。
(流石と言うべきか、どいつもこいつも体術の技量は恐るべきものだな)
予選と異なり、上り詰めた者達の実力はほぼ拮抗している為に簡単に予測がつかないのだ。
もし、禅十郎のように近接格闘にのめり込んでいれば、より的確に勝者を見分けることが出来ただろうが、残念ながら大神にとって近接格闘術は護身術程度の価値しかない。
この限界を感じた瞬間から、大神は本来の目的にシフトすることに決めた。
国外に持ち出されてはいけない聖遺物を回収することへと意識を向ける。
そして、それを入手するには参加者と主催者の一騎打ちに勝つしかない。
裏の賭場で行われる三種類の賭けのうち、金銭を賭ける以外に、特別枠同士の賭けおよび参加者と主催者の一騎打ちがある。
これこそが一切の制限がない賭け事なのだ。
特別枠同士の賭け事は試合に関わればどんなルールでも賭けを行っても良く、そのやり取りを主催者側が仲介して行っている。
時には違法薬物や魔法師の因子がある人間などで賭けが行われているが、当然、非合法のやり取りを行っている組織は細心の注意を払って取引している為に、簡単に公安や警察にしっぽを掴ませていない。
それ故にここで取引されることが多いのである。
そして、大神が臨むのは主催者と参加者による賭け事である。
その参加資格は自身が雇った選手が試合に出る時のみであり、その賭けに勝利した場合、主催者が用意した物を手にすることが出来る。
ただし、その賭けに乗るリスクはかなり大きい。
何故ならその賭けの内容は試合がどのように進むのかということだからだ。
勝敗を賭けるのではなく、試合がどのように進み、誰がどのようにして勝利するのかをより的確に当てることで勝敗を決める。
これは相当厳しいことになる為に、真っ当な人間は絶対に参加することはない。
しかし主催者側が提示するものは時として表裏問わずに社会に多大なる影響を与える代物が提示されることもある。
しかも主催者は余程のことがない限り、自身の物を手放すことはしない為に心底欲しい者からすれば、勝負に乗らなければ手にすることさえ叶わないのだ。
だからこそ、その賭けに乗る者がいるのだが、提示する代物に対して同価値の金銭または代物を用意しなければならず、それが満たせていないと主催者が決めれば、勝負に乗ることすら出来ない。
結社の調べでは、過去の賭けにおいて会社の顧客リスト、土地、秘匿技術などで賭けを行ったことがあるが、主催者が負けたという情報は一切入っていない。
だが、それでもこの勝負に勝たなければ、目的を達成することが出来ない。
主催者との勝負を行う際、端末のみのやり取りで行い、提示している代物が写真付きで添付されている。
それを見る限り、未だに聖遺物が取られた形跡はない。
(さて、ここが正念場だな)
闘技場にいるオジゴットがついに禅十郎の選手名を叫んだ瞬間、主催者との勝負に気を引き締める大神であった。
如何でしたか?
今回は原作で使えそうなキャラを使えるだけ持ってきました。
ラルフ・アルゴルは個人的にめちゃくちゃ使いやすいと思ったので登場してもらいました。
次回、大神と禅十郎が二人揃って頑張りますのでお楽しみに!
それでは今回はこれにて。