魔法科高校の劣等生と優等生、加えて問題児   作:GanJin

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どうもです。

新作アニメが始まったことを喜びつつ、新年まであと半年かと思いながら過ごしています。

今期は期待させてくれる作品がいくつかあるので楽しみです!


真相

地下闘技場で勝利した禅十郎と大神は主催者側の職員から景品である聖遺物、八尺瓊勾玉と序でに手に入れた景品を貰うと、闘技場に向かう際の集合場所に戻っていた。

 

「あー、ったくようやく終わったぜ」

 

「俺は終始緊張していたがな。まったく予想外の行動ばかりするせいで、こっちは主催者の思考をトレースするのが面倒になっただろうが。初戦で勝てたから良いものの、もし失敗していたらどうするつもりだ」

 

「んなこと言って、ほぼ分かってただろうが。それなりのデータがあれば、情報解析はお前の十八番だ。そもそも俺達の部署はハチとヨッシー達の情報収集能力、大神の情報処理能力、そんで俺を含めた実行チームとサポートの猪瀬さんで大体のことは出来るからな」

 

結社の部署の中で禅十郎と大神が所属しているところは能力はあるがその反面クセが強い。

 

だというのに、異様なほどバランスが取れているのだ。

 

これまでもいくつかの仕事を、過程は兎も角結果的に成功している。

 

特に大神と禅十郎の組み合わせは結社の中でもかなり強い。

 

大神は情報処理能力は高いがそのデータをもとに行動するには力が及ばないことが多く、禅十郎においてはここ最近は考えて行動するが、根本的に頭より体が動くタイプなのだ。

 

しかも禅十郎は勘が鋭いため、行動結果が空回りすることはあまり無い。

 

それ故に、禅十郎を充分に補佐するのに大神が使えると隆禅は見抜き、二人を組ませたのである。

 

「んで、終わったのは良いんだが、この後どうすんだ?」

 

ずっと同じ姿勢でいた為に体を伸ばしながら禅十郎は大神に質問した。

 

「結社の職員が俺達を回収することになっている。が、何時ここに戻ってくるかも言ってなかったからな。今から連絡して少し待つことになると思うが」

 

大神がそう言うと禅十郎は心底嫌そうな顔をする。

 

「なんだその顔は」

 

「だって、腹減ってんだよ。マジで飯食わねぇと辛いわ」

 

「我慢しろ。それにここら辺では碌な店はないからな」

 

「ないどころか人っ子一人いねぇじゃねぇか」

 

二人がいるのは街中ではなく、人里離れた場所であった。

 

周りは木々で生い茂っており、車道があるくらいで民家があるとは到底思えない場所なのである。

 

「ったく、主催者側もヒデェことしやがる。もう少し人里近くに止めてくれてもいいだろうに」

 

「向こうにも思う所があるのだろう。選手が試合終了後にかち合わないように手を回してこうなったと考えるのが妥当だ」

 

「そんなもんかねぇ。ま、後でこいつを狙って襲われたかねぇしな」

 

それ故に禅十郎と大神は襲撃があるのではないかと辺りを警戒していたが、徒労に終わることになる。

 

「にしてもなぁ、今回の仕事、色々妙な所があるんだが……」

 

「妙な事?」

 

禅十郎がふと引っかかる所があるらしく、眉間に皺を寄せていた。

 

「だってさ、今回の始まりって軍の馬鹿将校が横領して聖遺物を売り飛ばしたんだよな?」

 

「ああ、そう聞いている」

 

「じゃあよ、あんまり黒い噂を聞かない闘技場の主催者は何でこいつを手に入れたんだ?」

 

「帰りがけに通信機越しだが言っていただろう。『心躍る勝負を見れて良かった。それは私にとって幸運を呼ぶ勾玉だったよ』。つまり、主催者の言う心躍る試合を見たかったから、それを手に入れたんだろう」

 

「いやいやおかしいだろ。何で軍の横領物なんて面倒なものを手に入れるんだよ。リスクありすぎだろ。これまでの景品を見てみたが、確かに歴史的価値、魔法的価値のあるものがいつくかあったけど、今回みたいな出所がヤバい物なんてなかっただろうが」

 

ここに来るまでに葉知野達が色々調べた中にこれまでの賭けで使われた景品があったが、どれも以前の持ち主が手放して手に入れた真っ当な代物ばかりだった。

 

だというのに、今回の八尺瓊勾玉というのは軍の保有物であり、横領した代物、つまりこれまでの景品との趣旨が大きく異なるのである。

 

「……言われてみれば、盗難品や横領品と言った類のものは一度も出たことが無かったな」

 

大神もこれまで見た資料を思い出し、禅十郎の言い分が正しいことに気付く。

 

「それに何度も勝負をして感じたのだが、主催者はただの娯楽好きだった。娯楽を楽しむ為に手段は選ばないだろうが、面倒なことは手を出したくない、そんな気がした」

 

大神も確かに言われてみれば、今回のことに関して奇妙に感じることはあった。

 

そもそも緊急とはいえどうして軍の尻拭いをこちらですることになったのか。

 

こちらで情報を掴んでいた時にはすでに世界各地に情報が漏れており、それを手に入れようといくつかの国と組織が動いていた。

 

いつもなら、複数の組織が動いていたならこちらでも情報を掴んでいたはずなのに今回は後手に回り過ぎている。

 

「んー。仕事は終わったっていうのに、なんかモヤモヤするなぁ。そう言えば、今回の地下闘技場の主催者ってどんな人だったっけか?」

 

それを聞いた大神は呆れて溜息をついた。

 

「お前、資料を見てなかったのか。大手の外資系企業の社長、五十代の男性……いや待て、妙だな。社長になるほどの器があんな幼稚な性格をしているのか?」

 

大神は自分で口ずさんで違和感を感じた。

 

闘技場では失敗をするわけにはいかないと余計なことは頭にいれようとしなかったが、今更考えてみれば、社長になるような人物が刺激を求め、娯楽に飢えたただの享楽主義者だと感じるはずがない。

 

自分達が知りえる情報でも、彼は謹厳実直であり、とてもではないが自分達が相対した主催者の性格と掛け離れているのだ。

 

それを聞いた禅十郎は目を細めて、顎に手を当てて考え事をする。

 

「大神、ハチに連絡を取って、その社長について可能な限り情報を調べるよう指示しろ。何か出るかもしれねぇ」

 

「分かった」

 

大神が連絡を取り始めると禅十郎は頭をガシガシと掻いた。

 

「ったく、親父め、成り行きで引き受けたが今回は一体どんな仕事を受けてんだ?」

 

 

 

 

 

篝家が保有する土地の一角にあるとある建物の客間にて、九州に戻っていた隆禅はある男と面会していた。

 

「今回は私の依頼を受けていただき、誠にありがとうございました」

 

男が頭を下げてお礼を言う。

 

「気になさるな。こちらもいくつか溜まっていた仕事をまとめて片付けることが出来たのでな」

 

「成程。今回の件で不正を働く軍将校を失脚させ、日本にいる国外組織、無法者達の情報を手に入れ公安に流し、この国の安寧を揺るがす要因を一斉に排除したわけですか。いやはや、私の子育ての悩みがこんな大事に関わることになるとは……」

 

「貴殿の心中お察しする。私も息子達には頭を悩ませているのでな」

 

本当に悩んでいるらしく、お茶をすすった後、溜息をつく隆禅に男は苦笑を浮かべる。

 

「『武人』の長男は兎も角、『狂人』の次男と『鬼人』の三男は色々と苦労されてようで。ですが、今回は隆禅殿の末の御子息のお陰ですね。本当に感謝していま……」

 

男が再びお礼を口にしようとすると、部屋の外から大きな物音が聞こえてきた。

 

「お待ちください! 隆禅様は今、お客様と面会中にございます!」

 

「親父とその客に用があるんだよ! 良いから退け!」

 

扉越しでも聞こえてくる足音とその声の主に隆禅は感嘆の声を上げた。

 

「ふむ……。この短時間でここに辿り着くとはな。少しは出来るようになったか……」

 

「そんな落ち着いていてよろしいのですか? かなり頭に来ているようですが」

 

「構わん。それも想定内なのでな」

 

足音が近づき、扉を壊す勢いで開けられた。

 

「クソ親父! 俺を嵌めやがったな!」

 

そこに現れたのは禅十郎だった。

 

その顔は分かりやすいほど怒りに満ちており、隆禅を睨んでいた。

 

「何が緊急の依頼だぁ? 今回の件、全部親父が裏で手を回してたんじゃねぇか!」

 

「その通りだ」

 

悪びれもしない態度に禅十郎は口をへの字にする。

 

「それよりも客人の前だ。少しは落ち着いて話せ」

 

流石に感情的になり過ぎたと自覚し、少しだけ深呼吸して禅十郎は自信を落ち着かせた。

 

「そもそも軍から聖遺物が横領されてどっかに売られたこと自体嘘だった。調べたらちゃんと回収してんじゃねぇか。俺が貰ったもんもちょっときれいなただの石ころだ」

 

そう言うと禅十郎はポケットから赤い勾玉を隆禅と男の前に置いて見せつける。

 

資料と比較しても寸分たがわぬ情報だったが、それはあくまでも表面的な話だ。

 

しかも後で調査してみれば、売り飛ばされるはずだった聖遺物も事前に回収できていたようで、その話を聞いた隆禅が今回の件の為に一枚噛んだようである。

 

軍の上層部はそのことを世間にさらす気はなかったが、日本にいる不穏分子を排除し、公安に恩を売れるのであれば、少々面子を潰さても構わないと上が判断し、その情報を隆禅が買ったのである。

 

その後、手に入れた情報を使って今回の仕事を起こさせたのだ。

 

そのこと以外にも禅十郎は今回の件で奇妙に感じたことがあった。

 

「今回の件、俺より適任がいたのに俺に任せたことも気掛かりだった。それに場所が地下闘技場だって知った兄貴が俺に枷付きで試合に臨ませてたのもおかしいだろ。大方、兄貴に俺の柔術の良い修行場を提供してくれって頼まれたから、今回の件に加えたんだろ。認めたかねぇが本当にいい練習になったよ」

 

その話を聞いていた隆禅の客人は感心したように頷いていた。

 

すると禅十郎は彼に一瞬だけ目を向ける。

 

「後は地下闘技場の主催者だ。大手企業の社長が開いてるってことだが、大神が対戦した相手はとてもじゃないがそんな器をしている人物じゃなかった。そんで、その人についてハチに色々調べてもらったら、その人には娘がいたことも判明した。でも、ある時を境に表には一切出ることは無くなった。地下闘技場が開かれた後からな」

 

そう言うと、禅十郎はもう一度客人に目を向けた。

 

「あんただな? 娘に偽の聖遺物を景品に加えろって口添えしたのは」

 

そう言うと客人は笑みを浮かべて拍手した。

 

「よく分かりましたね。流石は隆禅殿の……」

 

「俺だけじゃここまで分からなかった。誰かの手を借りなきゃ真実にたどり着けない腕力しか取り柄のない人間、それが俺だ」

 

男の言葉を遮り、自身が取るに足らない人間だと言い切る禅十郎に男は呆けた顔をする。

 

謙遜すると嫌味に聞こえるだろうが、この男の言っていることは事実だ。

 

実際、この短時間でここに辿り着けたのは、禅十郎が葉知野達を使ったからだ。

 

「謙遜しなくて良いですよ。人々を纏め上げ、統率する技量は誰にでも出来ることではない。私も上に立つ者だが、やはり失敗することもあってね」

 

「一端の結社の社員と社長を一緒にするな。数と規模が違う」

 

確かにそうだが、男は禅十郎の評価を下げる気はなかった。

 

使える人員の中で最適な役割を与えて、最大の利を得るのは難しいことだが、この男はそれを見事やってみせた。

 

人の才能や能力を十分に発揮させた禅十郎は間違いなく、人を纏め上げる才能がある。

 

そんな人物が彼女の周りにいてくれれば、と男は思ったが、今更思って仕方のないことだった。

 

「そう言えば、あんたの依頼っていうのは引き籠り娘に敗北なりなんなり適当に刺激を与えて外に少しでも意識を向けさせることであってるか? 外にはまだ面白いものがあるってさ」

 

禅十郎の予想を聞いて男は拍手を送りたいと思ってしまった。

 

一切話していないはずなのに、そんなことまで理解できるのか禅十郎の才能を目にして素直に脱帽した。

 

「ほぼその通りだよ。残念ながら私には子供を育てる技量が足りなかった。いや……これ以上は何を言っても言い訳でしかないな」

 

肩を下げる男に禅十郎はふと何となく思いついたことを口にした。

 

「だったら結社にでも入れたらどうだ? 最近、結婚とか子育てで休業する人が増えたから、人員を増やさないと仕事の処理が追い付かないって他の部署が嘆いていたからな。最悪、ハチとヨッシーの多趣味オタクバカにでも任せれば、少しは外に興味を持つだろうよ。結社でもトップクラスの娯楽好きなんでな」

 

隆禅に目を向けると、構わないと言いたげな毅然とした態度を取っていた。

 

「……少し相談させていただきたい」

 

「問題ない。こちらもやる気さえあれば歓迎する」

 

「じゃあ親父、ついでにもう一人雇ってくれや。闘技場で何となく気になった奴を見つけたんだ」

 

「……詳しく聞かせてもらおうか」

 

 

 

 

 

「そして、御子息が連れてきた新人は現在研修を受けていると……。成程、夏に入ってきた彼女はその経緯でというわけですか」

 

夏に始めの報告書を一通り読んで雨宮麗奈は納得した。

 

九校戦も終わって、隆禅達が九州から戻ってきた直後に唐突に入社試験を行うと連絡が来た時には目を丸くした。

 

どのような経緯でスカウトされたのだろうかと思ったが、どうやら禅十郎の気まぐれらしい。

 

レディ・ランと名乗っていた女性について詳しく見てみれば、先天的特異能力者の身体強化(フィジカルブースト)を有しているらしく、そのおかげで地下闘技場で勝つことが出来たそうだ。

 

地下闘技場では基本的に魔法の使用は認めていないが、あくまでも表面上であり、街中の様にセンサーがあるわけではない。

 

そもそもCADもつけることが許されていないので、魔法を使えたとしても時間がかかり過ぎて肉弾戦で押し負けるため、使う人はほぼいない。

 

彼女の様に念じれば発動できる先天的特異能力者が例外なのだ。

 

「まぁ、相手が先天的特異能力者だというのに真正面から受けて勝つのもかなりおかしいと思いますが……」

 

それさえなければ、彼女も優勝する可能性があった。

 

家庭の事情にあって、あの地下闘技場に参加していたようで、別段裏家業をしていたわけではなく、知り合いからその情報を知り、自分なら優勝できるかもしれないと思っていたらしい。

 

結局禅十郎の一撃で仕留められてあっさり敗退したのだが……。

 

それを読んだ彼女の気持ちをオタクの葉知野が言葉にすると「ええいっ! 篝家の三男は化け物かっ!!」であろう。

 

実際、禅十郎はこの戦いで一度も魔法は使っておらず、肉体と技術のみで勝ち残った。

 

本当に化け物である。

 

「あの身体能力に加えて行動力の塊とは……。大神さんも彼と組むまではそれなりに功績を上げていますが、今と比べればその結果は歴然ですね。成程、確かにあの二人は組ませた方が良いかもしれませんね」

 

その後も、二人の活動記録を調べた天宮は隆禅が揉めている二人を組ませているのかよく理解した。

 

 

 

 

 

夏休みもあと一週間と少しであるが、禅十郎は結社で今月最後の仕事を行っていた。

 

「はー、疲れる」

 

首を動かしてポキポキと音を鳴らして気だるげな声を上げる禅十郎に、向かい側で仕事をしていた大神がため息をついていた。

 

「ぼやくな。さっさとそれを仕上げろ。まったく、お前と言う奴はどうしてこうも連続で面倒ごとを持ち込んでくるんだ」

 

「俺の所為じゃねぇからな。一色家との唐突な見合いの件も、爺の伝手で寄越されたゴールディ家の娘の護衛に関しても俺は一切悪くねぇから」

 

悪態をつく大神に禅十郎は顔を歪ませて睨んだ。

 

九校戦が終わった後の仕事以降、禅十郎はしばらく修練に時間を割いていたのだが、数日とせず色々と面倒ごとが重なったのである。

 

九校戦の結果を見て、篝家の保有する力に目がくらんだ一色家の一部の者達が愛梨との見合いを半ば強引に進め、当日に禅十郎が暴れて数名を全治数週間の大怪我をさせるというトンデモ事件を引き起こした。

 

それだけでは飽き足らず、今から数日前にイギリスのゴールディ家から英美の護衛をするようにと言われて、いざ行ってみれば、同級生の十三束鋼と護衛対象に悪漢と間違われて少々いざこざを起こしてしまい、現在その事後処理をしているのだ。

 

因みになぜ悪漢と間違われたのかと言うと、夏休みに入ってから葉知野と吉崎の勧めである映画を見ており、折角だから同じ格好にしようと黒スーツにサングラスで向かったら、本物の悪漢達と服装が被ってしまい、仲間と思われたのである。

 

「大体、お前だって一色との見合いに口出ししてんじゃねぇか! お前も同罪だ!」

 

「あの時、俺は実家が近くだったから仕方なく見合いの送迎役として付き添っただけだ。なのに着いて三十分足らずで面倒ごとを起こしては俺まで巻き込むとは一体何を考えてるんだ! 大体、お前は結社の社員としての自覚が足りん! 俺達の一挙一動が社の評判を左右するというのに、お前はどうしてそう向う見ずに行動ばかりするんだ!」

 

「うっせぇ! 俺はそもそも見合いなんて乗り気じゃなかったんだよ! 俺はあのジジババ共が子供を政治の道具かなんかだと思ってるのが気に食わなかったから、鉄拳制裁してやっただけだ! 親父もトラウマ植え付けるぐらいまでやれって言ってたから文句言うな!!」

 

「やり方を考えろと言っているのだ! 何で速攻で手を出すという考えが出るんだ! それに殴るだけで何で壁まで破壊するんだ、このアホっ!! 治療費は兎も角破壊した箇所の修繕費は社長が負担することになっただろうがっ!」

 

「親父が好きにやれって言ってたんだよ! 骨折と壁数枚破損程度で済んだんだから別に良いだろうが!!」

 

「それが考えなしだと言っている!!」

 

「いちいちチマチマ考えてて後手に回るくらいなら、先手必勝を取る方が良いだろ!!」

 

「少しは落ち着いて考えろ、この単細胞筋肉達磨!!」

 

「喧しいわ、頭でっかち机上空論メガネ!!」

 

禅十郎と大神が互いを罵り合っているのを天宮は偶然遭遇していた。

 

書類を届けに来ただけなのに、部屋に入ってみれば、罵詈雑言が飛び交っていたのだ。

 

思わず異世界にでも飛ばされたのかと彼女は錯覚し、今もなお本来の目的を忘れて、その光景を眺めていた。

 

一方、一緒の部屋にいるはずの葉知野や吉崎、猪瀬はそんな二人のやり取りを何でもないかのように振る舞っており、それにも彼女は唖然とした。

 

(何で誰も止めないんですか!?)

 

しかも、この二人、互いに罵り合っているのに仕事の手は一切休んでいないのだ。

 

それどころかさんざん罵倒し合っているにも拘らず、互いに渡された資料を何でもないかのように受け取り、そのまま反論したり開き直ったりしている。

 

(な……成程、二人を組ませて問題ないとはそういうことですか……)

 

その光景を見て、天宮はようやく二人を組ませても問題ない理由に気付いた。

 

この二人、結社内において仕事と私情を一切混同しないタイプなのだ。

 

だから、罵り合ってもいつも通り仕事が出来るし、それを他の者も理解しているから、普段通りに仕事が出来ている。

 

面白くもとんでもない集まりだと天宮は思った。

 

そんな光景を目にした後、彼女はようやく本来の目的を思い出し、書類を渡して部屋を後にした。

 

「なかなか興味深いお二人でしたね」

 

だが、悲しいかな、今以上に彼等と関わることは無いと思っていた彼女は、この先、彼等と共に仕事をする機会がどっと増えるのであるが、そんなことを今の彼女が知る由もなかった。




如何でしたか?

と言うわけで、夏休み編(九州編)はこれにて終了です。

気まぐれでまた追加する予定ですが、次回からは横浜騒乱編に突入していきます。

では、今回はこれにて。

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