魔法科高校の劣等生と優等生、加えて問題児   作:GanJin

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どうもです。

魔法科高校の劣等生『来訪者編』2020年に放送です!!

それを目にして「よっしゃーっ!!」と叫びましたよ。

来年が物凄く楽しみです!

2020/10/25:文章を修正しました。


RPGで言うなら……

 達也が第一高校の生徒らしき人物に監視され、改造スクーターで逃げられた日の夜。

 周公瑾は自身が経営する横浜中華街の店舗で当日最後の客人をもてなしていた。

 

「相変らず、貴殿の店の料理人は良い腕をしている」

 

 白を基調としたスーツの男は食事の〆に注文した老酒を飲んで、周にそう言った。

 

「恐縮です」

 

 周は恭しく頭を下げた。それはここ最近相手にしてきた大陸からの客人達とは違い、上辺だけのものではない優雅な動きだった。

 

「それにしても何時もご予約される閣下が本日来店されるとは思いませんでした」

 

「それは済まないことをした。私も昔の様に表立ってこの国で動けなくなってしまったのでな。先日も貴殿の助言が無ければ奴等に発見されていただろう」

 

 その口調から周に対して恩義を感じているように見えるが、当の本人は彼の言葉と感情が噛み合っていない印象があった。

 そもそも彼から人間らしさが感じられなかった。まるで人間らしい声色で話すようプログラムされた人形のような喋り方だった。

 

「いえいえ、閣下には私共もお世話になっておりますので」

 

 微笑む周に男は「そうか」と言って、この話は終わりにした。

 

「そう言えば貴殿はここ最近、裏で色々と動いているようだな?」

 

「流石は閣下、耳がお早いですね」

 

「貴殿が奴の息子を拉致するという大きなリスクを負ってまで手に入れた特権で何もしないと考える方がおかしいだろう」

 

 そう指摘すると周の笑みにやや陰りが生まれた。

 

「リスク……ええ、そうですね。彼一人にこの店の一か月分以上の利益を食い潰されました」

 

 普段余裕のある態度である周が珍しく嫌な記憶を思い出して苦い顔を浮かべているのを目にした男は低く笑った。

 

「奴の息子には相当苦労したようだな」

 

「閣下の忠告を軽視した私のミスです。彼が人間の常識から外れた存在だと思って接しておりましたが、まさかあそこまで狂っていたとは予想だにしていませんでした」

 

 周が頭を下げると、男は気にしていないと笑みを浮かべた。

 

「『篝』はあの四葉と別の意味で底が知れん。特異な技能を持つ魔法師を輩出するのが四葉の特性だとすれば、篝家は特異な魔法師を()()()魔法師を輩出している」

 

 再び酒を飲み、口の中を潤わせる。

 

「本来のエレメンツの在り方とは真逆なのだ。従うことを知り尽くしたからこそ、適切に多くを従えることが出来る知識と技術がある。そうやって奴等は多くの技術を吸収していったのだ」

 

 徐々に男の声に抑揚が出てきて、先程までと打って変わったように彼の表情には人間らしさが見え隠れしていた。

 

「だからこそ私は奴に目を付けた。類稀なる強靭な肉体、生まれながらにして一流の魔法師に足り得る才能。そして彼等が保有する秘奥を施した奴こそ、私が追い求めている先の景色を見せてくれる鍵なのだ」

 

 だからこそ、ここで留まるわけにはいかない。そうでなければ、ここまで生き恥をさらした意味がない。

 男はここに来て初めて、本当の感情を露わにした。

 

「閣下の夢の為、我々も出来る限りの支援をさせていただきます」

 

 そう周が言うと、男はスイッチが切れたかのように表情を一変させて、人間らしさが感じられない表情に戻った。

 

「いや、今はそこまでしてもらうつもりはない。それにまだ数か月程ここは安泰なのだろう?」

 

 笑みを浮かべる男に、周はくすりと笑って返した。

 

「ええ、彼等との契約で一年はこの中華街に手を出さないと約束していただけましたので」

 

 結社は今年の春、契約として周が拠点としている中華街に期間限定で一切手を出さないことになっている。本当はもう少し譲歩したかったのだが、流石に負債を増やし続ける無駄飯ぐらいの爆弾を何時までも抱える気のなかった周は一年で呑むことにしたのである。その為、ここ最近は本来の仕事に入る邪魔が少なくなり、随分と楽に仕事が出来ていた。

 

「よろしければ、特別にお部屋をご用意させていただきますが」

 

「では、お願いするとしよう」

 

 そう言うと男は懐から一枚の紙を周に手渡した。

 

「これは?」

 

「世話になる駄賃だ。私がかつて研究した魔法師の実験体の生き残りがそこにいる。今回の件で少しは役に立つかもしれん。困ったことがあれば私も可能な限り手を貸すとしよう」

 

 その申し出に周は笑みを浮かべて再度頭を下げた。

 

「感謝いたします、閣下」

 

「なに、もしかしたら面白いものが見れるかもしれんのでな」

 

 残った酒を一気に飲み干し、男は窓から見える星空を眺めた。

 

「……早く会いたいものだな、私の最高傑作の為の素材に」

 

 そうして、騒乱の準備が水面下で着々と進められているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の昼、禅十郎はようやく達也と二人で話が出来る時間を作ることが出来た。

 学校の裏手にある昼休みはあまり人が来ない場所で二人は落ち合っていた。

 

「達也、これに映っているのはお前か?」

 

 不審な行動をして友人の誰かが来てしまう可能性を考慮して、早く話を済ませる為に禅十郎は遮音防壁を張ると基哉からもらった写真を見せた。

 それを見た達也は表情一つ変えずにいたが、内心驚いていた。

 あの日、街路カメラのデータは全て軍が処理している事になっている。自分の身元につながるような痕跡は一切ないように徹底した情報統制を行ったというのに、目の前の男はそれを掻い潜って自分に辿り着いてみせた。

 ここで違うと白を切るという選択肢は達也には無かった。そもそもこの男は何の根拠もなく自分にそんな話をしに来ない。必ずそれが達也である根拠を持って彼は尋ねに来たのだ。

 この瞬間、達也は禅十郎への警戒度を最大限まで高めた。四葉だけでなく国防軍のセキュリティさえもこの男の前では無関係と思われていた所から暴かれてしまう。もし自分と深雪の生活に支障を来すようなことをするというのであれば、最悪の選択を取るつもりでいた。

 そんなことを考えていると、禅十郎が苦笑を浮かべていた。

 

「達也、そう殺気立つな。別にこの程度の情報でお前をどうこうする気はねぇよ。ま、口約束じゃあ信用できないだろうがな」

 

 なるべく隠していたつもりではあるが、禅十郎ならばこの程度は見破れるようだと達也は彼の実力の認識を改めた。それ故に、達也は抑えることは止めて禅十郎と対峙する。

 

「どうやってそこに辿り着いた」

 

「情報統制の完璧さ、って言えば信じるか? ……そう怒るな、怒るな。ちゃんと順を追って説明してやるから」

 

 一方、禅十郎は達也の気迫にまったく臆せず、飄々としていた。

 

「発砲事件があったことは情報網で知っていた。まぁ、こいつを見つけたのはただの偶然でな。情報収集に入った時には街路カメラは悉くダメだった。こいつ以外はな」

 

 結社の高い情報収集能力の高さを達也は改めて実感した。そして、同時にその情報を掴んだ人物に達也は要注意人物として警戒することを決意する。

 

「まぁ、この写真から見つけられるのは車に乗った奴等とそれに対峙するバイク乗りってところだな。後はバイク乗りが持ってたこの銀色の銃のような物体くらいしか分からん」

 

 そう言うと禅十郎はブレザーの中に収納している特化型CAD、シルバーホーンを達也に見せつけた。

 

「こいつに色と形状が良く似ている物体がな」

 

「……まさか、それだけでか?」

 

 確かにシルバーホーンはそれほど大量生産されていない上に所有者は限られるかもしれない。それでもあまりにも情報が少なすぎる。たったそれだけで自分に辿り着くには条件があやふやなのだ。

 訝しむ禅十郎が笑みを浮かべて首を横に振った。

 

「まぁ、他にもいろいろあるんだけどな。街路カメラに手が加えられていると思われる範囲を調べ上げてみたんだわ。そしたらお前の家がある地域も入っててな。その範囲内でバイク乗りのシルバーホーンの使う公式に登録されていて、なおかつその時刻に該当エリア外にいた魔法師ってだけでもかなり絞れたよ。何せ、全員該当したからな」

 

 社会に出ている魔法師の情報をそこまで調べ上げていることだけでも恐ろしい事なのだが、問題なのはそこではない。情報源が僅かしかないにもかかわらず、分かる範囲で不明な部分を浮き彫りにして望んだ答えを逆算して導き出し、自分までたどり着いたのだ。流石、九重八雲が時折認めるだけのことはあると達也は禅十郎を心の中で称賛した。

 

「なるほど……。そこまで知っているとは恐ろしいな」

 

「褒めても何も出ねぇぜ? じゃ、答え合わせと行こうか」

 

 僅かに二人の間に静寂が訪れる。そして、少しして達也は口を開いた。

 

「答える気はない。そもそも、その調査方法が正確かどうかも分からないからな」

 

「ありゃりゃ……。ま、そりゃそうだろうな」

 

 達也の返答に禅十郎は当然と言った反応であった。

 

「まぁいいさ。ただ、これだけは覚えておけよ。ここ最近、妙な連中が日本に密入国しててな。余計なことに巻き込まれないように注意しておけよ。そいつら、日本にある何かを探しているみたいでな」

 

「そのようだな。どうやらこの学校にも国外の術者が探りを入れているらしい」

 

 今朝、友人達からもたらされた情報を達也は禅十郎に伝えた。先程の有益な情報に対する達也からの対価であった。

 禅十郎もそれで今回は満足したようである。

 

「おうおう、そいつは物騒だな。お互いトラブルに巻き込まれないようにしねぇとな。特にお前は論文コンペにも参加しているからな。学生とはいえ技術は技術だ。念には念を入れておけよ」

 

「心配するな。余程のことが無い限り、俺のセキュリティは破れない」

 

 自信満々に答える達也に禅十郎は笑みを浮かべた。

 

「大した自信だ。じゃあ、さっさと戻ろうぜ。あんまり時間を取っちまうと深雪ちゃんに怒られちまうからな。ようやく涼しくなってきたのにまた凍らされたくねぇからな」

 

「お前は人の妹を何だと思ってるんだ」

 

「俺の中で最も怒らせたくない友達。流石の俺も瞬間冷凍の人間シャーベットにはなりたかねぇしな」

 

 深雪ならそれぐらい容易いだろうが、その兄に対してそこまで言える彼の度胸に達也は呆れた。だが、面倒だったのでそれ以上追及はせず、二人は友人達のいる元へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後、禅十郎達はいつものメンバーで帰っていた。

 論文コンペの状況を話していると、いつの間にか論文コンペのメンバーである五十里のイメージに話がシフトしていた。

 

「五十里先輩が『錬金術師』か……。RPGで言うなら俺等ってどんな役職になるんだろうな?」

 

 禅十郎は何となくそんな疑問を口にすると、ここにいる全員が揃ってその話題に乗ってきた。

 

「禅は『狂戦士』」

 

「よし、雫ちゃん少し話し合おうぜ。誰が戦闘狂だって?」

 

 即答する雫に禅十郎は口元を歪ませる。

 

「学校中の禅への共通認識」

 

 そうそうとここにいる大半が黙って頷き、禅十郎は絶句した。

 

「じゃあ、レオは『闘士』かな?」

 

「いやぁ、山岳部だから『山賊』かもよ?」

 

 レオの身体能力を知っている幹比古は自分の知っている役職を口にするが、エリカはレオの山賊姿を想像して笑っていた。

 

「なんでだよ!」

 

「じゃあ、エリカちゃんは『女騎士』?」

 

「やめて、あたしそんなお堅い役職は似合わないから」

 

 美月が思い浮かべたことにエリカは少々嫌そうな顔をする。だが、確かに美月の言う通り、彼女の騎士姿というのも様にはなるだろう。

 

「そうそう、コイツにそんな仕事が出来るわけ、どっちかって言うとアマゾネ……いってぇっ!」

 

 言い切る前にエリカがレオの脛を蹴って黙らせる。

 それを見ていた幹比古は余計なことを言わなければいいのにと内心呆れていた。

 

「ミキは『陰陽師』確定ね」

 

 古式魔法と陰陽師を関連付ける傾向は昔からあり、それはいくつか間違いなのだが、幹比古はそんなことをわざわざ口にすることはしなかった。

 

「後は、そうねぇ……。美月は『僧侶』でほのかは『魔法使い』かな?」

 

 二人のイメージ的に確かにあっていると多くが納得する。

 

「じゃあ、雫は?」

 

「『王女』。しかもしょっちゅうデッカイ亀に拉致されるピンクの姫様みたいなタイ、イデデデデ……」

 

 ほのかの疑問に禅十郎が答えると雫はムッとして彼の耳を引っ張った。

 自分の友人は揃って余計な事しか言えないのかと幹比古は呆れて、他の人はいつもの光景に微笑みながら残りの二人に役職を当てはめようと考えていた。

 

「深雪はそうねぇ……。王族ってイメージがありそうなんだけど……」

 

「深雪ちゃんは『魔法使い』の適正もある『王女』とかがあってるだろうな」

 

「雫とは違うの?」

 

「選挙の時のイメージ」

 

 疑問を浮かべるほのかに禅十郎は苦笑を浮かべて声を潜めて答えた。それにはほのかも直ぐに察してそれ以上深く聞かなかった。そんな話したらこの場に王女どころか氷の女王が参上しかねないからだ。

 

「禅君、何か言いました?」

 

「いや? 仲間の為に前に立つ深雪ちゃんのイメージに合ってるかなって。だって深雪ちゃん、守られてばっかはあんまり好きじゃないだろ?」

 

 ブリザードも可愛く見える冷たい微笑みに禅十郎はまったく臆しなかった。

 禅十郎の咄嗟の機転により深雪はこれ以上追及はしなかったが、ほのかは絶対に選挙での話は持ち出さないようにと小声で禅十郎に念を押した。

 皆の役職について割とあっさり決まっている中、一番盛り上がったのは達也だった。

 

「達也君だったら賢者かな?」

 

「賢者っつうには武闘派だけどな。仙人とか良いんじゃねぇか?」

 

「そう? だったら世界征服を企む悪の魔法使いとか似合いそう」

 

「いやぁ、達也は『魔王』だろ」

 

 エリカ、レオ、エリカ、禅十郎の順で達也の役職を挙げていく。

 

「『勇者』はダメかな?」

 

 ほのかの提案に禅十郎は笑いながら首を横に振った。

 

「無いわー、達也に限ってそれは無いわー。こいつは世界を救う為には動かんだろ。深雪ちゃん一筋の難攻不落の超絶シスコン兄貴だぜ」

 

「禅、喫茶店に行く前に少し話でもしようか?」

 

 やや不機嫌な達也に対し、禅十郎はくつくつと低い笑い声をあげる。

 

「じゃあよ、世界の存亡と深雪ちゃんの命を選ばなきゃいけない時にお前はどっち取る気だよ」

 

「……深雪だな」

 

 やっぱりか、と誰もが心の中で頷き、禅十郎は更に笑い声を大きくする。

 深雪の方も分かってはいたが、世界よりも自分を取ってくれたことに内心小躍りするほどに喜んでいた。

 

「反論の余地ねぇじゃねぇか。どうせ世界を救わねぇと深雪ちゃんが救えねぇって条件じゃねぇとこいつは勇者にゃならねぇよ」

 

「成程なぁ。じゃあ、達也は『魔王』に決定だな」

 

 禅十郎に言い負かされ、レオの一言で達也の役職は『魔王』になった。

 折角なので他の役職であれば誰になるだろうかと、喫茶店までその話でもちきりとなった。

 彼等がそんな話をしている傍ら、ほのかは雫と話をしていた。

 

「ねぇ雫、どうして篝君は『狂戦士』なの?」

 

 昨日のこともあるが、アレは狂戦士と言うよりもただのスパルタ指導である為に当てはまらない。確かに闘争心はあるが、理性が無くなっているわけではない。

 皆は違和感がないと思っているようだが、クラスが一緒のほのかはそのイメージは彼とはズレている気がしたのだ。

 

「私が言うのもなんだけど、篝君が『勇者』じゃダメなの?」

 

「向いてはいるだろうけど……」

 

 言い淀む雫にほのかは首を傾げる。

 

「けど?」

 

「多分、禅は人を纏め上げる素質はあるけど、敵対する相手は一切の容赦がないし手段を選ばないから……」

 

「そうなの?」

 

 ほのかは覚えていないようだが、四月の一件では禅十郎はその傾向が顕著だった。禅十郎が自分を害する敵と判断すれば、容赦などせず徹底的に叩き潰そうとする。彼女が見てきた禅十郎の相手への態度はただ単に敵ではなかったからなのだ。それ以外であれば、時と場合によって禅十郎は態度を急激に変える。

 例えば、九校戦の様に研鑽を積んで試合に臨んでいる相手には敬意をこめて全力で当たり、尊敬すべき人物には普段の禅十郎とは思えないほどの礼儀正しい態度となる。一方、犯罪者やテロリストであれば、加減を一切せずに叩き潰そうとする。相手の尊厳も理由も一切無視して、徹底的に地位も名誉も尊厳も奪いつくそうとする。

 その最たる例が虐めを隠し続けてきた中学を廃校寸前までに追い込んだ事件である。虐めなど起こっていないと言い切る学校側の態度に、最早話し合いで解決しないと判断した禅十郎は使える手段を用いて、あらゆる手段から敵対する者達を追い詰めていった。

 敵対者の社会的信用を失わせ、上流階層から引きずり落とすように嵌め、地位も名誉も簒奪し、全てを失った彼等は酷い泣き面をして縋るように禅十郎の前に現れた。何度も何度も謝罪をし続ける彼等に対し、反省すると誓えば最低限の救いの手を差し伸べると約束し、安堵した彼等をその場で裏切ってどん底に叩き落としたのである。

 このことをある伝手から知った雫はかなりドン引きした。中学生のやることではないし、そこまでやるかと開いた口が塞がらなかった。

 その事件からしばらくして勇気を出してやった理由を聞けば、『悪いことをしてるのに開き直ったのが気に食わないから、いっそのこと悪いことが出来ないようにしてやればいいと思って叩き潰した』とあっけらかんと言ったのだ。

 その結果があまりにも残酷すぎるのが、叩き潰した相手以上に救われた者が数多くいた。その上、彼の行動原理が友人が危機に陥ったからやったことである為に、雫は彼を強く責めることが出来なかった。

 

「だからRPGで言うなら禅は『狂戦士』か『勇者(外道)』」

 

「外道……」

 

 そこまで酷く言わなくてもいいのではないかと思ったが、ほのかは考えを改めることにした。

 

「でも篝君が『勇者』なら雫も『王女』で良いんじゃないかな? 四月みたいなピンチの時は駆けつけてくれるかもしれないよ」

 

「……うん、そうだね。禅は身内には優しい人だから」

 

(でも……『あの時』みたいなことにはなって欲しくないな)

 

 雫は何かを思い出すかのように少しだけ上を向いた。その目はどこか寂し気だったが、ほのかは雫の異変に気付くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 行きつけの『アイネブリーゼ』という喫茶店に入ると、エリカ、レオ、幹比古、美月はテーブル席に座り、残りの五人はカウンターに座った。因みに座っている順番は、禅十郎、雫、ほのか、達也、深雪の順である。

 ここのマスターのコーヒーは絶品であり、一人を除いて全員がコーヒーを頼んだ。

 

「うーん。禅君は相変わらずコーヒーよりもジュースなんだねぇ」

 

 通い続けているのに唯一コーヒーを頼まずオレンジジュースを頼む禅十郎にマスターは残念そうな顔をする。

 

「どうにもコーヒーとか紅茶の味が苦手なんですよねぇ」

 

「三煎目の緑茶が飲めるのにどうしてコーヒーが飲めないの?」

 

 雫の素朴な疑問に禅十郎は苦笑を浮かべた。

 

「飲めはするんだが、好んで飲もうとは思わないんだよなぁ。恐らく苦みの違い……かなぁ? 色々試したんだが、どうにもトラウマの所為で普通に飲めないんだわ」

 

「トラウマ……。禅君がですか?」

 

 禅十郎が滅多に口にしないワードを聞いて深雪は意外そうな顔をする。深雪だけでなく雫以外の全員がその一言に興味を抱いていた。

 

「子供の頃に母さんが作ったゴーヤとかセロリとか苦いものをミキサーで混ぜたスムージー的な飲み物を飲まされてな、あまりのマズさに号泣したことがあったんだよ。それ以降苦みが強いヤツは殆どダメになったんだ」

 

「ハハハ、それは災難だったね」

 

 内心コーヒーが原因ではないことに安堵しつつ、珍妙な理由でトラウマが出来たことに笑うマスターに禅十郎は苦い顔をした。

 

「笑い事じゃないですよ、マスター。その後も被害者が続出して上の兄全員がゴーヤとかしばらく食べられなくなったんですから」

 

 そんなことがあったのに他の人にも振る舞ったのかよと全員が禅十郎の母親の行動に目を丸くする。しかも、食べることが好きな禅十郎が飲食物を口にして号泣するほどとなると、想像を絶するマズさだったに違いない。それが幼少期の頃であればトラウマになるのも納得だった。

 

「まぁまぁ、歳を取ればコーヒーの苦みも分かるようになるさ。苦手は克服するものだからね」

 

「だと良いですねぇ……。コーヒーの苦みは危険と同じだって言ってた喫茶店のマスターもこの話をしたらそう言ってましたよ」

 

「おや……それって、『ロッテルバルト』のマスターかい?」

 

 マスターの問いかけに禅十郎は首を傾げた。

 

「マスター、あのおっさんと知り合いで?」

 

「ハハハ、知り合いもなにもそこのマスターは僕の父親だよ」

 

 そう言うと禅十郎は目を丸くするとじーっとマスターの顔を見つめる。

 

「あー……髭とったら面影あるかも」

 

「髭っ!?」

 

「正直、その髭の所為で老けて見えますよ。親子って言わなかったら兄弟に見えます」

 

 マスターに精神的ダメージが入る。

 

「確かにそうですね。勿体ないです」

 

 ここでまさかの美月の天然の援護射撃にマスターは更なるダメージを受けた。

 

「ひ、ひどいな、二人共」

 

 友人達も揃って笑いつつ、話題は論文コンペに入っていった。

 魔法科高校に近いために魔法師ではないもののここのマスターは魔法社会についてそれなりに精通していたため、達也がコンペに出ることに驚いていた。

 その後、開催する会場の話となり、先程話題に出た『ロッテルバルト』が会場の近くにあるので、是非とも自分と父親のコーヒーと比べて欲しいとマスターの商魂の逞しさに笑い声が上がった。




如何でしたか?

RPGの役職の話は面白そうだったんで少しやってみました。

いくつか何となくの思い付きです。

では今回はこれにて。

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