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2020/04/07:修正しました。
昼休みが終わり、達也は実習授業を受けていた。最初の授業であるために、実習で使う機材の使い方を覚えることが主な内容である。
勿論、二科生であるため質疑応答が出来る教師がいないが、課題をクリアしなければならず、達也達はそれに取り組んでいた。
「なぁ達也、生徒会室の居心地はどうだった?」
教師がいないため、気安く話しが出来ることを良いことにレオは達也に話しかけた。
「奇妙な話になった」
「奇妙って?」
達也の前に並んでいたエリカが振り返って尋ねた。
「風紀委員になれ、と生徒会長から言われた」
「なんだそりゃ。一体何があったんだ?」
レオが首をかしげる。
少しばかり周りがざわついているようだが、仕方ないことだと達也は思った。
今まで二科生が風紀委員を務めたことは無い。実力で一科生に劣ってしまう二科生が違反を犯した生徒を抑えることが難しいというのが彼らの共通認識だからだ。
「でも凄いじゃないですか、生徒会からスカウトされるなんて」
その中で美月の反応は他と違っていた。確かに前向きに考えれば、そう捉えることも出来る。
「いや、問題はこの先だ」
「えっ、それってどういうこと?」
まだ他にあるのかとエリカはその話に興味が沸いた。
「エリカちゃん、次、回ってきたよ」
「あっ、了解」
しかし、自分の出番となり、話を中断しなければならなくなったエリカは名残惜しそうに課題に取り掛かる。
話は一度中断することにして、全員が一度終わったら話の続きをすることになった。
それから次の順番が来るまで空きが出来たため、達也は話の続きをすることにした。
「で、何があったの?」
一番興味が沸いているエリカが尋ねる。
すると、達也は溜息交じりに言った。
「俺が風紀委員になるかどうかで、禅が生徒会長と風紀委員長と対立した」
「はっ……」
「えっ……」
「何でそうなったんだ?」
ポカーンとした表情であるエリカと美月、そしてレオ。全員の反応がほぼ同じであるのは仕方ないだろう。
そして、達也は生徒会室で何があったのかを話し始めた。
昼食を食べ終わると、真由美は生徒会室に呼んだ理由に入った。
第一高校では新入生総代は生徒会に入ることが伝統となっている。それに乗っ取り、真由美は深雪を生徒会に勧誘するのが今回の目的であった。
しかし、そこで一騒動が起こる。
深雪が達也と一緒に生徒会に入ることは出来ないのかと尋ねたのである。
これには禅十郎を含め、全員が驚いた。
勿論、この時、深雪が言ったことを聞けば、ブラコンであることを差し引いても納得できないこともなかった。
達也の筆記試験の結果は新入生で一位であり二位の深雪とも圧倒的に差が出ていた。生徒会の業務は主にデスクワークであり、実技の実力は関係なく、知識や判断力が重要である。それは自分より達也の方が秀でているため、深雪は自分より生徒会には彼が入るのがふさわしいと断言したのである。
深雪の話を聞いて、仕事としてみれば彼女の判断は合理的だと禅十郎は思った。
だが、それは出来ないと鈴音が答えた。
生徒会役員は一科生から選出されなければならず、これは校則で決まっている。この制度を改定することは出来なくもないが、現実的にそれは不可能だ。今すぐに改訂できることではないからだ。
鈴音は淡々と説明していたが、説明中の顔にはこのような差別意識を持たせる制度についてよく思っていない様子が出ていた。
それを感じた深雪は鈴音にそう言われても、機嫌を悪くすることなく素直に謝罪した。
少しばかり重い空気になったが、真由美が話を戻し、深雪が生徒会書記として入ることに決定した。
本来ならば、これで終わるはずだったのだが。
「ちょっといいか?」
突然、摩利が真由美に話しかける。
「風紀委員会の生徒会選任枠のうち、前年度卒業生の一枠がまだ埋まってないんだが……」
「それは今、人選中だって言ってるじゃない。禅君の名前が新入生の名簿にあったのを見つけて即決したけど、もう一人がなかなか決まらないのよ。そんなに急かさないで」
「えっ、俺そんなあっさり採用されてたんですか? 考えて選んだって話じゃ……」
意外な事実をどうでもいい時に知る禅十郎は目を丸くする。
「えっ、ちゃんと考えたわよ? 説得する方法」
「そっちかよ!?」
二人の会話を見て、摩利が溜息を吐き、鈴音が少しばかり笑みを浮かべていた。
「禅、話が進まないから少し黙れ。真由美と話をする時間は後で作ってやる」
「……了解です」
摩利に言われて、禅十郎は引き下がった。だが、内心どうせ出来ないだろうと思い、これ以上追及することは諦めることにした。
「さっきの続きだが、確か風紀委員の選任枠は二科の生徒を選んでも規定違反にはならない、だったよな?」
(ちょっと待て、まさか……)
摩利の話を聞いて、禅十郎が彼女が何を言いたいのかすぐに理解した。
しかも、それに気付いていたのは禅十郎だけではなかった
「摩利……。貴方……ナイスよ!」
「はぁ?」
真由美の予想外な反応に、達也は間の抜けた声を出してしまった。
(待て待て待てっ!)
そして禅十郎は心の中で真由美にツッコんだ。
「そうよ、風紀委員会なら問題無いじゃない。摩利、生徒会は司波達也君を風紀委員に指名します」
「ちょっと待ってください! 俺の意志はどうなるんですか? 大体、風紀委員が何をする委員なのかも説明を受けてませんよ」
いきなり風紀委員に指名され、抗議する達也。彼の態度は当然と言えるだろう。
禅十郎の時とは違い、任命の仕方が雑すぎる。
「妹さんにも生徒会の仕事について、まだ具体的な説明はしておりませんが?」
だが、その抗議も鈴音の一言で霧散してしまった。
「まあまあ、リンちゃん、いいじゃない。達也君、風紀委員は、学校の風紀を維持する委員です」
(えっ、説明それだけ?)
真由美のざっくりとした説明に呆れた顔を浮かべる禅十郎。
それは達也も同意見のようだった。
しかし摩利や鈴音は一切説明しようとせず、達也は最後に残った中条に視線を合わせた。
達也にじっと見つめられ、あたふたしている中条を見た禅十郎は助け舟を出した。
「風紀委員の主な仕事は魔法使用に関する校則違反者の摘発および魔法を使用した争乱行為の取締役だ。まぁ、風紀と言っても服装違反や遅刻については自治委員会の領分だから、そこまで気を回す必要はない、とのことだ」
誰も話さないからといって気弱な中条を困らせるな、と禅十郎は目で達也に訴える。
それを達也が汲み取ったかどうかは分からないが、達也は禅十郎の話に耳を傾けた。
「後は違反者に対する罰則の決定や生徒側の代表として生徒会長と共に懲罰委員会に出席して発言する。要は警察と検察を兼ねた組織ってわけだな」
「すごいじゃないですか、お兄様!」
喜んでいる深雪に達也は待ったをかけた。
「いや、深雪……、そんな『決まりですね』みたいな目をするのは…」
「会長、委員長、少しよろしいですか?」
達也と深雪が話をしている途中で、禅十郎が口を開いた。
すると摩利を除き、生徒会役員全員が目を丸くして驚いた。
何故なら禅十郎は今まで真由美を『会長』、摩利を『委員長』と呼んだことは一度も無かったからだ。
「禅、言ってみろ」
それに動揺しなかった摩利は禅十郎が何を言いたいのか気になっていた。
「自分は司波達也を風紀委員に任命するのに反対です」
「で、その後どうなったの?」
達也の話を一通り聞いていた、エリカは続きが気になった。
だが達也は首を横に振った。
「その後に予鈴が鳴って話は放課後に伸びた」
「その……、やっぱり二科生には風紀委員は務まらないということなんでしょうか?」
「ま、実力で劣ってるから二科生なわけだしな。そう言いたくなるのも分からなくもねぇな」
美月とレオがそう言うと、達也は再び首を横に振った。
「いや、あいつに限ってそれはない」
「どういうことですか?」
一度、思いつめた顔をしていた美月が呆けた顔をして首を傾げた。
「二科生ってのが理由じゃないとしたら、何が原因だって言うんだ?」
達也の否定にレオは納得していない様子である。
「これは俺の勝手な解釈だが、あいつは……」
「つまり、禅君は『条件付き』で反対したってこと?」
予鈴が鳴った後、真由美と摩利と鈴音は移動しながら生徒会室での一件を話し合っていた。
「ええ、私が知る限りでは彼は二科生だからという『安易な理由』で否定しません」
「そもそもあの人もそうだが、禅の家自体が一課・二課制度を良く思っていないからな」
「あそこの教育方針は良くも悪くも完全な実力主義だものね」
「ええ。ですから、彼の意見はちゃんと耳を傾けるに足るものだと思っています」
「なら、あいつは条件さえ満たせば賛成するというわけになるが……。それは何だと思ってるんだ?」
摩利の質問に鈴音は難しそうな顔をしていた。
「そうですね……。あくまで推測なので断定は出来ませんが、彼は司波君が二科生であっても、実力で一科生を抑えつけられる人材であるという証明が出来れば賛成すると思っています」
「普通の考えだな」
摩利はつまらなそうに言った。
「いえ正確には組織内において、と言うべきですね」
「ああ、なるほどねぇ。禅君らしいと言えばらしいわね」
それを聞いていた真由美が納得したように頷いた。
「どういう意味だ?」
何に頷いているのか分からなかった摩利が真由美に尋ねる。
「つまりね、禅君が言いたかったのは最低でも生徒会と風紀委員会の全員が達也君が風紀委員を務めるにふさわしい人材であることを認識しておくべきだって言いたかったんだと思うの」
摩利と鈴音は話を黙って聞くことにした。
「全校生徒の意識改革を目指しているのは禅君も知ってるわ。その為に達也君のような存在が必要だから勧誘したことにも気付いていると思うの。でもね、禅君が懸念したのは、トップの独断専行によって組織内が分裂する可能性だったと思うの。それを私が見過ごしてるって、禅君は思ったから動いたんじゃないかしら?」
「いやいや、それはいくら何でも考え過ぎじゃないか? あの人なら兎も角、あの禅だぞ」
真由美の話を聞いて摩利はその可能性を首を横に振って否定した。
「いえ、ありえない話ではないかと。いくら私達が納得しても何も知らない生徒が納得するとは思えません。現に生徒会でも服部副会長は会長の案にあまり乗り気ではないようですから」
「確かにそうかもしれないが、風紀委員においては私が言えば済む話じゃないのか?」
学内ではトップクラスの実力である摩利の考えに反対できる猛者は学内にはほぼいないのが現状である。そのやり方も出来なくもない。
「そう言えば渋々従うでしょうが、組織内で小さな亀裂が生じる恐れがあります。それが今後どのような影響を及ぼすのかを、彼は重く考えていたのかもしれません」
鈴音が言うと、摩利も少しばかり納得した顔をしていた。
「まぁ、そう言われれば一理あるか。意外と小心者だな、禅の奴は」
これまでのことを思い返してみると、少しばかり笑えてくる。
「そこは思慮深いと言う方が正しいと思いますが……」
「まあまあ、リンちゃんの予想が当たってるかどうかは放課後になれば分かるんだから、この話はこれでおしまいね」
そう言うと、三人はそれぞれの教室に戻っていった。
戻っている途中、真由美はふとあることを思い出した。
(そういえば、禅君が反対したときの深雪さんの顔、物凄く不機嫌だったけど大丈夫かしら?)
一方、一年A組では教育用端末での授業を行っていた。
「ねぇ、禅」
「何だ?」
「司波さん、何かあったの?」
「知らん」
「でも……」
授業中、雫が禅十郎にひそひそと尋ねていた。
理由を知らなくもないが、禅十郎はいちいち話す気にはなれなかった。
「いいから、今は授業に集中してろ」
「ちょっと厳しい」
「兎に角、今は耐えろ」
「無理。流石に寒い……」
真由美の心配した通り、禅十郎の教室では季節外れの寒波が到来していた。
誰が起こしているかなど最早口にする必要はなかった。
いかがでしたか?
最後の深雪ちゃんによる寒波は絶対やりたかったので使ってみました
中盤の方の内容が分かりにくかったかもしれませんが、ご容赦ください
さて、次回は服部との話に行きたいと思っています(行けるとは言ってない)
今後の展開を楽しみにしてください
それでは今回はこれにて!