魔法科高校の劣等生と優等生、加えて問題児   作:GanJin

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どうもです。
来訪者編第11話、リーナのシーンが良かったです。
スターズの総隊長でありながらややポンコツな所があって、割と気に入っています。
ちゃんと彼女の話もする予定なのでお楽しみに!
来訪者編は次回でラストなんですが、第11話の後半がアニメオリジナル展開に加えて次回予告が無いことに驚きです!
これは期待して良いんですよね!?
そんなハイテンションで更新しています。


鬼と虎

 あらゆる場所で事件があった次の日、大体の事情を知った禅十郎は手掛かりとして関本に直接話をするべきだと判断した。彼との面会申請をしてもらう為、禅十郎は放課後に風紀委員会本部に来ていた

 部屋に入ると丁度花音が来ていた。

 

「千代田先輩、関本先輩の件なんですけど……」

 

「いやよ」

 

 要件を話す前に断られた。

 

「俺、まだ何も言ってないですよ」

 

「関本さんと面会したいって言いたいんでしょ? ダメ、無理、絶対申請は出さないから」

 

 断固として受け入れないと彼女は腕を組んで態度で示すほど本気だった。

 

「……頑なですね。ただ関本先輩から色々調べておいた方が警護の役に立つ可能性がありますし」

 

「だとしても篝君が行くのは絶対ダメ」

 

 申請を出したくない理由はどうやら禅十郎個人に問題があるからのようだ。彼女が意地でも彼との面会を拒む理由を禅十郎は考えたが、思いつくのは一つしかなかった。

 

「念のために言いますけど平河の様な事はしませんよ?」

 

「そっちの不安もあるけど、それ以前の問題。本校屈指の問題児にトラブルの中心に関わって欲しくないの! 面倒になる可能性が高すぎるから!!」

 

 そんなどうしようもない理由で断られていたことに禅十郎は唖然とした。若干理不尽じゃないかと思ったが、確かに自分が関わった出来事は騒動に発展することが多い。しかし、誰の手も煩わせずに全て一人で処理している。といっても迷惑を掛けてないから問題ないという訳ではないのだが、当の本人はあまり気にしていなかった。

 

「えー……」

 

 呆れと驚きと戸惑いが混じった声を上げていると摩利がやってきた。

 

「どうした禅、変な声を上げて」

 

「渡辺先輩、聞いてくだ……」

 

「摩利さんからも言ってください。彼が動くと余計な騒動に繋がりかねないって」

 

 禅十郎の言葉を遮って花音は摩利を味方に付けようとしていた。引退したとはいえ、先代の風紀委員長が止めれば、禅十郎も引き下がるかもしれないという花音の考えは禅十郎でも分かった。

 そんな中、状況が分からない摩利は首を傾げていた。

 

「関本に話を聞きに行きたいのか?」

 

 摩利も先日の件は把握していた。禅十郎が何かをしようとしているとすれば、先日現場にいた件だと予測するのは簡単だった。

 

「ええ。警備の為の情報収集の一環として」

 

 大体の事情を察した摩利は口元に手を当てる。

 

「……別に良いんじゃないか?」

 

 考えた結果、摩利が禅十郎を擁護したことに花音は驚いた。そんな彼女の反応に摩利は困った顔を浮かべた。

 

「花音、こいつは下手に拘束するより自由にやらせた方が過程は兎も角、結果は上々となることが多いぞ」

 

「でも、その過程で余計な騒動になったら本末転倒じゃないですか」

 

「それはよく分かる」

 

「分かるんかい!」

 

 愕然としながらツッコむ禅十郎に摩利は軽快に笑った。

 

「心配するな、こんな奴でもルールや規則はちゃんと守るぞ。寧ろ破ることを許さない性格だから風紀委員に任命したんだ。まぁ、裏を掻くことは多いがな。それにここで申請を断ると別口から関本に会いに行くかもしれんぞ?」

 

 摩利の言う通り、禅十郎はここで断られたら別口で彼と面会するつもりだった。花音に頼んだのは正式な手段を使った方が色々と面倒な手順を踏まなくて済むからだ。

 そんな事実を知らずとも、花音は禅十郎ならやりかねないと思った。申請しても騒動が起こる可能性があり、申請しなくても知らぬ間に騒動が起こる可能性があるのなら、どちらを選ぶ方が利口なのか火を見るよりも明らかだった。

 

「……分かりました」

 

 ガックリと項垂れる花音に対して禅十郎を擁護しながらも摩利は内心彼女に同情していた。まだ一年も彼と一緒に風紀委員の仕事をしなければならないのだ。その上、今回のような出来事に彼が関わった際には問題解決まで絶対に止まらない為、花音は自分よりも心労が絶えない学生生活を送るのだろうなとそんな嫌な未来を想像した。

 

「関本から話を聞く件だが、私と真由美が明日行くからそれに同伴する形で良いか?」

 

「良いですよ。そっちの方が千代田先輩の心配も減るでしょうし」

 

「……減らないわよ」

 

 物凄く不機嫌な花音に摩利は今度何か奢ってやろうと思った。決して彼女に厄介な置き土産を預けてしまったことへの罪悪感や今後の苦労に対して激励をする為ではないと摩利は自分に言い聞かせた。

 その後、達也も関本との面会の申請に来て、禅十郎とのやり取りでほぼ自棄になった花音は彼等と一緒に行くことを条件に了承した。達也は花音の出した条件に少々不満があったが、終始機嫌が悪かった彼女を怒らせて申請を断られるくらいならこれぐらいは譲歩すべきだと判断して彼女の条件を呑んだ。

 達也の心の中で不満と譲歩があったのは本人以外知ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後、予定通り禅十郎と達也は真由美と摩利と共に関本が拘留されている八王子特殊鑑別所へ向かった。

 

「達也、今更だが抜けて大丈夫だったのか?」

 

「順調に進んでいる。問題ない」

 

「流石だねぇ」

 

「それより、そのアタッシュケースは何だ?」

 

 禅十郎はここに来る際、一緒に重要な代物が入ったアタッシュケースを持ってきていた。

 

「ん? まぁ、念の為ってヤツだよ」

 

 禅十郎はそう言って誤魔化すが、念の為と言う時点で何かが起こりそうな気がしてならない。達也はもう何が起きても驚かないようにしようと心に決めた。

 鑑別所へ辿り着くと『七草』の力の御蔭が中に入った後はスムーズに事が進んだ。職員の同行が無いのは間違いなく彼女の家の力の御蔭だろう。禅十郎が結社の方から色々と手を回せなくもなかったが、今回は彼女の意図しない好意に甘える形となった。

 今回の尋問では摩利が関本が拘留されている部屋に直接赴き、禅十郎達はその部屋を覗き込める隣の隠し部屋で彼女の尋問を見ることとなった。もしものことがあってもこの面子であれば対処するのは容易である為、誰も異論を唱えなかった。

 摩利が匂いを使った意識操作を用いて関本への事情聴取を行ったことで色々な事が判明した。今回の件で関本がロボ研のガレージで睡眠ガスを使って達也を眠らせた後、デモ機のデータを奪うだけでなく達也が持っている宝玉の聖遺物を探し出そうとしていた。

 達也がそんな貴重な物を持っていることに真由美は驚き、禅十郎は夏に関わった聖遺物がこんな所で出てくるとは思わず、心の中で世間の狭さを実感していた。

 だが、そのことに対して感慨深くなっている時間は長くなかった。八王子特殊鑑別所内に非常警報が鳴り響いたのだ。

 状況を知る為に摩利は意識操作した関本をベッドに放置して部屋を出た。

 達也達も隠し部屋から出て、禅十郎はアタッシュケースに収納された腕を覆う黒い手甲の武装一体型CADを左手に装着してから外に出た。克人の試合で使ったものよりずっと戦闘に特化しており、前回のが甲冑の籠手であるなら、今回のは西洋のプレートアーマーのガントレットを髣髴とさせる代物だ。

 

「こんな所に侵入者か」

 

「何処の命知らずだ」

 

 廊下のメッセージボードを読んだ禅十郎は摩利と同意見だった。

 達也がLPS端末から表示される避難経路を逆算して侵入者の現在位置を割り出し、侵入経路が屋上だと推測した。それを真由美が『マルチスコープ』で確認するとハイパワーライフルで武装した四人組がいるのを確認した。

 

「ハイパワーライフルか……チンピラが手に入れられるもんじゃねぇな」

 

 対魔法師用に開発されたハイパワーライフルで武装できる組織は限られる為、彼等の所属を禅十郎は容易に絞り込めた。

 真由美により侵入者は警備員が対処していることが確認でき、なおかつ達也が現在の建物の状況を把握する。後はそれを基に安全に移動するだけだ。

 

「問題は奴等が何をしに来たかなんだが、……っ!」

 

 四人の中で禅十郎が一番早くこの廊下に繋がる階段の出入口に鋭い視線を向けた。

 禅十郎の反応に僅かに遅れて三人が同じ方へ目を向ける。

 そこには大柄な若い男が姿を現していた。妙に気配が薄く、注視しなければ思わず見過ごしてしまいそうだが、あれほどの巨躯が接近してくるのを目にすれば彼の存在を明確に認識することは難しくなかった。

 禅十郎が真っ先にここに近づく存在に気付いたのは知覚系の魔法を使ったからではない。言うなれば野生の勘に近い。自分達に近づく強敵の存在があると彼の訓練によって研ぎ澄まされた本能が訴えたのだ。

 侵入してきた男を注視した真由美を除く三人はその姿に覚えがあった。

 

「『人喰い虎』呂剛虎か」

 

 禅十郎が呂の二つ名を呟き、その名を知っている達也と摩利は厳しい表情を浮かべる。

 呂も四人に目を留めると、昨日、修次と共にいた摩利に一瞬だけ目を向けた。だが、すぐさまその隣にいる禅十郎に視線を移した。声は聞こえなかったが、僅かに彼の口が動き、何かを呟いた。読唇術の心得があれば、彼が『雷撃(ライトニング・ブロウ)』と口遊んだと理解できるだろう。だが、その名は禅十郎のことを指してはいなかった。

 呂が危険な人物だと恋人の修次から強く言い聞かされていたが、摩利は逃げることは出来ないと判断して前に出ようとする。

 それを禅十郎が片手で彼女を制して逆に前に出た。

 

「渡辺先輩は真由美さんのガードを。真由美さんはサポートをお願いします」

 

 上級生は禅十郎の采配を取り消そうと思ったが、呂を目にした禅十郎の態度が豹変しており、考えを改めた。。

 二人は九校戦やこれまで挑まれた試合などに臨む彼の顔を見てきたが、今の彼はそのどれとも当てはまらない。相手と戦いたいという闘争心が体中から溢れ出すことはなく、体の内側に抑え込み、全てを闘志に変えている。目の前の敵を倒す意志が人の形をしていると摩利は思わず錯覚してしまうほどの気迫であった。

 その闘志は彼の表情にも影響を与えていた。普段の彼は喜怒哀楽が明確で表情豊かであるのが売りなのだが、もし初対面の人がそれを聞いたら信じないと驚くほどに変貌していた。眼光は鋭く、眉間に皺を寄せ、敵を倒す以外の感情は顔に出ていない。その顔は彼の兄である宗士郎によく似ており、二人の血縁関係を色濃く見せていた。

 

「……任せて良いんだな」

 

 摩利の問いに禅十郎は無言で返した。

 摩利は高校三年生にして魔法近接戦闘は『一流』であるが、目の前にいる呂は『超一流』。正面から戦うとかなり分が悪い。だが、隣にいる禅十郎は『規格外』と言って過言ではないことは彼女も実感している。

 夏休み明け、摩利が風紀委員長を引退した後に引退祝いの名目で禅十郎と試合をしたことがあった。立会人は真由美と克人、鈴音の三人でこっそり行った。近接戦闘を含めて勝負する為にルールは接触ありとし、互いに武器の使用を許可した。その結果は摩利の敗北。良い訳が出来ないほどの完敗であった。

 当時でさえ、ここまで変貌しなかった彼が強者との戦いに胸を躍らせた笑みを浮かべてすらいない。それほどの相手であると理解した摩利は禅十郎に譲るべきだと一歩身を引いた。

 その直後、禅十郎は達也と真由美を一瞥する。

 

「達也、『波止場の叫び』。真由美さんは容赦なく撃ってください」

 

 達也は頷き、真由美も言葉の意図を理解して渋々頷いた。

 禅十郎が更に一歩前に出ると、呂は戦闘態勢を取った。

 呂は前傾姿勢を取って両手を体の前に垂らしており、今すぐにでも飛び掛かろうとしている姿は獲物を前にした猛獣を彷彿とさせた。

 一方、禅十郎は無手の構えから体を前に倒れるように傾けるとを一気に廊下を駆け、同時に呂も走り出した。

 禅十郎が前に出た直後、真由美は言われた通り、廊下の天井と左右に壁に白い靄を発生させ、無数のドライアイスの弾丸を呂に向けて放った。

 禅十郎が射線上に入るにも拘らず撃ってくることに呂は内心驚くが、彼の動きを鈍らせるには至らない。

 氷の弾丸は禅十郎に触れるとドレッドノートにより運動エネルギーを吸われて自由落下する。呂にもドライアイスの弾丸が襲い掛かるが、全身に纏った鋼気功によってダメージはなく、そのまま禅十郎に肉薄する。

 初撃は禅十郎がワンテンポ速かった。彼の右拳が呂の顔面を狙い撃つ。

 その速さに呂は驚くこともなく、そのまま禅十郎の腹部に拳を叩きつける。

 禅十郎の拳は呂の鋼気功に阻まれ、呂の右拳は禅十郎の左手腕のガントレットに付与された刻印術式による魔法障壁で防がれた。

 二人が衝突した直後、真由美は躊躇せず二人に向けて更に貫通力と速度のあるドライアイスの弾丸を放った。呂は『超一流』に恥じぬ速さで後方に下がるが、禅十郎は避けることはせずそのまま真由美の攻撃をドレッドノートで受け止めた。

 今度こそ、呂に獣ではなく人間らしい驚きの表情を見せた。先程よりも強力な攻撃を味方がいるにも拘らず撃ってきたのだ。それも女子高校生が決断したとなれば尚更だ。

 その一方で目の前にいる高校生一人に初撃を譲り、なおかつカウンターを止められた事実に驚きはしなかった。一度は別の人間と見間違えたが、呂にとって彼は準要注意人物程度として頭の隅に記憶していたからだ。

 夏のとある任務で日本に送り込んだ大亜連合のある兵士が一人の日本人に負けた案件があった。諜報員によってその人物は禅十郎であることが解明していた。魔法がほぼ使えない状況下でありながら近接戦闘で現役の兵士を圧倒する高い戦闘技能、そして今回の任務で第一高校が関与することから彼が障害になりえる人物の一人として挙げられている。

 始めはその兵士が弱かっただけだと高を括っていたが、実際に拳を受けてあの一撃は氷の弾丸より重いと理解した。それ故に彼を自身を脅かす障害足り得る存在と認識を改めた。

 先日の任務の失態を払拭する為、確実に目の前の敵を確実に排除すると呂は無意識に汚名返上の意志があった。それでありながら頭は冴えており、間違いなく最高のコンディションになっている呂を相手にすることは禅十郎達にとっては最悪に等しい状況と言えた。

 

(……アレを使うか)

 

 一方で禅十郎は先程の一回のやり取りから自分の攻撃で呂の防壁を突破できないと判断した。現在ドレッドノートにて溜めている運動エネルギーで破壊できるか怪しく、真由美の支援を何度か受けた上で威力を上げても大型バイク一台を吹き飛ばすぐらいが関の山だ。呂の鉄壁の防御がその程度のはずがないと仮定すると現在の手札では心もとない。俱利伽羅拳が使えない以上、物理攻撃で倒す為に呂の攻撃を確実に捌きつつ、最強の一撃を放つまで時間を稼ぐ必要がある。

 それ故に禅十郎は気乗りしないが、ドレッドノートと相性の良い魔法を使用することを決めた。

 戦っている最中でありながら、ある男の背中を思い出しながら禅十郎は体内で想子を活性化させる。

 呂は表情こそ変えていないが、禅十郎に変化が生まれていることを察知してより警戒を強めた。真由美が禅十郎がいるにもかかわらず攻撃してくることを踏まえ、更に強固な防壁として鋼気功を情報強化型から対物障壁型に一瞬で切り替える。鋼気功を纏ったままで磨き上げた体術だけで禅十郎を一蹴することを決める。

 何かをされる前に潰そうと呂が動いた。

 真由美が先程と同等の威力でドライアイスの弾丸を放つが、一切効果がない。その上、彼女の攻撃の中で動けるのは禅十郎だけだと判断した呂は彼を始末することに集中できていた。

 一気に肉薄し、強靭な鎧を纏った右拳を突き出す。だが、禅十郎の顔面を狙ったその拳は空を切るだけであり、標的はそこにいなかった。ワンテンポ遅れていたはずなのに禅十郎は呂の左側に移動しており、同時に右拳のカウンターが呂の左頬を狙う。対物障壁型の鋼気功により防がれ、呂は下から禅十郎の顎を狙って左拳を振り上げると、再び呂の攻撃は空振りに終わり、禅十郎は一歩後退していた。

 重ねて呂は蹴り、拳、掌底、熊手を繰り出す。どれも確実に相手を仕留める一撃であったにも拘らず、全て捌かれるのではなく避けられた。中にはカウンターも仕掛けてくることもあった。

 攻撃が空振りに終わったのは明らかに禅十郎の反応速度が上昇しているからだと呂は僅かな攻防でその原理を含めて予測する。先日戦った千葉修次と並ぶ日本の白兵戦魔法師の弟ならば使えてもおかしくはない。その異常なる反応速度で近接戦世界最強の一角に辿り着いた篝宗士郎が得意とする身体能力を飛躍的に上昇させる魔法を使用したのなら攻撃が空振りに終わるのも納得がいく。

 呂は真由美の攻撃が止んだ瞬間、禅十郎に神速とも呼べる突進で肉薄する。再び二人が衝突するかと思えば、突如彼は禅十郎の前から文字通り消えた。現状の装備で今の禅十郎と戦うと倒す時間が足りないと判断した彼は標的を変えたのだ。

 禅十郎が右に視線を移したのは咄嗟の事だった。彼の勘は的中しており、姿をくらませた呂は禅十郎の脇を通り過ぎて、真由美達にその牙を剥ける。呂の姿を捕らえた瞬間、禅十郎は走り出した。

 だが僅かに遅れてしまった今からでは間に合わない。

 とっさに摩利が得物を構えて真由美と呂の間に入るが、さらに彼女と呂の間に達也が割って入り、右手を突き出した。

 放つは術式解体。

 禅十郎との戦闘を観察し、呂が鋼気功を情報強化型から対物障壁型に変えた時から想子を加圧し続けていた。常人を超えた想子の塊が呂の鉄壁の鎧を吹き飛ばす。

 呂は今度こそ自身の身に起きた事に驚愕する。そして、背後に立つ男の気配を察知し、身の危険を初めて感じた。

 禅十郎が腰を低くし、右足を踏み込んだ瞬間、砲撃と誤認させるほどの爆音が彼を中心に鳴り響いた。それと同時に突き出される彼の左拳による上向きの正拳突きが呂の背中を襲う。呂は即座に情報強化型の鋼気功を再構築して禅十郎の渾身の一撃を無効化した。

 

「かぁっ!!」

 

 渾身の一撃が防がれたが、禅十郎の狙いはドレッドノートによって吸収された運動エネルギーを倍増させて放つ後出しの一撃。これまで吸収した運動エネルギーを十倍に増幅させ、拳に触れた空気に一気に付与する。その一撃は呂の鎧で完全に防ぐことは出来ず、背中から強烈な衝撃波が叩きつけられた。

 大型車ですら余裕で吹き飛ばせる一撃を受け、そのまま呂は天井まで吹っ飛ばされて激突し、廊下に背中から落下した。強烈な衝撃を何度も受けた呂はそのまま意識を失った。

 呂が戦闘不能になったことを確認した禅十郎はその場にどっしりと座った。

 

「くそ……」

 

 右腕が痙攣しているのを見て、呂を倒した事実より自身の不甲斐なさに禅十郎は歯軋りする。

 そんな様子の彼に誰も話し掛けなかった。丁度、四人の警備員がここに到着し、それどころではなかったからだ。廊下で大の字になっている呂を見て驚くが、禅十郎を含め、制服を着ている四人を見るとすぐさま呂を拘束しに掛かった。

 呂が拘束されるのを見た達也は禅十郎に手を差し伸べる。

 

「お前があの作戦を提案するとはな。てっきり『愚者の川流れ』か『蛙の丸呑み』かと思ったが……」

 

 達也の手を掴んで禅十郎は立ち上がった。少々体がふらつくのは先程の魔法の反動によるものだが、時間が経てば完全に回復するため気にしなかった。

 

「流石に俺一人で倒せると自惚れる気はないし、物量だけで倒せる相手じゃないだろ。隙を見せれば二人掛かりでどうにかなると思っただけだ」

 

 すると達也は目を丸くして驚いた顔を浮かべた。。

 

「今、初めてお前が成長したことを強く実感したぞ」

 

「……人を学習能力のないアホって思うなよ」

 

 ここで激昂しない禅十郎に達也は違和感を覚えたが、わざわざ指摘しなかった。

 呂が移送されると、四人は『七草』の名前によって特に事情聴取を受けることもなく、得るべき情報も大方得ることが出来たため鑑別所を後にした。

 その後、禅十郎は鑑別所から学校に戻っている間も、仕事中一言もしゃべることは無く第一高校は普段より幾分か静かな一日となった。




如何でしたか?
二話連続で戦闘シーンとなりましたが、やっぱり難しいですね。
でも、この作品を書き始めた時から人喰い虎との戦闘はやりたいと思っていました。
己の身一つで戦う体術を使うキャラが結構好きなので、原作以上に色んな人を活躍させてみたいと考えています。(だったらちゃんと更新しろよと言う話なんですけどね……)
一応予定として次回で原作六巻が終了し、次々回から七巻に突入します。
横浜騒乱編は一年生の話でもかなり大規模な戦闘が多いので、色々と貯まったアイデアを繰り出していきたいなと考えています。
と言っても相変わらずの亀更新なので待たせてしまうかもしれませんが、そこはご容赦ください。
では、長くなりましたが、今回はこれにて!

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