誠に申し訳ありません。
「……一〇分前か…。ちと、早く来過ぎたか」
待ちに待った盆踊り当日。
待ちきれなくなって、早めに家を出てしまったのは良い物の……誰もいないと言うのも、考えものだ。
集合場所のサトウのマンション前に見事に一番乗り。
夏もまだまだ中盤。五時前だと言うのに、まだまだ太陽は明るく、ぼっちの俺を嘲笑うかの様に燦々と輝いている………。
ちなみにまだ夏休みではない。終業式は来週の金曜日。中二で部活に入っていない俺は、受験勉強や部活動に追われることもなく、夏休みを思うがままに過ごせる。
「ああ〜。夏休みかぁ…。何して遊ぼうかな……」
「考えた所でやることなんて、高が知れてるんじゃないの?」
「…降りて来たのか。早いな」
「六矢君だって。自分家の前に呼んでおいて、待たせたら悪いからね」
背にしていたマンションから降りて来たのは、転校生———と呼ぶのには、もう日が経ち過ぎたか。いつもつるんでいるサトウだ。
整った顔立ちと持ち前の明るさから、転校当日にしてクラスに溶け込む強者。内向的な俺とは正反対だ。最近、女子の間では密かに『神様』と呼ばれている。どんだけ優しいんだお前。そのハッピー成分を少しで良いから、俺に分けておくれ。
「……にしても、お前、またそんなパッとしない色の服なんか着て来て………」
「良いでしょ別に。僕は目立たない色が好きなんだ」
今日のサトウの私服は、薄い紫のTシャツと淡い茶色の短パン。
表に出している笑顔には決して似合わない地味な服装……。本人曰く、『あまり目立ちたくない』『地味な色が好き』、だそうだ。
他にも緑、水色、灰色、深い赤など、なんかパッとしない色の私服ばかりをいつも着てくる。それだけギャップがあると、逆に浮いて見えるから気をつけたまえサトウ君。
「ちょっと待っててくれる?自転車取りに行ってくるから」
「おう」
ぼっち再来。
先ほどより、にわかにオレンジ色を帯びてきた太陽が、俺を照りつける。寂しさと孤独感に打ち拉がれそうだ………。そして暑い。
五時まであと五分くらいあるな…。皆まだかなぁ…。サトウも早く、自転車取って来ないかなぁ……。
「はあ………。…暇だ」
何かやる訳でもなく、仮想デスクトップをいじり始める始末。……ため息が止まらない。
———そこに、救世主の足音が一つ。
「りっくんおっはよぉ———!!」
「ぶるるるぁぁぁぁぁぁ———————!?」
ぐぼぁ………!脇腹が強烈に痛い!若本さんみたいな声が出るくらい痛いっ!
……それに、地面を転げ回ったせいで、全身擦り傷だらけだッ!!
「………おいおいアイさんよぉ。出会い頭にドロップキックとは………なかなか痛ぇじゃないですか……。…ちなみに、おはようじゃなくてこんにちはな……?挨拶くらい間違えない様にしろよ…」
「え?これってもしかして、もう一回蹴って良いって言う、りっくんの遠回しな愛情表現!?」
「だれもそんなこと言ってねぇよ!!………全く、どうすんだよ服汚れちゃったじゃないか……」
「こらっ!りっくんなんて、何も着てなくて当然なんだから贅沢言わないの!」
ぐへぇ……。なんか凄く理不尽に怒られてる気がするぅ……。
……これとは長い付き合いだから、今更大して驚く訳ではないが……いつまで経ってもこいつの常時オープン天然フルバーストには手を焼かされる………。
見かけが幼女なら脳みそも幼女と言った所か……。やれやれ、とても同い年とは思えないぜ。一部の特殊な人間の間では、アイドルの様な存在になっているらしいが。こいつも誰かしらには好かれているようで何よりじゃないか。
そうこうしているうちに、足音がもう一つ増える。……地面に這いつくばってるから、良く聞こえる。………おいおい、惨め過ぎやしねえか?
「おいおい、一体どういう状況なんだこれは?」
『一部の特殊な人間』の首相現れる。
「…………聞かなくても見れば解るだろハタケヤマ…」
「なんだお前。また愛華ちゃんにちょっかい出したのか?」
「この状況をどう解釈したら、そうなるんだ!?」
「どうもこうもねえよ。何もされてないのに、愛華ちゃんに限って、まさかお前にドロップキックなんてかます訳ねえよ」
「おい!なんでドロップキックなんて単語がお前の口から出るんだ!?さてはお前全部見てただろ!?」
「なんのことだかさっぱり解らんな」
怒りに任せたがむしゃらな俺の視線と、冷徹な嘲笑を浮かべたハタケヤマの視線がぶつかり合い、バチバチとスパークが飛ぶ。
……こいつと口喧嘩をした所で、結果は火を見るより明らかだろう…。
ならば、やることは一つだけだ………。
「……覚悟しろよロリコン野郎……!」
「どうやら、…いつぞやの対戦で少し、調子に乗っているようだな。先輩として、ここは一つ、修正してやるか」
「その減らず口も今日で効けない様にしてやる!行くぞこの野郎!!」
気合いを込め、掌を堅く握る。………別にリアルで喧嘩をする訳ではないんだが。
そんなことをしなくても、俺達には、こうなった時に、相手を徹底的に叩きのめして服従させる為の特権があるじゃないか。
アイは、面白い物見たさに、掌をきゅっと握り、馴染みののポニーテールをピコピコと揺らしているが、どんなことをしたって、今からやることは喧嘩好きのコイツの予想している展開にはならないだろう。どうせ一.八秒で終わる。
大きく息を吸い、かの国へと俺を誘う魔法の呪文を吐く。
「バースト———」
アイは、何事かと、驚くだろう。まあ、馬鹿のコイツのことだ。適当にいなしておけばば、そのうち忘れるだろう。
ハタケヤマは、止めるどころか、掛かってこいと言わんばかりに、瞳を光らせている。
「リンむぎゅぅ」
…すみません、ボケじゃないんです。至って真面目です…。
なんか、寸前で頬を抓られたかと言うか〜、真横にヒメジマが現れて、発言を妨げられたと言うかぁ〜……。
「………全く!公衆の面前で何やってるのよ、あなた達はッ!!」
耳が痛くなる程の、怒号が飛ぶ。空気を読まないハタケヤマが、俺の代わりに、キーワードを口にしようとするが、彼女の『灼熱空裂弾アキラブラスト』一撃で撃沈されてしまう。
ヒメジマは呆れ顔でため息をつくと、再びキッと、俺とハタケヤマを睨んで、説教を始めた。
「二人とも、ニュービーじゃないんだから、もっと自覚を持ちなさい!!ニュービーですら心得てるわよ!!」
「姫島!男の間に入ってくるな!!」
「ただ幼稚なだけでしょ、アニオタ野郎!!馬鹿のくせに一人前の口を効くんじゃないわよ!!………特に小和田君!あなた、曲がりなりにも、『ウチ』の頭なんだから、もっとシャンとしなさい!!」
………それも大分、危ない発言じゃないのか?
「わかった!?」と押され、耳を押さえながら、こくこくと頷く。
……レギオンマスターか………。あんまり、自覚が無いんだよな………。現にレギオンの名前も決まってない訳だし。
そもそも、まだレベルが3だから、<無制限中立フィールド>にある、レギオンを作る為のダンジョンにもまだ行けてないし…。
まあ、それはこれからコツコツと頑張れば良いだけか。
「よう、皆そろってるか?」
「おうカラト。あとは———」
「やあ、皆揃ったみたいだね。それじゃあ、行こうか」
コメント、感想等ありましたら、よろしく御願しますm(_ _)m