アクセル・ワールド〜過疎エリアの機動戦士〜   作:豚野郎

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ぎにゃーーーーーーーーーーっ!!書き終わった————————————————————!!!


嘆きと思惑

 <NT-D>発動により、拡大されたダスク・テイカーの装甲の隙間から血の様にドス黒いライトエフェクトが覗く。

 鉤爪状の両の手は、解放した<アームド・アームズVN>の様に鋭く変形し、大きな単眼形状のバイザーの奥からは、鋭い眼光がこちらを金縛りにしている。

 ………どういうことだ……何が起きた……?……何故アイツは、オレのアビリティを使っている………!?

 いくら心の中で叫ぼうが答えてくれる者は誰もいない。

 目の前に立つ宵闇色のアバターが、不適な笑みを喉から漏らす。

 

「…フフフ………あはははははははははっ!これはイイ!!そのマスクの奥の、あなたの拍子抜けした表情を想像するだけで、笑いが止まりませんよ!!」

 

 ノルンの体力は既に一割を切っている。四肢は引きちぎられ、腹には風穴。アバターの特徴である金の角も、根元からへし折られている。

 テイカーが変身を遂げた後は、実にあっけない物だった。もはや、対戦とすら呼べない。純粋な殺戮だった……。

 不規則に明滅する視界の中で、テイカーの生物的な触手が音もなく動いた…。もはや身動き一つ出来ないオレの身体を包み、引き寄せる。

 

「…フフフ……可哀想なので、種明かしをしてあげましょう。僕の必殺技、<魔王微発令(デモニック・コマンディア)>は、当てた相手の必殺技、強化外装、アビリティをランダムに一つ選び、永続的に我が物とする必殺技です。…意味が分かりますか?あなたの<NT-D>システムはこの対戦が終わっても、永遠にあなたの元へ返ることはありません!」

「……そん……な………!………返せ!オレの……『力』を……!!」

「わざわざ奪っておいて、返せと言われて返す訳がないでしょう!この力は、僕の為に……存分に使わせてもらいますよ。…………フフフフフ……!」

 

 発動時間が切れたテイカーの装甲が輝きを無くす。

 もう十分な程傷ついたノルンの装甲が触手に締め上げられ、みしみしと嫌な音と鈍い痛みが全身に駆け巡り、掠れ声を出すことすら許さない。

 

「さてと………あなたを痛めつけるのも飽きて来ちゃったので、そろそろ終わらせてあげますよ」

 

 滑る様に伸びた触手がノルンの首筋に巻き付き、頭と胴体を断たんと、容赦なく力を入れてくる。……そろそろ……限界だ………!

 

「最後に伝えておきますけど、妙なことは考えないでくださいよ。もし、この僕にPK集団を送りつけでもしたら………………………………あなたのバースト・ポイント、どうなるか解りませんよ」

 

 そこでオレの視界は途切れた。

 

 

 一切の妥協を許さず覚醒する。

 起き上がったせいで愛用の黒色の毛布が胴を滑り、膝まで落ちる。冷や汗と鳥肌が体中に浮かび上がり、愛用の黒いパジャマに皮膚が張り付いて気色悪い感触が全身を覆う。

 窓の外からは今年も見事に元気な太陽がオレを照りつけ、アブラゼミの合掌が今日も律儀に真夏の訪れを知らせてくれる。

 

「畜生…………!またこの夢か!」

 

 これで何回目だ!?夏休みの一週間前にヤツに遭遇してから今日ここに至るまで、何度同じ夢を見た!?

 理由は解り切っている。オレが<NT-D>に、ダスク・テイカーに執着しているからだ。ハタケヤマやカラトからは半分は諦めた方が良いと忠告されている。しかし、奪われたオレの『力』とそれを奪ったあのスネ夫野郎のことを思い出すと、腹の底からふつふつと怒りが込み上げて来てどうにも押さえられそうにない………。あれから、何度も東京中を嗅ぎ回り、他のバースト・リンカーから情報を探ったが、信じられないことに成果はゼロ。あれだけレベルが高いのに名前は愚か、存在すら知らない奴らしかいなかった。

 お世辞にも穏やかじゃない気分でリビングに行き、冷蔵庫から瓶牛乳を取り出し一気に飲み干す。

 

「……はぁ…………」

 

 好物の牛乳のおかげかはたまた最新型冷蔵庫の冷蔵性能のおかげか、寝起き早々上がりっぱなしだったテンションが下がって行く。

 視界左上のカレンダーには丸文字で8月6日と書かれており、隣で小さい時計の針が午前10時丁度を際している。

 

「さてさて………メシはっと……」

 

 そう言えば腹が減ったな……。適当に何か作って食べるか。

 一旦廊下に出て、キッチンへと向かう。お袋はだいたいこの時間帯はいつも仕事で外出していて帰りも遅く、会えるのはオレが夜更かししている時くらいだ。

 確か、一昨日特売してた卵がまだ残っていたハズだ。アレで適当にベーコンエッグでも作ってトーストを焼けば良いだろう。卵とベーコンを取り出すべく、調理用の冷蔵庫を開く。

 

「あれ?………っかしいな……」

 

 卵とベーコンがない。昨日の朝飯と夕飯にはどちらも使っていなかったから、よもや全く無いなんてことはないハズだ。

 もしかして、お袋が朝飯か弁当に使ったのか?まあ、それなら仕方ないか…。それなら他にトマトソースとチーズとハムがあるから、ピザトーストでも作るか。

 はて?廊下から激しい水流の音がする。これはトイレの音か?かなり少ない確率だが、まだお袋がいるのだろうか?

 疑問に思っていると、入り口から小柄な人影が現れた。良く見知った幼なじみだ。

 

「りっくんおっはよーーーっ!!」

「おう、おはようアイ」

 

 出会い頭の爆走ヘッドバットを右に一歩動いて避ける。ちなみに、これのおかげで一回腰骨にひびが入ったことがある。陸上部で鍛え上げられた筋力にこの凶暴性が加わったらもはや怖いものなしだ。これくらい避けられなければ身が持たん。

 アイが一瞬、普段はしない様な悲しい顔をした様に見えた。いや、気のせいかもしれない。その証拠に振り上げた顔はいつものニコニコ笑顔だった。

 

「あ、ご飯作っといたからね。テーブルの上においてあるから、早く食べないと冷めちゃうよ」

「そうか。手間をかけさせて済まないな」

 

 アイと揃ってキッチンに置いてあるダイニングテーブルに座る。そこにはこんがりと焼かれたトーストと黄身が膨らんだベーコンエッグが置かれていた。ふむふむ。実に上手そうだ。オレの作るヤツより三割増輝いて見える。

 …………そんなことはどうでも良い。オレには他に気にすることがあるだろう?

 

「いただきますをする前に、ちょっと聴きたいことがある…………」

「ん?なぁに、りっくん?」

「———お前、また無断で俺ん家に侵入したな」

「え?今更ぁ?」

「何が『今更ぁ?』だ!!これで何回目だ!いい加減にしろよ!」

「イイじゃん。私だってりっくんの家のキー持ってるんだし。問題ないじゃん」

「それが問題なんだよ!なんでお袋はこんなヤツに無期限でホームキーを渡したんだ!?」

「さあ?わっからないなー。昔から仲が良かったからじゃないのぉー?おばさまは『遠慮せずにヨバイしにきて良いのよ』とか言ってたけど……。ねえりっくん、ヨバイってなぁに?」

「お袋はなんてことを吹き込んでるんだ!?」

 

 実の息子なのに、母親の思考が全く読めないとは何事だ?もしかして、オレはじつは別の人の子とか………?

 

 

「別にイイじゃん。今に始まったことじゃないし」

「それを貴様が言う権利はないからな!?」

 

 やれやれ……。コイツといるとやけに疲れる。

 

「オレ、午後から出掛けるから、それまでには帰ろよ」

「出掛けるって、どこに?」

「なんでお前に言わなきゃいけないんだ?」

 

 オレの発言が気に食わなかったのか、アイは眉に皺を寄せ、口を尖らせた。

 

「最近のりっくんは冷たいよ…………」

「いきなりどうした。お前が幼稚過ぎて呆れているだけだろ」

 

 突然、机が甲高い音を鳴らせて跳ね上がり、驚きに肩がビクッと震え上がる。

 何事かと横を見ると、そこにはテーブルに両手を打ち付け、泣きはらした顔のアイがいた。

 

「お、おい。どうしたんだアイ———」

「それでも、私がりっくんの行く所を知ってたって良いでしょ!?夏休みに入ってからりっくんてば、全然私のコト構ってくれないじゃん!!」

 

 狼狽するオレをよそに、ぽろぽろと涙を流しながらアイは叫び散らす。

 

「そ、そんなことないだろ………。一昨日だって———」

「昨日は構ってくれなかった!家にもいないし、メールの返事すらしてくれないし!なんでってきいても、どうせ答えてくれないんでしょ!?」

「それは………いろいろ立て込んでいて……」

 

 ダスク・テイカーの情報を探っていて、メールに反応しなかったのも、めんどくさくていちいち答えていられなかったとは今のアイをまっすぐ見て言える自信がない。

 

「いろいろって何よ!?私、夏休みになってからまだりっくんと七日と十八時間と二十六秒しか会ってないんだから!!もっと会ってよ!」

「それだけ会えば十分だろ……」

「そんなことないっ!!」

 

 オレの発言が紙切れの様にぴしゃりと叩き付けられる。

 言っていることはでたらめだが、アイツの感覚としては、毎日オレと会うと言うのは当然なんだろう。オレもアイも、親の帰りがいつも遅くて、それこそ物心つく前からいつだって一緒にいた。オレはともかく、コイツからすれば、一日俺と会わないだけで不安———いや、心配になって仕方がないんだろう。今や本当の家族より家族に近いオレがいなくなったら、と思うと心いっぱいに詰まった蟠りが延々とこねくり返るんだろう。

 こんなんだったらさっきの頭突き、食らっておけば良かったな…………。アイには本当に悪いことをしてしまった。こんど、杉並の美味い甘味屋に連れて行ってやろう。

 

「………悪かったよ」

「じゃあ、こんど二人きりでどっか連れてってよ」

「仕方ないな………」

 

 実は、今みたいなアイのヒステリックは今に始まったことじゃない。産まれた頃からちょっとした精神障害を患っていて、言動が幼稚じみているのも、今の様な感情の激化もそのせいだ。医師の治療やニューロリンカーの補強もあって、これでもまだましになった方だ。尚、見かけが幼稚なのは別に障害のせいではない。

 

「で、結局どこに行くの?」

「ん?ああ、ちょっとアキバにエロ本買いに行ってくる」

「え…………ええぇぇぇ!?」

「なんだ、いきなり驚いて…」

「だっ……だって、りっくんまだ未成年じゃんっ」

「知らないのか?アキバじゃあ年齢制限無しでエロ本買える店があるんだぜ?」

 

 アイが絶句するのを眺めながら、トーストにかじりつく。ぶっちゃけ嘘だが、情報収集に行くにはこの程度の嘘でもつかなければいかんだろう。

 

「ほい、ごちそーさん。食器洗うからお前も早く食っちまえよー」

「………あっ、う、うん………」

 

 また、アイに嘘をついてしまった訳だが、止む終えないと切り捨てる。

 いい加減あの夢にもうんざりだ。今日こそ見つけてやると、決意を改める。

 

 

「さてさて…」

 

 デュエルをする一歩手前の加速空間、ブルーワールドで対戦表をじっと吟味する。

 ヤツの情報収集だけなら対戦のギャラリーでも良いのだが、何もそれだけが全てじゃない。たとえアイツの情報を手に入れて、加速世界の隅に追いつめたとしても、アイツに対戦で勝てないようじゃ話にならない。

 ———てことで、対戦相手を決めようとしている訳だが………、ここはレベルが一つ上の<デメジエール・ソンネン>レベル5で良いだろうか。彼は機動戦士の一人で、<半身戦車(ヒルドルブ)>の異名を持っている。見知った顔なので、苦戦することはないだろう。ちなみに、夏休みに入ってからヒメジマに怒られる程対戦を続けていたので、オレのレベルは今一つ上がってレベル4になっている。

 

「よし、行くか」

 

 決意を決め、DUELボタンを押す。身体が瞬く間に艶のある黒い装甲に包まれ、足が地面につく感触が伝わる。

 

「———煉獄ステージか」

 

 血の様な赤を基調とした背景。足下には見たこともない節足動物が地べたを這いずり回っている。

 特徴としては、建造物の大体が硬質素材で出来ていること。壁などは重量級アバターでなければ基本、破壊は不可能。時折、建造物の窓などの代わりに柔らかい目玉みたいな者が生えている。足下の虫は潰せる。比較的軽量系のバンシィ・ノルンにとっては、あまり有利なステージとは言えない。

 

「………………………」

 

 じっと耳を澄ませる………。視界下部の方位磁石、ガイド・カーソルは相手の大まかな位置しか示さない。距離、高さなどは己の五感が頼りになる。幸い、ソンネンは渾名の通り、下半身が全くの戦車。キャタピラ走行で、走る速度は凄まじいが、代わりに大きな走行音が出る。この音を頼りにすれば、ソンネンの正確な位置がかなりの密度で割り出せる。

 やがて、東の方向からカラカラとキャタピラが地面を叩く音が小さく響いて来た。

 ———十字路から、奇怪な形状をした緑の長方形が現れた。初見のバースト・リンカーなら、ステージ特有の<小動物(クリッター)>と間違えても仕方がないほどの度肝を抜かれる見た目だが、アレが本命だ。

 アバターの両脇で高速回転する二つのキャタピラと、その上段からまっすぐに伸びる筒———砲身は、まさしく戦車。

 身体の半分以上の長さの砲身がオレを捉えるのと、そこから薬莢が爆発する音が響いたのはほぼ同時だった。

 

「……………!」

 

 来るHE弾を身体を横に転がして避ける。空を切った弾丸は遥か後ろの壁に軽々と風穴をあけた。

 ソンネンの砲撃は、その長い砲身から標準と軌道が読みやすいため、避けることは容易いが、一発でも食らえば大惨事を招くことになる。

 

「よう、久しぶりだな<雌獅子>。あんたのたてがみはいつなったら生えなおるんだ?」

「相変わらず減らず口が御得意だな<半身戦車>。お前こそ、いつになったらその不便な下半身は足になるんだ?それじゃあ、気になる女一人抱けやしねえだろう」

 

 ギャラリー達がどっと吹く。

 オレの目の前で戦車は止まると、小さく『形態変更(シェイプチェンジ)』と呟いた。長方形の上半部の装甲が開き、周りを覆っていた装甲は盾となる側面装甲に変形し、中からは五指を持つマニピュレーターが二本現れ、シンボルの砲身の付け根の下には楕円型。その中央で光るモノアイがこちらをまっすぐ見つめている。

 

「ハハッ、残念だぜ。お前にはこのキャタピラの良さが解らねえのかな〜」

「解る分けねえだろ。流石に自分の下半身がそうなるのは御免だぜ」

「………いろいろ頑張っているみたいだが、あまり無理はするなよ。お前がアビリティをなくしたのを、今や知らないヤツはいない。お前はどうだか知らないが、俺にとって、お前は大切な対戦相手だ。せめて………この世界からはいなくなるなよ」

「……ハッ!お前に言われなくても、そんなことは百も承知だ。くだらないことほざいてないてねえで始めるぞ」

「そうだな。いい加減にしないとギャラリーからヤジが飛んでくる」

 

 戦車のキャタピラが、ギュルッと地面を削る。全速前進するソンネンにビーム・マグナムを構える。銃口から重たい音と共に、一線の光が跳ぶ。

 人型となった彼の上半身が動いた。身体を横にひねり、装甲板に光の渦が吸い込まれる。金属板が弾ける嫌な音が頭の中に鳴り響く。

 深緑の防弾板にはかすり傷一つついてない………。やっぱり堅いな…。さっきは、散々バカにしたが、見てくれはともかく、あいつのフォルムには無駄がない。硬質な装甲板で確実に攻撃を防ぎ、高速回転するキャタピラで踏みつぶす。………全く、嫌なやり方だ。痛覚が現実に比べて軽減されてるとは言え、痛いモノは痛い。なるべく食らいたくないし、一回プレスされたら、抜け出せる自信も無い。

 急接近するソンネンを横っ飛びで躱し、右腕を伸ばす。

 防弾装甲にしがみつき、堅く張り付く。ビーム・マグナムをソンネンの背中につきつけ、ゼロ距離射撃する。最近この方法がパターン化していて、攻撃のバリエーションを増やそうとしているが、今は使い時だろう。

 ソンネンの身体がビクンッ、と跳ね、体力ゲージが2割程削れる。なかなかの高火力。もう一発くらいぶち込んでおくか。

 

「時限換装しないで張り付いたとこまでは褒めてやる。だが、…………まだまだ甘ぇーぜ」

「…………!?」

 

 ソンネンの身体がいきなり止まる。

 バカな!?あのスピードでこんな急に止まることは出来ないはずだ!?

 反動で身体がソンネンの前方へはじき出されたところで気づく。こいつ、やりやがったな!!

 ソンネンが衝突した壁に身体が打ち付けられ、体力ゲージが1割程削れる。

 左胸に主砲を押し付けられ、身動きが取れなくなる。

 

「<APFSDS・カノン>」

「———ッ!!」

 

 ほとんど状況反射だ。ソンネンが言葉を終える前に<アームド・アーマーVN>で目一杯力を込め、主砲を叩き付ける。

 標準が腹に移動するのと装弾筒型翼安定徹甲弾が発射されるのはほぼ同時だった。身体に鋭い痛みが走り、下半身の感覚が白く明滅する思考の中から吹き飛ぶ。

 限界の頭を回転させ、ソンネンの主砲を掴む。身体を引き寄せ、楕円形頭部のモノアイに<アームド・アーマーBS>を突きつける。

 

「…………一発あれば十分だ。<アームド・アーマーBS>」

 

 刹那、<半身戦車>の頭部が飛び散った。

 

 

 

 

 




先ほどは取り乱してすみませんでした。ちょっとしたスランプで書遅れてしまいました。

唐突ですが、息抜きにいったん、アクセル・ワールド〜過疎エリアの機動戦士〜を休んで、何か他の小説を書こうと思っています。

心配入りません。絶対豚野郎は必ず帰ってきます!出荷などされません安心してください!!

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