アクセル・ワールド〜過疎エリアの機動戦士〜   作:豚野郎

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長らくお待たせしました……と言っても、またもう一つの小説の筆跡を始めるのでまたしばらくお待ちください。


第二章 Revival of a black lotus
ハルユキ


 物語の前に……まあ、人の物語ってのは様々で、この地球に住んでる人間には必ず一つは物語があるわけで。誰しもがその物語の主人公を演じていて、かくいうオレも、オレの人生という名の物語の主人公なわけだ。

 勿論、オレの知らない人間にも物語があるわけで、今回はそんな話。

 

 

〜これまでの話〜

 有田 晴之(ありた はるゆき)十三歳は杉並区の私立中学校、梅郷中学校の現状スクールカースト最底辺の少年。見かけは『小柄なデブ』。ここのところ毎日の様に続くヤンキーの荒谷(あらや)のカツアゲに、彼は今日もあっていた。最後には明日のカツアゲの約束を押し付けられ、学校の屋上の床に殴り捨てられる。そして、それの憂さ晴らしに立ち寄った学校のローカルネット内に存在するスカッシュゲームゲームコーナー。ここに来ることも最近の日課となっていた。ひたすら壁にラケットでボールを打ち付けると言うゲームを気が狂った様に続けている間は、現実を忘れられた。その中に、聞き慣れた声の女子がいた。幼なじみの倉嶋 千百合(くらしま ちゆり)。彼女に現実に呼び戻され、カツアゲの現場を目撃されていたことを打ち明けられた彼は、差し出された彼女の母お手製のサンドイッチを手ではねのけ、ないがしろにしてしまう。とっさに逃げ出したハルユキは、再びスカッシュゲームへと逃げ込んだ。そこで出会ったのが、黒雪姫だ。容姿端麗、学力も優秀、そして生徒会の副会長をもこなす存在。彼女の仮想アバターは現実の彼女と全くそっくりで、黒を基調としたドレスの背中には、大きな黒アゲハの羽が一対あった。

 

『もっと先へ、加速したくはないか?少年』

 

 彼女はそれだけ言い残すと、ローカルネットから姿をけした。後に残ったのは人気の無いスカッシュゲームコーナーの静けさと、唖然と情けない表情を浮かべるハルユキだけだった。

 翌日、彼は彼女と学食のラウンジで面会し、彼女は彼にプロポーズと称し一つのアプリケーションを与えた。

 <ブレイン・バーストプログラム 2039>。思考を一千倍にまで加速させ、体感三十分の対戦を一,八秒で行うゲームプログラム。そのシステムとは、日本全国に設置された防犯セキュリティ用のメカ、ソーシャルカメラの写す映像をハッキング、習得した地形データを元に生成されたステージで与えられた戦闘用アバター、<デュエルアバター>となって戦闘をする『現実を舞台とした対戦格闘ゲーム』。

 ハルユキがそれを与えられた理由とは、ゲーム内で彼女を襲う謎のバースト・リンカー、<シアン・パイル>の撃退だった。

 翌日の朝、彼は早速対戦を挑まれた。ポリゴンで生成された自分のデュエルアバターの姿は、細身の身体に銀色の装甲、緑のバイザーメット。名は<シルバー・クロウ>。彼が自分の姿を見て真っ先に思ったことは、『ザコっぽい』の一言だった。

 対戦を挑んで来たのは、ガソリンエンジンを吹き鳴らす改造バイクにまたがったライダー、<アッシュ・ローラー>。初陣で状況を飲み込めないハルユキの心情を物ともせずに、アッシュ・ローラーはハルユキをバイクで翻弄する。結果は惨敗だった。

 その日の昼休み。学食のラウンジで、ハルユキは黒雪姫と再度面会を行っていた。そこでブレイン・バーストの基礎を習ったハルユキは、ガソリン式のバイクの弱点である後輪を持ち上げると言う荒技を駆使して、アッシュ・ローラーに見事リベンジを果たしたのだった。

 

 

 

 

 

 いつかの夏に見た煉獄ステージ。たくさんのギャラリーが離れた所で背を連ねている。

 そいつらが注目していたのは、オレではなく、ましてやこの場にいる他の誰でもない。

 視線は空へ。雲間から刺さる日光を反射し、輝くのは、一人のバースト・リンカーだった。

 

 

「ナイスファイトだったよ」

 

 トン、と背中を押される。俯きかけていた視線を一旦上へと向け、普通は昼の日差しが目に入るが、それを遮った人間がいた。それは、艶やかな黒いロングヘアとピアノブラックのニューロリンカーを装着した、この梅郷中学校でも、選りすぐりの美少女、黒雪姫だ。年は一つ上。

 ———そして、ブレイン・バーストの世界の中で最大の裏切り者であり賞金首である<ブラック・ロータス>の正体が彼女。二年前、彼女はブレイン・バースト内でのレベルが9に達した<純色の七王>の会議にて、『レベル9バーストリンカーを五人倒す』というレベル10に達するための必須条件を目の当たりにして、和平を歌う彼女以外の6人に異を唱え、剣を手に赤の王の首を落とした。その後泥沼の戦闘に落ち入り、タイムアップでその戦闘は終わった。それ以来彼女はニューロリンカーをグローバルネットに接続していない。

 そんな最近、彼女の身に問題が起きた———

 

「あ、ありがとうございます…………黒雪姫先輩…」

「うむ、頭突きはともかく、なかなかどうして、パンチもキックも様になっていたぞ」

「あ、ありがとうございます…」

 

 これ以上は耐えきれず、また視線が下へと落ちる。

 昨日、僕はゲームアプリケーション、ブレイン・バーストをこの人によって手に入れた。僕は初陣でアッシュ・ローラーなるバースト・リンカーに遭遇し、彼の操るバイクのタイヤに無惨に踏みつぶされてしまった。

 そして今日、このアプリケーションを授けてくれた本人の黒雪姫先輩の教授のもと、見事アッシュ・ローラーにリベンジを果たしたのである。

 

「さて、君のリベンジも見遂げたことだ。近くの喫茶店で問題の話に入ろう。おごるよ」

 

 問題とは、ここのところ学内ローカルネットを介してブレイン・バースト内で黒雪姫先輩を襲っている謎のバーストリンカー、<シアン・パイル>についてだ。

 先輩が僕を見いだした理由にも直結しているバーストリンカーであり、三週間前から毎日の様に彼女を襲撃している無法人でもある。そして、一番の特徴であり、最大の難所でもある問題、それはブレイン・バーストのマッチングリストに彼(または彼女)の名前が現れないことだ。彼女が対戦を挑まれた直後にマッチングリストを確認しようが、そこにシアン・パイルはいなかったと言う。

 一度、ちらりと周りを見ると、いつのまにか先輩と僕を囲むように人だかりが出来ていて、わりと近くの方に千百合もいる。いろいろと気まずい事が先日あったので、半ば本能的に彼女と目を合わせない様に顔を伏せる。僕の人生十三年の経験上、目立つ、それも好奇の視線を一点に受ける様なことは最も避けるべき事態であり、そんなことをしていたら、また変な奴らに目を付けられ、どんな目に遭うか知れたもんじゃない。ここは先輩の言うことに素直に従おう。うん、そうしよう。それが一番だ。

 そんななか、現状において一番聞きたくなかった声が黒雪姫先輩の背中、それも間近で響く。

 

「ハルをどうする気なんですか」

 

 一瞬で僕のSAN値パラメーターが大爆発した。

 な、ななななんでチユが!いやいやいやいやまって、ここは聞かなかったことにして、早くここから抜け出すことが先決———

 

「ン…たしか、君は……倉嶋 千百合くんだったかな?」

 

 もういっそのこと、二人とも放置してマンションの自室へ『猪突猛進ハルユキダッシュ』で逃げ込んでしまおうか。いやまて、ここでその技を使ったら、二人を怒らせる上に急ブレーキが効かなくて車にはねられて、二人の機嫌を損ねたままうっかり昇天してしまうかもしれない。じゃあ、どうすれば……………………………………………………ああ……ダメだ…何も思い浮かばない……。

 

「ハルを離してあげてください。昨日、ハルが怪我をしたのも先輩のせいなんでしょう?」

 

 怪我と言うのは、昨日黒雪姫先輩の『戦略』によってヤンキーの荒谷に僕がぶっ飛ばされた時の怪我だ。……まあ、それだけ聞くと僕がただ虐められてるだけなので、説明するけど、日頃僕が荒谷にカツアゲにあってるのを知っていた先輩が気を利かせてくれたのだ。『晴之くんから聞いているよ。———動物園と間違えられて送られて来たんじゃないかって』…………全く、あの時は驚いたよ。激憤した荒谷は勿論僕のことを殴ってくるし、吹っ飛ばされた先にいた先輩は窓枠にぶつけて頭から血を流すし………それも演出のうちだと先輩は言っているけど、まあ、おかげで殴られた場所がソーシャルカメラの視界外だった屋上の隅から学食のラウンジに変わって、荒谷の暴行はついに日の目を浴びたわけだ。そのあと荒谷はパトカーに押し込まれて、警察署に連れて行かれた。本当に先輩には感謝が耐えない。このことに限る話じゃないけど。

 

「……私が晴之くんの意にそぐわないことをしていると?」

「違いますか?ハルはこういうのが嫌なんです。じろじろ見られたり、無駄に目立ったりするのが」

「ふむ、確かにそうかもしれないが、君にそれを決める権利はないのでは?」

「あります!この学校でハルと一番中が深い友達は私なので!」

 

 千百合の最大放火をもろともせずに、先輩は口に妖艶な微笑をつくった。

 

「ならば、私の方が優先順位が上だな。私は今、彼に告白しており、ただいま返事待ちだ」

 

 ギャァ———————————————!!もうダメだ!明日から学校に通えない!もう転校するしかない———!




もう、なんで二つの小説を受け持とうとしたんだろう……後悔しかわきません。
あ、でも決して失踪などはしないので安心してくださいまた戻ってきます。

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