どうも、ただいま転校生のバースト・リンカー、<ヤークト・アルケー>とバースト・リンク中のリクヤです。
「近いって……。喧嘩ふっかけてきたのはお前だろうに」
「え………、あっ、そうだった…」
聞いているこちらが拍子抜けしてしまう。少し離れたところから見ている<ディクライン・スカート>も同じようで、やれやれ、と両手を上げている。
「とりあえず確認するけど、…サトウ ユウトで間違いないんだよな?」
「そうだけど。………じゃあ、逆に聞くけど、君達二人は誰なの?同じ教室ってことは、クラスメートなんでしょ?こっちだってリアルが割れちゃった訳だし……」
サトウの質問に少し戸惑う。……こう、やすやすとリアルを教えて良いのだろうか?噂でしか聞いていないが、こうやって入学、転校を利用してPK——プレイヤーにリアルアタックをしてポイントを根こそぎもぎ取ること——を執り行う<バースト・リンカー>も居るらしい。
しかし、今回は向こうからリアルを割らせて来た訳だから………いや、この状況だって事故であることに代わりは無いのだから………。
「あっ、別にPKとかは狙ってないからね?…って言っても信じてもらえないか……」
そうは言っているが、真相がどうなのかはあいつにしかわからない。
どうしたものかと考えているさなか………、
「川崎 輝。保健委員をやっているわ」
話を聞いていないとしか考えようの無いスカートの狂言。
「お前話を聞いていたのか!?」
「勿論よ。別に良いじゃない。ウチには華水希(はなみずき)が居るのよ?そんなちょっとやそっとのPKくらい、なんてことは無いでしょ?」
「そう言う問題か!?」
「な、何よっ。そう言う問題でしょっ?」
ダメだこいつ……。俺が言いたいのは、そうおいそれとリアルを相手にばらすなって言いたいのに、てんで伝わらない………。
「あの、だから……、別にPKを狙ってる訳じゃないんだけどな……。…それと華水希 空徒(はなみずき からと)君だっけ?その人なら、今頃ユウマと対戦をしているんじゃないのかな」
「…ユウマってもう一人の転校生の方か?」
「そうそう。何を隠そう、僕の親はあいつでね。レベルは6。ブレイン・バーストが配布された初期の頃から居たらしく、<七聖剣(セブン・ソード)>と呼ばれる程の手だれだよ。ウイング・ゼロだっけ?君達の大将にあいつが倒せるかな?」
嫌味の無い口調でサトウが淡々と言葉を並べて行く。確か、カラトの今のレベルは5。客観的に見れば武は確かに転校生にあるだろう。
………だが、なあ…。見ず知らずのバースト・リンカーにあのカラトが何も対策を考えていないなんてことはあり得ない。口先では知らない風を装っていたが…ましてや、今日まで何も知らなかった俺とは違って、相手の情報、タイプ、戦術、その他の色々なことを調べて、そして考えているだろう。
「カラトが負けるとは思えないぜ。知らないだろうが、ウチの大将は相当のひねくれ者で嫌なヤツなんだよ。例え話だが、ハタケヤマがやつにPKを仕掛けるとしたら、きっと返り討ちに会うだろうな。それも十倍。いや、百倍返しくらいは覚悟しといた方が良いな。本人曰く、実際にやったことがあるらしいしな。……バースト・リンカーのアビリティや必殺技を盗む<略奪者>にPKを食らったとき、無制限フィールドで逆に相手のバースト・ポイントをミリにしたことがあるってこの前豪語していたし」
「…ずいぶんと彼を高く買っているんだね」
「ああ。何を隠そう、俺の親だからな」
サトウがまいったな〜、とでも言いたそうに頭を少し下げ、頬をポリポリと掻く。
「………実は、僕の大将もそんな感じなんだよね……」
「…え?マジで?」
「…マジで」
自分で喋っているにもかかわらず、サトウの口からは呆れた声が出ている。
「知らないだろうけどウチの大将もずいぶんロリコンで変態でオタクでアニオタで変態でロリコンなんだよ。君の親と同じ様にPKを食らおう物なら十倍や百倍で返すだろうね」
なるほど。つまり、この学校にバースト・リンカーとしてのクソ野郎が二人もそろった訳だな。
「よし、三人で考えてみようか。…その二人がバトルをしたらどうなるかを」
考えるまでもないと、俺達の口から深いため息が出る。
「徹底的な醜い泥仕合になるわね……」
「……正解です」
再度ため息。
「話がかなり脱線したな。結局の所、お前達は何がしたいんだ?」
「別に荒っぽいことは考えていないよ?こっちに来る前に二人で考えたんだ。転校先にバースト・リンカーが二人以上居たら、一緒に頼んでレギオンを作ろうって。そして、どんどん領地を広げて、この江戸川区を六大レギオンの様に巨大なバースト・シティにしようって」
「何よ。あなた達の生まれは杉並じゃないの?」
「そうだよ」
「それならわざわざこっちで作らなくても、杉並でやれば良かったじゃない」
「無理無理。…知ってるでしょ?<ネガ・ネビュラス>が崩壊してからは、杉並には細かいレギオンがパズルの様に配置されてて、万が一向こうで仲間を見つけてレギオンを作ったとしても、上手くやって行ける訳ないよ」
「ふぅーん。別に江戸川区に思い入れがある訳でもないのにね……わざわざ」
川崎が解りやすく探りを入れる。なんで今になってけんか腰になるんだよ、意味わかんね……。
「夢を持つのに深い理由は必要はないさ。どのみち、転校してしまったのだから、こっちでやるしか無い訳だし…」
「りょーかい。レギオンを作るのは俺は構わない」
「ちょっと!」
「良いだろ別に。……見た感じ、あんまし悪いヤツじゃねえよ、コイツは」
「………………はぁ〜。全く!意味解んない、男って!」
「……あの〜…それで…」
「仕方ないわよ!認めてあげるわ!」
「あ、ありがとうございます!」
「……とすると問題は……」
「あいつね……」
無駄にプライドの高いカラトのことだ。そういうことは簡単には許さないだろう。
「ま、それは向こうに任せば良いでしょ。…それに、まだ十分くらい時間が残っているし……」
「一発やとくか?」
返事の代わりに<ヤークト・アルケー>は肩にかけてある大剣の様な物を引き抜く。それに習って俺もビーム・マグナムを握り直す。相手のレベルは3。この程度の差ならどうということはない。
ほんの一瞬の沈黙。先に動いたのは俺だ。ビーム・マグナムを構えてトリガーを引く。
もらった!
次の瞬間、自分の目を疑った。ビーム・マグナムの銃口に一筋の赤い光が入り込み、爆発した。なんだ!?今のはビーム!?あいつ、飛び道具なんか持ってたか!?
アルケーが手に持っているのはやはり大剣———いや、様子がおかしい。中央の部分がばっくりと横に割れている。
「まさか………」
「そうよ。そのまさかよォ!」
大剣の割れた所から赤いビームが発射される。フェイクかよ畜生!そう言えば相手は普通に遠隔射撃の赤色かッ!やっべ、連射率ヤバいんだけど……!
つーか、良く燃えるなここ!たく、<密林ステージ>じゃ相性悪いな!
教室にビームで引火した炎が燃え広がる。このままじゃ火だるまになってしまう……!
アルケーの手元から石を打った様な乾いた音がする。丁度良いタイミングで相手がオーバーヒートを起こした!今のうちに脇を通り抜けて、教室から脱出する!既に使い物にならないビーム・マグナムを捨てて、相手に向かって走り出す。
「ところがギッチョン!」
「がっ…!」
脇を抜けようとした瞬間、口を閉じたアルケーの銃にひっぱたかれた。否、斬りつけられた。右ひじから下が弾け飛ぶ。それでも、教室の入り口に転がり込み、廊下に出る。
まずい!これで当てにしていた唯一の必殺技が使えなくなった!
「逃がすかよぉ!!」
キャラ変わりすぎだ!
後方からアルケーがまたもやビームを連射してくる。でも、外に出れば学校内の土地勘で勝る俺の方が有利だ!
廊下の分かれ道を曲がり、トイレの入り口に入り息を殺す。
あのテンションの上がりようだ。ガイドカーソルは全く見ていないだろう。
案の定、忙しい足運びでアルケーが目の前にやって来た。すかさず<アームド・アーマーVN>で殴りつける!アルケーの頭が俺の腕ごと壁にめり込む。左腕を大きく引き、再度殴りつけようとする。一瞬の判断でアルケーが腕を伸ばし、俺の肘を抑え、逆に起き上がり俺を押し倒そうとして来た。
両者の力比べが始まる―——が、右腕のハンデ。アンバランスな左腕の強化外装とレベルの差と続き、そんな根比べは一瞬で終わってしまった。今度は逆に俺の頭が壁にめり込み、間髪入れずに大剣が俺の頭を切り落とそうとする。それを左腕で払い、横に転がる。
またもやしばしの沈黙。
考えるんだ。今俺にできること……できること……。答えはひとつ。
「じゃっ」
きびすを返して猛ダッシュ!百パー木製の階段を必死に駆け上がり、屋上に出る。
ここだ………!
なるべく広い所に来たかった。ここであいつを待ち伏せ、出て来た瞬間に<角割覚醒(NT-D)>を発動。一気に攻撃を畳み掛け、決着を付ける。
緊迫した空気。
頭をおもいきり殴りつけたというのに、アルケーの体力はまだ一割程度しか減っていない。防御力は相当の物だ。故に本体の速度はそうでもない。一体どんな手を使っても同レベル同ポテンシャルのルールは破れない。十分余裕はある。
「にしても遅い……」
かれこれ四十秒…。装甲重視の鈍足にしたっていくらなんでも遅すぎる。
…………………あっ、なんか………、
「…………デジャブ『<ハイメガ・ランチャー>!!』……………はっ!」
アルケーの必殺技ゲージが急減する。秋葉原でのタッグ戦のことを思い出し、横に飛び退く。
次の瞬間、例えようの無い熱が身体を襲った。突風が起こり床が破壊される。
原因は、屋上の入り口から伸びる大木よりも太い血の様な色のビーム。熱に耐え、それをギリギリで回避する。つま先が焼け、黒い煙が上がる。
「……避けられちゃったか」
舞い上がった煙が晴れ、アルケーの全貌が見える。その肩には、細長い筒の様な物があった。ロボゲーマニアである俺には解る。ビーム・キャノンだ。銃口の先端が赤く火照っている所を見ても、先ほどの攻撃はこれで間違いないだろう。
「………はっ!」
何をやっているんだ。相手の足は泊まっている!畳み掛けるなら今しかない!
「<NT-D>、発動!」
装甲とノルンのシンボルである角が開き、露出したサイコ・フレームが金色に輝きだす。
そのまま全速前進。飛び上がり、クロー状に変形した<アームド・アーマーVN>を振り下ろす!
「…ぐあ……ッ!」
突き出された大剣に己から突っ込む状況が一瞬で構成される。予想通り、腹から串刺しにされるものの、勢いを殺さずにアルケーの胸を無理矢理引き裂く。振り下しからの切り上げによる二撃目に入る。俺の体力は二割を切っている。それに比べてヤツの体力はまだ七割。なんなんだこいつは!?同レベル同ポテンシャルの域を明らかに脱している!
俺の一瞬の静止を見逃さなかったアルケーは、俺の腹に刺さりっぱなしだった大剣に手をかけ、思い切り前に向かって押しだして来た。
反動で腹から大剣が抜けるのと同時に、せき止められ続けて来たダムに穴が空いたかの様に、腹から血の様にどす黒いオイルが吹き出る。
なんとか起き上がり、ヤークト・アルケーを見る。その姿はほんの五秒程度前の姿とは全く違う物になっていた。
皮を剥ぐ様にアルケーの装甲がぼろぼろと落ちて行き、中から細身の本体が露出する。
「…なるほど。…追加装甲か…」
それならあの堅さも頷ける。右肩のビーム・キャノンもなくなっているあたり、どうやらあの必殺技ももう使えないらしい。一定のダメージを受けたら大幅に弱体化。これなら同レベル同ポテンシャルのルールは守れるだろう。
…そして、こういう機体は大体こうなると……、
「装甲が紙になる!」
すかさず猛ダッシュ。振り下ろされる大剣を回し蹴りでかわし、大きくよろけたアルケーの身体にクローを振り下ろす!
良い感触だ!吹き出るオイルが俺の身体を汚す。
止めにもう一発をくれてやろうとした時、身体のバランスが一気にずれた。体力がミリにまで削れる。
足首を切り落とされた!?いつの間に!?
アルケーのつま先にはいつの間にか一本のビーム・サーベルが立っていた。
「隠し腕か!」
再度蹴りを食らう前に決着を付ける!相手も同じ考えの様で、大剣を既に振りかざしている。
狙うはデュエル・アバター共通の弱点、頭部!
首に鈍い痛みを感じる。大剣が俺の首にめり込んだ証拠だ。だが、あちらとて同じ。突き出されたクローがアルケーの顔を捉え、ひしゃげさせる。
☆
「ひえ〜、疲れた……」
「なによ。転校生に負けるなんて情けないわね」
「負けてねえよ。引き分けだよ引き分け」
結局、バトルの結果はドロー。引き分けになってしまった。
「ま、いろいろと解り合えたし。結果オーライだよ」
「解り合えたって………結局何の話もして無いじゃない」
「こぶしだよこぶし。男はこぶしを交えて始めて解り合うことができるんだよ」
「何それ…気持ち悪いわね。……で、どうするのよ。作るのレギオン?」
「ああ、俺としては作ろうと思っている。ま、結局はあいつが決めることだけどな」
「そうね。……案外、ボッコボコにされてるかもしれないわね」
「まさか」
☆
「………参りました」
WIN <WING ZERO>
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