※本編ノーマルストーリーを読んでから読むことをオススメします。
───ここはどこだろう。
男は歩く。おぼろげな視界の中どこか懐かしい、記憶の底を刺激するような花の香りを追いかけて。
───どれほど歩いただろうか。
とうとう男は道の隅に倒れてしまった。よもやこれで終わりかというその時、例の花の香りを漂わせる1人の女性が通りかかった。
「大...夫ですか?気...も悪くしたの...すか!?」
「て...天上岬へ...連れてって欲しい...」
男は一言つぶやき意識を失った。
───どれだけそうしていたのだろう。
気がついたらベッドの上だった。
「気がついたのですね」
買い物の帰りだろうか。袋を両手に提げこちらに向かってくる。
「あなた3日もねていたのですよ?」
「こ...こは、ど...こでしょ...う」
何日も声を発していなかったせいだろうか?うまく言葉が出ない。
「ここはアトリエです。そして私は調香師フロリア。よろしくお願いしますね?」
そう言いながら彼女は温かそうな飲み物を渡してくれた。
飲み物のおかげで男はやっとスムーズに話せるようになった。
「ありがとう...ございます。僕は...自分が誰だか分かりません。助けて頂いたのに僕はこのカバン1つしか持っていません...」
カバンの中には綺麗な白い花と色々な絵柄の描かれたカードの束。
「いいのですよそんなこと...どうせなら記憶が戻るまでこのアトリエで助手をしてくれませんか?重い物を運んだりすることもあるので」そう言うとフロリアは白い花を手に取った。
「あら、この花ずっとカバンに差してあったのに枯れてない...?」フロリアは考え込む素振りを見せると
「この花頂いてもいいでしょうか?」と言ったので
男はそんなものでよければと快諾した。
「そういえば、あなたのお名前どうしましょうか?それも分からないのですよね?」
フロリアはうーん、と悩んだ後「ムスカリという花からとってスカリなんてどうでしょう?」
ムスカリ?と男が聞くと、
「はい。この花の花言葉には明るい未来というのがありまして縁起もいいかと」男は頷きフロリアの提案を了承した。
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こうして、スカリとフロリアの生活が始まった。
フロリアの言う調香師とはどうやら香水を作る仕事で色々な素材を組み合わせて様々な効果を作り出すらしい。
「そこの青い花とって頂けますか?」
一週間ほどの生活でスカリはこの仕事の要領をつかんだ。今では組み合わせによる香水の効果も少し分かるようになってきた。
「それは安眠できるようになる香水ですか?」
「よくわかりましたね!スカリさん才能あるかもですよ?」
ふたりは次第に打ち解けていき談笑しながら作業をするようになっていった。
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「申し訳ありません。そのお仕事はお受けできません。」
「なぜだ!?貴女は世界一の調香師なのでしょう!?」
フロリアの毅然とした声と男の怒号がアトリエに響き渡る。スカリはこの女性が仕事にはこだわりを持っていることを知っていた。
この女性はどれだけ金を積まれようが褒められたことでない内容ならば絶対に断る。逆に人助けの為ならばどれだけ依頼料が安くとも引き受けるのだ。
「もういい!貴女に頼もうとしたのが馬鹿だった!」
小太りの男は大股で肩を怒らせながらズカズカと外に出ていった。
「すみません。お騒がせしてしまって。依頼料も多額でしたのに」
男はかぶりを振って
「いいえ、それが貴女の信条なのでしょう?その考えを僕は支持します」
フロリアはにっこりと微笑んで
「...そういえばあなたと出会った時天上岬と呟いていましたよね?これまでの聞く機会を逃して聞けなかったのですが天上岬といえば夜のない大樹のそびえる伝説の大地しかありません」
「天上...岬。なにか胸に支えてる感じです...」
───君?何してるにゃ?
突如スカリは頭をおさえてうずくまる。
「今...何か...思い出しかけた...?...行かなきゃ...いけない」
結局、それ以上は何も分からないままだった。
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それから幾月かたち、ふたりは次第に惹かれ合い結ばれ、その間にはひとつの命が宿る。しかし、スカリの様態は少しずつ悪くなりどんどん衰弱していった。
フロリアはスカリのために調香師としての腕を大いにふるった。それは彼女の人生の多くを占めるものだった。
この歳月の中でスカリが幾つか思い出したことがある。ひとつは彼の持つ能力のこと。彼は召喚士としての能力を持ち、時空を操ることが出来るらしい。しかし、今は衰弱しきって使えないという。そしてもうひとつはカバンに入っていた白い花のこと。これは「霊見草」といって彼の記憶によると死んだ人に会えるらしい。スカリはこれをフロリアに渡した。彼自身自分の死期を悟っていたのだろう。
「大丈夫です。私が絶対治します。一緒に天上岬へ行きましょう。いってあなたのこともっと知りたいです。記憶が戻るかも知れませんしね?」
男の願いは彼女の夢になっていた。
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「ここが...天上岬ですよ。あなた...」
「綺麗なところ...けど...あなたの手掛かりは見つかりそうにありませんね」
天に一番近い場所天上岬。そこは地上にありながら地上ではないようなまさに天上ともいうべき場所だった。
そこにはまだ赤ん坊のファムと幼いフェルチを連れたフロリアの姿があった。
スカリはフロリアの努力の甲斐虚しく呆気なく息を引き取った。赤ん坊のフェルチとフロリアに見守られながら。息を引き取る間際、喋ることもままならない状態で彼は3枚のカードを渡した。フロリアに似たカードと二人の女の子が書かれたカードだった。
「!?...っごほ。ごほ!」
突然フロリアはむせこんだ。それと同時に彼女は悟った。夫への献身が自分の寿命をも削っていた事を。
不穏な空気を感じ取ったのかファムが泣き出した。
「おーごめんなさいね。驚かせてしまって」
「神様。どうかこの子達が言葉を理解出来るようになるまで...生きさせてください」
その願いは天には届かなかった。日に日に病が彼女を蝕んでいった。
「もう...時間がないの...?」
「フェルチこっちへ来て」
「今から私が調香師になった理由を教えます。分かるところだけでも覚えておいて...そして大きくなったファムに教えてあげて」
フェルチもまだ幼いなりに彼女の言っていることを理解しようと目を皿のようにしている。
「香りは人の記憶と思い出を閉じ込めて置くことができます。そんな香りを扱う香水職人はとっても素敵じゃないですか?」
フロリアの手がベッドにだらりと垂れる。
「ごほっ...ごほっ...もしもふたりのうちどちらかでも調香師になれたなら...ふたりに1度だけでも奇跡を...」
フロリアは最期に一つの香水のレシピを作り上げた。娘達に思いを届けるために。それは、後に「奇跡の香水」と呼ばれるものだった。
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「お姉様!奇跡の香水できましたわ!」
三日間工房にこもっていたファムが奇跡の香水を手にやってきた。フェルチは優しく微笑み
「これであなたは私を超える調香師になったのよ」といった。
「そんな...お姉様にはまだまだ追いつけません...」
フェルチは表情を変えず
「お母さまと過ごしたときのこと覚えてる?」
「お母さまはあなたに少しでもその日々を覚えておいてほしくてこの香水を作ったのよ」
「!それじゃあ...」
「ええ...それがお母さまのあなたへの贈り物よ」
フェルチはファムへ香水を優しく吹きかける。甘く柔らかな香りが広がりそして、ファムは思い出す。母と過ごした2年間を3人で過ごした暖かな日々を。
「大きくなったわね。ファム」
「っっ...お、お母さまぁ...」
ファムはフェルチに抱きつく。
「ひっ...ひっぐ、うわあああああああん」
「ファム...お母さまに会えたのね」
ファムは応えなかった。ただただ、泣いてフェルチに抱きついていた。
キミはふたりを優しく見守る女性を見た。この旅の中で何度か見た女性だった。やはりキミ以外には見えていないらしい。
「ふたりとも、元気でね。いつまでも、幸せに......」
一言つぶやき、こちらへ1度微笑んで消えていった。
やっぱりあの人は...
その予想は当たっているだろう。
キミは何気なくポケットに手を入れると、3枚のカードが手にあたる。心なしか暖かなそのカード達は仲良く並んでいた。
こういう小説に似合わず会話パート少なめでしたね。
辛辣な評価どんどん下さい。精進します。