力を司る者の末妹になりました   作:ノッキン

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末妹、兄や姉たちと交流を深める


第二話

 そもそも、私は何なのか。ここがペルソナの世界観そのものだとして、私は世界観の一定の知識を持ち幼女としてこの世に存在している。生まれ変わったというより、私の自我や意識や知識やらが本来なら存在しない四人目に憑依した。こちらのほうがしっくりとくる。

 して、私とは何か。大本の私とは、どのような存在だったのだろうか。個か群か、それすらもわからない。わからないから知りたいとも思うし、わからないからこその知ることへの恐怖もある。さて、どうしたものか。

 

 

「エルサ、何を考えているのですか?」

 

 問いに思考が途切れ、顔を上げればイケメンがいた。テオドアである。テオドア兄様。それにしても力を司る者三人組の顔立ちは整い過ぎではないだろうか。おそらく並大抵の人では彼らに敵うことはないだろう。恐るべし、力を司る者。

 まあ、それはともかく。何か返さなければ。

 

「自分の存在について考えていました」

 

 自分で言っておいて小難しい発言になった。案の定、返されたテオドアはきょとんとした表情を浮かべ、

 

「難しいことを考えるのですね、エルサは」

 

 なんだか嬉しそうに微笑まれてしまった。褒められたってことでいいのかな、これ。そのままいい子いい子と、伸ばされた手で頭を撫でられる。

 私がこの世に存在し、少し経ったが今のところエリザベスとテオドアは色々と私を妹として構ってくれる。特にテオドアは、エリザベスとマーガレットの決して敵わぬ逆らえぬ二人がいるからか、下に妹がいることが嬉しいらしい。気持ちはわかる。よくわかる。妹できてよかったね、テオ兄様。

 

「テオぐらいですよ。難解なことを考えていないのは」

 

 そんな兄と妹の交流に、分厚い本から顔を上げエリザベスが口を挟んだ。

 

「そ、そんなことありませんよ! それではエリザベス姉上は何を考えていたのですか?」

「テオ。私は今の今まで読書を行っていたのですよ? 何を考えていたか、本の内容についてに決まっているでしょう」

 

 うぐっとテオドアは反論できずにおし黙る。いつも通りの光景だった。あれがエリザベスなりの愛情表現である。見ている分には非常に面白い。見ている分には。

 それにしても、エリザベスは先ほどから何を読んでいたのだろう。随分と熱心に読んでいたが、また何か妙な本じゃないよね。料理本読んでるなと題名を見てみたら『きな粉三昧』であった前回を思い出す。きな粉、きな粉、きな粉だらけの読むだけ見てるだけで口の中が乾く恐ろしい料理本だった。再現してしまうであろう未来も予想できるぶんも加えて恐ろしい。

 そんな前回があったので、尋ねるのは怖かったが勇気を出してみた。

 

「エリザベス姉様は何の本を読んでいたんですか?」

「この本です」

 

 『ペットの躾け』。そう見せられた表紙に書かれていた。

 ペットでも飼うつもりなのだろうか。あれ、でも確かペットってテオドアが飼うんじゃなかったかな。はて?  どうだっただろう。思い出そうとするが、どうにも出てきそうにない。まあ、まだその時ではなかった気もするし。今は考えなくてもいいかな。

 

「ペット? 飼うつもりですか?」

「いえ。テオとエルサへの接し方についての参考にしているだけです」

 

 …………さすが、エリザベス。きっと私たちはペットじゃないとかそこらへんのツッコミを入れても無駄なんだろうな。ペットのように可愛らしいってことですか、ありがとうございます。

 

「姉上。何を誤解しているのかわかりませんが、私たちはペットではありませんよ」

 

 でも、そこで律儀に指摘するのがテオドアだったりする。

 

「似たようなものです」

「……全く違うと思うのですが」

「それで、何か参考になったんですか?」

 

 満足そうな顔のエリザベスに不服そうな顔のテオドア。両隣にいる二人の顔を見比べ、私は読書の成果を聞くことにした。

 

「ええ。躾に大切なこととはつまりーー」

 

 ピンとそこでエリザベスは人差し指を立て、

 

「飴と鞭、でございます」

 

 そう人形のように整った顔を得意げにして言った。

 飴と鞭。さて、彼女は文字通りに受け取ってしまったのか否か。内心少しワクワクしながら、私は続く言葉を待つ。

 

「飴……? 鞭……? 姉上、それは時には飴を投げつけ、鞭を与える。そんな恐ろしい躾方法だと解釈してもよろしいでしょうか?」

 

 あっ。テオドアがそれより先に面白いことを言ってしまった。エリザベスの顔を伺えば、一瞬だけ楽しげに口角が上がったのを見てしまう。

 

「ええ。ええ。その通りです、テオ。申し分のない回答、百点満点でございます」

 

 パチパチとわざとらしい拍手と共に賞賛され、テオドアの顔が面白いほどに青ざめた。

 

「そんな……!? ペットとは愛玩動物なのですよ!? それを……それを……そのような恐ろしい所業を行うなんて……人とは悪魔か何かなのですか!?」

「愛するが故に厳しく接する。躾とはそういうものなのですよ、テオ」

 

 頭を抱えて苦悩するテオドアと表面上は優しく微笑むエリザベス。中々にカオスである。もうどうにでもなれが今の心境。まあ、そんな二人に挟まれて楽しんではいるのだけれど。

 ただこの話でテオドアが人に万が一警戒心を抱いてはいけないから、今度人と動物の心温まる本を渡そうと思う。出会った先から警戒心Maxな力を司る者って困りそうだからね。ハム子ちゃんには優しく天然なテオドアを……ああ、必ずテオドアが選ばれるわけではなかったか。頑張れ、テオドア。

 そんな風に、ぼんやり考え事していた私の体が強制的に動く。いや動くと言うよりも、動かされた。体を抱え上げられ、エリザベスの姿が見えなくなる。気が付けばテオドアの背中が目の前にあった。

 

「そんな恐ろしい躾をするようなら、いくら姉上といえどもエルサには指一本たりとも触れさせません」

「…………如何なる理由があれ、姉に敵意を向ける愚弟には躾が必要ですね。得た知識を活かすチャンスでございます」

 

 いつの間にやら不穏な空気が漂っている。和やかな空気に亀裂が走り、もうばっきばきの割れかけである。どうしてこうなった。私のために(勝手に)争うのはやめてください。そもそも、この場所は。

 

「――書庫でペルソナを喚ぶのは禁止にしているはずよ」

 

 そう、ペルソナ召喚禁止ゾーンだ。ぐるりと周りを見渡せば、本の詰まった棚ばかり。外に出ることのない私たちの知識の源、知の集結、それがこの書庫だ。私たちは今そこでテーブルに読みたい本をそれぞれ置いて読書をしていた。けれど、それも過去の出来事。

 冷ややかな指摘に視線を向ければ、やはりそこにはマーガレットが立っていた。ペルソナ全書を抱え、腰に手をあてている彼女と目が合う。にこりとしようと思ったが、できないので諦めた。

 

「エリザベス、テオドア。喧嘩なら他所でやりなさい」

 

 いつにも増して不機嫌そうな声。聞くだけでもピリッした緊張感がはしる。

一応、私が原因であるから何か言ったほうがいいのではないか。そう思い、口を開いてみるが。肝心な言葉がでない。

 結局、ようやく考えに考えて勇気を出した私の一言が「ごめんなさい」だったのだから。なんともチキンの私らしいオチである。

 

◇◆◇

 

 

 私の戦闘力は低い。

 

「立ちなさい、エルサ」

 

 私は弱い。冗談でなくガチで。

 

「いつまで休んでいるのかしら?」

 

 力を司る者としての最低限のスペックはあるが、それでもシャドウとの戦闘に常に勝利はできず、寧ろ上手く力を使いこなせずに大抵は負けている。

 

「…………」

 

 戦っては負けを繰り返す。そんな弱者だけに許された単純な行動をくり返すだけ。もう嫌だ。やめたい。泣き言でも言いたいが、言ってしまえば最期消し炭になるのは目に見えている。

 

「エルサ」

 

 地に横たわる私の前に、綺麗な脚が現れた。ああ、マーガレット。もう少し休憩ぐらいはさせてください。内心でそっとため息を吐き、私は修復したばかりの腕に力を込めて体を起き上がらせる。

 

「さあ、全書を開きなさい。まだ闘いは終わっていないわ」

 

 立ち上がり、言われるがまま自分のペルソナ全書を開いた。

 闘いは終わっていない。言葉通り、周りにはシャドウがまだいる。何度も何度も召喚したはずなのに、それでもまだ数十は。きりがない。

 

「〈ビャッコ〉」

 

 求める力を呼べば、雷鳴とともに雷を身に纏わせた獣が現れた。低い唸り声をもらし、ビャッコはシャドウの群れに真っ直ぐに飛び込む。

 

「マハジオダイン」

 

 群れの中を突き進んだビャッコが吼える。吼え、轟音とともに雷がシャドウを散らした。

 それでも、まだ。

 

「〈ヤツフサ〉」

 

 白い霊犬が。

 

「〈ジャックフロスト〉」

 

 雪と氷の妖精が。

 

「〈ラクシャーサ〉」

 

 紅い悪鬼が。

 

 それぞれ役目を終えてペルソナは消える。まだだ。まだ残っている。

一体、何度同じことを繰り返したか。乱発しすぎたために、頭が痛い。疲れた。もう休みたい。早く終わらせたい。ふらつく体を立たせて、私はページを捲る。

 

「〈ヨシツネ〉」

 

 赤い甲冑に身を包んだ武士がシャドウを切り捨てた。あと少し、もう少し。視界がぼやけてきた。限界は近い。その前に全て終わらせなければ。

 

「八双飛び」

 

 数多の斬撃が場にいるシャドウを切り裂く。

 あと、あと一体。真っ黒な影が私へと向かってくる。あれだけだ。

 目の前へと迫る影、指だけがページを忙しなく捲った。

 

「ブフダイン」

 

 間一髪のところで召喚したジャックフロストが容赦なく影を凍らせる。ヒーホーと勝利の喜びを全身で表すジャックフロストが天使だった。なんかもう可愛かった。可愛すぎた。癒しか、癒しだな。疲れもほんのほんの少しマシになった気もする。

 

 なんて、気のせいなのだけれど。

 どさりと音をたて、私の体が床に倒れこむ。私が倒れたことでジャックフロストは消えてしまった。消える最後まで私に手を振っていたあの可愛いペルソナを私は忘れない……。

 

――あー。やだな、これ。全然動きませんね。

 

 動けと念じてみるけど、ぴくりともうんともすんとも動かない。さすがに溜まり溜まった疲労まですぐ回復するような便利な体はしていないのだ。

 ……なんといいますか、まあ。あれです。マーガレット姉様ね、これがなんと凄いスパルタ教育。召喚方法習いたて、シャドウに負け続けの私にとりあえず慣れろと言わんばかりのシャドウを今日はぶつけてきた。召喚も何度もしたし、全てシャドウを倒すのに何度吹き飛ばされたことか。辺り一面がシャドウ一杯だった過去を思い出し、背筋が震える。

 やはり力を司る者って幼女である現在の私には向かない職業なのかもしれない。転職したい。ベルベットルームのBGM係とか。どうでしょう? ベラドンナとのデュエットとか。もう何も聞こえなくてもいいから、そちらの仕事がしたい。

 

「弱いわね」

 

 泣いた。オブラートな包みもない言葉が傷つく肉体に刺さる。なんとか床につけたままの頬を上げ、マーガレットと目が合いまた床にくっ付けた。

 いや、だってなんだか凄く冷たい目だったのです。あれ絶対に妹に向けちゃダメだよねって感じの目だった。

 ここまでくると、薄々感付いてはいたが目を逸らしていたことを自覚しなければならないのかもしれない。

 

――マーガレット。絶対に私のこと嫌いだよね。

 

 いや、嫌いではないか。おそらく、これは認めていないのだ。私が力を司る者であることを。

 不完全だから、それも理由には入るだろう。でもそれ以前に、何か他に理由があるようにも思える。不完全なら鍛えて完全にすればいい。弱いことも同じだ。もっと根本的な何かが、彼女が私を認めていない原因なのだろう。

 

――まあ、その原因が皆目検討もつきません状態の私だから、今現在もマーガレットに冷たい目で見下ろされているわけですけど。

 

 いつか、いつか知ることができたらいいな。そんな儚い目標を抱きつつ、私はマーガレットに言葉で催促されないうちに起き上がるのだった。

 

 

 

 




ちなみに「エルサ」の名はフランケンシュタインネタ。

『ペルソナ3ポータブル ベルベットブルー』ネタも少し。
たぶん割と知らない人もいると思うので説明を。エリザベスが出ます。テオドアも出ます。マーガレットも出ます。イゴールも出ます。ベルベット尽くしです。あと女主人公です。お暇があれば是非。


ペルソナ5の双子ちゃんは終盤で合体して戦いを挑んでくるはずなんだ…それか二人一緒にでもいい…可愛いからいい…あと、そろそろイゴールさんと絆深めてもいいと思うんだ…
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