お父さんが鎮守府に着任しました。これより私たちのお世話を始めます!! 作:先詠む人
若干の飯テロ成分が含まれているかもしれませんが、よろしくお願いします。
「よっ!ほっ!!」
俺がそう言いながら火にかけられている独特な形をした鍋を持った腕を振るうごとに様々な食材が空中に弧を描いた。
「はわわ………お父さんすごいのです……。」
「はい、危ないから電ちゃんは少し離れましょうね~。」
「は~いなのです。鳳翔さん。」
俺は電ちゃんと鳳翔さんのそんな会話を聞きながら
「よし、これで仕上げっと…。」
最後に少量のごま油をさっと先ほどまで炒めていたものの上にかけて数回揺すったのちに火を消した。
「はい、お待たせしました。とりあえずありあわせのもんで酢豚モドキ作ってみたんで……。」
「うわ~、おいしそうなのですぅ!!」
「あんな有り合わせのものでよくここまでのレベルのものを…」
「…まぁ、親が料理全然できなかったんで必然的にそういうスキルが身に付いちゃいまして……………」
俺は額に巻いていた手ぬぐいを外しながら鳳翔さんが無意識につぶやいたであろう言葉に答えた。
何で、俺がいきなり中華鍋を振るって鳳翔さんと電ちゃんに料理を出しているのか。
その発端は今から十数分前までさかのぼる。
「……腹減った。」
俺は”今日は閉店”の文字が書かれた食堂の看板の前でそうつぶやいた。
何でそんな事態になったのかと言うと、今日は運悪く大学の教授に目をつけられくどくどと個人的なストレス発散の対象にされたせいで鎮守府に帰り始めるのが遅くなってしまったことが一つ目の理由。
その上俺がいつも乗っているバスは8時に最終便が出るのだが、それに乗り遅れてしまったせいで俺は歩いて鎮守府まで帰ることになり、その結果鎮守府にたどり着くころには夜の9時半を回っていたことが二つ目の理由だった。
「でもまだ明かりついてるし…」
俺は中に誰かいるのならば今日出されたご飯の残りぐらいにはありつけるかもしれない…そう思った俺は勝手口の方に回って扉を開けた。
「鳳翔さんこんばんわ。電ちゃんはお手伝い?えらいね。」
「あ、お父さんなのです。」
「あらあら、佑太さんどうなされたんですか?」
食堂の炊事場の中に入ってみると、鳳翔さんが電ちゃんと一緒にお皿を洗っていた。
「ちょっといろいろあったせいで今帰ってきまして、できれば少し食べれるものがあればいいかな…って思ってきたんですけど…」
「あら、そうだったんですか?すみません。ちょっと今日はもうお米以外ほとんど出し切っちゃって…………あ、そうだ。こうしましょう。」
「「?」」
鳳翔さんがいきなり一人で唸って納得してと言った百面相を始めたから俺と電ちゃんが顔を見合わせていると、
「以前、夕立さんから『お父さんの作ってくれたご飯は美味しかったっぽい!!!』って言われたことがあったので佑太さんの料理の腕前が気になっていたんですよ。だから、今から場所は提供しますので作ってみてもらえませんか?」
鳳翔さんがその両手をポンと言う音を立てて合わせながらそう言って
「………え?」
そんな俺の間抜けな声が台所に響いた。
(使える食材は………ピーマンにニンニク、ジャガイモに卵と鶏肉、それと人参に玉ねぎ……か。これぐらいあったらあれが作れるかもな。)
俺はとりあえず手を洗い、残っていた材料を見て何を作るのかの算段を立てた。
「鳳翔さん片栗粉か小麦粉ってどこにしまってありますか~?」
「そこの棚の中ですよ。」
目的のものを作るために食堂のテーブルに腰を下ろして俺が作る様子を見ている鳳翔さんに探し物の場所を教えてもらいながら俺は料理を開始した。
まず最初に野菜をきれいに洗ってから食べやすいサイズに切ってざるの上に積み重ねていく。そのときに火が通りやすい物から置いていくのを忘れない。
野菜をざるの上に積み上げると今度は鶏肉を一口大に切って行き、食べるときに邪魔になる筋を切りながら稀に混ざっていることがある骨が無いか確認する。
鶏肉に骨が混ざってないか確認したら薄力粉を取り出し、小さいお皿の中にそれを入れる。
それほど深くない皿の6分の1が埋まるぐらい薄力粉を入れたらその中に少し塩コショウを入れて軽く混ぜる。
皿の中で薄力粉と故障の黒い粒がある程度混ざったと思ったあたりで今度はそれを鶏肉にまぶしていく。
勿論鶏肉に粉をまぶす前にコンロの上に置かれていたフライパンに油を鶏肉が浸る程度の量の油を敷いて強火にかけるのと、余計な油を落とすために下の方に再生紙を置いた網付タッパーを準備するのを忘れてはいない。
鶏肉に粉をまぶし終えた後、菜箸を取り出して火にかけられている油に先端を差し込む。
すると、先端の方から小さい気泡がプクプクと上がってきた。そうなればもう具材を投入してもいい温度にまで油の温度が上がっている証拠だ。
「ほっ。」
俺は油が撥ねるのを警戒しながら鶏肉と野菜を入れ、全部入れてからまた動き出した。
今度は小さい計量カップに片栗粉を入れてそれを水で溶く。そしてフライパンがもう一つ必要になるからコンロと真逆の位置にある洗い場の方でフライパンが無いか探していると
「フライパンフライパン……あ、中華鍋あんじゃん。」
運のいいことに中華鍋があったのでそれを使わせてもらうことにした。
中華鍋を持って振り返り、コンロの方を見ると野菜のいくつかは揚がったらしく、油の上の方に浮いていたのでそれを菜箸で取り出して網の上に置いていく。
「あ~、ジャガイモと鶏肉同じ位に揚がりそうだな…。」
揚がった野菜をあらかた網の上に移してからフライパンの中を覗くと未だに鶏肉とジャガイモはフライパンのの底から上がってくる気配はなかった。
「ま、どうにかなるっしょ。」
俺は気持ちを切り替えて先ほど水で溶いた片栗粉が入った計量カップに今度は黒酢と黒蜜を入れて混ぜ合わせ始めた。
混ぜ合わせて味を確認している途中で鶏肉もジャガイモも両方揚がったのでそれを取り出して網の上に置く。
網の上に置いた鶏肉が冷めないうちに中華鍋にサッとごま油を少し引いて火にかける。
少し経つと中華鍋から煙が立ち始めるから、それを見て俺は網の上に置いていた具材を全て鍋の中に放り込んだ。
放り込んだ具材たちをお玉で軽くかき混ぜながら炒め、たまに鍋を振ることで具材は宙を舞う。
それを十数秒つづけた後に俺は計量カップを手に持ち、その中身を鍋の中に入れた。
そして、一気に混ぜ始める。
ここからは時間の勝負で、もし失敗したら味がバラバラになってしまう。
俺は無心で鍋をかきまぜ、振り続けた。
…………幸い、うまいこと炒めることができたようで鍋の中の具材の見た目は全部がてかてかと光っていた。
「よし、これで仕上げっと…。」
俺はお玉の中に少しだけごま油を入れてそれを全体に撒いて、数回鍋を揺すってから火を消した。
それをお皿の中に移してテーブルの前で楽しそう電ちゃんと話している鳳翔さんの前に持って行く。
「はい、お待たせしました。とりあえずありあわせのもんで酢豚モドキ作ってみたんで……。」
「うわ~、おいしそうなのですぅ!!」
「あんな有り合わせのものでよくここまでのレベルのものを…」
「…まぁ、親が料理全然できなかったんで必然的にそういうスキルが身に付いちゃいまして……………」
俺は額に巻いていた手ぬぐいを外しながら鳳翔さんが無意識につぶやいたであろう言葉に答えた。
………実際、俺の母親は料理、と言うか家事全般が全然できない。
料理をしようとすれば火災が起きるし、掃除をしようとすればなぜかゴミがまき散らされる。
幸いなことに洗濯関係とアイロンがけはできたのでそれをやっていた。
親父は親父でファストフード大好きだったので料理が全然できなかった。
その代わりに掃除が得意だったからそっちを家でもっぱらやっていたが、肝心要の料理ができる人が俺がそのことに気付くまで家には一人もいなかったのだから笑えない。
俺がそのことに気付いたのは妹の
『あ、この家よくよく考えたらご飯全部外食ってなんかおかしい。』
それに気づいたその日のうちに、俺はそれまでに貯めていた貯金箱を持って家から飛び出し、友人の親が営業する近所の定食屋に駆け込んだ。
『オッチャンお願いだから俺に料理を教えて!!』
そんな言葉とともに。
それからは料理人を目指す友人と一緒に
そしてある程度教えてもらったころにオッチャンから
『そろそろ帰った方が良いんじゃないか?お前の親父さんこないだお前が創真と一緒に市場に買い出しに行ってる時に憔悴した様子で探しに来たぞ?』
と言われてしまったので俺は荷物をまとめてスーパーに寄って、オッチャンに渡されたお金で食材を買ってから家に帰ることにした。
家に帰ったら親に号泣されてしまったので事情を説明し、そのまま台所に立って料理をしたらそれはそれで泣かれてしまったのは良い思い出である。
俺が世話になった友人の親がやっている定食屋。
その名前は…………………食事処ゆきひら。
その時に培ったノウハウは何だかんだで今の俺にも生きている。
それを生かして今回は料理を作った。
「先ほどの鳳翔さんの言った感じだと鳳翔さんも食べるのかなと思ったので一応多めに作りました。」
俺は御釜に残ったご飯を茶碗に移しながらそう言った。
「ええ……確かにそのつもりでしたが…こんな時間にこんな重い物を………?」
鳳翔さんは後ろを向いている俺に向かってそんな困惑した声を上げたが、
「まぁ、重いかどうかは食べてみてのおたのしみです。」
俺はそう言ってから椅子に座り箸を持った。
「いただきます。」
そう言ってから食べ始めた俺を見て鳳翔さんも意を決したかのように食べ始めたが、玉ねぎを口に入れた瞬間その顔が驚きに染まったのは俺の記憶に焼き付いた。
「そんなに重く感じない…?」
「えぇ。だって酢を少し多めに入れて、油でコクを出すんじゃなくて黒蜜で代用してますから。」
実際油を使ったのは具材を素揚げしたりしたときと最後に風味付けしたときぐらいだったし。
「私も食べてみるのです!!………酸っぱーい!!!」
俺と鳳翔さんが話しているうちにどうも興味を持った電ちゃんがお箸を取ってきて皿の中の酢豚モドキを食べたようで鼻をつまんで悶絶していた。
「ありゃりゃりゃ…」
「おちゃいりますか?」
俺が慌てて電ちゃんの頭を撫でている間に鳳翔さんがお茶を用意して電ちゃんに手渡す。
そんな日常の一コマになりそうなワンシーンは「はたから見たら仲のいい家族みたいだったよ~」と俺が後々北上さんにからかわれる種の一つになった………。