『おれ』が頑張るお話です。どうぞ。
「ん……」
目が覚める。覚めたけど目覚めきってはないみたく周りがボンヤリに見える。
おかしいな、おれは寝起きははっきりしてる方なんだが。
……そういえば、さっき近くで女の子が起きたような声が聞こえたな。
「ふわぁ…………ん?」
おれが欠伸をすると同時に女の子も欠伸をした。
―――いや待て、違う。何か忘れている。
ぼんやりした頭を働かせる。何だ、何を思い出せば良いんだ?
布団の中でポリポリと頭を掻く。……まぁ、分からないのは後で考えよう。きっと何か夢でも見たのだろう。
身体を起こす。
「朱音さん!」
「ふぅ……起きましたか。もし目覚めなかったら親御さんに何て言えばと……」
「お母様不謹慎ですわ!?」
あぁ、そっか、思い出した。うん、夢じゃ無かったのか。
「おはよう……鈴音ちゃん、純香さん」
少なくとも今のおれは、本庄 朱音だ。
「ほら、鈴音」
「……その……ごめんなさい! …ですわ!」
鈴音ちゃんが謝ってくる。なんだっけ……そうだ、鈴音ちゃんが『こいし』ちゃんをころ……んん。
「許さない」
「え……」
「いや。正確には許されないよ、鈴音ちゃん。……それだけ、殺人の罪は重い」
「………分かってますわ。…分かってます」
「そうか。なら良いよ」
分かってるなら良い。最低限、鈴音ちゃんは本当に悔いてる。司法どころかもはや人間とも言い切れないおれなんかが裁けるような事じゃない。
「……はい」
「ところで、ねぇ朱音さん。そんな性格でしたか?」
一段落したと見たのか、純香さんが話に入ってくる。それは良いんだが……。
「……純香さん。変な所で勘が良いのは何でですか?」
「愛ゆえに」
「お、お母様?」
「そうですか」
「え、納得するんですの朱音さん?」
そうでもしないと話が進まないから、仕方無い。
「それについてだけど、どうも始めまして。朱音の人格の一つ、『おれ』こと……本庄
「はい?」
「これはこれはご丁寧にどうも」
純香さんは美しくお辞儀をしてくる。対して、鈴音ちゃんはまったく訳が分からないといった顔をしている。
いや、てかさ。
「おれが言うのもあれですけど、純香さん動じなさすぎじゃないですか?」
「あら、この程度じゃ鈴音には勝てませんわよ?」
「お、お母様――」
「殺人に勝ちたく無いですけどね」
「朱音さ、じゃなくて、そうた……あーもぅっ! 訳が分からないですわ!」
「だろうね」
一度立ち上がり、さっきまで寝ていた豪華でふかふかなベッドに腰掛ける。
「今、おれに分かる事だけ教える。もしかしたら少し長くなるかもしれないけど」
「あらあら。予め人払いしておいて良かったですわ」
「いや何でそんなこと……まぁいいか。鈴音ちゃん、こっちこっち」
「あ、はい」
鈴音ちゃんを横に座らせる。うーん、横に女の子が居ると少し興奮してくるな。―――と考えたら、いつもならわたし……朱音の突っ込みが入るんだけどな。
「まず、おれの事だ。純香さんには既に話してあるな?」
「えぇ」
純香さんが頷きながら鈴音ちゃんの横に腰掛ける。そしてついでの様に鈴音ちゃんの頭を撫でる。まるで鈴音ちゃんが猫のようだ。
「ん……」
「続けてくださる? 鈴音に分かるように」
あれ? この二人ってこんな関係だったか? どうにか改善出来たのか? それなら良かった。
「端的に言うと、おれは朱音の前世の記憶だ」
「前世?」
「そう」
「前世…ですか」
「にわかには信じられませんわね」
「いや純香さんは前にあっさり信じたじゃないですか」
「そうでしたわ」
と、鈴音ちゃんがそっと耳打ちしてくる。
「蒼太さん、うちのお母様は天然でしたわ」
「だな」
それには肯定しかできない。おれとしてはもっとしっかりもののお母さんだと思ってたんだけどな。
「二人で何を隠し事かしら?」
「何でも無いですわー」
「そう。では、続きをどうぞ」
「はい。えぇと、おれは朱音の誕生日に……っていうのはいいか。とにかく、おれはこの世界……というか魔法少女について知っていた」
「はい?」
「知ってたんだ。あんまり追求しないでほしい」
だって大の大人がさ。女の子が出てくるアニメ見たりとかゲームやってたとか、小学生に教える事じゃ無いだろ?
「まあ、蒼太さんがそう言うなら」
「うん。で、おれについては大体良いだろ? おれの記憶のせい……お蔭か? で朱音は魔法少女について知った」
「ふむふむ」
「……だが、だ」
声を落として雰囲気を変える。
「おれは記憶だけとはいえ、男だ。本来おれは魔法少女になれない」
「まぁ、そうなりますわね」
「そんなおれが中に居るんだ。朱音が魔法少女になるときに……少し不思議な事になった。それが、『こいし』ちゃんだ」
鈴音ちゃんが気まずそうな顔になる。気まずくても聞いてもらうしかない。
「『こいし』ちゃんは、そうだな……」
「お待ちになって。私はその『こいし』ちゃんは初耳ですけど」
「あー。おれもさっき知ったばかりだ。『こいし』ちゃんの存在自体は……そう、朱音を調整してくれる存在が居るのは薄々分かっちゃいたが」
でなきゃ暴走を起こす筈が無い。一応暴走中の出来事もおれは記憶しているが、それこそ前世の記憶のように薄ボンヤリしているのだ。おれはそれ以外は完全に記憶しているから何かが働いているのは分かっていた。
「調整……」
「そう、調整。朱音が絶望しないように発散させる役割。……これからはおれがやる必要があるらしいけどな」
「絶望ですか……つまり今、朱音さんは?」
聞いてきた純香さんに頷いてみせる。
「多分絶望しかかってる」
「……!?」
ソウルジェムを取り出す。おれ自身は変身出来ないけど、ソウルジェムの形を変えるぐらいならできるらしい。
そして。
「っ、く、黒……!」
「あぁ。普段はかなり薄い水色なんだけどな」
ソウルジェムは魔女化一歩手前まで穢れている。
鈴音ちゃんはあまりの事に絶句してるし、純香さんは何も言えないらしく口元に手を置いている。
「~~っ。は、はやくグリーフシードを」
慌ててグリーフシードを取り出そうとする鈴音ちゃんの手を止める。
「無駄だ。魔力消費の穢れと違って、絶望の穢れはただ吸いとってもすぐに湧いてくる。……心の傷が癒えるまで、そっとしておくしかない」
「で、でも……」
「―――今やるべきことは、それじゃない」
恨み言を言おうか迷った。こうなったのはお前のせいだと言おうと思った。でも、そんなのはあまりに大人気ないし、それを言ってしまったら……負のループの始まりだ。
「そうだな、おれは家に帰る。……おれのじゃないとはいえ、お母さんが心配してるだろうしな」
「……」
「あらあら、言われてみれば確かに真っ暗ですわね。……一人で帰れますか?」
「むしろ一人にしてほしい」
「そうですか」
……立ち上がり、歩き、玄関へ。
「あの、蒼太さん?」
外へ出ようとすると、鈴音ちゃんが声をかけてきた。
振り返る。
「朱音さんを、お願いしますわ」
少し伏せた顔を見て、
「分かってる」
応える。
―――そう、どうせおれは
恐らく、鈴音ちゃんは怖く感じたのだろう。朱音の姿で無感情に話すおれの事を。
「分かってるさ。すぐに朱音を戻す」
「はい」
家へ。さて、どうやって言い訳しようか。
しかし……まどかとかほむほむとかマミさんとか一切出てこないですね。最低限次回も出てくる予定が無いですし。……あれ、これってオリジナル小説でしたっけ?