彼女は荒れ果て、。
ナイフを振るう。使い魔を切り裂き、飛んできた黒い槍は敢えて喰らう。吸収。
「ッアァァァア!」
鈴音ちゃん。あの子は、実力はあるけど脆い。わたしが怪我をしただけで動けなくなる。だから着いてくるのを断った。それでも着いてくると駄々をこねたから……気絶させた。
朱音……
―――キャハハハハハ!
「嗤 う な ぁ !」
触手を一本、伸ばす。触手は一直線にワルプルギスの夜の顔面を貫き、即座に燃やされる。引火しないように切り捨てる。
やられない為に自らを傷付ける術を身に付けた。それを咎めたマミさんは今、わたしの懇願によってさやかとまどかの子守りをしてもらっている。
ねぇ……朱音……聞いてよ……
「ちっ」
触手を纏め、巨大な左手を作る。飛んできたビルの残骸を受け止める。《ゴッドハンド》……なんちゃって。
杏子ちゃんはそもそも見滝原に来ない。マミさんが生きているから、来る理由が無い。わたしと交流があったのは、わたしが向こうに乗り込んだから。杏子ちゃんの方からアクションがあったのは、仮面の魔女との戦いの後、あの時だけ。
やめて……無理だから!
「――――――ッッツ!」
黒い槍は避けないと知って、黒い槍ばかり投げてくる。
別に処理できないから喰らってる訳じゃ無いんだよ? 使い魔が鬱陶しいのと、触手を動かすのに必要な魔力を補ってるだけ。
もういいや。無視して突っ込もう。
「―――ァァァアァァァア!」
わたしは近距離型の魔法少女。遠距離攻撃なんて石を投げる程度しか無い。
だから走る。
―――アハ、アハハハハハハハ、キャハハハハハ!
「うるさい煩い五月蝿い!」
ワルプルギスの夜から見たらちっぽけなわたしだって。やるときはやるよ。
切って、喰らって、投げて、受け止めて。
「らぁっ!」
飛び上がる。飛んできた黒い槍を踏みつけて更に上へ。
逆さに浮遊するワルプルギスの夜。その頭と、同じ高さへ。
―――。
「―――殺す」
―――アハ。
「殺してあげるから。大人しく、しててよね!」
―――アハハハハハハ! アハハハハハハァァァアハハハハハハァキャハハハハハギャハハハハハ!
触手を纏めて作った巨大な両手。それでワルプルギスの夜を掴む。そして、
「うおぉおぉおおおぉぉぉああぁぁあ!」
全力で下へ落とす。
―――アハハハハハハ!?
「堕―――ちろぉ!」
着地し、触手を引っ張る。わたしの、魔法少女としての全力で、あの魔女を落とす!
触手にも魔力吸収の能力はある。だからこれは時間がかかればかかるほどわたしが有利! これがわたしの思い付いた必勝ほブチッ
お姉ちゃん!
―――アッッハハハッアハハハハハハァアハハハキャハハハハハハハハハハギィャハハハハッッハハハハハハ!
触手が耐えきれずに切れた。
「え―――」
そりゃナイフで切れる程度の強度だったけどさ。
「あ―――」
纏めれば行けると思ったんだけどなぁ。
「―――はぁ」
空からビルの残骸が降ってくる。現実の物質は吸収出来ない以上、それを止める術は無い。
「―――ごめん」
それは誰に向けた謝罪なのか。
あぁ。
無力だ。
「
聞こえるはずの無い声がして、頭上に泥の盾が現れる。
「ティロ・フィナーレ!」
居るはずの無い人の必殺技が、ビルの残骸を砕く。
「本庄朱音!」
時が止まる。空中の瓦礫が存在しない場所まで連れ去られ、時が動き出す。
「朱音ちゃん!」
二人に肩を担がれ、移動させられる。
「うわっ、不味いってこれ傷だらけ! こっち!」
回復魔法? だけど、やるだけ無駄。わたしは魔法を吸収するんだから―――
「これ絆創膏! いや、その前に消毒液!? あーもー続け出る超常現象にさやかちゃん困っちゃう!」
あれ。魔法少女じゃないの?……あぁ。そっか、マミさんが生きてるから。ほむらちゃんの説得が間に合ったのかな?
……そういえば。これで、願いは……わたしの願いは守れた事になるのかな?
「おいおい、つれねぇよ朱音ぇ。まさか私を忘れた訳じゃねぇよな?」
頬をペチペチと叩かれる。
「おーい。生きてるかー?」
「…………」
「あっりゃ、駄目だこれ燃え尽きてる……ねっ!っと」
多節槍が振るわれ、襲ってきた使い魔を切り落とす。
大きく横に振ったから危うく二人に当たる所だった。
「ちょ、杏子! 危ないでしょうが!」
「んだよ助けてやったんだから礼の言葉ぐらい言えよぉ」
…………なんで。
「だから助け方が荒いっての! もうちょっとで一緒にお陀仏だったじゃない!」
「そもそも一般人がここに居るのがおかしいんだよ!」
…………なんでよ。
「ま、まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
「まどかの言う通りよ。……佐倉杏子、貴女は巴マミと一緒にワルプルギスの夜の撃退に」
…………どうして。
「あぁ。ちょうど子守りに疲れてた所だ!」
「誰が子供だっ!」
「ニシシッ!」
なんで……皆……
「ん? そりゃ、朱音。あんたが大好きなあいつのお陰だよ」
そう言って杏子ちゃんは走っていった。
わたしが大好きな?
それってわたし
どっちにしろ、そんな人はここには……。
「朱音さん!」
えぇ? まさかね。
「鈴音ちゃん……」
「ふざけないでくださる!?」
「ふぐっ!」
鳩尾を蹴り飛ばされた。しかもそのまま押し倒される。
「勝手に戦って勝手に負けそうになって勝手に諦めて! 勝手に弱いと決めつけないでくださる!? 勝手に使えないと! 決めつけないでくださる!?」
耳が痛い。心に刺さる。
「二人で駄目なら三人、それで駄目ならもっと多くでしょう!? なんでそこで『一人でやる』になるんですの!? 頭悪いんですのこの馬鹿!」
酷い……いや、間違ってない、ね。
「私があの夢を見なかったら
「……ぅ」
「分かりますの!? 唯一の親友に! 急に首筋殴られる気持ちが! それでなまじっか耐えてしまったが故にお腹殴られたんですわよ! そして気がついたらその親友、死んでるんですわ。
いやそれ、 どんな喜劇ですの? 悲劇にすらなりませんわ!? 笑うしか無いじゃない!」
そこで息が切れたのか、はぁはぁと息継ぎする鈴音ちゃん。何か言うなら今しかない。
けど。何を言えば良いの?
「……朱音さん。抱え込まないでくださる? それとも私では、力不足?」
「……ぅ……ん」
「そうですわよね、やっぱり私が居ないと……今なんと?」
「うん」
「…………」
わたしの思わぬ回答にフリーズした鈴音ちゃんを抱き締めてあげる。
「そんな弱い鈴音ちゃんの為に、わたし頑張ったんだけどなぁ」
「よ、弱!? 私は朱音さんより強いですわよ!」
「はいはい」
鈴音ちゃんを抱えたまま起き上がる。
「ありがと」
「……ん」
じゃあ。
やり直しますか。