終わらないし終わらせないよ
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「お、おい……何だよ、あれ……」
「あ……朱音さん……嘘……」
「くっ……時間操作が出来ない……!」
「あ……ぁ…あぁ……!」
四人の魔法少女の前。
暗黒の球体が居座っていた。
「マミさん! やった………んですよね?」
「マミさん、杏子ちゃん、ほむらちゃん、鈴音ちゃん……こ、これ……一体……」
そこに、本来ならば魔法少女となっている二人の少女が戻ってくる。
「…………そ……れは……」
「……っ」
魔法少女たちは答えられない。それはあまりにも残酷な事だから。
『あれは本庄朱音の成れの果てだね』
だから、最も残酷なモノが代わりに答える。
「キュ、キュウベエ?」
「インキュベーター!? 今更何をしに来たの!?」
時間操作の魔法少女が手に持っていた銃をキュウベエに向ける。が、白い毛並みのモノは全くもって気にしない。
『何もしないよ。ただ、君以上のイレギュラーを観測しに来ただけさ』
素っ気なく言う。魔法少女は気に入らないように、引き金にかけた指に力を入れて……結局その手を下ろした。
「ねぇ、キュウベエ。朱音さんは……助かるのよね? ね?」
「おいキュウベエ! どうにかしやがれ!」
「ね、ねぇキュウベエ? 朱音ちゃんはどうしちゃったの? どうなっちゃったの? 教えて!」
『やれやれ。ボクは聖徳太子じゃないんだから一人ずつ質問してくれないかい?』
少女たちの怒濤の質問責めに、さしものインキュベーターも呆れる。……少なくとも、呆れたように答える。
「じゃあじゃあじゃあ、さやかちゃんしつもーん! ワルプルギスの夜はどうなったの?」
『本庄朱音に吸収されたよ、美樹さやか』
ある意味ムードメーカーな少女が発した少しズレた質問は、あっさりと答えられた。
「じゃあ私たちの勝利~!……って雰囲気じゃないんだけど」
「さやかちゃん……」
勝利にしてはあまりにも暗い雰囲気に、少女は流石に黙る。
「次は私な。……朱音は生きてるのか?」
『さあ、そこまでは分からない。けれど仮にアレが本庄朱音が魔女になった姿だとしたら統計的に死んでいるね、佐倉杏子』
幻術を使う魔法少女への返答は、予想され得るものだったが……認めたくないが故に、その場に衝撃が走る。
「そ、そんな……う、嘘でしょう?」
『ボクが一度でも嘘を付いた事があるかい、巴マミ』
「っ!」
「あなたが大切な事を隠す事はあるわよ、インキュベーター」
『そうだね。だけどそれはボクが嘘を付くという事にはならないよ、暁美ほむら』
「……」
リボンの魔法少女は現実を突きつけられ、時間操作の魔法少女からの反論は軽く流される。
「……ね、ねぇ、キュウベエ」
『なんだい、鹿目まどか』
「あれは、本当に朱音ちゃんなの?」
『アレは本庄朱音
「助けてくれる、よね?」
『ボクにそんな力は無いよ。鹿目まどか、君が魔法少女になるなら別だけどね』
悪魔の囁き。少女へのインキュベーターの言葉は、まさにそれだった。
「……それって」
『君が「本庄朱音を助けたい」と言えばいい。それで契約は成立』パンッ
インキュベーターの顔面に穴が開く。そのまま、力を失ったようにその場に倒れた。
「っ、暁美さん!?」
「ほむら、ちゃん?」
「駄目。それだけは……絶対に!」
何故ならばそれが彼女の願いだから。
だがそれを知らない少女たちから見た場合、彼女が何でそこまでまどかにこだわるのか分からない。
『まったく。本庄朱音と言い君と言いどうしてそんなにボクを殺したがるんだい? どうせ代わりはいくらでも有るのに』
ヒョイと戻ってくるインキュベーター。彼にとってその体は下位存在との円滑なコミュニケーションの為のアバターのようなモノ。
あっさり戻ってきたインキュベーターに対して敵意を剥き出しにするほむら。
だが。
「……キュウベエ。ねぇ、キュウベエ」
『なんだい、九重鈴音』
それまでずっと黙っていた魔法少女が言葉を紡ぐ。
「アレは……どういうモノなんですの?」
『ようやく理知的な話が出来るね。アレはワルプルギスの夜の魔力を吸い続けた本庄朱音の成れの果てだよ。そして面白い事にアレはそのまま巨大なグリーフシードとなっているみたいだ』
「……つまり?」
『ボクたちインキュベーターはこの感情エネルギー変換システムを少し手直しする必要が出来た。アレが有る限り魔女は産まれないみたいだからね』
さらっと紡がれた言葉。それはベテランの魔法少女たちを驚かせるのに十分だった。
「魔女が……」
「産まれない……だって……!?」
「どういう事なのインキュベーター!」
『君たちは人の話をもっとよく聞くべきだね。アレは巨大なグリーフシードだと言ったよね?』
「要するに、そこに在るだけで世界レベルで浄化していくと言うことですわね?」
『その通り』
愛されたかった魔法少女は、淡々と受け入れていく。
ふと、まどかは鈴音の雰囲気がおかしいと気付いた。怒るでもなく、かといって泣く訳でもなく、ただただ冷静なその姿に違和感を持った。
まどかは鈴音との交流はほとんど無い。二回ほど、朱音が連れてきた時に顔を合わせた程度だ。
だが、まどかは他人の機微についてはかなり勘が働く。
働いてしまう。
「す、鈴音、ちゃん?」
「なんですの?」
「ひっ」
振り向いたその目は、絶望に染められていて。
「人の顔を見て悲鳴だなんて、失礼ですわね。あはっ、朱音さんはどんなわたくしでもアイシテくれましたのに」
「っ、ご、ごめん」
「良いんですのよ。今のわたくしが少しオカシイのは自覚してますから」
まどかの隣で彼女の代わりに睨み付けてくるさやかを見て、そしてさりげなくいつでもまどかを助けられる位置に移動しているほむらを見て、微笑む。
「良い友達を持ってますのね。……わたくしには、朱音さんしか居ないのに」
そして、黒い球体に向けて歩く。
「お、おい鈴音! アレに近付いて何を―――っ!」
歴戦の魔法少女である杏子が、眼力だけで気圧される。
鈴音は小学生ではあるが、それでも彼女はベテランなのだ。それこそ、マミや杏子と対等に戦える程には。
「助けますわ」
「……それは良いんだけど、方法は? どうやって助けんのさ!」
「わたくしに出来る事は物量戦術ですわ。
えぇ、わたくしの朱音さんへのアイさえあればきっと上手くイキマスワそうきっと大丈夫朱音さんは強いしわたくしをずっとアイシテくれましたからどんなに閉じ籠ってもわたくしを拒絶ナンテしませんわもし拒絶するのナラバ切り裂いて切り開いて抱きついてカラ一緒にシニマスわ。
こんなことわざがありますの。強固な城も、一匹のネズミに崩される……わたくしにピッタリでしょう? アハッねぇ朱音さん? アハッアハハハハッ!」
そして、彼女は自らの魔法を発動した。
さぁ……劇場版と行こうか。