まどマギ【助けたい】少女   作:yourphone

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ハハッ 私は―――

チュウ

 

「……うん?」

 

信号待ちをしていたら目の前を茶色のネズミが通り過ぎていった。

 

「ふーん、ネズミなんて初めて見たなー」

 

……あれ。初めて、だよね?

うーん、えーと……うん、初めて。……初めて、だよね。

 

なのになんで見覚えがあるんだろ?

 

「気になる。……うぅ、でも、お母さんに怒られちゃうし」

 

チュウチュウ

 

「うわっ」

 

鳴き声が足下から聞こえてきた。見ると、走っていった筈のネズミがチロチロと尻尾を振っている。

うーん……これは……。お母さんに怒られたくない、けど。

 

「行かなきゃダメ?」

 

チュウ‼

 

「そっか。じゃあ、行くよ。……多少遅れても多分大丈夫だし」

 

……怒られたら、全力で謝ろう。うん。

 

チュウチュウ

 

「あ、待ってよ!」

 

走り出す。

ネズミは結構な速度で駆けていくから、着いて行くだけでも難しい。ネズミもそれが分かっているみたいで、時々立ち止まってはわたしのことを待ってくれた。

 

「……これ、魔女結界?」

 

チュウ‼

 

そしてネズミに連れてこられたのは、見滝原のとあるデパート。その裏の駐車場。

その隅に魔女結界が張ってある。

 

チュウチュウ‼

 

「あ、ちょっと!」

 

ネズミは魔女結界の中に入っていった。ど、どうしよう……。

 

「えぇい、ままよ!」

 

変身。そして結界へ飛び込む。

 

 

結界の中は水墨画で描かれた様に白と黒に分かれている。

 

「これって、あの大カマキリの……」

 

そう、わたしが初めて入った魔女結界。マミさんと出会うことになった、わたしにとって始まりの魔女の世界。

でもどうして? 杏子ちゃんが魔女を倒した筈なのに……。

 

チュウ‼ チュウチュウ‼

 

ネズミが走り出す。わたしは、それに着いていくしかない。

 

 

~●~⚫~⚪~○~○~

 

 

そこに現れたのは何者なのか。その場に居る魔法少女の誰も理解出来なかった。

 

「アァ、モウ。死ニカケジャナイカ」

 

倒れた鈴音に忍び寄っていた影は、一足早く()()に気付いたキュウベエを飲み込んだ。

そして、黒い影から現れた()()は少女達の視線を気にせず、倒れた鈴音の顔をそっと舐めた。

 

「キュウ…ベエ……?」

「ン? アァ、イヤ、確カニ見タ目ハいんきゅべーたー略シテきゅうべーノ姿ト似テイルダロウケド、別ノしすてむダヨ」

 

真っ黒な体に水色に光る眼。インキュベーターと同じ模様は限りなく白に近い水色。

 

「僕ハ…ナンテ言エバイイカナ………ソウ、『本庄朱音ノ創リ出シタしすてむヲ管理スル何カ』、略シテ、『えぐざむ』」

「何一つ略してないじゃない!?」

 

マミの鋭いつっこみにエグザムは猫の様に自らの頭を撫でる。

 

「良イツッコミダ。……ソウダネ、取リアエズ鈴音ヲ回復サセテモラエナイカナ? コノママダト朱音ガ悲シムコトニナルシネ」

「そ、そりゃまぁ……マミ、手伝ってくれ」

「えぇ」

 

杏子とマミ。二人の熟練(ベテラン)魔法少女が鈴音の治療を開始する。

彼女は暴走した泥人形によって体のあちこちを切り裂かれ、貫かれ、傷ついていた。

 

「サテ、ソレジャア少シ色々話ソウカナ。治療ノ合間ノ暇ツブシトデモ思ッテ聞キ流シテモラッテ構ワナイヨ」

 

エグザムはちょこんと座り、軽く咳払いをする。

 

「マズハ、本来ノ世界ノ姿ヲ教エヨウカ」

 

 

~○~⚪~⚫~●~●~

 

 

魔女結界を駆け抜ける。

 

また魔女結界だ。

 

 

また。

 

 

……また。

 

魔女結界の中に魔女結界が張ってある、その事に初めは驚いた。

しかもその結界の中は巨大なプール……見たことがある。

 

雲の上、仮面の洞窟、他にも、他にも。

見たことがある。来たことがある。そこで、戦ったことがある。

だけど、どこもかしこも使い魔一匹見当たらない。

 

チュウ‼

 

わたしはネズミを追い掛ける……けど。なんだろう、痛い……? 苦しい……?

怪我もしてないのに、悲しいことがあった訳じゃないのに、心臓が締め付けられるような……。

 

チュウ、チュウ‼

 

分からない。わからない解らない判らないワカラナイ。

 

『わたしは何も知らないしね』

「っ!? 誰!」

 

周りを見回すものの、誰も居ない。だけど視線を感じる。

 

「……」

 

チュウ‼

 

……うん、今はネズミを追い掛けるしかないか。

そして何度目か分からないけど、魔女結界へと入る。

 

 

 

闇が、わたしを包み込んだ。

 

 

 

「うわっ! っと、ととと、あたっ」

 

何かの段差につまづいた。慌てて手を伸ばすけど、何かに手が触れることもなく。

 

「あたたた……なんなのもー!」

 

それにしても暗い。一寸先は闇とは言うけど、目の前に持ってきた手が見えないなんて。

 

なんか、自分の体が見えないと、本当にわたしはここに居るのか分からなくなってくる。

……わたしは本当に存在するの? わたしの価値は? 存在意義は?

……体の先端、手とか足とかの感覚が無くなっていく。このまま……溶けていきそうで……。

 

『ちょ、バカ寝るな! 溶けてる、溶けてるから!?』

「……ふぇ?」

 

おっと、なんだか暗かったからうとうとしちゃった。寝るときは電気を消す派なんだ、わたし。

 

―――じゃなくて。

 

「だから誰なの! さっきも話しかけてきたよね!?」

 

チュウ‼

 

「なーんだ、ネズミ……じゃないよね? ネズミよりも人っぽい声だし」

 

ただ、どっかで聞いたことがあるんだよね。ん~。

 

『どーせ()()()()()でしょ?』

 

チュウチュウ‼

 

ネズミにも馬鹿にされた……!

 

『はぁー。知らぬは本人ばかりなりって言うけど、はた迷惑だし、ほんとやめて欲しいよ』

「う、ぐぐぐ……待って今思い出すから!」

『やだ』

 

闇が絡み付いてくる。両腕と両足にぐるぐると巻き付いて、わたしは動けなくなる。

 

「いや、どっちにしろこんな暗いところじゃ動けないんだけど」

 

闇はちょっと冷たくて少し湿っててなんだか生々しくて気持ち悪い。なんていうか、ニュルニュルしてる。

 

「んひゃっ! ちょっ、そこは……んんっ!」

『……えーと。マイテスマイテス。あー、あー』

 

声が何かしてるけど闇のせいで集中できない!

吸収! 『無し無し結界』! 分身! ひいぃっ、二人分絡み付いてきた! 解除!

 

『はい、ストップ。彼が見たら喜びそうだね……』

「はーっ、はーっ! こんの変態!」

『んー? 何の事?』

「とぼけないでよ!」

『……』

 

ブツッと放送が繋がる音。

 

 

 

『わたし、朱音だよ♪』

 

 

 

ゾクッ―――と。全身に鳥肌が立った。

 

そう、思い出した。この声は、初めてカラオケに行った時に聞いた事がある。

 

()()()()()()

 

 

「な…んで……わたしは、ここで……喋ってないのに……」

『そう、私はわたし。……やっと、こっちを見てくれたね』

「ひぅっ」

 

何かが、わたしの声をした誰かが、わたしの顔に触れる。それは物凄い嫌悪感を与えてきて、生理的に無理……!

 

『もう逃がさないから。今度こそ……約束を守ってもらうよ?』

「ひぃっ!」

 

約束?……はっ! いやまさか、そんな……わたし……体をあげるみたいな約束しちゃったの!?

 

「ゃ……やだ! そんな約束してない!」

『した! 絶対確実に神に誓って言った!』

「し、してないしてないしてない!」

『したもん! 私は覚えてるし!』

 

チュウ

 

「わたしが覚えてないからしてない!」

『覚えてないのは忘れたからでしょこの馬鹿!』

「馬鹿はそっちだし! この変態すけべあんぽんたん!」

『こっ…の! すぐなんでもかんでも押し付けてくる癖に!』

「そんなことしてない!」

 

チュウ‼

 

『したしたしたした!』

「してないしてなしてなひてない!」

『ぷぷっ、噛んでるし』

「うぎぎぎぃ……」

 

チュウ‼

 

「うわっ!」

 

ネズミの怒ったような声が耳元からしてきた。けど、やっぱり見えない。

って、そ、そうだった、なんか凄いナチュラルに口喧嘩してたけどこのままだとわたし殺される!

 

「う、くぅ―――」

『はぁ……良いから速く―――』

 

「殺さないで!」

『名前をつけてよ!』

 

「『 ……え? 』」

 

な、名前? はい?

 

『……なんで私が朱音を殺す事になってるの?』

「え、その、同じ顔ってつまりドッペルゲンガーで、ドッペルゲンガーってつまり殺すんじゃ……」

『誰がドッペルゲンガーよ!…似たようなものかも知れないけどさぁ』

「ひぃぃ! やっぱり殺される!」

『殺さないってば!』

 

スパコンと頭を叩かれる。不思議と、嫌悪感は無くなってる。

でも……名前を付けるって約束なんてしたっけ? うーん……。

 

『やっぱり忘れてるじゃん。あーもー、あんまりやりたくなかったけど……』

「え?」

 

チュウ?

 

『あー、ごほん』

 

誰かはいったん咳払いをする。

 

『約束どーり、名前をちょーだい、()()()()()

 

記憶の片隅がチクッと痛んだ。

 

「あ……あぁ……」

『あの時からずーっと、ずーっと、お姉ちゃんの代わりに辛いことを見てあげたんだから』

 

記憶の片隅から、刃が出て脳を半分にして背骨に沿って切られたみたいな衝撃。

その切られた断面から、わたしが忘れて、逃げてきた沢山の記憶が溢れ出てくる。

 

 

~●~⚫~⚪~⚫~●~

 

 

小さいときから姉というものに憧れてた。

どうしてだったっけ……そう、同じ幼稚園の友達にかっこいいお姉ちゃんが居たからだ。

あの人は優しくて、小さいながらにああなりたいって考えてた。

そして小さい子たちにお姉ちゃんだよって見栄張ったりしてた。

 

これが、前提の記憶。

 

そして、初めの記憶は―――目の前で猫が車に跳ねられた事。

近くに住んでたのか、いつも良く見掛ける猫だった。全身真っ黒で、大人たちからは少し嫌われてたみたいだけどわたしにはよくなついてくれてて……だから、目の前で動かなくなった事を受け入れられなくて。

 

わたしは、わたしに都合のいい妹を頭の中に産み出した。

わたしと一緒に泣いてくれる妹。わたしの代わりに怒ってくれる妹。わたしの辛さを一身に受けてくれる妹。

 

……そう。わたしは確かに言った。「名前は後でつけてあげるね」って。その場では名前を考えられなくて。

違う。現実はもっと酷いんだ。わたしは、(みにく)い。

わたしは……わたしは……。

「あの子には名前なんて必要ない」って思ったんだ……。

 

それからも、辛いことを全部押し付けた。

 

捨てられた犬を飼えなかった。次の日には段ボールの中で冷たくなっていた。

喧嘩してたせいで一人だけ遊びに入れてもらえなかった。

お母さんの大切な食器を壊した。多分、それでお母さんに妹の存在がバレたんだと思う。

 

他にも…他にも……沢山………数えきれないぐらい……! 一つでも辛いことを、わたしは……あの子に全部……!

 

わたしは、わたしは、何て事を……!

 

 

~●~⚫~⚪~⚫~●~

 

 

「ごめん、ごめんね……ごめん……!」

『えっと』

「そんな、そんなつもりじゃ……うぅっ、ごめんなざい~!」

『朱音?』

 

罪悪感なんて言葉で表せられない。全身が重い。立っていられない。今まで行ってきた罪に押し潰される。

 

「ごめん…ごめん…ごめんなさい…すみませんでした…もう……わたしは…………」

『おーい』

「…………そうだ、死のう」

『京都に行くみたいなノリで何言ってるの!?』

「もう合わせる顔がない……死んで、地獄に行って、閻魔様に断罪してもらおう……」

 

右手にナイフ。もう何十回もやってきた行動だから見えなくてもやれる。うん、このまま首を掻っ切って……それとも、第三の目(サードアイ)を突く?

そんなんじゃ償いにならないか。償いきれないとは初めから分かってるけど、せめて少しでも……。

 

『え、ちょ、ダメだってば!』

 

ナイフを取られた。―――あぁ、そっか。

 

「うん……好きに殺して……。好きなように、好きなだけ」

『はぁ!?』

「乙女ちゃんがスッキリするように殺して―――」

『いやいやいやだーかーらー!……待って、乙女ちゃんって?』

 

…あぁ……それは……。

 

「名前。最後だし、約束してたし……本当は、始めっから決めてて、でもわたしは……名前をつけたら乙女ちゃんが居なくなるって、そう思って……」

『……』

「ごめんなさい……酷い事してごめんなさい……」

『乙女…おとめ…ふ、ふふ……変な名前』

「変な名前でごめんなさい……」

『許す』

 

……え?

 

『許してあげる』

「……やだ」

『や、やだ? あー、お姉ちゃんはちゃんと約束を守ってくれたし……そりゃまあ、ちょっと駄目なところもあったけど……許してあげるよ?』

 

そうじゃない……そういうことじゃないんだよ……。

 

「わたしは…許してもらったとしても…生きていけないよ…罪悪感で……そんな軽い言葉じゃないけど………」

『……はぁ~。あーもー面倒臭いお姉ちゃんだなぁ!』

「面倒臭くてごめんなさい……」

『っ~~!』

 

ぐいっと。無理矢理立たされた。

 

『だったら! そんなに罪を償いたいって言うなら! 辛い事とおんなじぐらい、それよりもいっぱい私を幸せにしてみせてよ!』

「っ!」

『いい!? 絶対だからね!』

 

そっか。そう、だよね。今までずっと押し付けてきておいて、今更そんなのは……。

 

「……うん。うん、もう、逃げないよ。押し付けたりしない。ごめんね、乙女ちゃん」

『……うん。良かった』

 

チュウ…チュウチュウ‼

 

『え!?』

「どうしたの……うわっ」

 

周りの空間が鳴動する。まるでここは何かの体の中で、その何かが動き出したみたいな…………闇が、動き出してる?

 

『穢れの収縮……思ってたより早い……!』

「え、え?」

『大丈夫だよ、朱音。朱音には何もさせな……うぐぅっ』

「乙女ちゃん!?」

 

な、何が起きてるの!?

 

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