火の手があちこちに上がり、美しかったであろう街並みは今は崩れ、荒れ、破壊されている。
ゼノンはF91でS.M.Sに向かいながらその様子を空をから悲痛な表情で眺めていた。
ふと右掌に乗っている三人の男女も眼下を見て絶望の表情を浮かべていた。
暫くし、黄色い文字に黒で縁取りされたS.M.Sの文字が書いてある建物が見えた辺りで上から熱源が一つ、
ガウォーク形態の見覚えのある灰色の重装備バルキリーが上空から接近して来た。
「ゼノン・グレイブ、聞こえるな?
そっちじゃなく横に見える昇降機を使ってマクロス・クォーターに来てくれ」
確かオズマ・リーだったか?
マクロス・クォーターが何なのかは知らないが、今はギリアムさんの状態を早急に伝える必要がある。
「さっきの……ギリアムさんが重症を負いました。急ぎ医療施設に行かないと危険です。
あと逃げ遅れた民間人三名を保護しました」
「なんだと!?ギリアムが?
わかった、クォーターの医療スタッフを昇降機の入り口前に待機させとくように言っておく」
「お願いします」
オズマ機の先導によって昇降機であっという間にマクロス・クォーターに到着する。
とは言っても、目に映ったは普通の格納庫なのだが。
振動を極力出さないようそっとF91の片膝を着き、ギリアムさん含む四人を降ろす。
それを確認するや否や待機していた医療スタッフがギリアムを運んでいく。
同時にS.M.Sの隊員が先ほど保護した三人を誘導しようとするのだが、何やら騒がしい。
金髪の美人に人が群がっているように見えるな。
とここで外部マイク越しに大声がコックピット内に響く。
「ランカ!!無事か!?」
「え?お兄ちゃん!?」
緑髪の小柄な子にオズマ・リーが声を掛けているのを横目に見ながら、
誘導に従いF91を空いているスペースに立たせ、コックピットから出る。
ワイヤーに足を引っ掛け、この世界に初めて自分の足で降り立つ。
「へぇ……オズマさんとあの子は兄妹なんだ。似てないけど面白い偶然だな」
そう呟やいているとコチラに気づいたのか、助けた三人が寄って来る。
「助かったわ、お礼に今度私のライブにタダで入れてあげる。じゃね」
「あ、あぁ……」
金髪美人はそう言って隊員に誘導して貰いながら手をヒラヒラ振り、足早に去っていった。
なんだろう、歌か何かで売れている人なんだろうか。
「あ、ありがとうございます、助けていただいて……」
「ありがとうございます、助かりました」
「ああ、二人とも大きな怪我が無くて良かったよ」
二人まとめて挨拶。
緑髪の子、確かランカって言ってたな。まだ微かに震えているな。
と思っているとお兄さん、オズマ・リーが来てまだ何か言いたそうなランカちゃんを連れて格納庫から姿を消してしまった。
こっちの青年はさっきも思ったが、相当な美男子だな。
と、ここで青年が……
「あの、一つ聞いていいですか」
「ん?なんだ、あ~……」
「早乙女アルトです、貴方は……」
「ゼノン・グレイブだ。それで?」
お互い名乗り、握手。
「ゼノンさんの機体は……始めて見るんですが新型ですか?」
「ん~、簡単に言えばワンオフってやつ」
やはり男の子だろうか、こういうことに興味があるのは。
そこはやはりどの世界でも変わらないな。
「凄いですね……、名前はなんて言うんですか?」
「ガンダム、ガンダムF91だ」
「ガンダム……(やっぱりバルキリーとは根本的に違うな……)」
空というものに憧れ、何よりも好きであるアルトはバルキリーについての知識は一般よりは持っているだろう。
故に、バルキリーのような変形機構の有無は勿論、航空力学的な方面から見てもガンダムF91は飛行には向いていないと思えた。
しかしS.M.Sに案内してもらう最中、まるで重力など無いようにフワリと浮き上がったこの機体に興味が沸いた。
無論、人口制御によって重力はここフロンティアでもキチンと発生している。
だがこのガンダムという機体はバーニアやロケットの類など使わず浮いて見せたのだ。
ガンダム、と呟きながら早乙女アルトはF91を見上げる。
「ガンダムにはちゃんと意味もある」
ゼノンはそんなアルトの様子に苦笑いしながらそう口にした。
「あるんですか!?」
どうやら無いと思っていたらしい。
それもそうか、名前だけじゃ想像も検討もつかないだろう。
「あるさ、バルキリーも北欧神話の戦乙女のワルキューレから来ているだろ?」
「ええ、そうですね」
「ガンダム、その意味は『戦う為の力』だ」
「戦う為の……力」
「そうだ。
そしてそれは敵に対してだけでなく自分にも、運命に対しても……」
「……」
そう言いながら、ゼノンはF91を見上げながら黙ってしまう。
その様子に、その表情に、その目にアルトは何も言えなくなってしまった。
「……おっと、すまない。で、満足してくれたか?」
「あ、はい。ありがとうございます」
そしてまた会おうと言い合い、アルトは別の隊員に誘導されて格納庫から去っていった。
完全に扉が閉まり、それを確認すると雰囲気が一変する。
背中越しに感じるピリピリとしたモノに対してゼノンは一回、大きな溜息を吐いてから振り向く。
「さて……オズマ、さんでいいですか?できればその銃を降ろしてほしい」
振り返りながらいつの間にか隊服に着替え、ハンドガンを油断無く構えているオズマ・リーに対して言う。
その後ろには同じくライフルを構えている別の隊員が四名。
その後方、よく見えないが気配で青いバルキリーの陰にスナイパーが一人。
「本来なら俺やギリアムを助け、民間人を保護し、
尚且つ船団防衛にも尽力してくれたお前にこんな物は向けたくはないんだが……」
「だが……何です?」
「お前は何者だ?
調べてみたが、ゼノン・グレイブという者はこの船団には居ない。
それに加えそのガンダムとかいう機体、一傭兵が用意出切る様な代物とは思えん」
この空間……彼、ゼノン・グレイブにとって”詰み”の状況であるのにも関わらず、オズマの心中は穏やかではなかった。
確かな腕を持つ精鋭に周囲を押さえスナイパーの配置、いざという時のためにクァドランにも未だに搭乗しておいてある。
だが……この嫌な汗はなんだ。目の前とガンダムという機体の搭乗者の青年は静かにコチラを見ている。
焦りの色など無い、むしろこの程度と思っていそうなその眼光にオズマは嫌な未来が浮かんだ。
「……」
ほう、この短時間によく調べたもんだ。ってもマクロスという一種の閉鎖空間ではそんなもんか。
しかし流石、先ほど民間と聞いたがかなり優秀な軍事会社ってことか。
「……わかった、話すからその銃を降ろしてくれると嬉しい」
一瞬、オズマはその返答に戸惑いを覚えるも表情には極力出さないよう顔面を強張らせた。
お互い睨み合いこと数秒。
少し間があり、スッとオズマが銃を降ろすと後ろの数人も銃を降ろした。
雰囲気も幾分か柔らかくなるのを感じる。
だがスナイパーだけは視線を外しそうにないな。
「いいだろう、だが妙な抵抗はするなよ」
「しませんよ」
「よし、着いて来い」
周りを囲まれ、警戒されながらオズマの後ろを着いて行く。
内装は宇宙世紀の戦艦とそう変わらないもんなんだな、と思いながら歩を進る。
暫く歩き、分厚い扉を数回潜るとブリッジと思われる場所に到着。
目の前には顔に傷と髭を蓄えている壮年の艦長らしき人物。
右にグラマーな女性二人に青髪の子供、左に眼鏡のイケメンとショタ。
正面の奥にアフロの背の大きな男、横に三人の女性。
「マクロス・クォーター艦長、ジェフリー・ワイルダーだ。
よろしく、ゼノン・グレイブ君」
「ゼノン・グレイブです。よろしく、ワイルダー艦長」
お互い目を見ながら、握手……悪い人じゃないな、むしろブライトさんと同類かな?
それに流石、艦長だけあって鋭い眼光だ。顔の傷から察するに、相当の兵だな。
「さて、ゼノン君。
オズマ君にも聞いたと思うが、君とあの機体の事を話してくれるかな?」
雰囲気が少し、重くなる。
どうしたものか、嘘をつくにもメリットが無い。無用な戦闘は避けたいしな。
いっそのこと正直に話すか?見たところ嫌な雰囲気の奴は居ないし……。
「……わかりました、その変わりココの目と耳を塞いで欲しいのですが」
「……いいだろう」
ジェフリーは首だけを後ろに動かし頷くと三人の女性の内一人がコンソロールに向かい、
ボードを数回叩き、戻ってきて敬礼をして再び元の位置へ戻った。
「これでこれから君の話す事は我々意外には漏れることも無い。
安心したまえ、ココにいる者達はそういう心配は無い、私が保証しよう」
「……わかりました」
再度この場に居る人物を確認。
ジェフリー艦長、オズマさん、アフロの人、三人の女性、
青髪の子供、その左右にグラマーな女性二人、眼鏡の色男、ショタ。
一礼して、全員に向き合い言った。
「では、皆さん始めまして。
異世界人です」
「「「「「……は?」」」」」
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まあ説明は省く。
「フム……まるでSF小説のような話だな」
「俺としてはこの船も十分SFですけどね」
それも宇宙世紀以上に発展しているからな、超ド級。
「それは言えているな、一昔前は宇宙に出るだけで大騒ぎだったからな」
「それも衛星軌道を周るだけで」
ハハハと艦長と笑い合う。
「で、信じてもらえましたか?」
「君のガンダムという証拠もある、信じるほかないだろう。
ルカ君」
「はい」
ルカ、と呼ばれて前にタブレットのような端末を持ったショタが出てきた。
「はじめまして、ゼノンさん。ルカ・アンジェローニです」
「はじめまして、ゼノン・グレイブだ」
まだ若いな、と思いながら握手。
「勝手ですが、機体のデータを取らせてもらいました」
「かまわない、わかっていたからな」
「ん?それはどういう事かな?」
勝手に、なので当然反論なり何なりが出ると思っていたのか、
分かっていたなんて言うからジェフリーが疑問に思うのは当然である。
「それについて説明します。
彼とあの機体、ガンダムF91と言うんですが常にリンクしているんです」
「ふむ……どういうことかね?」
「そもそも機体の操縦方法がこの世界では考えられない物です。
パイロット自身の動きをそのまま伝えるという極めて特殊な物なんです」
「何!?
じゃああの動きをゼノンがやっていたというのか!?」
思わず声を上げたのはオズマ。
ココの誰にも負けない腕を持っているオズマから見ても、先ほどの動きは尋常ではなかったのである。
他の者はそれほどゼノンが”やる”ように見えなかったのか、疑惑の表情である。
「はい、システム面も完璧でタイムラグは無いです。
あとYF-21に搭載されていたBDIシステムに似た物も搭載されています。
BDIの方は機体に乗らないと反映されませんでしたが、
F91に搭載されている物は機体から降りていても脳波で操作ができるようです。
あと……よくわからないのですが全身のフレームがサイコ・フレームという特殊な物らしいです」
「サイコ・フレーム?」
「ええ、詳細を見ようとしたんですがこれ以上はどうやっても駄目だったんです」
「ルカでも駄目だったのか……」
と呟く眼鏡の色男。
まぁ、そうそう簡単に見せてたまるか。プロテクトは数万にも及ぶ、自己進化付きでね。
その後もF91に関する機体説明を数分。
簡単に言えば異世界の機体であると証明された。
「それで、艦長は俺とF91をどうするんですか?」
「そのことなんだが、君は迷子で無一文な訳だろ?」
ある程度は予想できていたが、この人の言い方は卑怯だな。
どこぞの野郎みたく、俺に構うな。とは言えない。
「……まぁ、そうですね」
「S.M.Sでその力を使ってみる気はないかね?」
それはそれは、願っても見ない誘いじゃないか。俺もその気だったけど。
しかし、冷静にいこう。
「いいのですか?」
「軍の方にはS.M.Sが独自に開発した新型と言えばいい。
それにココは軍とは独立している。
身寄りの無い君自身もそのほうがいいのではないかな?」
流石、お見通しで。軍だと最悪権力で処刑とか笑い事にもならない事態になりかねん。
容易く機体を解体させられたり処刑になる気は更々ないが俺VS船団(援軍有り)とか確実に死ねる。
観念したように一息吐き、ニヤッと笑いながら言う。
「流石ですね。
ではお言葉に甘えさせていただきます」
「よろしい、ではこれからよろしく頼むぞ、ゼノン君」
敬礼をしながら、改めて。
「了解です、艦長」
こちらも敬礼を返す。
そうしているとオズマさんが近づいてくる。
「お前の話を聞いてから、こうなるんじゃないかって思っていたら本当になっちまったな」
「俺もそんな気がしてましたけどね(半分は計算だが)」
フッと笑いあうも、スッと背筋を伸ばしオズマは改めて名乗る。
「S.M.Sスカル小隊リーダー、オズマ・リー少佐だ。
コールサインはスカル1(リーダー)、よろしく頼む」
「S.M.S所属になりましたゼノン・グレイブ、よろしくお願いします」
その後も立て続けに名乗りあい、全員と面識を持った。
アフロのファンキーな人はオカマだと分かったが、良い人みたいだ。
こうしてゼノンはS.M.Sの所属となった。
しかし、何か引っかかっていた。
あの青年。早乙女アルトとは何故かまた会うと確信めいたモノが頭から離れなかった。
それは後日、現実となる。
そして、二人の歌姫と共に銀河を駆ける。
今話、次話の文章量は少なめです。
ではまた次回。