新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
ネプテューヌたちのいる超次元とは別の次元。
神次元と名付けられたそのある場所、プラネテューヌという国でトラックが走っていた。
トラックが走るというのはもちろん、珍しい光景じゃない。外に出ればほぼ確実に目にする。
特に、技術や工業が盛んなプラネテューヌやラステイションであればなおさらだ。
だがしかし、今日のそれはとても見慣れたものとは思えなかった。
車線をまたぐほど巨大なトラックは大幅に改造されているようで、ぶあつい装甲に覆われたそれは法定速度をはるかに超えて街を走っていた。
路肩に止められた車が巻き込まれて、歩道へと吹き飛んでいく。
「プルルート!」
「わかってるわぁ!」
バイクで走る僕と並ぶようにして飛んでいたプラネテューヌの女神、アイリスハートことプルルートが歩道と車に割って入り、蛇腹剣で車を押し返した。
いつ見ても過激な装いだ。水着並みに肌の露出面積が多いプロセッサは、見るところを困らせる。
美しい顔と妖艶な雰囲気が、イケナイ感じをより際立たせる。
不幸中の幸いなことに車の中には誰もいない。
持ち主が戻ってきたときには、自分の車の不幸を説明する者はきっといないだろうが。
これ以上被害が出る前に止めたいが、あの中にいるのは犯罪組織だ。下手に攻撃を仕掛ければ、何をしでかすかわかったもんじゃない。
だがこの先は……。
つきあたりへかかると、トラックは左へハンドルを切った。
路面に濃くタイヤ痕を残して、進路を変える。
その瞬間、僕はバイクのハンドルから手を離し、背負っていた折り畳み式の金属弓を左手で持ち、展開させる。
同じく背中の矢筒から矢を取り出し、放つ。
矢はタイヤに突き刺さり、一瞬後小規模爆発を起こした。
急ハンドルを切り、バランスが崩れたことも手伝って、トラックは片輪走行となる。
「捕えた!頼む、プルルート!」
「容赦はしないわよぉ、ファイティングヴァイパー!」
アイリスハートが振るう、電撃を纏った蛇腹剣がまっすぐトラックの足をすくいあげ、トラックはついに横転した。
僕はバイクを止め、降りながら弓を構える。
「さぁて、これで終わりかしらぁ?」
「いいや、こんなので終わりならわざわざ教会に忍び込んで盗みなんてしないよ」
バン、とトラックの荷台が開く。
中から現れたのは、銃を持った男五人。運転席から乗り出してきたのも合わせて六人だ。
装備とたたずまいから『犯罪組織』の戦闘部隊だとうかがえる。
僕は弓の弦を引いた。
右手へ光の粒子が集まり、矢の形をつくる。
僕のエネルギーを具現化させたそれを、狙いを定めて放つ。
光の矢は先頭で銃を構えようとした一人の頭に直撃し、その勢いのまま吹き飛んでトラックにぶつかる。
その男は起き上がることはなかった。
「まず一人目」
僕はぽかんとする男たちの隙を逃さずにもう一発光の矢を放つ。
だが、その矢は次の男に当たる直前に不意に消え去った。
矢が霧散していく様子を見て僕は確信した。
「あの男だ」
僕は言いながら、もう一発、二発と光の矢を放つ。
だがしかし、いややはりと言うべきか。矢はその男の前で消え去る。
ということは、あいつがあの部隊の隊長だろう。
軍用機パイロットのものに似たヘルメット、そして胸と腕、足に装備したアーマーを着けているのはそいつだけだから、わかりやすい。
僕の攻撃を無効化したことに勢いづいた犯罪組織の面々が銃を向け、立て続けに発砲してくる。
僕は右半身を前に出して、銃弾を受ける。無数の衝撃はあるものの、痛みはまったくない。
アイリスハートは蛇腹剣の刀身を身体に巻きつけて、銃弾を防いでいる。
「ちょっとぉ、どうするのよ」
「こうなったらちょっとまずいかな。アレのせいで僕たちの攻撃は無効化されたも同然だし、近づくのも危険……というわけで」
僕は耳にはめてある小型無線機に向かって話しかける。
「アイ、連れてきてくれ」
『任せろ!』
荒々しく自信満々の女性、アイの声が耳に響く。その後方では空を切るような轟音が鳴っていた。
もうすでに飛んできているみたいだ。
銃弾がやんだ。
男たちが一斉に弾倉を交換する。勢いづいたのはいいものの、女神と僕を相手に冷静さを欠いているのだ。
その隙をついて、僕は矢筒から一本の矢を取り出し、隊長へ放つ。
だが隊長は他の男をぐいっと引き寄せ、矢を受けさせた。
矢は当たるなり、鈍い音とともに衝撃波を生み出す。
盾にされた男ごと隊長は宙に浮き、地面に激突する。
隊長はすぐさま起き上がり、懐からディスクを取り出して地面に投げつけた。
犯罪組織お得意のモンスター召喚だ。
「あいつらをやれ」
割れたディスクの破片から黒い煙がもくもくと立ちこめる。
隊長はそれを一瞥もせずにその場を去ろうとする。
「まずいぞ。逃げられるわけにはいかない」
『とうちゃくぅ!!』
『うおおぅ!!』
歯がんでいると、無線からアイのあとに男性の叫び声が聞こえた。
その叫び声は徐々に無線からではなく、直に耳に入ってくる。
見上げると空から何かが飛んできていた。くすんだ銀色が太陽の光を反射するせいで、全貌がよくわからない。
まるで砲弾のようなそれは、まっすぐトラックへ向かっていく。
明らかに危ない速度のまま、それは犯罪組織の一人を巻き込んでトラックに激突しながら、ようやく着地した。
向かってきた何かとトラックにサンドイッチにされた犯罪組織隊員は力なく地面に伏した。
代わりに立ったのは円形の盾を持った男、ヴァトリだ。
180cm100kgの頑強な身体でもさすがに今のは堪えたか、ヴァトリは少しふらふらとした。
ヴァトリはそのまま盾を投げつけ、もう一人を倒す。
最後に残った一人は僕が矢で処理した。
その間に隊長は走り去っていき、ディスクから生まれた煙はモンスターを形成する。
どちらも放置するわけには行かない。二手に分かれる必要がある。
「任せていいか、ヴァトリ。あの男はアンチクリスタルを持ってる。僕たちが行くよりか、君のほうが向いてる」
「了解。そっちは任せるよ」
ヴァトリはすぐさま状況を察してこの場を離れた。
盾を背中に直し、アスリート並みの速度でぐんぐんと敵隊長が去っていった方向を追いかける。
「ヤマトくん」
いまだに慣れないアイリスハートのくん付けに振り向くと、人型の機械がそこに立っていた。
緻密に形成された銀色に輝くボディがこちらを向き、赤い眼がこちらを睨む。
「ヤマトにアイリスハート……」
ロボットの癖に、やけに流暢に話してみせる。
そいつは辺りを見渡すと、満足そうに顔をゆがめた。
笑ったのか?
「いいところで呼んでもらえたみたいだな、邪魔が入らない」
その言葉にそういう意図があるのかはわからないが、先手必勝。
ロボットが余裕をこいている間に、僕は右拳を振った。
「ふむ……いいパンチだ」
ロボットは簡単に手で受け止めた。
大ぶりの腕を頭を下げてかわして、僕は右フックを叩きこむ。
さすがに堪えたか、ロボットは後ろによろめいた。二発目でさらに後ろに下がる。
堅いが、ボディがへこんでいる。ダメージは入っているはずだ。
三発目を繰り出そうとした瞬間、その腕を掴まれた。
女神メモリーで強化されているはずの右腕だったが、振り払おうとしてもびくともしない。
そのまま引き寄せられ、首根っこを締めあげられる。
みしみしと骨が悲鳴を上げ、痛みと焦燥が走る。
だが不意に力が緩んだ。
腕と身体が離れている。その間を舞うのは、ワイヤーで連結された刃だった。
アイリスハートの援護だ。
僕は首を掴んだままの機械腕をぽいと捨て、ロボットの身体に蹴りをかます。
ロボットは吹っ飛び、膝をつく。
そしてまたにやりと笑った。
「さすが世界を救っただけはある」
おもむろに立ち上がると、大仰に腕を広げて、大げさな口調でしゃべりはじめた。
「君たちこそが進化の可能性であり、そして……」
そのあとの言葉は紡がれなかった。
急速に落下してきた何かが、ロボットを粉々に砕いたのだ。
ヴァトリではない。ヴァトリを落とした人物だ。
灼熱のような赤い髪をたなびかせるその女性は、攻撃的な尖ったプロセッサを煌めかせて、ファイティングポーズをとる。
つりあがった目がこちらを向いた。
「ヤマト、敵は!?」
「あー……っと……そこかな」
僕はその女神、エディンを守護するローズハートの足元を指さした。
ロボットを残骸にするだけでなく、地面にひびが入っている。
犯罪組織は軒並み倒れ、先ほどまで戦っていたロボットもいなくなった。
作戦通りなら、敵の隊長はいまごろヴァトリが何とかしてるはずだろう。
それを察して、ローズハートががっくりと肩を落とす。
「マジかよ。もしかしてウチの出番これだけか?」
そう言うと、ローズハートは光に包まれ、その変身を解く。とても女神だとは思えない緩やかな雰囲気の少女、篠宮アイが意気消沈したまま現れた。
アイリスハートも変身を解き、ぼさぼさ髪のプルルートに戻る。
「ありがとねぇ~、ヤマトくん、アイちゃん。やっとゆっくりできるぅ」
「できないよ。事後処理が残ってるんだから」
エディンならともかく、プラネテューヌのことはお仕事嫌いと言えでもプルルートに任せるしかない。
そのことを思い、プルルートも肩を落とした。
「うへぇ~」
「ウチも手伝うッスから、ほらほら動く動く」
「押さないでぇ~」
仲良く揃って仕事に向かう二人を見て、不安を覚えつつも僕は少し微笑んだ。
まあ、アイがいれば何とかなるだろう。プルルートだってやればできる子だし。
△
角を曲がると、ようやく敵を捉えることができた。
ぼくが空から落とされたときにちらりと見えた姿と相違ない。
銃にアーマーまで装備しているくせに猛スピードで逃げていく敵を必死で追う。
逃げることを諦めたのか、敵がくるっと振り向いて、銃を乱射し始めた。
ヤマトが犯罪組織の逃走経路を先読みして、避難命令を出したおかげで、ここの近くに人はいない。
背中に負った盾を掴み、足の速度を緩めずに構える。
小気味良い音を鳴らしながら銃弾を防いでくれた。
ぼくは間合いを詰めると、銃弾が止むのを待たずに敵の手を蹴った。
銃は敵の手から宙へ舞い、その隙に回し蹴りを胸に当てる。
敵はよろめいたものの、アーマーのおかげで必殺の一撃にはならなかった。
ぼくは続けてシールドを投げつけた。
それは回転を増しながら見事頭に命中し、敵のヘルメットをはぎ取った。
思ったよりも歳を食ったような顔が現れたが関係ない。
回転しながらバウンドして戻ってきたシールドを背中に戻し、さらに間合いを詰める。
たまらず敵は拳を繰り出したが、ぼくは腕を掴んでそれを止め、防具のなくなった顔にシールドをくらわせた。
怒りに身を任せた反撃を、よく観察して弾く。
男は焦っていた。こんなところでもたもたしていては、やがて女神たちが増援に来る。
それがなくとも、目の前のぼくに時間を使っている暇はないはずだ。
男は唸り声を上げながらナイフを取り出し、一気に勝負を決めようとした。
高く跳び、スピードによる急襲でとどめを刺そうとした。
だがぼくはくるりと身をひるがえしてそれをかわし、着地した男の顔に回し蹴りを繰り出す。
男は目をぐるんと回し、一歩、二歩下がったかと思うと、その場に倒れた。
「ヤマト、片付いたぞ」
『よかった。例のものは?』
無線から聞こえてきたヤマトの返事に、ぼくはすぐさま敵の懐を探った。
目当てのものはすぐに見つかった。手のひらサイズの紫色のひし形結晶。
怪しく光るそれは、アンチクリスタルと呼ばれる、女神の力を封じる力を持つ危険物だ。
△
「どうだ」
僕はガラス越しに尋問の様子を見るアイに声をかけた。
ここはローズハートことアイが運営する国、エディンの教会の一室だ。
犯罪者用に作られた取調室を使うのはここ最近では無かったことだが、今回は大事だ。
ガラス、というかマジックミラーの向こうにいるのは敵の隊長、そして取り調べ担当のヴァトリだ。
「まー訊いたら喋るッスね。今回の事件は依頼されたものみたいッス。装備やロボットはその依頼主から支給されてたらしいッスよ」
今回の事件は、プラネテューヌの教会に保管されていたアンチクリスタルという結晶が犯罪組織に奪われたことが端を発する。
一年前、プラネテューヌで偶然にも見つかったアンチクリスタルは、女神の力を断絶するという能力を持っていた。
手のひらサイズでも、触れただけで急速に女神の力を奪うそれの情報をひた隠しにしてきたのにも関わらず、今日犯罪組織が急襲してきたのだ。
女神を無効化するなんて代物、犯罪組織が持てばどうなるかは容易に想像がつく。その危険を察知して、プラネテューヌの運営役であるイストワールがこちらに助けを求めてきたのだ。
エディンの治安維持部隊である僕たち『九賢人』もその危険度を重く見て、出動。
アンチクリスタルはより厳重に保管されることになり、そして手助けの代わりとして犯罪組織の取り調べをさせてもらっている。
「依頼主は?」
「それが、連絡はメールと電話でしていたらしくて、素性は知らないって」
「よくそんな依頼受けたな」
「依頼主はアンチクリスタルの研究をしたかったそうで、それが済んだら犯罪組織に渡す約束だったッス。そっちは?」
「ロボットはどこの国でも組織でも造られていないものだ。特徴がいままでの、どこのとも一致しない。犯罪組織のとも違う」
僕は腕を組んだ。
アンチクリスタルを調べたいというのが、ただの好奇心であればいいが、どこにも情報を漏らしていないことを考えると、それは期待できない。
相手はこちらの情報を盗み見て、犯罪組織を動かした。ただ研究したいというだけというにはリスクが大きい。
あのロボットを造ったのもその依頼主だろう。素性や戦力を明かすのは最低限にして、こちらの考えを曇らせるつもりだ。
しかもアンチクリスタルを研究しつくすことができる自信も持っている。だからこそ、犯罪組織が欲しがる『女神を倒すことのできる』クリスタルを渡すことを報酬の条件に追加したのだ。
僕は部屋を出て、すぐ隣の取調室に入った。
ヴァトリが察して部屋を出る。
僕はヴァトリが座っていた椅子に掛け、男を真正面から見る。
にやにやと笑うその顔に、反省や後悔の色は見られない
「依頼主とは仕事以外で何か喋ったか?」
「えらくお前にご執心だったぜ、男のくせに女神の力を持ってるってな……あ、あと……」
男は身を乗り出したかと思うと、何かを思い出して宙に人差し指を立てる。
「空に開いた穴」
疑問を呈する代わりに、僕は眉を顰めた。
「奴はそう言ってた。その向こうから来たって。やけにざらざらした声でな、『かつて君たちが犯した過ちが、あの穴を開けた。私は君たち人間の業の反響だ』だなんて言ってたけど、俺にはさっぱりだ」
僕は額に手を当てた。
ただの雇われ兵のこいつにはただの暗号かなにかに聞こえるだろうが、僕にはその意味がわかる。
これは予想以上に厄介なことになってきたぞ。
「なるほどね」
「あ、おい、こんだけ喋ったんだ。減刑はしてくれるんだろうな」
腰を上げ、部屋から去ろうとする僕に、男は声をかけた。
その顔は期待に満ちていた。
「アイリスハートに聞いてくれ」
一転して男の顔が青ざめたことに僕は満足して、隣の部屋に移る。
そこにいたアイもヴァトリも深刻そうな顔をして、僕を見た。
鏡があれば、僕も同じ顔をしていたに違いない。
「ヤマト……」
「ああ、間違いないだろう」
アイがすべてを言う前に僕はうなずく。
「空に開いた穴って……」
「ああ、三年前のあの事件のことだ」
ヴァトリの言葉を継いで、僕は言う。
彼は当事者ではなかったが、あれは世界中の人が知っている歴史的な事件。
三年前、古代の国タリの女神が起こした、この神次元と超次元の間で起き、突如としてプラネテューヌの街が破壊されたあの事件は今でもはっきりと思い出せる。
空という空間に穴が開き、そこから破滅の光が落ち……。
僕は頭を振り払った。
いまは目の前のことに集中すべきだ。
僕の右半身がモンスター化していることはどの国のどの人間も知っていることだが、それの原因が女神メモリーだっていうことは一般には知らされてはいない。
敵は僕たちのことを知っている。
そして、僕たちは敵のことを知る必要がある。
それには『空に開いた穴』の向こう側。つまり……
「超次元に行く必要がある」