新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
拠点へと案内している間、私たちはそれぞれ自己紹介をした。
短い髪のほうはネプテューヌ。
長い髪のほうはネプギア。
こちらのほうがしっかりしてるように見えて、ネプテューヌの妹なんだそうだ。
「私の名前はイヴォンヌ・ユリアンティラ。『イヴ』でいいわ」
オレンジの義腕はいま充電が切れて動かない。
私は床に置かれていた身の丈ほどもあるバッテリーから充電コードを伸ばして、義腕に繋ぎ、代わりに左手を差し出した。
「イヴさん……あの、その右腕は…」
握手に応じたネプギアは、興味ありげに私の義腕を見た。
「ああこれ?モンスターに噛み千切られたことがあってね。脳からの電気信号で動かせる義手を作ったの」
今日みたいにモンスターから逃げているとき、体力を使い果たしてもうだめだというとき、のちに仲間となる天王星うずめが助けてくれた。
しかしその時には間一髪で遅く、私の腕は無残にも噛み千切られなくなってしまったのだ。
なんとか死なずに済んだ私は機械系モンスターの残骸からパーツを集めて、これを作ることに成功したのだ。
「つ、作ったんですか、自分で!?」
「え、ええ」
不意に顔を近づけてくるネプギアに、私は顔を逸らした。
なんだかこの娘、物理的にも精神的にも距離が近い気がするのだけれど。
引き気味の私の応答を気にせず、ネプギアは目を輝かせて義腕をなで始めた。
「へええぇぇぇ…………外部から充電する方式で……あ、結構堅い。ちょっとしたものなら収納もできるんだ……。わあ、関節はちゃんと人間の可動域に合わせて……ふんふん……細かい。あ、あの!これ解体してもいいですか?」
「ダメに決まってるでしょ」
頭にチョップした。
これがバラバラになったところで、別に痛いというわけではないが、今ではもう身体の一部なのだ。
そうそう解体はしない。
「ネプギアも機械オタクで……機械を見たらこうやって解体したがるんだ」
ネプテューヌが呆れながら補足する。
私が言うのもなんだけど、こんなに機械に興味を持つ女の子なんて珍しいんじゃないかしら。
それとも、彼女らのいる場所ではそれが普通なの?
「着いたわ。ここが私たちの拠点」
先ほどとはかなり離れたとある廃ビルの一室。
ここが私たちの仮の拠点であり、食べ物、ベッド、粗末ではあるが通信設備もある。
「それじゃ、改めてよろしくね。ネプテューヌにネプギア」
「よろしくっ」
「よろしくお願いします」
私たちは椅子に腰かけ、現状を把握しようとした。
とりあえず、彼女たちのことについて。
「白いゲーム機の電源をつけたら、いきなり現れた渦に巻き込まれて……気づいたらここに……」
「……?」
促して、ネプテューヌの話を聞いた私は首をかしげた。
「何かしら。私の頭が悪いのかしら。全然話がわからなかったのだけれど」
どうも彼女たちの話によれば、拾ったゲーム機の電源をつけたら、もともといた場所からいつの間にかこの場所に移動していたらしい、と。
再び私は頭を抱えた。
上の一文、整理してもよくわからないわね……。
「ええと、わたし達も何が何だか……」
「……別の場所に移動させられたか、もしくは別の次元から飛ばされてきたか…」
少ない情報から、私は仮説を立てた。
ここが彼女たちにとって見覚えのない場所だというのなら、そのゲーム機は瞬間移動装置か、時間移動装置か。
それとも次元移動装置。
「別の……次元?」
「ええ、可能性はあるんじゃないかしら」
首をかしげたものの、別段驚いた様子もない。
突飛なことを言ったつもりだったけれど、それとも彼女たちはそのことがどれほど異常なことかわかっていないのかしら。
当事者だっていうのに?
「ええと、それじゃまずこの世界について説明するわね」
ネプテューヌたちからはこれ以上は話を引き出せないだろうし、次は私が話す番だ。
外を見て分かる通り、この世界は荒廃しきっている。
その張本人は『ダークメガミ』(うずめはデカブツと呼んでいるけれど)という巨大な人型モンスター。
そのデカブツは『存在そのものを消滅させる力』を持ち、そのせいでまるで削り取られたかのように空間がなくなっている場所がある。
そして、この国にはいたのかどうかわからないが、生き残ってる人間はいない。
いるのは私、天王星うずめ、一番多いのは言葉の通じる善良なモンスター。
さっきまではそのモンスターたちがこの町から避難するまでの時間稼ぎ中だった。
そのうずめがもうすぐでここに到着するはずなのだけれど……。
『イヴ、おいイヴ!』
心配した矢先、勝気な女性の声が左手の通信機から聞こえてきた。
ノイズ混じりだが、語気からただならぬ状況であると察せられた。
「うずめ?いまどこ?」
『モンスターが増えちまって、その対処だ。お前も先に避難しといてくれ!』
それだけまくしたてると、通信はぷつんと途切れる。
急いで何回も通信ボタンを押すが反応がない。
こっちのバッテリーは切れてない。
ということは、応える暇がないにせよ、壊されたにしても、あちらがよほどの状況になったということだ。
「そんな……」
嫌な予感が胸をざわめかせる。
ちらつくのは、父の顔。
最後に見たのは相当前だが、細かいしわまで思い出される。
父の優しさも厳しさも、今となっては胸の痛みとともに思い出される。
拳をぎゅっと握り、頭に浮かんだ映像を振り払おうとする。
無いはずの右腕が執拗にずきずきと痛む。
噛み千切られたときの痛みをまだ脳は忘れていない。
私はまだ失くした痛みを忘れられずにいる。
「イヴ」
幼さが残る、しかし凛とした声が耳に届いた。
ネプテューヌだ。
私を見つめる目は澄んでいて、偽りのないものだ。
助けになると訴える、正義に燃えた目。
「わたし達なら戦力になれるよ」
「そのうずめさんって人、絶対に助けます。だから……」
それはネプギアも同じだった。
うずめなら何といっただろうか。
きっと、『この戦いは俺たちの戦いだ。お前らを巻き込むわけにはいかない』と言うだろう。
だけどいま、私は無力だ。
助ける手は一つでも多いほうがいい。
「ありがとう。ついてきて」
充電を始めたばかりだが、コードを抜いて、私はネプテューヌたちを連れて走り出した。
「うらぁ!!」
赤のツインテール少女の拳が炸裂し、巨大な単眼をもった人型ロボットは残骸と化した。
軽快に動きまわっているせいで、オレンジのネクタイが揺れ、白いスーツの内からちらと覗くサスペンダーでスカートが固定されてることがわかる。
モンスターはまだまだたくさんまわりにいるが、手に持った黒いメガホンで叫ぶと、衝撃波がうなりを上げて次々とモンスターを襲う。
天王星うずめが戦っているのだ。
それを確認すると、ネプテューヌとネプギアが飛び出す。
ネプテューヌは太刀で、ネプギアはビームソードでモンスターを斬りつける。
私はその後ろから様子を観察した。
あの二人の実力は本物だ。モンスターの数はみるみる減っていき、もう少しで殲滅だ。
球型、人型、動物型と違いはあれど、ここに集まっているのは機械モンスターだけらしい。
ガシャガシャと音を立てて崩れていくさまに、私は久しぶりに明るいものを感じた。
あの二人がいれば、戦況は大きく変わる。
来訪者に希望を感じたとき、がぁんという音が何度も響いた。
モンスターはすべて動かなくなっていたが、明らかな戦いの音に私は我に返る。
「ふんっ!」
うずめがネプテューヌに攻撃を仕掛けたのだ。
「ちょっ!?いきなり何するのさ!?」
「へぇ、なかなかやるじゃねえか!俺の名前は天王星うずめ!テメェの名は!」
「ね、ネプテューヌ!ネプテューヌだよ!!」
うずめの攻撃を器用にさばきながらネプテューヌは答える。
ああ、ダメだわ。敵とみなしてる。
「へぇ…。見た目によらず、やるじゃねぇか。あいつとの前哨戦にはちょうどいいかもなぁ!」
「うずめ!」
話がこじれる前に、私はようやく物陰から身を乗り出した。
私の姿を見て、うずめがようやく手を止める。
「イヴ!?なんでここに?」
「心配で来たのよ。安心して。その人たちは敵じゃないわ」
目を開いて驚くうずめを落ち着かせて、私は必要なことを言う。
「敵じゃない?」
「ええ。私もこの二人に助けられたの。武器を下げて」
戦闘で熱が上がっていたうずめも納得してくれたようで、素直にメガホンを下げてくれた。
「そうだったのか……。いきなり攻撃したりしてすまなかった。悪かったな」
「よ、よかったぁ……わかってくれて」
うずめが頭を下げて、ネプギアがほっと胸をなでおろした。
ネプテューヌは気にしない様子で手を振り、寛容さを知らしめた。
私はうずめをチェックしながら、ネプテューヌたちのことを簡単に説明した。
命に別状はないものの、ところどころに傷がある。
もし加勢がなければ本当に危なかったかも。
私は改めて二人に感謝した。
「いきなりモンスターが増えたみたいだけど……」
「ああ、あいつが来るぜ」
うずめが空を見上げたのを見て、やっぱりと私は頭を抱える。
「あいつ…?」
ネプテューヌとネプギアが首をかしげたと同時、それに答えるように地鳴りが起こった。
「あいつよ」
私は空を指さした。
その遥か先、空高くから紫の巨大な光球が向かってきた。
それは地面に激突する寸前、周りの建物をいくつも倒すほどの衝撃波を伴って、姿を変えた。
何十メートルとある人型の身体。バイザーを被ったような頭に、光る翼。
そのスタイルから女性のように見られるが、その実態は恐ろしいものだ。
ダークメガミとよばれるそれは、巨大な腕を振るだけでがれきを吹き飛ばし、被害を大きくさせる。
「な、ななななななななにあのでっかいの!?いきなりラスボスのお出ましなの!?まさかわたしたち、ゲーム終盤にふっとばされちゃったとかないよね!?」
遠くで暴れるダークメガミを指さしてわめきたてるネプテューヌ。
対照的にうずめは冷静だった。
「俺にもあいつの正体がなんなのかはわからねえ。だがま、あいつがこの街を、そしてこの世界をこんな風にした張本人だってことだけは確かだ」
「じゃあ、あれがダークメガミ……」
先ほどの私の話と一致させたらしく、ネプギアが納得する。
そう、あれが私たちの最大の敵。
世界を滅茶苦茶にして、空や地面に青白い亀裂を入れた化け物。
「もしかして、あれと戦うつもりなんですか!?」
メガホンを握る手に力を入れたことに反応して、ネプギアが驚く。
「あぁ、そうだ。俺はずっとあいつと戦ってきたんだ。今ここでケリつけてやるぜ」
「心配してくれてるところわりぃが、この街を滅茶苦茶にしたアイツだけは、女神として絶対に許せねぇんだ」
「ねぷっ!?ちょっと待って!?今、女神って言った!?」
「ダメに決まってるでしょ」
ネプテューヌを押しのけて、私はうずめにチョップした。
なんのパワーもない左手でのチョップだったが、うずめはその場にへたりと座り込んでしまった。
強がっていたが限界だったのだ。
「ほら、足がくがくじゃない。みんなはほとんど逃げたわ。あなたが戻らなきゃ、海男も悲しむわよ」
みんな、そして海男の名前を出したことで、うずめはしぶしぶ頷いた。
「勝つためにも今は回復に専念しましょ、ね?」
「……わかったよ」