新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
エコーという謎のロボットを相手にした日から数日、ゲームの盗難事件が起きた。
被害現場はチューコという女性ネズミが店長を務める中古ゲームショップ。わりと珍しいゲームを扱っているそうで、知る人ぞ知る隠れた有名店だそうだ。
店内はかなり荒らされていて、激レアの本体やソフトはショーケースに飾られていたはずだが、そのショーケースはことごとく割られ、ゲームは根こそぎ盗られている。
『本日閉店』という店の中に入って、ぼくはチューコに聞き込みを行っていた。
「じゃあ、朝出勤したらこうなっていたと……」
「そうでちゅわ。最近物騒になってきたのはもちろん知っていまちゅ。けどまさかうちが……」
「ありがとう。調べてみるよ」
メモ帳を閉じる。
事件が起きたのは、チューコが昨日店を閉めてから今日の朝まで。あれだけ大量に盗んでいるんだから、動きがあればすぐ耳に入るだろう。
チューコの言う通り、最近はなにかと事件が多い。プラネテューヌはゲームの盗難騒ぎがほとんどだが、他の国はこっちに届く限りでも相当なものだ。
女神逮捕、モンスター凶暴化、謎の組織暗躍。
ぼくが力になれるのだろうか。超次元に来るまでの自信が一気に消え失せていた。
「まだ落ち込んでるのか、ヴァトリ」
「ヤマト……」
近くの住人に聞き込みをしていたヤマトが戻ってきた。
爆発の傷もすぐに癒えている。
「すまない、足手まといになってしまって……」
ぼくはヤマトの目を見れなくなって、うつむいた。
自分に自惚れていたぼくは、ヤマトに迷惑をかけただけでなく、傷つけてしまった。アイエフだって、数日絶対安静ほどまで傷を負わせてしまった。
そんなぼくに、ヤマトは怒るでもなく、ふっと笑った。
「『鍛えてくれ』って君が言ったときのこと、覚えてる?」
そんな不意の言葉に、ぼくはぼんやりとうなづいた。
数年前、エディンが運営する孤児院に拾われたぼくは、ヤマトの戦う姿を見てあこがれた。
ヤマトやアイに頼み込んで、身体を鍛えあげた。
その途中で見えたのは、国民やぼくたちを守ろうとするヤマトたちの姿。それを見て浮かんだぼくの疑問は、そんな彼らを守るのは誰かということだった。
やたらと好戦的なヤマトたちは女神の力を有するがゆえに、そうそう傷つけられることはない。だけども、犯罪組織が相手となるとそうもいかないことがある。
怪我を負いつつも戦いから帰るのを見て、ぼくが強くなる理由はいつしか、彼らを守るためになっていた。
いまはそれが、いらないお世話だったと痛感する。
「なぜ君がそう言ったのか、僕はあえて聞かなかったのは、あのときの君が強くなろうとする人間の目だったからだ。戦うことを知らなかった人間が、それでも戦おうとするために強くなろうとする。まるで昔の僕みたいだった」
昔のヤマト。彼は語ろうとはしないし、ぼくはヤマトたちが『普通』だったころを知らない。
ぼくにとってヤマトとアイは兄姉のように親しく、頼れる存在だった。弱くて、苦悩したということは一切感じられなかったし、信じられなかった。
だからこそ、ぼくがそう思っているからこそ……
「ヴァトリ、君は確かにミスをした。だけど、僕は君のことを足手まといだなんて思ったことはないよ」
そう言ってくれる優しさも、ぼくには届かなかった。
返事もできずにまごまごとしていると、向こうから見知った三人が歩いてきていた。
「いやあ、それにしても、あいちゃんがわたしのことを覚えていなかった時は本気でどうしようかと思ったよ」
「だから、それは何度も謝ってるでしょ。私だって、何でそうなったのかわからないんだから」
「そうですね。どうして、世界中のみんなが、ねぷねぷたち女神さんのことを忘れてしまったのでしょうか」
ネプテューヌにアイエフ、そしてぼくたちの怪我を診てくれたふわふわした雰囲気の少女コンパだ。
あの綺麗な女性、女神化したネプテューヌの姿を見たからか、それとも攻撃の衝撃からか、アイエフはネプテューヌのことを思い出した。
コンパも、電話でネプテューヌの声を聞いたその場で思い出したらしい。
「ネプテューヌたち、偶然だね」
「あれ、ヤマトにヴァトリ。仕事に行ったんじゃ……」
「ここが現場。またゲームの盗難だよ」
「ま、また!? ぐぬぬ、マザコング……許すまじ!」
ネプテューヌがヤマトに話の詳細を求める。ゲームを愛するネプテューヌにとっては、何よりも許せないことみたいで、ほぼ毎日おかんむりだ。
あのマジェコンヌも関わっているのはほぼ明白で、ロボットとともにその目撃情報が多くなっている。
「アイエフ、もう大丈夫なのか?」
「もう、何回訊くのよそれ。見ての通り、すっかり元通りよ。コンパのおかげでね」
アイエフの身体はぼくたちの誰よりもダメージを負っていて、病院に運んだほどだ。
気にするな、と何回も言われたが、そう素直に受け止めるわけにもいかない。
そういうわけで、ぼくはプラネテューヌの調査を買ってでた。アイエフの休んでいる間の代わりだ。
「助かったよ、コンパ。ヤマトのことも診てくれて」
「いえいえ、最初は驚いたですけど……」
コンパはちらりとヤマトのほうを向く。あわせてアイエフも。
治療の過程で、この二人はヤマトの姿を見た。モンスター化した右半身を。
「私も驚いたわ。あれが、ねぷ子が言ってたヤマトなんだなって。女神の力を持ってるなんて、ずいぶんでたらめなやつね」
「ヤマトとアイがこっちに来た時に会ったりはしてないのか? 二人とも数日はいたんだろう?」
「そのときは話はしなかったから……姿は見たけど」
「わたしもねぷねぷの治療や事件のあらましを聞くので精一杯でしたから……」
神次元と超次元の、古代の女神がきっかけで起きた事件。
大まかなことしか資料には残っておらず、詳細は知らないけれども、女神と九賢人(旧七賢人)の対立から和解、エディンの建国までそのときの事件に関係あるというのは有名なことだ。
ヤマトとアイ、そして神次元のプラネテューヌの女神プルルートが少しは顔見知りだと聞いたが、本当に『少し』程度のようだ。
「それにしても、状況はまずくなるばかりだな」
「ラステイションではノワールが捕まって、リーンボックスでは謎の組織が暗躍……」
アイエフが指を折りながら事件を数える。
「アイからの情報では、女神たちは無事なものの、あっちもあっちでモンスターの凶暴化」
継ぐように、ヤマトが人差し指を立てた。
ルウィーに行ったアイによると、ブランに加えて妹たちも間一髪のところで助けることができたそうだが、あちらでもやたらときな臭いことが起きているとのこと。
「もー! 暗くなっちゃうじゃん、いいニュースはないの!?」
耐えきれなくなったネプテューヌが叫ぶ。
これがあの女性……女神パープルハートと同一人物だとは思えないが、まあ、プルルートもアイも似たようなもんか。
「ないな。大小さまざまな事件が起きてる。ロボットの目撃情報も増えてるから、もっと大きなことの前触れのようにも感じるけど……」
「確たる証拠はなし……参ったわね」
「こんな時に、他の女神と連絡できたらなあ……」
いまのところ、連絡手段はほとんどないに等しい。
アイとは通信できるものの、他の国の状況はニュースかネットでしか得られないのだ。
ロボットに関してはどの国でも見られているようだから、幅広く手を出しているのだろう。
アンチクリスタル、犯罪組織、女神、そしてこの世界改変を利用しようとするあのエコー。
いまのところ何が目的かはわからないが、危険度は高いのは確かだ。
「あーっ」
揃って頭を抱えていると、こちらに向かって指を指す少女が現れた。
「ねぷっ!? この声はもしや!?」
「やっと会えたよ、お姉ちゃん!よかった、無事だったんだね!」
その少女はネプテューヌに抱きついた。
お姉ちゃん……ということは、妹?
そういえば、髪の色は一緒だし、雰囲気もどことなく……身長は妹さんのほうが高いけど。
「心配かけてごめんね。けど、ネプギアも無事そうで何よりだよ」
「突然会場から消えちゃうから心配したんだよ。おまけに、なぜか誰も私たち女神のことを覚えてないし、もう何がどうなってるの?」
「それが、わたしたちにもさっぱりなんだ」
「いろいろと探ってるとこだよ」
ネプギアと呼ばれた少女に、ヤマトが近づく。
「わっ、ヤマトさん……に、そちらは?」
ネプギアのほうもヤマトを知っていた。
神次元に来たことのある、ネプテューヌの妹ネプギア。犯罪神を相手に戦い抜いた女神の一人。
ネプテューヌはそのネプギアに今まであったことを説明している間、ぼくはアイエフたちから彼女のことを聞いた。
ヤマトの話によると、それほど活躍した覚えはなく、ほとんどスルー気味だったとか。
アイエフたちの話と合わせると、かなり印象が違って見えるが、うーん……
「ところで、ネプギアはノワールたちのこと何か知らない?」
「んー……私もたいしたことは知らないかな。ノワールさんはラステイション教会に捕まって、今はユニちゃんが救出作戦を実行しているころだし」
「他の人と連絡できるのか?」
ネプギアの言葉に、ぼくが反応した。
「はい、といっても女神候補生だけとですけど」
「ルウィーに関してはアイがいるし、ネプギアがいればラステイションの状況も知れるってことか……」
「そうなるとリーンボックスが心配ですね。あそこはベールさんだけだし……」
「ん……」
ぼくは顎に手を当てた。
ラステイションはさっきネプギアが言っていたユニとやらがどうにかできるそうだし、ルウィーにはアイがいる。しかし、リーンボックスには妹がおらず、連絡も取れないため状況がまったく不明だ。
そんな中ではベールを心配するのも無理はない。
「そうだ、ネプギア。ちょっとリーンボックスまで行って、ベールを手伝ってきてくれないかな?」
口を開いたのは、ネプテューヌだった。
「ちょっとネプ子、あんた何言いだすのよ」
「そうですよ。ギアちゃんと会えたばっかりなんですよ。ギアちゃんのことですから、ずーっとねぷねぷと会いたかったに違いないです」
ネプギアの様子から見て、ネプテューヌのことをかなり慕っているのはわかる。
こんな心細いなかでようやく会えたのだ。再会のひとときはしばらく味わいたいだろうに、ネプテューヌは言葉をつづけた。
「うん、それはわかるよ。私だって、ずーっとネプギアに会いたかったもん。でも、これはネプギアにしかできないことなんだよ。わたしね、プラネテューヌの人たちがわたしのこと覚えてないってわかったときはすごく辛かったんだ。でもヤマトたちが助けてくれて、あいちゃん、こんぱもわたしのこと思い出してくれて、ようやく何とかなるかもって思えるようになったんだ。だからお願い、ネプギア。ベールを助けてあげて」
その目には、女神化したときと同じような、凛とした強さが光っていた。
ネプテューヌでも、女神は女神。ヤマトの言う通り、その外見からは予想もできない強さだった。
そして、それは妹も同じ。ネプギアは駄々をこねることなく頷いた。
「……うん、わかった」
「いいのか?」
「彼女たちは、僕たちが思っている以上にお互いを想いあってるんだ。口をはさむのは野暮だよ」
「はい、今生の別れでもありませんし、いま一緒にいられないぶんは後でめいっぱい甘えさせてもらいますから」
ネプギアはにこりと笑った。
ぼくとヤマト、それぞれと連絡できるように連絡先を交換してから、ネプギアはもう一度ネプテューヌに向き直る。
「それじゃあ、お姉ちゃん。私いくね」
「もう行っちゃうですか?」
「いくらなんでも急すぎよ。ちょっとくらいゆっくりしていったら?」
コンパとアイエフが止めようとするも、ネプギアは首を横に振った。
「そうしたいのは山々ですが、はやくベールさんの力になってあげたいんです」
「ならベールのこと任せたよ、ネプギア!」
「うん、任せて。ちゃんとベールさんの役に立ってみせるから」
ぐっと親指を立てて、すばやく去っていく。
ベールのもとへ……か。神次元に負けず劣らず、こっちの女神たちも強い絆で結ばれているようだ。
信頼しあう……それが少しだけ、いやかなりうらやましかった。
「ねぷねぷ、本当によかったんですか?」
「辛くないわけないよ。だけど、今は世界の危機だからね。甘えたことは言ってられないと思うんだ」
ふふん、と強気で胸をそらすネプテューヌに、ヤマトがにやりと笑う。
「……けど、こっちでもベールは妹いないんだろ? ベールはずいぶんとネプギアのことお気に入りのようだし、妹にしちゃうかもなあ」
「ネプギアのほうも、寂しさを覚えてうっかり次元を越えるほどだし……」
ヤマトとアイエフの精神攻撃に、ネプテューヌの自信げな顔がさーっと青ざめる。
「い、いまならネプギアに追いつけるよね!?」
……印象を改めるのは、もう少し後でいいかもな。