新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
ハネダシティの住民たちに無事を伝えたあと、ぼくたちはビーシャを探すためにハネダシティ中を歩き回っていた。
「ヤマト、詳しいことは結局なにも言わなかったね」
「ああなってるときは確信がないときか、言うのを避けてるときか」
「避けてる?」
「ビーシャのことについてなにか察したんだろうけど、なぜか黙ってる」
「なんでだろ?」
「確証のないことを言って、混乱させるのを避けてるんじゃないか」
だが、そのことを話さなければいいだけで、分かれる必要はなかったはずだ。
どうにもビーシャから、というよりこの場から離れたがっているように思えた。
「ふーん?」
話しながら歩いていると、街の端のほうに着いた。
公園、とは呼べないが、一種の憩いの場なのだろう、ベンチがいくつか置いてあった。
その一つに、見知った顔が座っていた。
「あ、ビーシャ!」
「あ……」
ネプテューヌがビーシャを見つけるなり、駆け寄る。
ビーシャは逃げはしなかったが、こちらに気づくと顔を俯かせた。
「良かった、無事だったんだね。突然いなくなるから心配したんだよ」
「ごめん……」
ほとんど聞こえない声でビーシャが言う。
ぼくは一歩下がってその様子を観察した。
「謝るのは逃げたこと? それとも心配かけたこと?」
「それは、その……両方とも」
「わかってるならよろしー。けど安心して。わたしたち、心配してるけど、怒ってはないから」
その言葉に、ビーシャは顔を上げた。
疑いの目がそこにはあったが、ネプテューヌに顔には全くといっていいほど負の感情はなかった。
「ほんとほんと。ねー」
「ああ、ぼくたちは君が逃げた理由が気になってるだけ」
正直に言って、ぼくはいろいろと疑ったままだが、それを極力抑えて頷いた。
「いーすんが知らなかったってことは、一人で抱え込んでたんでしょ? できることなら力になってあげたいんだ」
「どうして、ネプテューヌはこの国を奪ったわたしに良くしてくれるの?」
「わたし、国を奪われたなんて思ってないよ。それどころか、わたしの代わりに国を守ってくれてるんだから、感謝はしても恨んだりしないよ」
それを本気で言っているのがわかり、ぼくもビーシャも驚いてネプテューヌを見た。
「お人よし……か」
ぼくは二人には聞こえないようにぽつりと呟いた。
ヤマトとアイに、幾度かネプテューヌのことを聞いたことがある。
ぐうたらであることはよく聞いたが、それ以上に素晴らしい女神であると。
その意味が今のでわかった。ネプテューヌは自分が女神であることよりも、そう認められることよりも、この国と国民を第一に思っているのだ。
たとえ誰に忘れられようとも、力を失おうとも、彼女は「女神」なのだ。
ビーシャも同じことを思ったのか、口を開いた。
「……わたしね、モンスターが怖いんだ。だから逃げた」
「そっかそっか。モンスターが怖いから逃げたのかぁ……え、マジ? そんな単純な理由!?」
「うん、マジでそんな単純な理由」
だからヤマトがついて来たがらなかったのか。
口に出そうだった言葉を何とか留める。
あの服は特殊な加工がしてあって、簡単にフードが取れないようになっているが、もしも弾みで撮れてしまった場合、ヤマトはその顔を晒すことになる。
何度も目にしているぼくたち神次元組はともかく、超次元の人たち、ましてやモンスターに恐れを抱いているビーシャに見られてしまったら、事件解決とはいかなくなる。
「小さいころにモンスターに襲われて、それが自分でもビックリするくらいトラウマになってるみたいで……」
ビーシャは続きを話した。
「だからかっこよくモンスターや悪人と戦うヒーローに憧れたんだ。自分もこの人たちみたいに強くなれば、このトラウマを克服できるかもって。でも無理だった。それに、最近は今まで以上に当時のことを夢で見るようになっちゃって……こんなんじゃヒーローどころか、ゴールドサァドも失格だよ……」
「怖いという感情はわかる」
ぼくは口を挟んだ。
ぼくだってモンスターと戦うのに慣れるまで何週間もかかった。
鋭い爪やくちばし、歯、刃、魔法すら操ってくる敵もいる。どこから来るかわからない攻撃。
油断と死が背中合わせに存在する世界で、怖がるなというほうが無茶だ。
「トラウマがあるなら、なおさら立ち向かうのは難しい。なら、無理に戦う必要はないさ」
「そうそう! やることちゃんとやってくれてるんだしさ! ビーシャは街の治安維持、わたしはモンスターの討伐。それでいいんじゃない? てかこれもう決定事項ね!」
ぼくとネプテューヌが畳みかけるように言う。
悩んでいる人に必要なのは、話を聞くことと、背中を押すこと。
それを自然としているから、ネプテューヌについていく者が多いのだろう。
「じゃあ、これからは頼らせてもらうね!」
にこっと笑って、ビーシャはネプテューヌと握手した。
「そんで、いまじゃ仲良しってわけね」
ハネダシティの経過を聞いて、アイエフが頷いた。
「イストワールが嘆いてたぞ。せっかく和解したのに二人して遊んでばっかりだって」
横に並ぶぼくはイストワールの呆れた顔を思い出した。
趣味も合ったらしく、何かと理由をつけては遊ぶ姿が多くみられる。
最近のぼくとヤマトは街の治安維持に加えて、イストワールの愚痴を聞く役目も担っている。
市販の胃薬じゃ効かなくなってきているみたいだ。そもそもイストワールに胃薬が効くというのも驚きだったが。
「まあでも、おかげで国民の評価は良くなっていってるみたいだし、悪いことでもないわよ」
アイエフの言う通り、国民アンケート調査の結果はおおむね良し。
ネプテューヌとビーシャの役割がしっかり分けられて、それぞれに専念できているというのが理由だった。
ビーシャに金を請求されただの、ネプテューヌが仕事中にゲーム屋に寄っていたなどネガティブな意見も見られたが、事実なので言い返しようがない。
それに、いまはそれは大した問題じゃない。
「問題は……」
「これね」
ぼくとアイエフはため息をついた。
牢屋の入り口が壊され、そこにいたはずのワレチューはいない。
脱走を許してしまったのだ。おそらく、ハネダシティのいざこざがあった間に。
「すっかりやられたな。エコーかマジェコンヌのしわざだろう」
ぼくは腕を組んだ。
「いまのところ、対応は後手後手に回らざるを得ないからな。渦巻きマークのゲーム機を見つけるのが先決ってところか」
「渦巻きマークのゲーム機ねぇ……」
同じくアイエフも腕を組んで思案する。
プラネテューヌのゲーム屋をほとんど回ったが、そんな機体を扱っているどころか、見たこともないというのが答えだった。
「ヤマトもぼくもゲームには詳しくないから、こここそネプテューヌの出番と言いたいところだが」
「ネプ子なら、いまはコンパと一緒にゲームしてるわ」
「あれだけ怒られたってのに……バカなのか度胸があるんだか……」
突然、ぼくの端末が震えた。
イストワールからの通話だ。
「どうした?」
『街に突然モンスターが現れました! いまヤマトさんが戦ってくれていますが、数が多すぎて……』
「すぐいく」
通信を切り、アイエフを連れてすぐ外へ向かう。
教会の扉を開けると、待ち構えていたようにモンスターがひしめいている。
ヤマトはモンスターたちに囲まれながらも、退くことはせずに戦っている。
ロボットが襲いかかってきた。
疑問を感じるよりも驚くよりも早く、ぼくはその顔を盾で打ち、腕をつかんで地面に伏させる。仰向けになったロボットを、アイエフがすかさずカタールで切り裂いた。
見渡せば、モンスターに混じってロボットもいくつかいる。
だがエコー、あの巨体は見受けられない。
「もう! せっかく新しいゲームで遊んでたのに!」
ようやく登場したネプテューヌがぼやきながら武器を構えた。
「ぼやいてる暇はないぞ。さっさと片付けよう」
ネプテューヌは即座に変身して、中心へ飛んでいった。
数多くのロボットやモンスターにも、ヤマトとパ―プルハートはびくともしなかった。
対してぼくやアイエフは彼らとは違って人間で、こんな敵味方入り混じったなかでは、その力を十分に発揮できなかった。
それでもできるだけの力を使って敵を薙ぎ払っていく。
正面からロボットが突撃してきた。
防御が遅れたぼくはもろに受けてしまい、背中から地面に衝突した。
受け身を取ったおかげで傷はなく、すぐに立ち上がった。向かってきたロボの拳を盾で受け、首、顎をパンチで貫き、回し蹴りを側頭部に叩き込むと、ようやく動かなくなった。
数は多いが、一体一体は大したものじゃない。
ぼくはヤマトの後ろを狙っていたロボットを殴り倒し、ヤマトと背中合わせになる。
「おかしいな」
「なにが?」
ヤマトが光の矢でモンスターを射抜きながら、ぼくはキックで応戦しながらそれぞれ口を動かす。
「敵が多い割には、僕たちしか狙ってきていない」
「それだけ厄介だと思われてるんじゃないの?」
こちらに合流したアイエフが銃を乱射する。
モンスターもロボットも逃げる人は追わず、ぼくたちのほうへ向かってくる。
確かにハネダシティと比べるとおかしかった。
「それならもっと強力なモンスターを呼んできたり、エコーのあの大きなボディで攻めてくればいいじゃないか。これじゃまるで……」
「時間稼ぎ?」
アイエフがそう言ったと同時、敵の動きがぴたりと止まった。
モンスターも機械もその場で静止したと思うと、次の瞬間には逃げるように去っていった。
ハネダシティのようなボスがいなくなったからというわけではなく、まるでそう決められていたかのような統率された動きだった。
「みたいね。でもなんのために?」
降り立ったパープルハートがヤマトに問いかける。
「僕たちをここに縛りつけておく必要があったんだ。この、外に」
ヤマトの言葉にはっとしたぼくたちは教会の中へと急いだ。
『コンパに傷はなかったわ。気絶させられただけ』
アイエフから届いたメールに目を通して、ひとまず一安心する。
教会に入ったぼくたちが見たのは、倒れていたコンパとイストワールだった。
イストワールの話によれば、巨体のロボットが突然教会へ入ってきて、コンパに電流を浴びせたあとその場にあったゲーム機を盗んでいったそうだ。
しかもそれが探していた渦巻きマークのゲーム機だという。
ぼくたちはコンパを病院に運んで、アイエフを残してそれぞれロボット捜索へ向かった。幸いにして、エコーは目立つ。聞き込みすればすぐ見つかるだろう。飛んでいっていなければ。
ゲーム機のことを知っていたネプテューヌによれば、言い出すタイミングがなかったらしく、まさかあのゲーム機が目的のものだとは思っていなかったそうだ。
ぼくは街を歩きながら、いままでのことを整理する。
エコーが仕組んだものと考えていいだろう。
機械の構造に詳しいわけではないが、先ほどモンスターに混じって現れたのは、公園で戦ったのと同じものだった。
そしてモンスターと結託して攻撃してきたことを考えると、ハネダシティの襲撃にもかかわっていると見たほうがいい。
ワレチューとマジェコンヌとエコー。
つまりゲーム機強盗とロボット、凶暴化モンスターはそれぞれ手を組んでいるのだ。
そうなると、世界改変に関与している疑惑も出てくるが、確証はない。
何にせよ、危険には間違いないのだ。そんな相手が目的のものを手に入れたいま、何が起きるかを知る必要がある。
「プレストキーック!」
とがったサングラスをかけたビーシャだ。
パトロール中だったらしく、倒れた男性の手から特撮ヒーローの変身ベルトを取り、近くにいた子どもに渡した。
「ありがとう、プレスト仮面!」
「うむ。せっかくお母さんに買ってもらったんだから、もう二度と盗まれちゃだめだよ!」
子どもとその親はしきりに礼をして、笑顔で離れていく。
ビーシャは手を振り、それを見送った。
「ビー……プレスト仮面」
周りに誰もいなくなったのを確認して、ぼくはビーシャに話しかけた。
「おお、ヴァトリ! さっきは大変だったみたいだね。ほんとはわたしも加勢したかったんだけど」
「いや、君はやることをやってたんだ。それについてとやかく言う気はないよ。ところで、こういうやつ見なかったか?」
ぼくはエコーが映った写真を見せた。
あの公園で出会った際にヤマトが撮ったものだ。
いつの間に撮ったのか、弓にそんな機能がついていたのかは知らないが、とにかくこれがあるのとないのでは全く違う。
「んー、見てないなあ。それがどうかしたの?」
「ゲーム機盗まれたんだ。その犯人がたぶんこの二人のどっちかって、今探してるんだけど」
「といっても、わたしも今日はずっとパトロールしてたし……なんだか今日は悪さをする人が多いんだよね」
今日の犯罪は今ので五件目だそうだ。
もちろん偶然じゃないだろう。教会の守りを手薄にするために、けちな犯罪者でビーシャを誘い出した。
悪者をけしかけるならワレチューか。あいつ結構コネあるからな。
モンスターとロボット、犯罪者。それだけの手間を投入してまで手に入れようとするとは、よっぽどな物だったんだな、そのゲーム機。
ちらっと、ぼくの視線の端にあるものが映った。
「ぢゅっ!?」
ぼくに気づかれたのがばれて、そいつが目を丸くする。
だが逃げる気はないようだ。
試しに手で合図すると、おそるおそるこちらに近づいてきた。
「お前、よく顔を出せたもんだな」
声の届く距離まで来たところで、ぼくは言った。
「あ!」
ビーシャがそいつ、ワレチューを指差す。
ぼくや彼女にとって、この小悪党がゲーム盗難を働いたのは記憶に新しい。
だがとりあえず、ぼくはビーシャを手でおさえた。
ワレチューの、なにやら気まずそうな顔をするじっと眺めていると、やっと口を開いた。
「あいつらがコンパちゃんに手を上げるなんて聞いてなかったっちゅ! だからオイラはお見舞いをしようと……」
ぼくは黙って聞いていた。
「でも、オイラにそんな資格があるのかどうか……」
冷静に考えれば、例えばこの状況を利用してワレチューから色々聞き出すとか、腹いせにこいつを閉じ込めてうっぷんを晴らすとかが可能だったかもしれない。
だが戦闘を終えた直後で、他のことにも気を取られているいまは、ワレチューの感情にも気を取られてしまった。
つまり、まあ、なんというか。あろうことか、ほんの少し同情しないでもないことになったというか。
「そう落ち込むことでもないさ」
断ち切るように、少女の声が聞こえた。
そこにいるはずなのに、なぜか姿を認識できない。輪郭だけがぼんやりと浮かんでいるような、そんな感じ。
「いい夢ならオレが見させてあげるからさ」
ぞくり、と背中に悪寒が走る。
同じものを感じたのか、ワレチューは言葉も発さずに逃げ出し、ビーシャはその場にへたり込んだ。
ぼくは反射的に盾を構えて、陽炎のような存在に問いかける。
足が震えているのが自分でもわかる。
凍えるような寒さの中にいるように、それが抑えられない。
「誰だ」
「ふふ、ただの通りすがりさ。そう構えないでくれよ」
相手がにやりと笑ったような気がした。
盾を正面に構えて、攻撃に備える。だが、相手はさらさらと空気の溶けていなくなった。
すると、妙な空気がすっと消えた。
腕から力が抜けて、盾が音を立てて地面に落ちる。
ぼくとビーシャはしばらく顔を見合わせたまま突っ立っていた。