新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
「あれ、なんだったんだろうね」
「さあな、あんな雰囲気感じたことがない。あれが敵なら、ぼくたちの状況は思ったよりもまずい状況だ」
ぼくとビーシャは再びエコーを探すために街を歩いていた。
さっきまでの脱力が嘘のように、ぼくたちはピンピンしていた。
あの何かわからないようなやつを見た瞬間、足がすくんでほとんど動けなかった。
相対しただけでもそうなのに、いざ戦うとなったらどうなるか。
「やっぱりわたしも戦えるようになったほうがいいのかな」
ぼくが立ち止まると、ビーシャも立ち止まる。
「ほら、相手がロボットだったり人間だったなら大丈夫だけど、この前みたいにモンスターが混じってたら……」
「正直、君がいてくれたほうがありがたい。だけど……」
「ううん、やっぱりこのままじゃだめだよ。克服しないと……」
無理やり嫌なことをさせるのは性に合わないが、ビーシャは真剣な顔だった。
となれば、彼女の決意を否定せずに、急激な負担をかけない程度の案を考えるのが、仲間としての役目だ。
仲間……か。いつの間にか、ぼくはビーシャのことを認めていた。
彼女の弱さを知ってしまったことがその大きな一因だ。
力は女神以上かもしれない。だけど、その根元にあるのは、あくまで弱い、ただの一人の人間だ。
喜びも焦りもある。怖がった顔も喜んだときの笑顔さえ、真正面から見せてくる。
そんな等身大の人間を、疑い続けるほうが難しい。
そんなとき、一つの顔が浮かんだ。
「ワレチュー……」
「なに?」
「ワレチューを捕まえたときには案外普通にしてたよな」
「あのときは子どもが泣いてたから必死で……それにあれはそんなに怖くないし」
「それだよ。人間じゃない生物にもいろいろある。見た目とか性格とか……とにかく、普通に話せたり、接したりできるのを選んでそこから慣れていったらいいんじゃないか?」
「そうかな……そうかも」
うーん、と首を傾けるビーシャについてくるように言って、ぼくは進んだ。
ちょうどいい人……いやネズミがいる。
やや早足で数分、ぼくたちはある人のいるところにたどり着いた。
中古ゲームショップの店長、チューコだ。
チューコはぼくたちを見るなり、笑顔で駆け寄ってきて、一礼をした。
店の邪魔にならないように、すぐ外に呼び出す。
ワレチューが盗んだゲームを返してからはごたごたが多くて、顔を出せなかったことを詫びて、一連のことを説明する。
「というわけで、手伝ってほしいんだが」
「泥棒を捕まえてくれたお礼があるから、それは構わないでちゅわ。けど、まさかヒーローがモンスター恐怖症とは……」
「うう……」
チューコの憐みの目が、ぼくの後ろに隠れているビーシャに注がれる。
「他にも、見た目チュートな知り合いはたくさんいまちゅわ。その子たちも紹介してあげまちゅ」
「ほんと?」
チューコの言葉に、ビーシャがぱっと顔を輝かせた。
この反応を見る限り、やはりチューコに対しては恐怖心はそう無いみたいだ。
喋っているというのも大きいかな。
「ほんとでちゅの」
「よろしく頼むよ。こういったことは君にしか……」
「誰か助けてだっちゅー!」
だだだっと何かがぼくたちの間に割って入った。
またもやワレチューである。
「あ、あなたは、うちの店に入った泥棒ネズミでちゅわね!?」
息せき切っている様子に、ぼくは目線を合わせて落ち着かせる。
「どうしたんだ、まさかあの変な奴に追われてるとかいうのはやめてくれよ」
「そのまさかっちゅ!」
ワレチューは必死の形相で訴えてきた。
さっき逃げてから、いままでずっと走って逃げていたのか?
それに答えるように、またもや背筋が凍る。
振り向けば、あの影のような存在がそこにいた。
「おいおい、逃げることないだろ。そんなにオレのことが嫌いなのかい?」
姿はぼんやりしてるくせに声はやたらはっきりと聞こえる。
「そりゃ、そんな嫌な空気まとわりつかせといて、逃げるなってほうが無理がある」
「ご挨拶だね。けど、君が嫌でもそこの可愛いネズミの子はどうかな?」
どこを向いているのかはわからないが、チューコを見ているのだけはわかる。
そして、ちらりとビーシャを見た……ような気がした。
「……それに、ちょうどうってつけの子もいるしね」
そいつにまとわりついている影が大きくなり、こちらに伸びてきた。
△
僕はロボットの残骸を教会の中に運んで、細かいところまでチェックしていた。
どこの国のものでもない。といっても、この次元の機械に関して詳しいわけじゃないから、あくまで神次元と比べての話になるが、まずエコーが造り出したものとみて間違いないだろう。
エコーの目的はいまだにわからない。
女神を倒すだけなら、神次元の犯罪者に、僕たちに向けてのヒントを残したりしないはずだ。
そう考えると、僕たちをここに来させるのも一つの目的だろう。僕たちの何かを探ってるような、そんな気がする。
サクラナミキのことや先ほどの戦いを思うと、どうにも、僕たちを殺そうとはしていないみたいだ。
なにかを待っているような……
「ヤマト」
「ネプテューヌ」
ロボをじっくり眺めている僕に、ネプテューヌが後ろから声をかけた。
いま一番危ないのはネプテューヌたち女神だ。エコーはアンチクリスタルのことにも興味を示していたみたいだし。
反女神の力を持ってしまえば、ネプテューヌだけでなく僕の力も無効化されることになる。
サクラナミキで見たような強固で強靭なボディがさらに強化されれば、厄介なんてものじゃない。
人間の力以上の、しかし女神以外の力が必要になる。
「ふーん、こういうのって見てわかるものなの? ネプギアも機械オタだけど、わたしにはさっぱりわかんないや」
「いや、僕だって詳しいわけじゃないよ……ん、そうか、ネプギア……ネプギアか」
僕はぽんと手をたたいた。
ネプギアなら僕よりも機械のことに詳しい。これについても、有益な情報を見出してくれるかもしれない。
ただ問題は、ネプギアはいまリーンボックスにいるのだ。直で目にしてもらうには遠すぎる。
しかも、世界改変の影響でリーンボックスへ向かう船はない。
こうなったら運んでもらうか、泳いででもいくしか……
僕が立ち上がった瞬間、ずん、と地鳴りが鳴って、教会が揺れた。
先ほどモンスターが暴れていたときよりも大きな揺れだ。一回だけでなく、何度も揺れる。
「な、なになに!?」
「またモンスターか?」
僕たちはすぐさま教会の扉を開けて、音のしたほうへ向かった。
爆発音がして、僕たちは速度を上げる。
弓を手に取って角を曲がった瞬間、大男が飛んできた。
△
背中から地面に激突し、咳き込んだ。抱きかかえたチューコは無傷のようだ。
ぼくはチューコを離して、即座に立ち上がる。
身体が痛むが、軽傷だ。
「ヴァトリ!?」
後ろからヤマトの声が聞こえた。
ぼくは振り向きもせずに、盾を構えた。
「ああ、ヤマト、手伝ってくれ」
「あれなに?」
今度はネプテューヌ。
浅く呼吸をしてぼくは答えた。
「ワレチューだ」
「うそっ、あれが!?」
ずしん、ずしんと近寄ってくる元凶を警戒しながら、全身に力を入れなおす。
そこには十メートル以上の巨大な悪魔がいた。とがった角に、翼のような大きい耳、ゆらゆらと揺れる長いしっぽ。これがワレチューだと聞いても、そうそう信じられないのはわかる。
「くらえ!」
その背中が爆発した。
ロケット砲を肩に浮かせたビーシャがワレチューを攻撃したのだ。
「あれ、ビーシャ?」
「あいつ、モンスターが怖かったんじゃないのか?」
「きっとモンスターに襲われる子供たちを見て、トラウマを振り切ったんだよ!さすがヒーローだね」
おおー、と拍手するネプテューヌだったが、それは違う。
「新手!?」
説明しようとしたとき、ビーシャはぼくたちを睨んで、砲弾を放った。
ヤマトが瞬時に矢を打ち込んで砲弾は爆発したが、ぼくたちにダメージはない。
「ちょっ、危なっ!? もう、わたしは敵じゃないってば―!」
「ビーシャにはそう見えてないんだ」
ヤマトが矢筒に手を伸ばしてビーシャとワレチューを交互に見たあと、ぼくに視線を投げた。
「あの変な奴のせいでちゅわ!」
代わりに説明したのはチューコだった。
黒いナニカが伸ばした影はチューコを狙った。
モンスター恐怖症を治してあげる。そう御託を並べから。嫌な予感を感じ取ったのか、ワレチューが前にでてそれを代わりに受けたのだ。
影はやがてワレチューを取り込むように覆い、みるみる大きくなっていったかと思うと、数秒後にはあの姿になっていた。
ぼくがそれに驚いている間に、ナニカはすでにその手を違う標的に向けていた。
「モンスターは殺す……」
冷たい声に振り返ると、息が止まった。
濁った目のビーシャが、ぼくの首を掴んでいた。
幸い、チューコが話している間、ワレチューとビーシャはそれぞれ争っていた。
同じ影響を受けつつも、やはりビーシャのほうが優位だ。
一度もダメージを受けずに、ワレチューを圧倒している。
「そいつが原因か。だが原因がわかっても、戻し方がわからないんじゃ……」
「そんなの簡単だよ! 二人と戦って、気絶させちゃえばいいんだよ!」
「そんな安易な……」
「だけど、他に方法はない。あの二人が戦って、これ以上被害が広がっていくのを指をくわえて見ているわけにはいかない」
ヤマトが言う通り、戦っている二人の余波が広がっていた。
ビーシャが砲弾を放つたび、ワレチューが抵抗するたび、街が壊れていく。
ヤマトはチューコに逃げるよう促し、彼女はそれに従った。
「あんなのを同時に相手するのは危険だぞ」
「僕がワレチューをひきつける。ネプテューヌはビーシャを頼むぞ」
「ぼくは?」
ヤマトを引き留め、ぼくは指示を待つ。
いつもそうだった。ヤマトが指示して、ぼくはその通りに動く。
それに、どちらにぼくが立ち向かえるかはヤマトのほうがわかるはずだ。
「自分で決めろ、ヴァトリ」
だが、返ってきたのは予想外の言葉だった。
ヤマトとアイとともに戦うと決めたあの日以来、ぼくは決断を避けてきた。
ヤマトが言うことは正しいのだと、そう思ったからこそ彼に逆らわず、彼に従った。
そうやって責任から逃れてきた。なにかを決めるという重圧から逃げて、ぼくは楽をしてきた。
「ぼくは……」
だけどこのひっ迫した状況で、もうそれは許されない。
死ぬかもしれないこんな状況だからこそ、だれかに責任を押し付けるわけにはいかない。
街のため、この国のため、この世界のため。
なにより自分のために、いまどうするのかを決める必要がある。
モンスターを恐れ、それを克服しようとした彼女の強さを、ぼくは尊重したい。
「ぼくはビーシャを元に戻す」
「任せたぞ」
にっと笑って、ヤマトは走り出した。
立て続けにワレチューに光の矢を放ち、標的を自分に向けたうえで、街の外側へと離れていく。
「モンスターは殺す!」
その二人を追いかけようとしたビーシャに、ぼくは盾を投げた。
盾は砲身にヒットし、ビーシャの動くが止まる。
返ってきた盾を腕に装備するぼくの目の前に、ビーシャが降り立つ。
「モンスターの分際で、このわたしと戦おうっていうの?」
ネプテューヌが変身し、ぼくの隣に並ぶ。
対するビーシャは見た目は変わらないが、浮かぶ砲身と濁った目が黄金に輝く。
「大丈夫なの? ヴァトリ」
「あんな状態の仲間を放っておけるわけないじゃないか」
ぼくの答えは明快だった。
女神だろうがゴールドサァドだろうが、心の内はただの少女たちだ。
たとえ見た目が変わろうとも、どんなものを押しつけられようとその関係は変わらない。
「それより、ネプテューヌのほうこそ大丈夫か? あいつに負けたんだろ?」
「言ってくれるわね。もちろん私だって、ビーシャを元に戻す気しかないわ」
パープルハートを見ると、やたらと凛々しくて知的で、まるで別人のように見える。
だが、中身はやはりネプテューヌ。
彼女が出した答えはこれまた単純明快なものだった。
「友達だもの」