新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
走り続けて、ようやく私たちは拠点に戻ることができた。
幸いダークメガミの進行速度は遅く、こちらに来るまでにはまだまだ時間がかかる。
先ほどの機械モンスターの残骸を乱雑に置く。
私は義腕をバッテリーに繋ぎながら、作業机の前に立ち、机の上に置かれた武器の調整を始めた。
少し時間をもらうわ、と私が言うと三人は軽く自己紹介をした。
言葉遣いはいささか乱暴。というのも、彼女が『かっこいい』というものを目指しているからだ。
本当の中身は真反対なものだが。
「それにしても、あんなに巨大な敵初めて見ました」
「まさかとは思うけど、人間がいないのってあのデカブツにやられたからとか……」
「…さあな。そこんとこは、俺もよく知らないんだ」
ネプギアとネプテューヌの疑問に、うずめが答える。
うずめはそれなりに傷ついているが、すでに手当は済ましている。
「分かってるのは、生き残ってるのは私たちと言葉の通じるモンスターだけってくらいね」
武器のパーツを組み立てながら、私は答えた。
「うわあ、それでよく今まで戦ってこれたね……。そうかぁ、だからシェアを感じられなかったんだね」
「正直、俺もよく今までもってると思うよ。住めそうな場所を見つけてもデカブツが現れるたびに逃げる日々……」
「武器の製作途中で現れては暴れるから、未だに完成したものと言えばうずめのメガホンとこれくらい」
私は右腕を見せた。オレンジの義腕。
材料や時間が足りなくて、これを作るのにもかなりの手間がかかったが、戦うにしても逃げるにしても欠かせないものだ。
「どうにかしてあの大きいのを倒すことはできないんですか?」
「そうそう。早い話、あのデッカイのを倒しちゃえば解決だよね?」
ネプテューヌたちの質問に、うずめははあ、とため息をついた。
「おいおい、簡単に言うなよ。悔しいが、こちとら何度も挑んで負けてるんだからよ」
「そんな……」
「まだ準備中だけど策はあるわ。きっと勝てる」
ダークメガミの力は強力無比。私たちはまだ勝てたことがない。
作戦は立てているものの、邪魔が多すぎて実践できたことはない。
そのとき、うずめが左腕に着けている改造小型ラジオから通信が入った。
「俺だ。そっちの避難状況はどうだ?」
『うずめか、無事なようで安心したよ。こっちの避難状況は七割と言ったところだ』
渋い声。相手は海男だ。
彼の目的は仲間を避難させること。
だが妨害が多いようで、思ったより進捗状況は悪い。
『それにうずめ。……イヴが……』
「あら、勝手に殺さないでくれるかしら」
海男が沈んだ声を出したところで、私が答えた。
ごちゃごちゃしてたせいで連絡が取れなかったため、死んだと思ったのだろう。
決して忘れてたわけじゃないから。
『イヴ!?』
「なんとか生きてるわ。こっちはこっちでなんとかするから、あなたはみんなをお願い」
『あぁ。そちらもくれぐれも無理はしないように』
ほっとしたようで、海男の声は明るくなった。
それだけ確認できると、海男は仕事に戻るために通信を切った。
「ねぇ、今のイケメンボイスの人誰?うずめたちの仲間?」
「あぁ、そうだ。ちょっと、口はうるさいがな」
うずめが積極派、海男が慎重派だからこそときどき口論に発展する。
だいたいうずめが自身を危険にさらそうとするので、私たちが反対するといった形になるのだけれど。
「さて、そっちはどうだ。イヴ?」
「もうちょっとで出来るはずなんだけど……」
いま調整している銃の中の機構がうまくいかず、私は待ったをかけた。
焦る私のそばにネプギアが近づいて、じろじろと解体された銃を見る。
「あ、ちょっと貸してください」
私はネプギアに場所を譲った。
すると、ネプギアはあっという間に理解できたらしく、どこからか工具を取り出したかと思うとみるみるうちに私の理想通りに銃を組み立てる
「ここを……こうして、こう!」
出来上がった黒いハンドガンを机に置くと、満足げに私に笑顔を見せる。
その手際に私は驚きながら、ネプギアの肩を叩いた。
「へぇ、組み立てもできるのね。頼りになるわ、ネプギア」
「えへへ、機械のことで褒められたの久しぶりかも……」
礼を言い、うずめに向き直った。
これでようやく私も戦える。
ま、ちょっと怖いから大体は任せることになるでしょうけど。
「準備完了よ。私も行けるわ、うずめ」
「おっけー。それじゃ行くか」
私は義腕のコードを抜き、銃に弾倉を装填して腿のホルスターに収めた。
「ねえ、うずめ。あのデッカイのと戦うのに、なんか作戦はあるの?」
私たちは先ほどの場所まで戻り、準備を始めた。
銃の実地試験をかねて出たものの、うずめに『戦闘は遠くから行うこと』を条件に出された。
彼女が私を心配する気持ちはわかるし、なにより接近戦でこの銃を使うつもりはない。私は抵抗なく了解した。
メガホンを小脇に抱え、黒の穴あきグローブをはめながらうずめは質問を発したネプテューヌのほうを見た。
「いつも通りなら、デカブツよりもモンスターの群れが街に来るはずだ。先にそいつらを潰す」
「おっけー。とにかくここに来るモンスターたちをやっつければいいんだね!」
ネプテューヌのお気楽な声に、思わずくすりと笑ってしまう。
少しだけ震えていた身体がいつの間にか収まっていた。恐怖感が抑えられていく。
私が歯の立たなかったモンスターを一撃で倒したであろうネプテューヌたちがいるのだ。
私がやるべきは、とりあえず少しでも戦力になること。
「あぁ、そうだ。頼んだぜ、ねぷっち」
「ねぷっち!?」
「ネプなんとかだと、言いづらいだろ?だから、お前はねぷっちだ」
「でました。初対面の人が私の名前を言えないパターン……けど、わたし的には新鮮で可愛いあだ名だから大歓迎だよ!」
「可愛い……のかしら?」
ただ『っち』をつけただけなのに新鮮で可愛いというのは、そんなに変なあだ名をつけられた過去でもあるのか。
私は『ネプテューヌ』という名前にそれほど言いづらいという印象はない。
それはまあ、そうなんだろうけど。
「ちなみに、お前はぎあっちな」
「ぎあっち!?」
「二人とも、ネプから始まったら被っちまうだろ?だから、お前はぎあっちだ」
「……ぎあっち。ぎあっち、かぁ…。えへへっ、あだ名で呼ばれるの初めてかも」
ネプギアもネプギアで喜んだそぶりを見せる。
私は『イヴ』自体があだ名みたいなものだし、あだ名というものに対してそう深く考えたことがなかった。
初めてというのはそんなに喜ぶに値するものなのかしら?
「そうなの?」
「はい、私の名前はそれほど言いづらいわけじゃありませんし、それに前作のときは出番がほとんどなかったり……」
「前作?」
ネプギアが発した謎の単語に、私は首をかしげた。
だが『前作』なるものに追及しようとしたところ、うなりが聞こえた。
ドラゴン、鹿、ロボット。
ダークメガミのいる方向から大量にモンスターが押し寄せてくる。
「どうやら第一波のお出ましのようだぜ。三人とも、気合入れていくぞ!」
うずめは懐から、透明に光る八面体の結晶を取り出してぐっと握る。
「さあて、やってやるぜ!」
「シェ、シェアクリスタル!?」
驚くネプギアをよそに、うずめは手のひらサイズのそれを自分の胸に押しつける。
結晶は氷のように溶けて、うずめの中へと吸収されていく。
「変身!」
叫ぶと、胸を中心に現れた光がうずめの身体を包んでいく。
その光は暖かく、尊大だが親しみのある力とともにうずめを『変身』させる。
「変身かんりょー!」
光が収まって現れたのは、うずめとは思えない人物だった。
可愛らしく高い声を発したのは、『プロセッサ』と呼ばれる、白を基調としオレンジのアクセントが入った装備を纏った、これまたオレンジの髪をもった少女だった。
防御性に関しては有無を言わさないはずだが、変身前と同じくすらりとした脚があらわになっている点についてはノーコメント。
まあ、こうなったらそこらのモンスターなんて寄せ付けないほどには強いし、一応左腕には小さなシールドもついているから、問題はないはず。
丸みを帯びた鮮やかな翼で浮遊する彼女の手に握られているメガホンも形を変え、黒から白へと変わっている。
「だ、誰ー!?」
この姿を知らなかった二人が叫ぶ。
「もう、誰って失礼だなあ。うずめだよ、う・ず・め。一緒に頑張ろうね、二人とも!」
あくまでそれが当たり前というふうに言って、うずめ、いやオレンジハートは先に飛び去っていく。
ぽかんとして数秒、なんとか状況を飲み込めたらしく、ネプテューヌとネプギアもオレンジハートのあとに続いていく。
「うにゃーー!!」
オレンジハートが先頭に立っていた二足歩行の巨大な亀モンスターにドロップキックを食らわせると、その反動で空へと舞い上がる。
メガホンを使って叫ぶと衝撃波が放たれ、亀モンスターもろとも周りのモンスターが吹き飛ばされていく。
モンスターたちは地面に激突したかと思うと、次々と消滅していく。
機械型モンスターだけは消えずに残骸となってばらばらになっていった。
ネプテューヌも負けじと太刀を振り、アクロバティックに次々とモンスターをなぎ倒していく。
正面の敵を一閃。そして倒れるのを待たずにすぐ右の敵を一閃。
その身のこなしから、相当な戦闘経験があることがうかがえた。
ネプギアはまるで踊るように軽やかに動いていく。
迫りくるあらゆる攻撃をぱっとかわして、敵を的確にビームソードで斬り裂いていく。
それだけでなく、紫の姉妹は互いに視界を共有しているかのようにその場で回り、お互いの背中のモンスターを斬り伏せるというコンビネーションを繰り出してみせた。
その戦いぶりに見惚れていた私は、はっと我に返り慌てて銃を取り出し、右手で握る。
見ているだけは終わりにすると決めたのは私だ。
幸い、モンスターはこちらに気付いてない。
私はうずめに群がる犬モンスターの一体に向けて引き金を引いた。
ドン!
予想以上の反動に、私は目を見開いた。
義腕に神経は繋いでいないが、肩までしっかりと衝撃が伝わった。
それよりも驚いたことは、衝撃音とともにまばゆい爆発が起こり、犬モンスターが消え去ったことだ。
着弾すれば爆発する『ブラストバレット』の威力は確かめられたが、まさかモンスターが一撃で仕留められるなんて……。
いままで逃げるだけだった私にとってそれは、信じられない光景だった。
爆発はごくごく小規模なものだったが、まるでミサイルが落ちたような錯覚に陥る。
ふるふると頭を振って、私は一発、もう一発と撃つ。
機械の右手は衝撃を殺してくれた。
モンスターに当たるたび、爆発が起こり、その場にいた全員がびくっと身体を震わせる。
モンスターが倒せたことか、それとも予想以上の武器が出来たことか、私は高揚感に囚われた。
身体が熱くなり、半ば衝動のままに私は銃を撃ち続けた。
それはモンスターが消え去ると同時、弾が切れるまで続いた。
オレンジハートの姿と私の銃にいまだ口を開け続けたままのネプテューヌたちの視線を感じ、ようやく頭から血が引いていった。
「ふう、なんとかなったわね。実地試験としては上々と言ったところかしら」
注目されることに私は少し恥ずかしくなり、平静を装って状況分析の体でしゃべった。
銃を腿のホルスターに直し、頭が冷えるのを待つ。
「びびびびっくりしたー。どういう仕組みで爆発してんの?」
「企業秘密」
目を丸くするネプテューヌに冷静に返したことで、私の頭はやっと回りだした。
これ、暴発したらものすごい危ないんじゃ……。
今度は逆に血の気が引いていく。
せめて鎧を着こむとか、全身を覆うものを先に作ったほうがよかったかしら。
やっぱりパワードスーツが完成直前だったのが悔やまれる。
「そ、それよりうずめ……でいいんだよね?」
「うん、うずめだよー」
「あの勝気なうずめが女神化したらほわほわした感じに……シノとは逆だね」
「……あれ?ねぷっち、どうして女神のことを知ってるの?」
「そうそう。いろいろあって言いそびれてたけど、わたし達もうずめと同じ女神なんだよ!」
「ホントなの!?ウソじゃないよね?」
「ホントホント!泣く子も黙るプラネテューヌの女神、パープルハートとはわたしのことだよ!」
「プラネテューヌ……」
私は呟いた。
プラネテューヌという国は技術水準が高いらしく、ネプテューヌはそこを治めているそうだ。
妹であるネプギアは女神候補生と呼ばれ、ネプテューヌと同じく信仰の対象であるらしい。
であるらしいというか、まあ知っているのだけれどね。
「へぇー、奇遇だねー。まさか、こんなところでうずめ以外の女神に出会うなんて超ビックリだよー」
再び光がオレンジハートを包み、うずめの姿に変える。
現れたキリっとした顔はやはりオレンジハートと同一人物だとは思えない。
「……ちっ、時間切れか」
「時間切れ?そういえば、シェアクリスタルで女神化していたような……」
この場所について、ネプテューヌたちにはまだ話してないことは多い。
ネプテューヌが疑問を発したそのとき、私は視界の隅でちらっと動くものを捉えた。
遠くで腕を動かしたダークメガミだ。
炎を纏った光球が飛んでくる。
「危ないっ!」
私はうずめを抱きかかえ、身体を滑らせる。
がれきはさらに崩れ、砂埃を上げる。
突然の攻撃だったが、紫の姉妹もちゃんと避けたみたいだ。
それにしても、ちょっとした動きだけであの威力の攻撃。
私の中に、再び絶望が押し寄せる。
「ちっ!不意打ちたぁ、卑怯じゃねぇか。やられたからには倍返しだ!今度はこっちから打って出るぞ」
「ダメよ」
ばっと立ち上がったうずめの正面に立って止める。
まだあれの相手をするには準備が足りない。
ここで戦わせてしまったら、いままでの全てが無駄になってしまう。
「だけど、あのデカブツとタイマンはれるチャンスなんだぞ!刺し違えてでもあいつを……!」
「ダメに決まってるでしょ!」
これ以上、失うことをしたくなかった。
目の前から誰かがいなくなるなんて、もう経験したくないことだった。
脳内に父の顔が浮かんだ。
もうかなり経つのに、鮮明に思い出されるほどに。
「ネプテューヌ!」
「あいあいさー!そんなわけだからとっとと逃げるよ!ネプギア、そっち持って!」
「うん!」
うずめがやろうとしてることと、私がやろうとしてることを察してくれたようだ。
ネプテューヌは上半身、ネプギアは下半身を掴んで、うずめをその場から運び出した。
「って、おい!?お前ら、離しやがれ!勝手に俺を担ぐな!おろせー!」
私達三人はその言葉を無視して走り続けた。
「ったく、余計なことしやがって…。これじゃあ、かっこわりいじゃねえか」
幸いにして、拠点に戻るまでの間に敵が追ってくることはなかった。
私達に加えて、じたばたともがいてたうずめも息を切らしている。
「カッコ悪くてもいいでしょ。死ぬのはやめてって言ったじゃない」
「う……悪かったよ。次からは気をつける」
「気をつける、じゃなくて、絶対よ」
私はうずめを睨んだ。
うずめはばつが悪そうに視線を落として、たじろいだ。
「わ、わかった。わかったよ!……ごめんな」
「分かってくれればよし。あなたたちもありがとう」
ネプテューヌたちに向き直ると、彼女たちはなんてことないというふうに手を振った。
「お役に立ててよかったよ。命あってのモノマネだしね!」
「モノマネ……?」
「たぶん、物種のことだと思います…」
私はくすりと笑った。
最近は笑いが足りなくなっていたところだ。
彼女たちは私が持っていないものをたくさん持っているらしい。
少しだけ羨ましく思える。
彼女たちのいるところは、きっとそんな明るい場所なのだろう。
そんなところで、私の通信機が鳴った。
発信元は海男だ。
私は急いで通話ボタンを押す。
「海男」
『イヴか。隣町への避難が完了したところだ。ダークメガミもひとしきり暴れたあとに消えたよ』
すぐ来てくれ。と付け加えて、海男は通信を切った。
あっちにはまだ仕事があるだろう。
ここは敵にばれたようだし、私たちも近いうちに別の場所へ移動する必要がある。
ともあれ、一応の危機は去ったみたいね。
「よかったわ。何とか助かったわね」
「ああ。さて、お前らも疲れただろ?ここには少しだが食料もあるし、毛布もある。好きにくつろいでくれ」
うずめは拠点であるこのビルの簡単な説明をするために二人を連れて行った。
私は一人、自分の作業部屋に向かった。