新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
ラステイションの中心から少し外れた、小さな研究所。
宙に浮いたホログラフ映像を眺めながら、右の義腕の調子を確かめる。
零次元から超次元にわたってきて、初めて造ったものがこれだ。
ネプテューヌたちだけでなく、ラステイションの女神であるノワールやその妹ユニも私の力になってくれたおかげで、材料の不足はない。
おかげで元のものに近い、スマートでしなやかな腕を造ることができた。
威力、防御力、起動時間。すべてが前のものよりも格段に上。
「うまく調整できたわね」
私、イヴォンヌ・ユリアンティラは、うずめたちとともに零次元でダークメガミを倒したあと、ここへやってきた。
あのままでは、うずめの力になりきれないからだ。
ネプテューヌたちの口添えもあって、私の希望通り、機械工業に関しては四国のなかで一番であるラステイションに住むことを許された。
ノワールやユニとはほとんど話すこともなかったが、彼女たちもしつこく干渉しては来なかった。
四国合同の祭りの運営で忙しかったせいもあるのだろう。
だが、いまは明らかにそれとは違う脅威が襲ってきている。
『指名手配犯、ノワール。ついに捕まる』
あらゆるニュースが流れているが、とくに大きく報道されているのがそれだ。
ことの発端は数日前。
祭りの目玉である、四女神が戦うエキシビジョンマッチで賑わっている最中だった。
私はそれを中継モニターで流し見しつつ、武器の開発をしているところだった。
乱入者が四人。そして、滝空ユウ、女神候補生が壇上に現れたかと思うと、急に視界が白く染まり、世界のあり方が変わった。
気づけば、女神というもの自体があらゆる人間の頭の中から消え、ゴールドサァドという存在がこの国の、いや四国それぞれのトップとなっていた。
私が覚えているのは、別次元の人間だからだろうか?
それからの私は情報収集に追われていた。
とはいえ、わかることは少ない。
行方不明だったノワールが捕まったというのは、ちょうどいいかもしれない。
当事者である彼女の話を聞ければ、少しはこの状況も進展するだろう。
ノワールやユニにはここでの借りがあるし、ネプテューヌやネプギアの様子も気になる。放っておくわけにはいかない。
どんどんどん!
研究所の扉が乱暴に叩かれる。向こう側から聞こえるのは知っている声だ。
私は机のキーボードを操作して、自動ロックを解除する。
扉がスライドして開くと同時に、ツインテールの少女が慌てて駆け込んできた。
息を切らして現れたユニを見て、とりあえず私は安心した。
「あなたは捕まってなかったのね」
「ええ、なんとか。お姉ちゃんが囮になってくれたの」
はあ、とため息をついて、ユニは近くのソファに座る。
頭を抱えてうつむく。
やはり彼女自身も何が何やらわからない状況みたいだ。
「よかったわ。あんたがアタシのこと覚えてくれていて」
ジュースをコップに注いで、ユニに差し出す。
彼女は一気に飲み干すと、大きく息を吐きだして再び頭を抱えた。
「残念ながら、ノワールは捕まったわ」
「ネプギアから聞いたわ。だから、あんたに力を貸してもらおうと思って」
「ええ、私も今から救出に向かうつもりだったの。ネプギアはどうだった?」
「プラネテューヌにもうすぐで着くって言ってた。とりあえずは無事みたい」
これまた安心。
世界が変わってからはモンスターの凶暴化も見られているから、ほとんどシェアの得られないいまの女神たちが心配だったのだ。
「なら、プラネテューヌはネプギアに任せましょう。私たちはこっちでやるべきことを」
「助かるわ」
「借りがあるからよ」
私は机に置いておいた金属のリュックを背負って、片眼鏡をかけた。
あらゆる情報がリアルタイムで流れてくるが、私は位置情報に限定して情報を得る。
ニュースでノワールの監禁場所が流されたのは幸いだった。教会からはそう離れていない、警備の緩い留置所だ。
うまく目を盗めば見つからずに行けるだろう。
ユニに大きめの外套を羽織らせて、私たちは留置所へと急ぐ。
道行く人は彼女に気づく様子はない。
走ると、パトロールの兵士の目につくと考えて、あえて歩いていく。
「状況が状況だけに仕方ないとはいえ、よく私を頼る気になったわね」
魔法使いのような、顔も隠せるつばの大きい帽子を被ったユニに、私は言う。
女神の存在がないものとなっているいま、力を貸してくれる人間はそう多くない。
そんななか私を選んだのは、信用しているからか、それとも苦渋の決断か。
「ネプギアが、あんたは悪いやつじゃないって言ってたから、それを信じることにしたのよ」
「あら、ずいぶんとネプギアのことを信頼してるのね」
「べ、別に? アタシより、ネプギアのほうがあんたのことをよく知ってるからってだけよ」
他愛のない話を交えつつ、私たちは現在の状況について情報を共有した。
光が全てを覆い、世界を変えたあと、ラステイションの外で目覚めたノワールとユニはなぜか兵士に追われるはめになった。
モンスターに襲われつつもなんとかユニを逃がしたノワール。
そのあとの行方がわからなくなっていたが、それはもう心配ない。
道中ネプギアからの通信でノワールが捕らえられたことを知ったユニは救出を決意したが、いかんせん力が足りない。
覚えられていないということは、シェアを得られないということ。
そのためしかたなく私を頼ったというところだ。
「あの子は不思議な魅力があるわね。ネプテューヌも」
一見しただけで敵ではないと感じさせる安心感。
女神とはああいうものだと、うずめと会った時もそう思ったことを覚えている。
こんな状況でもなんとかなると思うのは、彼女たちがいるからでしょうね。
「心配なことはいろいろあるわね。お姉ちゃんのことも、ゴールドサァドのことも」
ユニはため息をついた。
「ユウのことも」
滝空ユウ。
異常で異様な力を持ったあの男のことを、私はいまいち信用できていない。
見た目もそうだが、あの底知れない力が私の不安の種だ。
「資料を読んだわ。犯罪神を倒すために、あなたたちとともに戦った男」
ラステイションの教祖、神宮寺ケイはいかに情報が大切かをわかっていたようだ。
大層なセキュリティがかけられていたファイルには、これまであったあらゆることがまとめられていた。
犯罪組織マジェコンヌが台頭し、ゲイムギョウ界が混沌へと進んでいく中、このままではまずいと思った女神たちだが、返り討ちにあい、捕らわれてしまった。
そこで滝空ユウはネプギアたちと出会い、女神たちを救出、犯罪神と戦い、勝った。
仲間である、篠宮オルガ、篠宮エリカを犠牲にして。
細かいところまで書いてあるファイルは鍵が厳重で手を出せなかったが、概要はつかめている。
三年前にあった神次元の事件のことも。
「あいつなら大丈夫……のはずよ。そうそう簡単に負けるやつじゃないから」
「そうでしょうね」
その力は目の前で見た。ダークメガミと戦うあの姿。
ただの人間ではないことは明白だ。だからこそ、負の感情がぬぐい切れない。
「気になる? ユウのこと」
「それはそうでしょ? あんなものを見せられて、何も気にするなってほうが無理よ」
あんなもの、というのはユウの変身した姿だ。
黒い文様に翼、とがった角が生えたその姿に浮かんだ言葉はたった一つ、「悪魔」だ。
「ユウに関しては、複雑な事情があるの。でも信じてあげて」
ユニはそう言って、目を伏せる。
私が見ることのできなかったファイルのサイズが膨大だったことだけは知っている。
その中には、きっと、想像もつかないような大激戦の記録があるのだろう。
滝空ユウとその周りしか知らない、壮絶な過去が。
私は頭を切り替える。
とにかく、いまはノワールだ。