新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
潜入は成功。
私たち二人は警備の目を盗みながら奥へと進んでいく。
監視システムに関しては、私が無力化できるからデータに残るようなことはない。
気になるのは、兵士の少なさだ。
規模に対して死角が多すぎて、潜入はそれほど難しくはなかった。
指名手配犯を捕らえているっていうのに、無用心すぎやしないかしら。
「おい、聞いたか、例の話」
「ああ、聞いた聞いた。ついにラステイションが他国へ攻め込む準備ができたって話だろ」
とはいえ、ノワールが捕らえられている奥の小さな小屋の前には、兵士が立っている。
二人……か。
暇そうに駄弁っているところを見ると、やはり警備に力を入れているようには見えない。
「使うのは、例の新種モンスターだろ? 大丈夫なのかね」
「別に大丈夫じゃなくてもいいんだろ。他国にモンスター送り付けて、暴れさせればそれまでだ」
話している内容も気になるが、いまはもっと重要な用がある。
私とユニは物陰から様子を見て、それぞれ銃を構える。
「うっ」
「あばばばばば」
私は麻痺弾、ユニは麻酔弾を撃ちこみ、兵士たちを無力化する。
どさりと倒れる前に動き出し、小屋を確認する。
造りは頑丈。鍵もかけられている。が、関係ない。
私が義腕を突き出すと、扉は小屋の中へ派手に吹き飛ぶ。
「お姉ちゃん!」
すぐにユニが中に入り、粗末なベッドに横たわっている少女にかけよる。
ノワールだ。
紫色に淡く光る手錠をかけられており、ぐったりとしているが、命に別条はなさそうだ。
私が手錠を引きちぎると、ノワールはユニに支えられて、ゆっくりと立ち上がる。
「よかった、大丈夫みたいね」
ちぎった手錠を一瞥する。紫の光は消えているが、何か気になる。
少し、調べてみる必要はあるかもね。
「ユニ! それにイヴまで……?」
「話は後よ。気づかれる前にここを出ないと」
まだ身に力が入ってないノワールが首を横に振った。
「いえ、早く教会にいかないといけないわ」
「教会?」
「詳しい話は移動しながらするわ。とにかく今は急いで教会を目指しましょう!」
何がなにやら分からないが、切羽詰ったノワールの様子に、私とユニは頷いた。
小屋から出てもまったく警備は強化された様子は無い。
結局、私たちは誰に見つかることもなくラステイションの中心近くまで来ることが出来た。
一息ついて、ようやく話ができるようになったところで、ノワールが口を開いた。
「モンスターに襲われて、ひどい傷を負ったの。だけどある人が助けてくれたから、なんとか回復したんだけど……兵士たちに見つかっちゃってね」
「シェアがほとんどないとはいえ、それほどまでに苦戦するほどだったの?」
「いままで見たことのないモンスターだったわ。そこらへんにいるモンスターとは思えないほど強かった」
モンスターの凶暴化については、あらゆるところから報告が上がっている。「猛争化」と呼ばれるそれは、モンスターの形すら変え、モンスター狩りを生業にするハンターでさえ太刀打ちできないほどにまで強化するのだ。
原因は不明。
だが、世界改変と同時期に現れた現象ということは分かっている。
「兵士が言ってたけど、ラステイションの誰かがそれを利用するみたいなの。他国を制圧する兵器としてね」
「だから教会へ、ね。あの口ぶりだと、それを企んでるのはラステイションの上に立っている者の誰かだから」
「ええ」
モンスターを使うのは合理的ではある。
人為的なものとは思われない。まさか放り込まれたものとは考えもつかないだろう。
特にモンスターの被害を受けているルウィーやリーンボックスなんかは。
だがそれを捕らえること自体は大変なはずだ。警備が薄かったのは、そっちに手を回しすぎたせいね。
私たちは助かったけど、それはそれで本末転倒な感じはするわね。
「でも、アタシたち中に入れないよね。指名手配されたままだし」
「正面から入っていく必要はないわ。隠し通路があるんだから」
腕を組んで悩むユニに、ノワールは得意げな顔で胸を張る。
「隠し通路!? そんなのあったの!? アタシ初耳なんだけど!」
ユニが驚く。
私も聞いていなかった。隠し、って言うほどなんだから軽々しく言うわけにはいかないのはわかってるけど。
「あら、言ってなかったかしら? 面白そうだったから、作っておいたのよ」
「お、面白そうって……」
「呆れるわね……」
上機嫌で先を歩くノワールを、私たちはため息混じりに追いかけた。
薄暗い、洞窟のような通路を歩くこと十分。はしごを上ること一分。
先頭のノワールは手を伸ばして、天井をずらした。差し込む光に目を細める。
ノワール、ユニに続いて私もはしごを上りきり、外へ身を乗り出す。
実際は、外ではなく屋内なのだけれど。
「……本当に入れた」
ユニはぽかんと
教会の女神執務室だ。
正しくは元女神執務室。いまはゴールドサァドの部屋だ。
「便利なものね。遊び心も悪くないってことかしら」
私はぱんぱんと服をはたく。
便利は便利だけれど、長いこと使われていなかったうえに手入れもされていないから、埃が多いのなんの。
ノワールはさも当然のように振舞ってるし。
「さ、できるだけ多くの情報を集めるわよ。書類でもなんでも、とにかく片っ端から……」
と、動き出そうとしたその時だった。
いきなり執務室に一人の女性が入ってきた。
私は銃を構える。
「誰だか知らないが、ここは立ち入り禁止だぞ」
きっちりした服装から分かるのは、教会員だということだ。
まずい、タイミングが悪すぎだ。来た瞬間にこれとは……。
「お前は……」
「だ、誰よ、アンタ!」
女性とユニが同時に声を上げる。
銃口を向けられて眉ひとつ動かさないのは評価に値するけど、その余裕さはなにか気になる。
「ただの教会の職員だ。それ以上でも、それ以下でもない」
「あら、教会職員にあなたのデータはないわね。秘密の職員かしら、それとも、教会職員になりすました別者か」
右目にかけたディスプレイには次々と教会員のデータが流れてくるが、この女はそれらには含まれていない。
「ふふふ、両方だったりしてな」
不敵に笑う女の態度が気に食わない。
追い詰めているのはこちらのはずだ。
「まさか、この人って……」
ハッとして、ユニが声を上げた。
「知ってるの?」
「う、うん……多分だけど、だいぶ前に壊滅したっていう傭兵組織だと思うの」
「そう、私たちは壊滅した。だが、生き残った者が集まり、新たな組織を作り出したのさ。そして、チャンスを待っていたんだ」
女はあっさりとばらした。やはり、なにか策か、あるいは武器兵器があるか。
だけど、女は手ぶらだし、ディスプレイを見ても周りにめぼしい生命反応はない。
数人の事務員が感じ取れるが、戦闘員ではないし、ここからはいくぶん遠い。
「それで教会を乗っ取ったってことね」
ノワールが憎憎しげに女を睨む。
大切な国がテロリストに乗っ取られ、ほかの国を壊そうとしているのだ。
彼女の怒りはごもっとも。
「この世界改変に乗じて、戦争をけしかけようとしてるってわけね」
「幸い、この国のゴールドサァドが国政には無関心で、教会に一任してくれているおかげで、組織としては最大のチャンスなんだよ」
「ラステイションはあなたたちが戦争をするための道具じゃないのよ!」
「知ったことか。戦争さえ起こればそれでいいのだからな」
憤慨するノワールとは対照的に、女はにやりと笑う。
ユニも銃を向けて、女を睨みつける。
「どうしても止めるつもりはないのね。だったら力づくでも……」
「ふん、頭の弱いやつらだ。ここはいま、お前たちの敵の中枢だぞ?」
女は指をパチンと鳴らした。
すると、壁か天井にでも張り付いていたのか、人型の何かが落ちてきた。
金属、機械、ロボットだ。
右腕部分が槍のように尖った、三体の人型ロボットが間に入ってきた。
「衰えた状態でどこまでやれるかな?」
その言葉を合図に、ロボットがまっすぐ私たちに向かってくる。
突進を受けて、私は衝撃を受けながら押し倒される。
押さえつける手を振り払い、がむしゃらに殴りつけてロボットを吹き飛ばす。
すぐさま立ち上がり、槍で突こうとするロボットの攻撃をなんなくかわし、銃を撃つ。
爆裂弾はロボットに当たった瞬間、その顔を跡形も無く粉々にして再起不能にする。
銃をしまい、見渡すと、ノワールとユニもそれぞれロボットを片付けたところだった。
やられるわけはないとはわかっていた。
ロボットの攻撃は簡単に避けられるほどだったし、装甲もあってなしがごとき。
本当に時間稼ぎ程度の性能しかなかったみたいね。
件の女はとっくに逃げて、この場からいなくなっていた。
なら、ここにい続けるのは問題がある。
「いったん退くわよ。兵士たちが来る前に」
この部屋にいくらかある資料を惜しみつつも、私たちはその場を離れた。